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異形異世界の異端児  作者: 真良 治
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1話

とりあえず導入です。

ここは呼び飛ばしてもいい部分です。

 死んだはずなのに意識がある。

 つまりここは異世界への中継点だ。

 真っ暗なのに光っているような何もない空間はそれっぽい。

 俺――田茂暮助は即座に理解した。

「ええ、その通りですとも。まさしくまったく。貴方がうっかり交通事故でミンチになったその数秒後に、五体満足でこちらにいるのはそういうわけでして」

 目の前の、白服黒髪の性別不詳の存在は、そう告げた。

「じゃあ、あんたが神様なのか? 俺が死んだのは、手違いだから、異世界に転生させてやる、とか?」

 俺は昔っからファンタジーの異世界冒険譚に憧れていた。

 エルフの美少女、ドワーフの武器、ホビットからの情報集め。

 スライム、ゴブリン、コボルト、オークと命をかけた戦い!

 最初はゼロからのスタートでも、現代日本人特有のメタ思考からの超戦略にちょっと卑怯だが的確な戦法・戦術に貴族や諸侯の覚えもよく、屋敷と爵位をもらって成り上がる!

 そんな自分を一瞬で夢見たが、直後の返答はつれないものであった。

「あいにくと、私は神様ではありません。趣味で異世界仲介をしている者です。ですから貴方の死が上位存在の手違いだったりしません」

 そっけない物言いに、テンションは下がってしまったがその辺は、想定の範囲内である。

 何しろ憧れの異世界だ。

 小中高とロクな人間関係を築けず、大学は中退。

 適当な誰かの作った創作物を眺めて妄想に浸るだけがちょっぴり楽しみなだけの腐った現代日本での生活に、価値など無い。

 なぜ自分には振るうべき剣も、繰り出すための魔法も、倒すべき竜も、守るべき姫も居ない世界に生まれたのかと、何度嘆いたことか。

「……なんにしても、俺は異世界に行けるんだな?」

「はい。あなたは死の間際に願いました。『どうせ死ぬなら異世界へ転生とか召喚とかされたい』と。たまたま、その声が聞こえたのと、ちょうど人手が欲しい世界がありましたので、私が仲介に出しゃばった次第でございます」

 神ではないにしても、コイツは相当な力の持ち主らしい。

「っと、あんたの名前はなんていうんだ?」

「私の事はどうぞお好きに呼んでもらって結構です。本当に。私、この業界で経験豊富ですのでとても屈辱的な呼ばれ方をしたこともございますので、放送コードに引っかかるような呼称でも構いません。どうせこれっきりの付き合いですし」

 自分の仕事に対して、相当に割り切っているようだった。

「ちなみにどんな呼ばれ方をされたか一例を挙げると『吐瀉物まみれの糞と性病にかかった老犬が性行為をして生まれて来た子どもを生ごみと一緒にミキサーで1時間かけた挙句にドブに捨てられたクズ』を意味する5音程度の異世界語の単語で呼ばれたこともございますので」

 どんな口汚い人間を仲介したのだろうか。

「……俺はあんたをチューカイさんとでも呼ぶよ」

「感謝します」

 ぺこりと頭を下げると、そのまま俺から少しだけ距離を取り、空中に手を一振りする。

 すると何もない空間に文字の羅列が無数に浮かび上がる。

 チューカイさんはその文字列をいくつか指で叩いて操作する。

 透明なキーボードかタッチパネルがあるイメージだ。

「さて、異世界に行くにあたって現在少々調整をさせていただいています。私、自分から説明するのが苦手と言うか億劫なので聞きたい事、確認したいことが今のうちにあればどうぞ」

