【87】過去の邂逅(2)
「爆発?」
「ええ、そうです」
ヴァスマイヤ村長の顔に、不安げな気配がよぎる。
「モニカ様の事情はわかっております。私たちは決して、貴女様を見捨てません。同胞の血にかけて」
「ええ、ありがとうございます」
村人たちの想いはありがたい。が、隠居のような生活をするのは好きではない。だから実際に、手駒をあちこちに忍ばせ、復帰を狙っている。
しかし、その事が村長にバレたら、良い顔はされないはずだ。村長は、このままモニカがここにいる事を願っている節がある。
モニカは考えや感情を見せないよう、薄く笑みを浮かべ、話の続きを聞いた。
「ですが、今回の爆発は恐らく我らに手に負えないのです。ですから、貴女様のお力をお借りしたく思います」
そう言われては、拒絶できるわけもなかった。それに、ヴァスマイヤ村の人々には、食べ物やマキなどの生活必需品をもらっている。礼を返すにはちょうどいい話だ。
「わかりました。そ……」
モニカはハタと止まる。
部下は全員出払っているし、残る一人の侍女も、休暇を与えたばかりだ。人手がない。つまり、モニカ一人で立ち向かわなければならない。
困った。
「どうかしましたか?」
「いえ、な、何でもないです。……とにかく請負いましょう」
モニカは、薄笑いを顔に貼り付けて、なんとか誤魔化した。背中に冷や汗が走るのを感じた。
何か、言い訳を考えなければなるまい。
「ありがとうございます」
「いえ、助けていただいているのですから当然のことです」
「そう言っていただけると助かります」
ふと、村長の背後を見る。
雪が本格的に降り始めていた。辺りの大地に薄っすらと雪が覆いかぶさろうとしている。
玄関から冷気が漂ってきている。モニカは少し身震いした。
「ひとまず、中に入ってください。雪が本格的に降ってきましたよ」
村長は背後をちらと見てから、言った。
「ああ、申し訳ありません。気がつきませんで。しかし、連れの者を待たせているので、少々お待ちいただけますか?」
「ええ、お連れの者も、屋敷の中にどうぞ」
「では、失礼して」
【3】
モニカは、村長が一度玄関から出て行った様子を確認した。それから急いで客間に行き、部屋の中央にある暖炉に火をつけ、受け入れる準備を整えた。そして、すぐに玄関を戻り、何人かの供を連れた村長を招き入れた。
村長達は、暖炉を挟む形でモニカと相対する。部屋は〈火の精霊〉の頑張りによって、急速に温まりつつあった。
モニカは早速、質問を投げかける。
「それでその爆発が、どうして手に負えないと思ったのですか?」
村長と連れの男が一瞬、目をかわした。そして、村長が口を開く。
「爆発をちょうど目撃したのは、彼です。少々、失礼なところをありますが、彼の話を聞いてやっていただけますか?」
モニカは、軽く頷き、男に視線を移した。彼がフードを脱ぐと、頭がモジャモジャだった。酷い癖毛で、若干赤みがかかっている。
やや神経質そうな顔つきの若者だ。
「お、おいらは、山に木を切りに行こうと、お、斧を担いで、でかけただよ。少しばかり、マキが足りないって、お隣さんに頼まれてな。んで、いつもの山に向かって、歩いていたんだども。も、もう少しで山の中腹に、着くってところで。ふと、空から、ピューって、何かが降ってくるのが見えただよ。は、初めは、鳥かな、と、と思っただども、どうも、様子が変だと。そしたらば、落ちたところでドカーンと大きな音が、響いてきて。おいら、びっくりしちまっただよ。そんで、おいらは、この村の一員で。魔法の有無は見えるんだけども。その爆発に、色んな色の魔法が確かに見えただよ。その後も何度か、爆発が起きたんで、間違いない、は、はずだよ」
モニカは辛抱強く、最後まで話を聞いた。
話をまとめると、山に何かが降ってきて、その着地地点で魔法による爆発が断続的に起きたという事らしい。敵か味方かは分からないが、確かに随分と危険な存在に感じる。
あれこれと考えていると、横から、村長が話を補足してきた。
「その爆発は、村の方でも聞こえました。話を聞いた限りでは、もし敵ならば、我々には叶わないと判断しました」
「なるほど」
モニカは、納得した。この屋敷まで聞こえなかったのは、村の郊外だからだろうか。
「そうですね、わかりました。私でないと対応できないかもしれません。私が直接調査に行きましょう」
村長が驚くような素振りを見せた。
「え、モニカ様が?」
「ええ。話を聞く限り、私の部下では手に負えないような気がします。いえ、間違いなく手に負えないでしょう! 私が先頭に立つ必要があると感じました! 部下に任せてられません!」
村長はモニカの勢いに押され、肩が震えはじめた。
「そ、そんなに……危険なんですか」
「ええ、とても!」
えーい、こうなりゃヤケだ。




