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A・L・N  作者: Roa
3/11

+三つの道+

はじめての読者様、ありがとうございます。

しばらくさぼっていた作者ですがよろしくお願いします。

◆◇◇Step by 5◇◇◆


(アルン……)


 彼女の言葉を繰り返す―――。


 それが何かを考えるのに、少し時間が掛かった。聞こえたいように聞こえる声は、時として思い描いていたように伝わる。僕にそう語りかけていた。誰しも希望的観測をしている。

 だけど答えは決まって、僕が辿り着くより早く聞こえてきた。


「向っていた街の名前だな」


 だが、如何してもひとつ引っかかる。来た街かもしれないし、向っていた街かも知れない。


 安易に最初の問いを優先したと考えれば前者であるが、精神的な状況を考えると無意識の回答とも思える。そうなれば、必然と今、心にあるものを答えたように思える。


(それが―――、後者である―――か?)


 いつしか―――、遠くを眺めていた。僕には、彼のように断言することは出来ない。いずれにしても、情報が不足しているように思えた。


(いや、そうではない)


 僕らは、その荷車の向う先から来たのだ。そうではない。だけど、だからこそ彼の答えはおかしい。泉を抜けると灯台が見え、左手には石灰質の山と、その先には皆が向ったと思われる険しい山々しかない。


 そう、灯台の先が断崖絶壁なのだから―――。


 ―――そして、彼女の少し低い声が空気を振るわす。


「はい。アルンへ向っていました」


 一つの確信と共に、なんとも言えない違和感を含んだ彼女の声が僕を包んでいった。


(こんな少女が独りであんな山道を―――)

(―――荷車を引いて歩いて来たのか?)

(いや、そもそも街なんてどこにあるんだ?)


「独りで歩いてきたの?」


 僕はひとつひとつを紐解くように、思っていることを話す。


「いえ。わかりません。」


 思っていた答えとの違いに、しばしの空白が生まれる。そして、それに気付いた彼女が続け様にこう答えた。


「誰かと一緒に来たような、独りだったような、

 なんとも記憶がはっきりしません。

 気付いたら独りで、あそこに倒れていた。

 そんな感じです」


 彼女は、困惑の表情を僕に向けていた。僕は、何か変なことを聞いてしまったのだろうか。


「それを知りたい。そうだろ?」


 彼女は彼の問いに頷いたが、ますます困惑の表情へと変わっていた。そして時折離す彼女の左手の下は、特に変わったところは無いように見えた。僕が寝ている間に話が進んでいたのだろうか。寝ている間に話が進んでいたにしては、会話が二の足を踏んでいるようなそんな感じだ。


(この会話が初めてなのか、そうではないのだろうか)


 彼女の表情に促され、僕は口を開いた。


「僕が見つけたのは、君と荷車だけで

 他には何も見なかった。

 僕は倒れている君を見てすぐに―――」


(すぐに?)


 確かに、大した考えも無く動いていた。いや、そうとしか動けなかった。そうとしか動けなかったんだ、限界だったんだ。


 ―――気付けば、皆が下を向き何も言い出せなくなっていた。


「行って見よう」


 沈黙を破ったのは彼だ。彼女も嬉しそうな顔で、それに頷いた。



◆◇◇Step by 6◇◇◆


 彼が沈黙を破り彼女が頷いた後、僕らは簡単に食事を済ませた。


 疲れていたこともあり、溶けるように眠ったそんな夜中に目を覚ます。先日の体験からなのか、なんとも不思議な夢を僕は見た。


 まだ誰も起きていない―――。


 どこか見知らぬ土地を旅していた。暖かくて、日差しがきついところだ。見たことのないダムが、まるで何百年も使われて無くて―――。


 だから、おそらく現実ではないのだろう。


 それは神秘的な体験だった。

『死ぬと望む幸せを得ることが出来る』


 ある時は港町、ある時は田舎で僕は生きた。

 そして僕は、夢の中で誰に言ったのかは覚えていないが、この死んでも生き返れる世界のことを話した。


相手はこう答えた。

『何度死んでも生き返る世界なんて、

 死んでいることに気付かない世界くらいなもんだ』


 そんなところで目が覚めた。

 昨日助けた紅い髪の少女が、泉からほど離れていない硬い砂地で寝ている。彼女を柔らかな乾燥した土へ、肩を貸し促した。僕は彼のように優しい人になりたかった。



◆◇◇Step by 7◇◇◆


 泉に膝が浸かるところまで進み、腕をぐっと浸す。すくった水で顔をぴしゃりと洗う。彼に促されるような形で、僕は起き、顔を洗い、ここの営みへと―――投じていく。


「ここはどこだろう」


 ここに来て、何度目か分からない感嘆が襲う。親も無く、記憶もまた無い。

 右を見れば遠くに切れた大地、左を見れば石灰質の山、正面には灯台が見える。海鳥は白く口煩く、相対的に彼は無口だ。応えは、返ってはこない。


 何も返ってこなくとも、二つの光がそれを見ていた。


「ここを抜ければ街だ」


 今いる場所、僕が知っている場所を道と呼ぶのなら、向う場所は未知に感じた。

 彼がいつものあの表情で僕に笑い掛けた気がした。

読んでくださってありがとうございます。

二つの光とは、彼と彼女であると思います。

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