+二つの間+
彼女と彼の間
◆◇◇Step by 13◇◇◆
いまがいつで、ここがどこであろうと。僕は―――。生きていかないといけない。ここには水があって、満足ではないが食べ物もあった。今がいつか知らないが今年は、猛暑だと思う。
彼女の足音が響くのを心地よく思っている。きっと、調達の首尾が良かったのだろう。僕は、泉に膝が浸かるところまで進み、腕をぐっと浸す。彼に促されるような形で、僕は起き、顔を洗い、ここの営みへと―――投じていく。
僕達は、あまり言葉を交わさなかった。
きっとお互いが記憶が混濁としていることを、どこかで察しあっていた。
『こうして――
何もかも――
忘れて――
ただ生きていく』
そう言う時間だけが流れることに、優しさのようなものを感じていた。僕達は、大切な何かを失ったような喪失感を抱えている。子供が身寄りもなく集まっている。
それだけで、僕らの状況を表しているにほかならなかった。
(アルン…)
(希望の町)
何処かに僕らの還れる場所は、あるのだろうか。暖かく迎えてもらえるといいなと、そんな希望的観測を僕はしていた。
「それにしてもみんなどこにいったんだろう」
そんな―――あたりまえをつぶやいてみる。僕は知りたかった―――。ここは日本で、僕がいて家族がいて、ここは紛れもなく日本だったのだ。
(僕の知らない日本…)
沈黙は、彼ではなく彼女が答えた。
「パラダイムシフトって知ってる?」
僕は、首を振って答える。
「科学は既に、プラシーボ効果で成り立っていることが証明されているの」
なぜだろう、なにか噛み合っている気がしない。それが今の日本や僕らのいる場所とどう関係があると言うのだろう。
「隕石が衝突したからじゃないのか?」
彼もまた、同じように感じたのだろう。
(でも―――、またなにか噛み合っている気がしない。)
「だから低温睡眠で――」
(違う…)
彼女は、今を観測出来ている。それはつまり、どうやって隕石の衝突した世界を生きたかだ。そして、僕の質問に彼女が答えたという事は、その答えがそれに起因しているのだろう。しかし、時系列を追った答えではないことを感じていた。
「そう。隕石が衝突してから、世界は一つではなくなった。
勿論、地球という意味ではなく。
それまであったNation(人種、宗教、国家、民族といった垣根)には、新しく世界という垣根が追加された。それは、つまり人類が忘れた西暦の始まり、存在しない西暦0年の意味を知ることになった。
始まりは、2054年に発表された三上真司の遺伝子学的治療法と銘打った、癌やHIVと言った治療を遺伝子から行うと言ったものだった。この治療法は成果を上げ、2100年前半では全ての内科治療は、遺伝子から治療を行うことが主流となったの。」
(癌は治る?)
それが希望であることは言うまでもなかった。
彼の目から涙がこぼれていたのを僕は見た。
ありがとうございます。
最近色々とありまして、更新が滞っておりすみません。
引き続き書いていきます。