表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【3章】
98/106

【101】

【18】


 それからさらに、十日が経った。

 村人たちの協力の元、水抜きは成功。地底湖は干上がり、底に沈んでいた人骨がとうとう姿を現した。


「皆さん、ありがとうございました」


 モニカは台の上に立ち、村人たちを前にしてお礼をする。


「これから、地底湖の調査に入ります。これが成功すれば、フルスベルグ村からお礼が貰えることになっています。そうしたら、また皆で宴会しましょう」


 どっと歓声が上がる。

 彼らは宴会が好きなのだ。フルスベルグ村はブドウ酒の名産地。水害が収まって、より発展すれば、もっとお酒が手に入るはずだ。周り回って、ヴァスマイヤ村も発展できるはず。


「ひとまず、ここで皆さんの作業は終わりです。後は私たちの役目です。お疲れ様でした」


 モニカは簡単な演説を終え、台から降りようとした。


「姫さまー! 少しだけここに残って、調査の様子を見学してもいいですかー?」

「そうだー」


 村人たちの中から声がした。また、それに賛同する声も上がっている。


「危険かもしれませんよ?」

「ヘーキ! ヘーキ!」

「姫さまがいりゃあ、何が来たって問題ないですよ!」


 そこまで頼られても困るのだが、拒絶する理由も見当たらない。彼らも自衛できる程度の護身術はあるし、簡単な魔法は使える。


「わかりました。でも危険だと思ったらすぐに退避してくださいね」

「はい!」


 モニカは、ブローチを操作して〈転移門〉を開けた。そして近くにいる村人に渡す。


「姫様、ご無事で」

「ありがとう。でも皆さんがついていますので、きっと大丈夫でしょう」


 それから号令をかけ、地底湖のあった穴に降りるロープを垂らす。底を探索するのは、元々旅に出た6人のメンバーだ。

 クヴィラだけはいつものように、見えない階段を降りていく。


「では、行きます」


【19】

 

