壊せない壁
「ーー少し場所を移しましょう。」
リゲルはそのまま、ロゼッタの手を引いた。
騎士たちの視線があまりにも集中して、仕方がなかった。
「ここで良いでしょう。」
小さいベンチが置いてある、庭。
「それで、どうなさったんですか?」
リゲルはロゼッタになにかあったのかと思い、走ってロゼッタの匂いがする方まで走ったのであった。
だが、当のロゼッタは平然と佇んでーー
いや、転んでいた。
「い、いえ、そのーーこれを!」
かろうじて掴んでいたものを、リゲルにズイッと突き出す。
「これは?」
包みからはいい匂いがしていた。
「よかったら、お昼ご飯に食べて下さい!」
中を開けると、一人分には多めの料理が詰められていた。
(なるほど。この間のお詫びとして母親か家の者から持たされたんだなーー)
「お、多いですか?男の人がどれくらい食べるか分からなくて、つい....」
ロゼッタは恥ずかしそうに頬を染めた。
「え、ロゼッタ様がお作りに?」
リゲルはもう一度包みに目を落とした。
(これを、ロゼッタ様がーー?)
色鮮やかな食材により作られた、力がわくような料理の数々。
「はい。お口に合うか...」
(そういえば、リゲル様の好きな食べ物も知らないわ...)
「ーーいや、とても美味しそうだ。」
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「リゲル隊長、どうしてんのかなあ。」
「つか、ロゼッタ様ってリゲル隊長のこと、どう思ってんだ?」
「いや、好きだろ!食べ物持ってくるんだぜ?」
「いや、でも、なあ?」
((どうしても、見た目が釣り合わない!))
リゲルのことを尊敬している隊員ですら、あの見た目に同情してしまうくらいなのだ。
「おい、リゲル隊長だ!」
「た、隊長!」「リゲル隊長!」
帰ってきたリゲルを、隊員がソワソワして出迎えた。
「ど、どうだったんすか?」
リゲルはぼんやりとし、隊員たちの質問にも返事がなかった。
なにかを考えている様子で、その苦しそうな表情に皆心配した。
「リゲル隊長。」
「ーーなんだ。」
「ロゼッタ様の気持ちに、応えてあげないんですか?」
「気持ち?何のことだ。」
「ーー分かってるでしょう?なんでわざわざ、ロゼッタ様がこんなところに来たか。」
リゲルは唇を噛んだ。
(ロゼッタ様が俺をーー?)
「そんなこと、あるわけがない。」
(獣人だからって人と結ばれてはいけない、なんてことないんですよ?ーー隊長....)




