おしまい
ーーーーーー
ーーー
ーー
ー
「ーーイチカ?イチカ??」
ぐらぐらと頭を揺さぶられる。
重たい瞼を持ち上げる。
「イチカ!あー、良かった!」
「ーー桃?」
(あれ、なんで桃がここに...)
「もー、びっくりしたんだからね!」
「え?...?」
体が思うように動かなかった。
「声ガサガサだよー?今、胡桃が先生呼びに行ってくれてるからね?」
「私、なんで、」
「覚えてないのー?通学路で転けてたんだよ?しかも、田んぼに頭つっこんで!びっくりしちゃったよー。」
(どういうこと...リゲル様....私、ここが前世で、)
「イチカったら、死んだように眠ってたんだもん。もーほんと、良かった!」
(生きてた...戻って来たってこと?...)
「イッチカー!きゃー!」
ガッシャンと音を立てて扉が開いた。
「桜田さん、廊下は走らないで、」
「イッチカー!私のイチカー!」
「...すみませんー先生。胡桃は聞こえてないみたいです....」
桃が先生に謝る。
「藤城さん、具合はどうですか?」
「あ...」
(黒崎先生...)
「大丈夫だよねー?先生、お水!イチカに!」
「そこにミネラルウォーターが入ってますよ。」
「あっ。」
昼休みの終わりを告げる鐘がなった。
「はい、二人とも、教室へ帰って下さい。」
「えーーー。」
「藤城さんも起きたことですし、後は私が送っていきますので。」
「はーーい。」
桃と胡桃が耳元に寄る。
「イチカ、イチカ。」
「今の内に告っちゃいなよ!」
「そうだよ、いいチャンスじゃん!」
(そうだ、私、黒崎先生のこと好きだった...)
「いい、もう辞めたから。」
(...リゲル様....)
「えー?」
「ほら、もう授業始まりますよ。」
「はーい、帰りまーす。」
バタバタ音を立てて、二人は出て行った。
「藤城さん?」
「あ、ハイ。」
「具合は、大丈夫ですか?」
「あ、大丈夫です。」
黒崎先生は眉間に皺を寄せた。
「本当に?大量の血を見た後は、トラウマになってしまう人もいて、」
「血...?」
目だけで確認しても、体から血が出たような跡はなかった。
頭の中が痛いくらいで、どこも怪我をしたような痛みはない。
「あなたに、血を流させるつもりはなかったんです。たとえあれがあなたの体じゃなかったとしても、」
イチカはきょとん、とした顔をした。
「覚えて、ないのですか?」
「黒崎先生、なんのーー」
「リゲルですよ。ロゼッタ様。」
「ーーリゲル、様?」
イチカの目から涙が零れる。
「はい、ロゼッタ様。」
リゲルは指で涙を拭った。
「な、なんで....」
「運命、じゃないですか?」
リゲルはイチカを優しく抱きしめた。
「運命?」
「はい。私も愛してますよ、ロゼッタ様。」
「ーーわ、私、もうロゼッタじゃ、」
「そうですね。イチカ、と呼んでも?」
イチカはワンワン泣いた。
「り、リゲル様。」
ここが学校だということを思い出し、イチカは恥ずかしくなった。
「こんな日本人の見た目でそう呼ばれるのは恥ずかしいですねーー」
(まだ夢見てるのかな....どこまでが夢?ロゼッタだったのは....)
「.....イチカ?」
「どうして、ここに、、」
「さあ。どうしてでしょうか。でも、私は死んで、こちらに来たんだと思います。」
「し、死んでーー!?」
イチカは思わず起き上がった。
「ああ起き上がらないで。頭を打ってるみたいですから。」
「し、死んだって、お兄ちゃんに殺されたんですか!?」
「いえ、老衰です。」
「ろ、老衰...?」
「私は、ロゼッタ様に助けてもらい、あの後数十年生き延びました。そして、死に、この世界に生を受けたようです。」
黒崎先生が笑った。
(あ、そうだ....)
「わ、私、ロゼッタ様じゃないんです...」
「ええ、あの後ロゼッタ様は奇跡的に息を吹き返しました。ですが、起き上がったロゼッタ様は、私のことを覚えていませんでした。」
「ど、どういう...」
「ロゼッタ様の兄上曰く、元のロゼッタ様に戻った、だそうです。」
「それで、」
「ーーもう、いいですか?」
「え?ーー」
イチカの唇になにか、柔らかいものがーー
「ずっとあなたのことを待っていたんですから。」
◇◆◇
「狸緑川高校、略してたぬ高、ですか。」
「え?ええ。そう呼ばれていますね。」
「いい、ところですね。」
「そうでしょうか?黒崎先生は、優秀なお医者さんでらしたんでしょう?どうしてこんな田舎に?」
「ーーずっと探していた人に会いに、ですね。ーー」
完結しました!
お付き合い頂き、ありがとうございましたm(__)m
イチカがロゼッタの中からいなくなってしまい、本当のロゼッタはどうしたのか...
兄の陰謀は何だったのか...
あの後リゲルはどうなったのか....
番外として触れられたらな、とも思います。




