EP:4
「ただいまー」
家までの長い道のりをやっと歩き終わった。
「おかえりー。早かったじゃない」
「今日は真っ直ぐ帰ってきたから」
母親とのいつものやりとりを済ませ僕は自分の部屋へ向かった。
「あれ?ここだれの部屋だっけ?」
僕はきちんと部屋まで歩いてきたはずなのにここは僕の部屋ではないと思われる。だって朝起きたときはこんなに片付いていなかったし、なによりなかのモノがごっそり変わっているからだ。
「ちょっと母さん? 僕の部屋はどうしちゃったの?」
「あぁ、あんたの部屋はアイちゃんとハルカちゃんに譲ってあげたのよ」
へぇー。二人に譲っちゃったのか。母さんが、勝手に、僕の、部屋を。 っておい!おかしいだろそれ!
「ちょ、それじゃあ僕の部屋はどうするんだよ」
「お父さんの部屋をあんたの部屋にしといたから安心していいわよ」
「……ちなみに父さんは?」
「お父さんはリビングでいいって。なんかそろそろリビングで寝たいと思ってたところだよって言ってたわ」
父さん……本当にすまない。こんどなにか好きなものを買ってあげよう。それぐらいしてあげないとかわいそうだ。
とりあえず僕は新しく僕の部屋となった元、父さんの部屋をのぞいてみた。
「あれ?ハルカさん?僕の部屋でなにしてるの?」
新、僕の部屋ではハルカさんがせっせと部屋の掃除をしていた。
「あ、恭平さん。すみませんがもう少し待ってくださいね。もうすこしで終わりますから」
「はぁ、どうも」
僕はハルカさんに言われるがままにその場で掃除が終わるのを待つことにした。
ハルカさんの掃除の手際はとても良く、素人の僕がみても明らかに無駄がなかった。
「はい、全部終わりましたよ。お待たせしました」
「あ、ありがとう」
お礼を言うとハルカさんはにっこりと笑って、どういたしましてと返してくれた。
ハルカさんに掃除をしてもらったおかげか部屋の中にはほこり一つなく、それに物の配置も前の部屋と全く変わっていなかった。
「家具とか移動したのはハルカさんがやったの?」
「小さいものなどは私がやりました。大きいものはお父様がみんなやってくださいました」
「こっちきていきなり掃除とかさせちゃってごめんね」
僕がやらせたわけではないがなんだか謝らなくちゃいけない空気だった。
「いえ、お掃除とか大好きですから全然平気ですよ」
確かに見た感じ家事全般得意そうだし。ってことは料理の腕もかなりのものかもしれない。僕の母さんは料理を全く作らないからいつも料理は父さんが作ってる。でも父さんはあんまり料理が得意じゃないからよくコンビニの弁当とかになっているから、ハルカさんの料理には期待したいところだ。
「ハルカさん料理とか得意?」
「あ、料理はとっても得意なんですよ!」
かなりの自信があるっぽいな。
「もしよかったら今晩作ってくれないかな?うちには料理が作れる人いないんだ」
「本当ですか?じゃあ頑張って作っちゃいますよぉ」
これからはご飯には苦労しなさそうだ。
そんなこんなで材料を買いに行くことになったんだけどひとつ問題が……
「ちょ、お、降ろして!降ろしてくれぇ!」
僕は今必死にハルカさんにしがみついている。
「大丈夫ですよ。そう簡単には落ちませんから」
そう。僕は今生まれてはじめての空の飛行を体験している。僕は飛行機にも乗ったことがないから本当に怖い。まぁ飛行機に乗った経験があっても生身で空を飛ぶのは怖いだろう。
「て、てゆーか、ハルカさん!なんで、買い物行くだけで、空を飛ばなきゃ、いけないの!」
「だって私の場合は歩くよりも飛んだほうがはやいんですもーん」
楽しそうに言うハルカさん。でも僕の気持ちはハルカさんとは全く逆でいつ落ちるか分からない恐怖に支配されていた。
「と、ところで、ハルカさん。場所は、わかってるの?」
「なに言ってるんですか恭平さん。分からないから恭平さんを連れてきたんですよ」
それだけのために僕をこんな目に合わせたのか……
「あれ、ハルカさん?なんか段々落ちて来てない?」
なんだかハルカさんは少し辛そうだ。それに速度もどんどん落ちてきて今にも墜落しそうだ。
「す、すいません。私実は日の光に弱くて……」
「えええええ!それってめちゃくちゃ重要な情報じゃないですか!早く安全な場所に下りなきゃ!」
とりあえずちょうど真下にあった人気の少ない公園に着陸した。
「はぁ、はぁ……すみませんちょっと疲れちゃって……」
本当に辛そうだ。しかし天界人なのに日の光に弱いってどうゆうことだ?
