モフモフは正義です。
テコテコと、大きな体を支える小さな足で庭らしき場所を歩き回る。
なかなか子供の話す声も聞こえず、薔薇園らしきところにたどり着いた。
なんとも綺麗な空間。
「ティーパーティーとか行われてそう...」
「・・・だれだっ!?」
突然近くから声が聞こえた。
「どなたかいらっしゃるのですか?」
正直もう歩き疲れていたロゼッタは、「初めっからもっと詳しく聞いておけば良かった」と後悔していた。
ロゼッタの記憶から部屋の場所までは思い出せなかったのだ。
木陰から一人の男が現れた。
男は騎士だった。
服に縫い付けられた家紋だけが、月の灯りで照らされてみえた。
この国では、家紋をつけた騎士は王専属の騎士を表す。
俊敏な動きでいかなるときも王を護ることができる者が王の騎士として選ばれる。
「あなたは...」
騎士はロゼッタを見て驚いたような声を出したが、暗闇で表情は分からなかった。
「こちらはあなたのようなお嬢様の来られるような場所ではありませんよ。」
と、騎士は言った。
「そうですか。
申し訳ありませんが、ジルフェブィア公爵がどちらにいるかご存知ありませんか?」
「はっ!?」
騎士は驚いたように言った。
「ロゼッタ様ですよね...?」
騎士にはロゼッタの姿がみえていた。
「ーーええ、そうですけれど、どこかでお会いしました?」
前世の記憶を取り戻してから、このフレーズは多用していた。
知っているふりをするより、こうやって聞いてしまったほうが早いからだ。
相手も、心の内は分からないが、「公爵令嬢相手ではいちいち覚えられないのも仕方が無い」、と笑って教えてくれた。表面上は。
今までのロゼッタの傍若無人な振る舞いが見て取れる。
しかし、騎士の声色は強くなった。
「覚えていらっしゃらないのですか...?」
そういってこちらに向かって歩いてきた。
月明かりに照らされる。
かっちりとした騎士の服を着込み、腰には剣がさされている。
スマートな身のこなしに、切れ長の瞳。
シュッとした輪郭の上には、耳がついていた。
動物のような耳が。
「ひ、ひゃああああ...!!!」
ロゼッタは腰を抜かした。
地面にぺたりと座り込んでも、目線は騎士から離れなかった。