 チューカイさんが文字列を操作するごとに、俺の体がところどころ光る。

 おそらく魔法が使えるとか、スキルが覚えられるようにとか、言語の不便性を取っ払ったりしてくれているのだろう。

「んじゃあ、俺は今回、転生?それとも召喚みたいな?」

「召喚ですね。えーっと、その異世界における侵略者(モンスターへの備えとして勇者とか救世主的存在を召喚しようとしています。ある国のお姫様主導で、召喚儀式を執り行っていますので、それに応える形で派遣いたします」

「向こうに行ったら、直後美人のお姫様が迎えてくれる、と?」

「その通りです。美人かどうか、は各世界各国各文化ごと基準が違いますので一概に申し上げることはできませんが、少なくとも召喚される地域内ではかなりの美人に位置するそうです」

 美酷の基準がズレている可能性。大いに結構。

 むしろ向こうの世界でどう言われていても、自分が美人と思えれば最終的にはそれでいい。

 冒険するとなれば関わる人も多いだろうから、その中になら自分が美人と思える相手が一人二人ぐらいいるかもしれない。

「何か、こう、最強の能力とか、武器とか手に入るのか?異世界召喚特典とかで」

「私からは特には。ただ、元の世界と召喚先世界の構成物質などの違いから貴方は超人的力が自然と手に入ります。肉体の行動の阻害の低下から、身体能力はざっくり計算によると最大で数十倍。また、同じ理由から侵略者(モンスターには触れて力を流し込むイメージをすると爆裂させることが出来ます」

「おぉ、ちょっとチートっぽいけど『触れなきゃいけない』ってとこがミソだね」

 戦闘を想定した場合、近接戦には持ち込まねばならないわけだ。

「あー、衣食住はとりあえずその姫様に頼めば大丈夫かな?」

「とりあえずはそうかと。あ、よろしければ少しだけ設定を変更して森の中からスタートで身分保証ゼロスタートとかも多少の融通は効きますが」

「いや、サバイバルとか通りがかりの宿屋の娘さんや貴族な騎士殿に助けてもらいつつなんとかするイベントも惜しいけれど、そこまでこなす積極性は無いからそのままで……お願いします」

 導入の枝葉末節は少なくていい。

 それらも異世界の醍醐味の一つかもしれないが、わざわざ一宿一飯の恩から始まるストーリーはちょっとうまく展開を運ぶ自信がない。

 田茂暮助はイージーモードがあるなら、イージーモードを選ぶ主義である。

 中空に浮かぶ文字列が少なくなってきた。

 チューカイさんは言う。

「さて、そろそろこちらの準備は終了するが、何か意見質問注文誹謗中傷人生相談はまだ受け付けてます」

「あ、大丈夫です。たぶん。あとこまかいことは、向こうでいろいろ聞きますので……」

 どうすれば侵略者モンスターとやらを止められるのか、自分が具体的に何をすればいいのか。

 細かい点は、現地人に聞いてこそである。

 チューカイさんの操作する文字列は残すところ数行となり、最後にちょっとわざとらしく大きな動作で指で叩く。

 すると、文字列はついにすべて消えて、俺の体を光が包み込む。

「では、お送りします。ご察しかと思いますが、先ほどの調整で言語は疎通できますし、構成物質や物理法則に差があると言っても、いきなり上に落ちたり体が7色に輝いたり窒息したり皮膚が裏返ったり膨らんで破裂したりはしないので大丈夫です」

 ……異世界への想定が幅広過ぎる。

 そこまで考えてはいなかった。

 不安になってもういくつか確認しておこうと思ったが、時すでに遅し。

 光は眼前を埋め尽くしている。

 何を言っても届かないだろう。

 だが、チューカイさんの声は何故か耳へと届いた。

「ああ、最後に一つだけ。報酬よりも冒険自体を求めているようですが、それでももしあちらの世界を救えた暁には、お好きな望みをなんでも1つ叶えて差し上げます」

 妙に響いたその声だけを聞きながら、浮遊感と高揚感にちょっとの不安を混ぜながら、俺は異世界へと向かった。

 そして――俺は異世界へ向かったことを後悔する。

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