甘い夢
「リゲル隊長〜、昨日なにしてたんすか?」
「ジルフェブィア公爵の家に行った。」
時が止まった。
「「ええぇええ〜〜!!???」」
遠くで聞き耳を立てていた隊員たちも、驚きの声をあげた。
(昨日の俺はどうにかしてたーーー)
思わずロゼッタの魅力に飲み込まれるところだった。
ギロリ、とリゲルに睨みつけられ、ほとんどの隊員は隊務に戻っていった。
「え、家にお呼ばれしたんすか?」
副隊長のベルだけがめげずに聞く。
辺りの隊員たちもやはり気になり、各々耳がぴくぴくと動く。
「ああ、」
リゲルは面倒そうに答える。
「え、マジっすか!?スゲえ!」
驚きのあまり、形ばかりの敬語もなくなる。
「え、ロゼッタ様にも会ったんすか?」
「そりゃな。」
辺りからため息がもれる。
「羨ましいな〜」「ロゼッタ様だぜ?あの美人の!」「ほんと可愛いよな〜」「俺もあってみて〜」「俺ら見たいな獣人でもいいのかな〜」
リゲルは胸がむかむかした。
ロゼッタだって獣人が嫌いだ、と言いたい一方、ロゼッタだけは本当はそんなことないのでは、ということに気づいてもいた。
「え、隊長それ、脈アリっすよ!」
「ーー脈?」
リゲルはけげんな顔をした。
「ロゼッタ嬢が王子以外と屋敷で会ったなんて!聞いたことないっすよ!」
王子の婚約者であったロゼッタは、他の男と会うことはなかった。
「私を呼びつけたのは公爵の方だ。」
「え、ロゼッタ様とは会ってないんすか?」
「いや、会ったが。」
「そ、それっすよ!なんとも思ってない男のために、わざわざ出てこないっすよ!」
「隊長に気があるんじゃないっすか!?」
「そんなわけないだろ、」
「ですよね〜」
へへっと笑った。
リゲルも呆れた顔になった。
一番人気のロゼッタと、不人気の獣人。
誰が見てもロゼッタがリゲルを好きにならないことは分かる。
「でも、ロゼッタ嬢って昔ここに来てませんでした?」
昔からいる赤毛の隊員レッドが武器を運ぶ。
「え、そうなんすか!?」
「そうそう。結構なついてたよな。」
ヒゲまみれの隊員ホビも同意する。
「めちゃくちゃ可愛かったな〜」
「うわ〜見たかったっす!ちっちゃいロゼッタ様!」
「もう、めちゃくちゃ可愛いぞ。ぷにぷにで、目が色っぽくて」
「「うわ〜〜」」
コワモテの男たちが黄色い声あげる。
(....犯罪臭がひどいな)
「え、じゃあロゼッタ様って獣人嫌いじゃないんじゃ?」
くるり、と振り返ってリゲルをみた。
「そんなやつ、いるわけないだろ」
「ーーそうだな、ロゼッタ嬢いつからか来なくなったし。」
「子供だったから大丈夫だったのか。」
がっかり、と肩を落とした。
「え?いや、あれって王子の仕業らしいぜ。」
ヒゲの隊員ホビが近寄る。
「ーー王子の?」
リゲルの肩がぴくり、とはねた。
「あ〜そういや王子もよく来てましたね〜」
「は!?王子って、獣人嫌いひどくなかったっすか!?」
副隊長ベルも茶色の犬獣人だ。
「それがよ〜、ロゼッタ嬢についてきてたんだよなー」
若い隊員は驚いた。
((王子がわざわざ獣人に会いにくるなんて。))
「挙句の果て俺らに嫉妬してロゼッタ嬢が来れないようにしたって。」
うはははは、と笑い声があがる。
「あー、笑うわ。」
「俺ら獣人とロゼッタ様がどうこうなるわけねーじゃん?」
「お前の顔から犯罪臭してたんじゃね?」
「おまえこそ中々の犯罪顔だぜ。」
リゲルは困惑していた。
(ーー王子が?ーーーじゃあ、来なくなったのは、それで....)
自分の勘違いに気がついた。
しかし、再会したロゼッタに忘れられていたことと、悲鳴をあげられたことが脳裏をよぎる。
(今、獣人を嫌っていることに変わりはない)
リゲルは邪念を振り払うように、頭を振り払った。




