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言ノ葉少女と桜桃

作者: 煌榮 星來

 この作品は竹野内 碧様の企画【恋愛糖度過多企画】の作品です。私なりに甘くした……つもりです。

 春風が窓から吹き込んでくるのを感じながら俺は幾つもの教科書を素早く鞄の中へ詰め込んでいき、購買で買った最後の一つである飴をポケットに入れる。すると後ろから軽く肩を数回叩かれた。振り向くと友人である雅人マサトがいた。


 「どうかしたのか、雅人? 」


 俺が声をかけるが雅人は瞳をギラギラと輝かせ、息をハァハァと荒くしているだけだ。俺は頬がひきつっているのを自覚しながら再度、声をかけた。


 「……どうかしたのか?」


 突然、雅人は目を見開くと両手を天へと伸ばし叫んだ。


 「男子諸君よ、今日は何の日だ!?」


 すると周りの男子も両手を伸ばして叫ぶ。


 「バレンタインデーだ!!」

 「……そうだな」


 俺はその光景にドン引きしばがら何とか相槌を返した。しかし雅人は目をギラギラさせながら言う。


 「わかってない、航太コウタは全然わかってないぞ!

 バレンタインデー、それは男達の聖戦!他の男よりどれくらいもらえるか、そして本命が貰えるかの厳しい戦いだ!……」


 未だに続いている雅人と他の男子を放置して教室を出た。

 俺が向かう先は三階にある文学資料室だ。そこは俺が所属している文学部の部室になっている。

 文学資料室の入口を開けると微風と共に本独特の匂いを感じる。文学資料室の壁には幾つもの本棚が並び、部屋の中心には長机とパイプ椅子が置いてある。

 その一角で黒髪を二つに結い赤縁眼鏡をかけた女性が本を読んでいた。彼女はこの文学部の数少ない部員の一人であり俺の愛しい恋人である佐藤文乃サトウアヤノである。

 文乃は俺に気が付いたのか本に栞を挟み顔を上げた。


 「文乃だけ?」


 俺は彼女にそう聞くと文乃は本を脇に置きながら「うん」と頷き淡く微笑んだ。


「どうだった?」


 席に着きながら先程脇に置かれた本を指差し、聞いてみると彼女は本の表紙を一瞬優しく撫でると頷いた。


 「“美味しかったよ”」

 「何味?」

 「レモンに似た酸っぱい味……かな?」


 俺の質問に彼女はそう応えた。

 普通の人はこの会話に疑問を持つだろう。何故“味”が出てくるのか?……実は文乃は“言葉の味がわかる”のだという。以前ネットで調べたときはこれを“共感覚”と言うそうだ。俺は彼女のそんな話を聞くのがとても好きなのだ。

 俺と文乃はしばらく二人で話していると彼女が「んーー」という声を上げた。


 「どうかしたのか?」

 「ん?やっぱり航太の“言葉の味”は美味しいなーって」

 「どんな味なの?」


 俺は興味本意でそう聞くと彼女は少し考えると言う。


 「冷たいバニラアイスにペパーミントと市販の缶詰に入った黄桃を軽く混ぜ合わせた味……かな?」


 俺はその感想に少し驚き、「ずいぶんと詳しく話せるな?」と聞く。すると文乃はニッコリ笑いながら「だって、好きな人の味だもん」といった。


「そ、そっか……」


 その応えに俺は柄にもなく頬を赤く染めてしまう。

 それからしばらくの間、無言が続く。文乃はニコニコと笑いながらこちらをじっと見つめている。


 非常に、気まずい……!!


 俺はこの状況を打開するために何とか彼女へ質問をした。


 「そう言えば先輩達は?」

 「今日は皆、用事があるからお休みだって」

 「そうなのか……」


 再び会話が途切れようとしたとき、文乃が突然声を上げ、鞄の中から赤い包装紙に金のリボンが施された箱を取り出した。


 「話すのに夢中で忘れてたよ~」

 「なんだ、それ?」

 「チョコ……だよ。ハッピーバレンタイン、航太」


 そういって手渡されたチョコを見ながら俺は嬉しさを隠しながら微笑み礼を言った。

 彼女は「喜んでくれてよかった」と笑うと少しだけ俯いてしまった。


 「どうかしたのか?」

 「いや、ね。自分の言葉の味を知ることができれば少しでも似せれたのになって」


 俺はその言葉を聞いて良いことを思いついた。


 「俺は知ってるよ?文乃の言葉の味」

 「えっ?」

 「教えてやるから目、閉じて」

 「う、うん」


 彼女は俺の言う通りに目を閉じた。

 それを確認した俺は飴を取り出す。そう、教室でポケットに入れた購買で買った最後の一粒だ。その包装紙を音をたてないように開けると、自分の口に含む。……うん、程良い酸味と甘みが美味しい。

 さて、準備ができたので俺は椅子から立ち上がり彼女の頬に手を添える。そして……俺の唇を彼女の唇に押し当てた。


 「……ん!!」


 文乃が驚き、口が少し開いた。そこに舌を滑り込ませて彼女の口内を俺の舌で蹂躙する。

 一通り蹂躙し終わったら俺の口内にある飴玉を彼女の口に移し、彼女の口内でコロコロと転がす。

 しばらくそうしてたが息に限界を感じたため唇を離す。彼女の唇とを繋ぐ唾液の糸は窓から入ってくる夕焼けの光によって橙色に染まっていた。


 「さぁ、何味だった?」


 俺は息を整えると潤んだ文乃の瞳を見つめる。彼女は未だに肩を上下させ、赤く染まった顔のまま小さく呟いた。


 「……さくらんぼ」


 その回答に俺はニヤリと笑った。


 「--正解」


 いかがでしたでしょうか、ちゃんと甘かったですか?この作品はとりあえず甘くなるようにがんばりました。テーマはバレンタイン、あとは声フェチなんかも当てはまるかもしれません。因みに作中で出てきた“共感覚”という物は実在するそうです。私も今回はそれを参考にしました。それではクリックありがとうございました、感想のほうも書いただけるとうれしいなと言ってみたりします。次回の作品も楽しみにしていてください!

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