+不可逆の時間+
ご無沙汰しております。
◆◇◇Step by 14◇◇◆
「そう。―――時間とは不可逆なの。時間が戻れるって誰もが夢見るけど、それって不公平じゃない?
あなたの過去はあなただけのもので、それだけで特別なものだわ」
(それは、タイムマシーンの否定ではないだろうか)
(しかし、彼女はそのタイムマシーンを使っている)
「相対性理論は―――」
これもまた誰でも知っていることをわかりもしないのに彼女に――
「希望的観測だろ?」
彼が僕の会話を区切るように、
「時間が不可逆なのは真だ。だけど、タイムマシーンが現存し、時間も光より早ければ戻るとされている。
つまりは、それこそが希望的観測による科学のプラシーボ効果の証明といいたいんだろ?」
話がよい感じに戻ってきた。
「つまり、2054年に三上真司は何を証明したの?」
少しの間が生まれる。
そして…
「何も」
彼女の無為な言葉だけが静かに木霊した。
◆◇◇Step by 15◇◇◆
「彼は遺伝子学的治療法を見つけて、成果を残しておきながら、実は何も発見していなかったの」
(成果を残して、何も発見しない)
(そんなことはあるはずがない)
「言っている意味が分らないよ」
彼が口角を上げてこちらを見ていた。
「そうね。そういう意見が2100年の上半世紀では定説だったわ。
つまりは、彼の理論を裏づけるような、臨床実験や枝葉となる治療法が確立してしまった。
そんな、事実の位置づけが浮いてしまうから」
「彼の死後見つかった文書。いえ、誰に宛てたのかも分らない手紙にはこうあったわ。」
『私は、生まれた時からずっと――
なぜ、飛行機が飛び。
なぜ、テレビが映るのか疑問でしかたなかった。
そして――
科学はなぜ、進歩をしていたのに、近年急激に進歩がなく停滞してしまったのか
それが最も疑問だった。
権威だった私の周りは、無為なイエスマンしかいなかった。
言葉を交わす時間が減り、
いつしか――
正しくないことさえ通るようになっていた。
そんなとき、世界にふと間がさした。
でっちあげの医療を提唱した。
私は、我儘だった。イエスとしか言わせる気がなかった。
無為な研究とでっち上げの論文に14年もの歳月を費やした。
年月が経つ毎に、でっちあげでしかなかった研究に、いろいろな機関が投資し、
嘘の世界が膨らんでいくのは滑稽でしかたなかった。
しかし、どうしてだろう。
でっちあげの研究が、花を開いた。
ある時を境に、次々に新しい臨床と発見が報告されたのだ。
人はこれを、遺伝子というパンドラには無限の可能性の種があったのだと言うのかもしれない。
それもまた、正しいのだろう。
しかし、これは正に、
天才とされる数学者たちが残した定理を、
後の世の人が証明して確固たるものとしたいまの世の中のあり方や、
鳥をモデルとして、
飛行機を作り続けたライト兄弟のあり方に類似していると言うに他ならない。
後世にて証明される定理・技術のすべては、
おそらく――
本来起こり得ない。』
読んで下さいましてありがとうございます。




