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A・L・N  作者: Roa
2/11

アルン

小説を描こうと思って早2年が過ぎていました。気が付けば、1児の父親です。


◆第1部【名乗り】

◆第2部【アルン】

⇒加筆・修正中。

◆第3部【千夜一夜】

⇒未着手

◆◇◇Step by 1◇◇◆


 二時間ほど岩場に手を掛け進んだ頃、煙が上がっていることに気付く。勿論、山であるならば活火山であることも考えられるが、確かに登ることもあるのだが、基本的には下りなのだ。


「見てるか?」


 僕は思わず彼に声を掛ける。


「あぁ――。見てるとも」


 彼は、僕に構うことなく降りていく。対照的に僕は、何度も振り返りながら降りていく。


 しばらくして、下る彼が正解なのだと気付く。


 泉を拠点にして数日が経つ。見たものと言えば、この起伏の激しい岩場ばかりだ。僕らは何をしてるのだろう。対岸の斜面しか、―――見えない。いつしか、僕は現実から逃避するように彼の言葉を繰り返していた。


(君はもっとよく見えているんだろうな)


 振り返れる人生なんて―――僕はない。


(……何が?)


 見ようとしないなら、見えていようが見えていまいが同じなのだ。ただ、―――同じ事を繰り返す。


(僕は、窓を割ったんだ)


 記憶が戻らないことが、蜘蛛の糸の様に絡みついていた。


 そんなことを考えていて、気付いたときには遅かった。

 辺りには間欠泉と、沸騰した水が少し視界の悪い世界を造っていた。背中に嫌な汗が流れ落ちる。―――叫んだ。名前も知らない彼に届く様に叫んだ。


 ――どのぐらい経っただろう。

 声が枯れたところで、叫ぶのを止めた。


 引き返すべきなのか、進むべきなのか大きく動揺した。酷く枯れた喉が拠点に戻るべきだと、警告を大音量に告げている。

 不安は、助長されるように、靄掛がった視界が広がり景色は飲まれては消えていく。


 冷静さを失ってはいけないと言う思いが堂々巡り。灯台を背に、岩場を下って彼を探す。そんな思いと共に、僕は取り残されていく。


(これは間違い無く正しかった?)


 灯台は高台にて、位置を示すためにあるもの。即ち、下った先には街があるものと思っていた。


(彼はこの先にいるの?)


 振り返れば来た方角に険しい山、対岸を見たから思えた事なのかもしれない。そのためこの状況は、もう一つの考え方をすることが出来た。かの灯台は、下ではなく同じ水平の位置にて位置を指し示しているのかも知れないと。


 ここは窪んでいるのだ。


 しかし、それは可能性でしかなく。前者かもしれないが、後者かもしれないのだ。


「この先に彼はいない。彼は引き返してくる。

 正しい行為ではあったが、正解ではなかった。

 そうだろう?」


 僕は居る筈もない彼に問いかけて踵を返した。

(僕は、窓を割ったんだ)


 そう言い聞かせて―――。



◆◇◇Step by 2◇◇◆


 帰りの道、酷い頭痛と喉の渇きとの闘いだった。もうひとつの答えが分かってから、それは余計に酷くなっていった。

 今では、吐き気、目眩を感じるまでになった。

 これ以上引き返すのは無理だと座り込む。

 拠点まではと耐えてきた喉の渇きも限界だった。でも間欠泉から吹き出ている熱水を口に含むのは自殺行為だ。

 ―――水溜りを探そうにももう体を動かすことが出来ない。

 少しでも水が溜まった所が無いかと這う様に探す。しばらくして見つけ、喉を潤したところでそのまま眠りに落ちていった。


 重たい頭を上げたときには、太陽は高く昇っていた。目を覚まそうと、昨日の水溜りに頭を垂れる。


(ん?)


 違和感を感じたのは、手を水に入れた後だった。

 岩の窪みに溜まった水の縁に、白い粉が付着していることに気付く。白い粉をさっと人差し指で撫ぜる。

 匂いは無かった。色は硫黄の色とも思えない。不安を消すかのように口へ運び、ビリビリとした辛さが広がる。


 咄嗟に水を口へ運ぶが、―――思わず吐き出してしまった。


 在り得るのだろうか。昨日の僕は、そこまで錯乱していたのだろうか。

 ただ言えるのは、昨晩はこの水溜りで喉を潤した。それは、間違いなかった。そうでないならば、僕は錯乱していたことになる。いやそうでなくても、錯乱していたとも言える。


 今戻ろうとしている道は、正しいのだろうか。灯台は、―――見えない。

 噴出している熱水がすべてこの塩水ならば、拠点に戻らなければ命が危ない。


 ―――焦らずにはいられなかった。

 僕は陸地であるにも関わらず、まるで海で遭難したような気分だ。


 当初、体調の悪さは、高所特有のものだと思い込んでいた。おそらく、彼の言葉を繰り返していたからだろう。最初の位置を基準に、平地だと僕らは思い込んでいる。そのため、ここがすでに高山の中腹だと気付かない。

 僕はそれに気付き、体調を悪くした。


 そう解釈していたが、彼の眼鏡の話のくだりの会話が意図することが、ここでも答えになっている様に思えてならない。


 僕はきっと病気なのだ………。生まれたばかりのひよこが、最初に見たものを親だと思うように―――。いつしか僕は、彼のように口角を上げて笑っていた。


 最初は思い込みによる見落としを指すものだと思ったが、今は意識的なすり込み効果を指していたのではと思い始めていた。つまり僕は、この塩水を見て不安を煽られるまでは脱水症状と言った考えは無かった。そう想像できないように、気付かない内にすり込んでいたのだ。