 ようやく地底湖の底にたどり着いた。地底湖の底は、取りきれなかった水の上に、いくつかの骨の島が出来ている。

 モニカはそのうちの一つに着地した。足場には、濡れた骨が積もっていた。歩くたびに足元の骨が、クシャリクシャリと音を立てる。

 上を見上げれば、フチから村人達が覗いているのが見えた。


「ご主人様、観客付きの調査なんて、緊張しますね」

「そうですね」


 侍女リュミエラが、弾むような声で話しかけて来た。しかし、楽しそうなのは声だけで、モニカから少しも離れようとはしない。完全に警戒体制だ。

 先に降りて来ていたクヴィラは、遠くの島で、壁を調査していた。骨に見向きもせず、壁に興味を持つのは、彼らしいというか何というか。

 一方、ルローとタンコは、近くの島でしゃがみ込んで骨を触っていた。どんな種類の骨かを、二人で話し合っているようだ。

 シュティラは同じ島にいた。ポニーテールを左右に揺らしながら、特に何をするでもなく、こちらに視線を向けている。


「どうかしましたか?」

「あ、いえ……」


 少し元気がないような気もする。


「気分が悪いのなら、休んだ方がいいですよ」

「すいません……」


 とは言うが、その場から動こうとはせずに立ちすくんでいる。どうも要領を得ない。

 モニカは、シュティラの気持ちを和らげようと、優しい笑顔で言った。


「では、一緒に調べましょうか」

「……はい、お願いします」


 シュティラは、軽く頭を下げた。ポニーテールが揺れる。


「それでは、私達は壁に沿って歩いてみましょうか」

「はい」


 モニカ達は〈魔法の行灯(マジックランプ)〉を掲げて歩き出した。左手に壁がつくように時計回りに進むことになった。

 壁から水が染み出し、滑りやすくなっていた。転ばないように足元に気をつけつつ、島から島へと飛び移る。

 こうして実際に下に降りて歩いてみると、上からは分からなかった事が見えてきた。


「横穴……でしょうか?」


 上から見えない壁の所々に、真っ暗な穴が開いていた。幾つかの穴からは、わずかな水が岩壁に沿って流れ続けている。

 骨島の下の方にも穴があるようだ。水が流れるポイントが、幾つか見受けられた。


「水の流れがありますね」


 モニカが後ろを振り向くと、リュミエラが水の中に手を入れている。冷たいのか、すぐに顔をしかめて手を引っ込めた。


「上の方の穴からは水が出てきて、下の方の穴からは水が抜けているようです。ということは、この下に川があって、そちらに流れ込んでいるのかもしれません」


 モニカは、頭の中で洞窟の構造を想像する。この足元にある骨の山が、下に行く水の流れを塞いでいるように思える。

 背後から、シュティラの声が聞こえてきた。


「〈水の精霊〉が弱いように思えます……」


 モニカも目に魔力を込めてみた。周囲の精霊の様子を探ると、確かに水の属性の色が薄い。


「確かにそのようです。これでは、精霊に話は聞けそうにないですね」

「はい……」


 精霊とは、その名の通り霊の一種で、人の魂と同質のモノである。しかし、一般的な精霊は自我を持たず本能によって流される存在、とされる。これを〈下位精霊〉と名付けている。

 その同質の魂が集まって一定以上に達すると、自我を持つことがある。すると、会話が出来るようになり、そのような精霊を〈中位精霊〉と呼ぶ。

 そして〈水の精霊〉が薄いということは、ここは水が本能的に避ける〈属性場〉だということだ。そんな場所で〈中位精霊〉を呼ぶのは、かなりの危険を伴う。話ができないばかりか、狂って襲いかかってくることがあるからだ。


「仕方がありません。〈音波探信(ソナー)〉をやります」

「はい、ご主人様」


 モニカは〈水の精霊(ウンディーネ)〉と〈音の精霊(エコー)〉を召喚した。

 自我がない下位精霊は、強制的に召喚しても問題はほとんどない。火の中に飛び込ませることすらできる。


「〈音の精霊(エコー)〉よ。水の中に忍び、我が命に応じた音を出せ」


 モニカは、多数召喚した〈音球〉のうちの一つを、ゆっくりと沈めて行く。そして耳をすませ、コーンと高い音を出していることを確認する。


「あの、〈音波探信(ソナー)〉とは何でしょうか……?」


 やや元気がない声で、シュティラが尋ねてきた。

 モニカには、その質問に答える余裕があまりない。事情が分かっているリュミエラが、代わりに答えてくれた。


「シュティラさん。〈音波探信(ソナー)〉とは、音と水の合成魔法なのですよ。まず〈音の精霊〉によって音を出します。そして、波紋を感知する属性がある〈水の精霊〉によって、それを感知します」

「……意味がよくわかりません」


 モニカは二人の話を聞き流しながら、今度は多数の〈水球〉を水の中に沈めていった。


「うーん、話が長くなりますので……ただ、私たちは、音を出さないように静かにしていなければなりません」


 リュミエラは首をかしげながら、人差し指を口に当てた。シュティラも何となく分かったのか、口を閉じた。


「行きます」


 モニカは一言だけ言って、目を閉じた。

 辺りには水の流れる音が聞こえる。それらに〈音球〉をぶつけ、音をかき消す。そばにいる二人の心臓の音が聞こえる。これも〈音球〉をぶつけて音をかき消した。さらには、穴の奥から聞こえてくる風の音も消す。

 これで邪魔な音が聞こえなくなった。

 今度は、水の中の〈音球〉を鳴らすように命じた。その音を〈水球〉が感知し、モニカに知らせてくる。


 コーン……。

 ……コーン……。

 …………コーン……。


 高い音が、遅れて聞こえてくる。

 遅れる時間によって、だいたいの距離が分かる。さらに複数の水球から伝わってくる音の時間差によって、地下水流の形が分かってくる。

 それを元に頭の中に地下水流の地図を作りあげていく。

 その地図によると、まだ先があるらしい。〈音球〉と〈水球〉を水流に沿って、進めていく。

 道が分かれている。

 球を右に進めていく。

 行き止まり。

 引き返す。

 今度は左へ。

 再び分かれ道。

 モニカは、音の反射を聞き取って、岩の中の水の流れを追って行く。

 何回かの分かれ道を突き進んだ結果、操作できる距離の限界まで達した。


「ふう」


 モニカは魔法を解除して、大きなため息をつく。


「ご主人様、どうでしたか?」

「やはり、予想はあっていました。この骨の山が蓋となって、川の流れをかき乱しています」


 岩と岩の裂け目に細かい水流が、上に向かって縦横無尽に走っていた。

 この骨を取り除いて埋葬すれば、問題は解決するだろう。


「皆の所に戻りましょう」


 モニカは、元来た道を戻り始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