EP:10
ついに10話です。やっぱり今回も期日守れませんでした。すみません。こんな小説ですが、評価、感想を書いていただければ作者のやる気も10倍アップ(当社比)するのでよろしくお願いします。
いつもの通学路をいつもよりゆっくりと歩いてきた僕。その速度はきっと地面をせっせせっせと進む亀より遅いのではないか、というペースで、僕は時間ぎりぎりに学校に着いた。
朝のホームルームが始まる直前ということもあって、僕のクラスの仲間達はほぼ全員教室内におり、そしてみな輪をつくり、談笑に励んでいた。
いつもなら僕だってこの輪に入ってみんなとの楽しい時間を過ごしたであろう。だが、今日の僕は違った。
級友に挨拶をされても適当に返事をし、話を振られても軽く相づちをうつだけ。そしてしまいには机に突っ伏して寝ようとするもんだから、級友達は無視される形になり、さぞ気分が悪かったに違いない。
けれど僕は級友の評価なんかよりも、まず眠かった。一秒でも多く寝たかったのだ。
僕は今まで徹夜なんかしたことなかった。夜は遅くても12時には寝ていたし、朝も早いからだ。 けれど昨晩はどこかの地底人と天界人と異世界人によるゲーム大会に巻き込まれ、貴重な睡眠時間が0だった。それは規則正しい生活をしていた僕としては、予想以上のダメージだったのだ。
先生が教室に入ってきてホームルームを始めようが関係なしに、僕は夢の世界の住人になるべく、ひたすら机と睨めっこをした。
次第に眠気がやってきて、これでやっと寝れる、と思った瞬間、邪魔者はやってきた。
「おーい、恭平ー。国語のノート忘れたから見せてくれよ」
あぁこいつはなんとタイミングの悪い男なんだろう。今日、いや、今この瞬間でなければ僕は国語のノートぐらいいくらでも貸してやっただろうが、いかんせん今の僕には睡眠を妨害された怒りだけが残ってしまった。
「僕は、今、寝るのに忙しいんだ……頼むから邪魔しないでくれ……」
まったく顔を上げずに答える。基樹の表情はわからないけど、きっと嫌な顔をしたであろう。「あー?どうしたんだよお前。朝から寝てるなんて珍しいじゃねぇか」
「昨日は徹夜で奴らの相手をしてて大変だったんだ。だから僕を寝かせてくれ……頼む」
やっぱり顔を上げない僕にあきらめがついたのか、基樹は、じゃあいい夢見ろよ。と、だけいって立ち去っていったようだ。
――これでやっと眠れる……
周りの音がゆっくりと聞こえなくなり、僕は眠りに落ちた。
「うわっ!」 ガタンッ!と、大きな音をたてて僕は飛び起きた。
なんだかとてつもなく嫌な夢を見た気がする……
マッチョな男が僕を追い掛けてきて、僕のおしりを……おしりをどうしたんだ?きになるな。だけどこの先は思い出さないほうがいい。本能がそう告げている!
瞬間的なスピード――きっと光よりも早かった。で、夢のことを忘れて、とりあえず現状の確認をしよう。
時計をみる。うん、3時間目の授業開始の時間だ。
次は周りを確認。誰もいない。もう一度確認。やっぱり誰もいない。
えっと3時間目の授業はっと……化学。確か実験って言ってたな。ってことは、僕置いていかれた……
「ってうわぁぁ!まずい、まずいよ!」
さすがに教室で寝てて授業に出れませんでしたってのは非常にまずい。
あわてて準備をして、急いで教室をでる。
「きゃっ!」
悲鳴と体に鈍い衝撃を受け、僕は思わず尻餅をついた。「いったー……」
いったい何が起きたのかと目の前を見れば、少女が一人。僕はこの子とぶつかったのかと認識する。長く垂れ下がった黒い髪。手入れはよくされてるようで、とてもつややかだ。――って髪に見惚れてる場合じゃないぞ。ぶつかったのは女の子じゃないか。もし怪我でもしてたらどうするんだ。
「だ、大丈夫?ちょっと焦ってて……」
「あ!橋矢君、やっと起きたんだね!」
女の子はさっと立ち上がり、スカートの埃をはたく。そして僕の顔をみるなりニッと笑顔で言う。その笑顔はドラマなどで俳優がやる作り笑顔などではなく、彼女の普段どおりの太陽よりも眩しい笑顔だった。その笑顔に僕は少し胸が高鳴る。
「あ、天条さん……」
「橋矢君。だめだよ、女の子を待たせちゃ。私困っちゃったんだから」
待たせた?一体なんのことだ?
「科学の実験のパートナーがさ、橋矢君とだったから相方がいなくて……」
「あ、ご、ごめん。すっかり忘れてたよ……」
彼女は天条ゆりこ。僕のクラスで委員長を務めている人だ。人一番責任感が強く面倒見もいいので、僕が実験室に来なかったのを気にして来たんだろう。
少し上目遣い気味に僕を見るくりくりとした目。
はっきり言うけどかわいい。本当にかわいい。
彼女とは中学校のころから一緒だけど、正直そのときから僕は気になっていたんだけど、僕の特殊能力ヘタレが常時発動しっぱなしでろくに話も掛けられなかった。
なんかじっと顔を見てるのも変だよな。早くいかなきゃ。
「さ、早く行こうか。みんな待ってるだろうし」
「そうだね。あ……ちょっと待って」
「どうし」
そう言った瞬間、彼女の顔がアップになって僕の視界に入ってきた。あまりの出来事に僕の思考は完全にフリーズしてしまい、ピクリともからだを動かすことが出来なかった。
お互いの息がかかりそうなぐらいの距離。
彼女の香りが僕の鼻腔をくすぐる。
一体どうしてこんなことに?
そんなこんなで動揺しっぱなしの僕を尻目に彼女は僕から離れていった。
「あ、あのね、髪の毛にゴミが付いてたんだよ」
そういった彼女の顔は少しだけ赤かった様な気がする。もちろん僕は真っ赤だったけれど。
そんなことがあったから実験室に向かう道が少しだけきまずい。廊下は授業中ということもあって、もちろん誰もいないし、騒がしくしているクラスもない。
その静寂もあってか、話がかけにくくなってしまっている――もともとかけられないがそうゆうことにしておこう。
天条さんはどう思ってるのかと思って、彼女のほうをちらっとみると、目が合ってしまい、僕はあわてて目をそらしてしまった。
いつもなら数分もかかるはずがない実験室だけど今だけは、本当に長い道のりに感じる。例えるなら有名ラーメン屋の行列でじっと待っている間のような感じだ。
とってもわかりにくい例えだけど、まぁとっても長いってことだ。
この時間は僕にとって、嬉しいようでつらいようで非常に複雑な気分だ。 結局一言も会話がないまま、実験室まで着いてしまった。あぁ、僕の馬鹿野郎!なぜあの話し掛けられるチャンスをみすみす逃してしまったんだ……
後悔してももう後の祭りで、天条さんはもうすでに実験の準備に取り掛かっている。
はっきりいって僕は足手まといだった。実験のやり方はおろか、内容すら知らない僕が役に立てるはずもなく、ほとんどを天条さんに任せてしまった。
僕の分の課題もいつのまにか、天条さんが終わらせており、本当に僕は迷惑をかけっぱなしだった。しっかりとあとで謝っておかないと。
3時間目も無事に終わって教室に戻ると眠気の完全にとれていない僕はまた、机に突っ伏して寝る態勢に入った。基樹には今日は昼はいらないと伝言をして、僕は本日二度目の眠りに落ちた。
次回につづく