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魔王が全部ぶっ飛ばします  作者: 堀久保未練
魔王と七つの罪
3/7

響く歌と花は鮮やかに

「あっれー? おっかしーな、確かこっちのほうにすっ飛んでったと思うんだけど……」


「本当ですか? ご自身の方向感覚を当てにしないほうがいいですよ?」


「でも君だってランデュートがこっちにすっ飛んでったの見たよね?」


「いえ、僕はさっきの角を左と言いましたが、あなたが突っ走ったこっちは右です」


 ここは魔王城の庭園だ。あたり一面に色鮮やかな花々が咲き誇っている。先ほどアホを吹っ飛ばした影響だろうか。所々花が散っているところがあり申し訳なく思う。


「え……なんで止めてくれなかったの!?」


「あなたまで見失うと余計に面倒だからですよ! まったくよりによってこんな忙しい日に……」


「大丈夫、まだ朝の十時さ!」


「後二時間ですよ!? 全然大丈夫じゃないですよ!」


 僕らは今さっき吹っ飛ばしたランデュートを捜索中だ。早く直さなければ、お客が来てしまう。


「二人とも、何してるの?」


 僕ががあいつのことだから地面に潜り込んでるのかもしれない! と近くにあった石の彫刻をつかみアルヴァーナくんが必死に止めようとした時、僕たちの後ろから鈴のような音色の声が聞こえた。

 後ろを振り向くと、水色のドレスを着た少女がふふふと笑っていた。笑っている口元に白い包帯で覆った右手を添え、耳よりも少し下できれいに切りそろえられた空色の髪に、輝いて見える笑顔。いつの間にか見とれてしまっていて碧の瞳に困惑の色がうかがえる。

 彼女こそが国の三大組織司祭団のリーダーで三柱の一人、フィール=シャムンである。

 三柱とは国の三大組織のことで騎士団、魔術会、そして司祭団のトップで形成されている機関で国の方針を決める際には三柱と僕、アルヴァーナくんとべスも参加し六人で会議する。ちなみにランデュートも三柱である。


「あ、フィール丁度良かった。ランデュートのアホ知らない?」


「ラディ?見てないけど……あ、また二人で悪さしたの? 人に迷惑かけちゃダメって言ってるじゃない!」


 フィールがもー、と頬を膨らませるがその姿さえかわいく見えて思わず顔が緩む。そうするとなんで笑うの!? とさらにぷくーっと頬を膨らませ、ふぐみたいになる。


「あはははは、フィールったらこんなに頬っぺた膨らましてふぐみたいだよ?」


「もう! なんなのよ、からかわないで!」


 そのまま頬をつつくと、フィールは赤くなって顔を背けてしまった。


「あのー、いちゃついてるところ悪いんですが時間がないんで早く探しませんか?」


「「別にいちゃついてるわけじゃない!」」


 僕とフィールの声が重なってニヤニヤするアルヴァーナくん。後でシメる。


「そうだね。お花たちに聞いてみるからちょっと待ってて」


 そういうとフィールは花壇に歩み寄りそっと歌を歌った。銀色の歌声が響き渡り、周りの生き物が歌の邪魔をしてはいけないと静かにフィールの周りに集まる。優雅に飛んでいた鳥も、どこかから現れたリスのような生き物も、池に泳いでいた魚もゆっくりと水面まで浮上してくる。さらには、さっきまでざわざわと動いていた草木までもが今では静かに歌を聴いている。

 この世界の人はシックスセンスと呼ばれる生まれながらの能力を誰しもが持っている。人間はもちろん、魔族、妖精族エルフ土人族ドワーフ、さらには吸血鬼ヴァンパイアまで持っている。それは、自分の姿を消すものなどのとんでもないものから、明日の天気がわかるものなど様々だ。もちろん僕やランデュートも持っている。僕のはどんなものかって?ひ、み、つ!

そして、フィールのシックスセンスは歌を介して相手の心を読み取り、伝えることができる能力。


「綺麗な歌声ですね……」


「あ、アルヴァーナくんいたんだ」


「いたんだって酷くないですか!? せっかく仕事の疲れを癒していたのにおかげでパアですよ」


「ほほー、感謝してよね」


「なんで!?」


「いや、今おかげって聞こえたから」


「そこしか聞いてないんですかあなたは!」


「しー! 歌が聞こえないよ」


「あなたが大声を出させるんでしょうが!」


 周りを見ると鳥やリス達が嫌そうな顔でこちらを見ている。騒いでしまってすいません。


「二人とも、わかったよ。白いバラが教えてくれた。あっちに飛んで行ったって」


 そういいながらフィールが指をさす。するとその指さした方向から何かが飛んでくるのが見えた。

 人だ。白いとんがり帽に白いローブ、間違いない、あいつだ。


「ぐほぁ!」


 地面に叩きつけられたランデュートが情けない声を上げ白目をむく。白目をむいたランデュートの首は前後が百八十度入れ替わっており、口から泡を吹いている。


「まったく、何よ! 人が気持ちよく朝の訓練終わりのシャワーを浴びてたところにぃ……!」


 僕が死にかけているランデュートに向かって合掌していると、花壇の奥から赤い鎧を着た女性が姿を現す。


 彼女が最後の三柱、イリート=メイ=ヴァルフレイムである。


 イリートは紅い髪から水滴を垂らし、赤い兜を小脇に抱え、怒りからか顔を真っ赤にしながらこちらに歩み寄ってきた。元から切れ長な目がより一層怖くなり、その剣幕にフィールは小柄な体を一層小さくし、アルヴァーナくんも顔を引きつらせすっとこの場から離れていった。


「嫁入り前の女子の裸を勝手に見るなんてぇ……! この……変態! 最低!」


 イリートは目に涙を浮かべながらランデュートを蹴り、踏みつけ、踏みつぶす。そのたびに地面が揺れ、フィールの歌に集まってきた動物たちはすっかり姿を消したしまった。


「い、イリート。そろそろ地面が割れそうだからやめておいたら……?」


「そ、そうよイリー。お花たちがかわいそうだからやめてあげて……?」


「わかったわよ……フィールにまで言われたらしょうがない。今日はこのくらいにしといて上げ……るっ!」


 最後に一発強烈な一撃を入れてから、イリートはフィールから借りたタオルで頭に着いた水滴の残りを拭き取った。


「イリートお前……俺を飛ばしたのはイクリースっつったのによくも無視して殴りやがったな……不公平だ、おいイクリース! お前も殴られろ!」


 ずっと地面に倒れていたランデュートが起き上がり、首をグキッと元に戻して起き上がる。ランデュートは吸血鬼のため、先ほどの死に至るような致命傷もすすぐに治ってしまうのだ。


「な!? 折角黙ってたのに……!」


「イクリースぅぅぅ?」


 目をぎらつかせながらこちらに振り向くイリート。やばい、完全にロックオンされた……


 術式をいくつも多重展開するランデュート。戦槌を握るイリート。僕も剣の柄に手を伸ばす。

 その時、それまでずっと黙っていたフィールが口を開く。


「あのさ、みんな。あと十分しかないよ?」


 術式を霧散させるランデュート。戦槌を担ぐイリート。僕も剣を収める。


「全員、玉座の間まで走れ!」


 僕らは全速力で目的地に向かい走ると、着いたのはお客が入ってくる三分前だった。

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