「これは水だ」と。


 体の不調、つまり、客観的情報を得て初めて認識される。

 これら作用と結果では、情報が意図的に一つ欠落している。原因もしくは、主語がないのだ。彼の眼鏡のくだりであれば、結果は見える、作用は掛け忘れる。これに対して、補足として後で気付かされるという曖昧なものだけが付け足される。

 安易に省略が予測される原因である掛けているものと思い込んでいたと言う思い込み、そして主語を曖昧にすれば何が見えるのかを省略した結果だけがすり込まれる。

 その場合、状況判断することになる。しかし、それは可能性でしかない。

 今に当てはめて考えるならば、体調の悪さは前者からくるものなのかもしれないし、後者からくるものなのかもしれない。



◆◇◇Step by 3◇◇◆


 思考の輪から抜け出せずにいた。勿論、太陽の高い時間帯を岩陰でやり過ごすことが目的の時間ではあった。

 彼にとって生きる希望が街ならば、僕にとっての希望はなんなんだろう。

 そんな、たわいも無い言葉遊びだ。


 ぼんやりする頭の中で、昔やったと思うゲームをフラッシュバックしていた。なんの変哲もないもの。仲間を集めて悪の魔王だか何かに立ち向かうごくありふれたチープなもの。

 仲間が危機に陥って、ためらい無く切り捨てた。理不尽なことがあれば怒りもした。ごく普通に熱くなって、いつも時間を忘れて遊んだ。


 僕は外で缶蹴りや昆虫を追いかけて遊ぶような友達もなくて、独りで遊ぶことばかりだった。そしてそんな僕の仲間が、敵に倒されるところを何度も見ている。

 でも僕がリセットしなかったのは、緊張感やリアリティを持ってきっと外で友達で遊んでいるような感覚だったんだ。


 そんなたわいも無い言葉遊びだ。


 『僕は友達が欲しかった』

 彼は―――、僕の希望だ。


 気が付くと日の高さも落ちてきて、涼しい風が吹いて来てる。

 迷わずに今歩く。疑いを捨てて、水溜りを背に登ると―――。考えるのは、もう沢山だ。来たときのことを考えると、半日では戻れない距離があるから。

 必然と足元ばかり見てしまうのを堪えて歩く。

 自分の生きていた来た道を辿るように、今さらながら踏み出そうとする。時折、間欠泉より熱水が吹き上がる。


「これほど……」


 どんなに彼ばかり、見ていたんだろう。


 嗚呼、僕は―――。

(窓を割ったのは―――、僕では…なかったんだ…)


 しばらく歩くと、平坦な山道らしきものに出た。灯台といい街があるのは、間違い無いと思った。彼にこのことを伝えたかった。でも何か、違和感のようなものが込み上げてきた。


 だけど、それよりも車輪が通ったような二列の跡が気になった。


 跡を追いかける様に進む。歩いているうちに、太陽は沈み、夜の灯りで二列の跡を追いかける。―――始めは、気のせいだと思った。


「ここには誰もいない。叫び声なんて聞こえない」


 なぜなら僕は、自分と会話するようにすべて声に出してここまで来たからだ。でも自分の声のような気もするし、そうでない気もする。


 言えるのは、道はここにしかなく、今続いているこの二列の跡を追いかけるしかない。

 程なくして、それの主を見つけるも―――。

 それが…、だけど…、在ったのはぼろい荷車。そして、短く紅い髪が特徴な少女が倒れていた。全てが想像と違っている。


 ただ言えるのは、彼女は外から来たと言うこと。僕は―――、駆け寄る。彼のように、今を見つめて生きていこう。そして、今まで現実の友達がいなかったであろうこと。これまで、きっとひとりさみしく遊んでいたであろうことを忘れよう。


「大丈夫ですか?」


 そんなたわいもない気遣いから、―――僕が始まった。


「……」


 呻き声が痛みだけを伝えてきた。僕は、彼女を抱えると無言で登り続けた。

 混乱する意識の中で、ただ上へ上へと目指す。長い道のりのことは、いつしか忘れていった。



◆◇◇Step by 4◇◇◆


 目を覚ますと、彼がいた。どうやらここは泉のようだ。

 僕は起き上がると続け様に、彼女のこと、途中で見つけた山道のこと、どんなに大変だったか彼に話した。具合が悪かったのは、夢だったんじゃないかって―――体は軽かった。

 でも―――、しばらくするとまた力が抜けていった。


 起きたときには、彼はまたいなかった。だけど泉にいたことで、全てを疑わなかった。隣には、彼女がまだぐったりと倒れている。彼ならどうしただろう。

 そんなことを考えながら、彼女をずっと見つめていた。どのくらいたったのだろう、彼女が起き上がる。


 なんて声を掛けていいのか分からず――


「もうしばらく寝てるといい。

 もしかするとその左目はもうだめかもしれないな」


 突然の声に振り返る。

(彼だ)


 彼女は左半分の顔を押さえていた。そんな仕草を見て初めて気付かされる容態、僕は何を見ていたんだろうと思った。


 やっぱり彼だ―――。


 そしてここで僕も、彼女に疑問をぶつけてみる。


「どこから来たの?

 そしてどこへ向っていたの?」


 自分でも聞いて置きながら、そのあまりの話題の切り替えに苦笑いだ。


「……アルン」

読んでくださってありがとう。がんばります。

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