「なんだか天界とここじゃ空気とか色々違うので本調子じゃないんですよ」
「とりあえずハルカさんはここで休んでて。僕なんか飲み物買ってくるから」
「あ、ありがとうございます」
そして僕は自販機を探すことにした。
だけどハルカさんってこっちの飲み物とか飲めるのか?なんとなくだけど絶対炭酸とかはダメだろう。ここは手堅くお茶?もしくは紅茶とかか?
いやここはあえてのオレンジジュースでせめてみるか。ハルカさん以外に子供っぽいところあるし。
「お待たせ。とりあえずこれにしたけど飲めるかな?」
「なんですか、これ?」
やっぱり見たことが無いようだ。
「オレンジジュースだよ。知らないかな?」
「聞いたことはないですね……こんな色していますが飲めるんですか?」
さすがに初めてみる色の飲み物だから警戒しているようだ。
「大丈夫。きっとおいしいと思うから一口飲んでみてよ」
「は、はい」
恐る恐る口を付けるハルカさん。そんなしぐさがちょっぴり可愛いとかおもっちゃったりして。
「どう?」
「お、おいしいです。なんていったら良いのかわかんないですけど、私この味好きです」
良かったぁ。僕が作ったわけではないがおいしいと言われて嬉しいと思った。まぁ気に入ってくれたようでなによりだ。うん。
「そろそろ行きましょうか。もう大丈夫みたいですし」
目的地であるスーパーまでは比較的近いしまぁ大丈夫だろう。
「よし、じゃあいこうか。でもあまり無理はしないようにね」
「ところでハルカさん。天界でもこっちと同じようなものを食べてるの? さっきのオレンジジュースは向こうには無かったようだけど」
「そうですねぇ……基本的には天界人は食事をしなくても良いんですが、一度人間界に行ってきた人たちは食事を積極的にとるようになりますよ」
「人間界の料理にはまっちゃうってこと?」
そうきくとハルカさんははい、と言った。
食事をする必要がないとは便利だなぁ……でもそしたらなんでハルカさんは料理が得意なんていっていたんだろう?
「でもさぁ、食事をする必要がないなら料理をしないってことじゃないか。どうしてハルカさんは料理が得意って言ってたの?」
「それはですね私が以前勤めていた部署の方がとても人間界の料理が好きで、色々な人にお勧めしていてそのときに私がそのレシピを教えてもらって作ってみたらとても料理をすることが面白いと思ってですね、それから人間界の料理のことを調べて作るようになったんですよ」
「ちなみにその時に教えてもらった料理はなに?」
「それは確かはんばぁぐって名前だったと思いますけど……」
ハンバーグか。まぁハンバーグは好きなほうだし。
なにやらハルカさんとても気合を入れて食材を選んでいるようだ。あと一つ心配なのは僕の財布の中身が空にならないかどうかだ。そこらへんの配慮お願いしますよハルカさん。
そんなことを考えながら僕はハルカさんの楽しそうな姿をカゴを持って追いかけていった。