【86】過去の邂逅(1)
【1】
モニカ達がヴァスマイヤ村に到着してから一ヶ月。従者と共に、村外れの屋敷に住んでいた。
モニカは、その二階の窓辺で、景色を見ながら溜め息をつくばかりだった。外では、屋敷周辺の針葉樹林が、秋の木枯らしに吹かれて、頼りなさげに揺れている。
「やはり、音沙汰がありません」
背後から、モニカお付きの侍女が声が聞こえた。
「……そうですか。わかりました、ご苦労様でした」
モニカは不安を見せないように、侍女に労いの言葉をかける。侍女は、嬉しそうに顔を綻ばせた。彼女も不安なのだろう。その顔を見つめながらモニカは、人差し指を口に当てて、考え始めた。
この一ヶ月間、薄々思っていた事がある。ひょっとして、アルヴィス師匠に何かが起きたのではないか、と。
「姫さま?」
王宮から転送されて、たどり着いた場所は、ヴァスマイヤ村外れにある、この屋敷だった。誰も住んでなかったのだが、よく清掃されていて綺麗だった。
モニカは首を傾げながらも、従者に命令を出した。近くのヴァスマイヤ村に遣いを出して、状況を聞きに行かせたのだ。
暫くして村から帰ってきた従者の言によると、元々この屋敷は、王族の別荘地なのだという。週に一回、村人の担当になった者が清掃しており、いつでも王族を迎え入れる準備をしていたそうだ。
元々は近親の血筋、ヴァスマイヤ村の人々は、モニカ達を快く迎え入れてくれるつもりなのだという。モニカは彼らの好意に甘え、屋敷に住むことになった。
そして数日が経ち、落ち着いた頃。
やる事のなくなったモニカは、転送の魔法陣を調査した。かなり高度な〈時空の精霊〉が使われており、やや手間取ったが、なんとか解読する事ができた。
その結果、既に転送機能が失われている事が判明した。原因は王宮側の魔法陣が破壊されたからだと思われる。
追っ手を避けるための措置とは思うが、塔が攻略されてしまった可能性もある。
その為、王宮の情報を集める為に、従者をヴァスマイヤ村の外に出したのだ。が、良い情報は得られない。どうも何か悪いことが起きたのではないかという気持ちばかりが膨れ上がる。
「姫さま……」
視線を現実に戻すと、侍女が不安そうな、赤らめたような顔をしていた。どうやら、彼女を見つめながら考えごとをしてしまっていたようだ。
「あ、ごめんなさい。長旅で疲れたでしょう。二、三日は命令しませんので、休みをとって下さい」
「はい、ありがとうございます」
侍女は軽くスソをつまんでお辞儀した後、部屋を退室していった。指示の途中で言葉が止まってしまったので、ずっと待機していたようだ。
モニカは軽く自分の頭を小突いて、反省した。
そして、気を取り直す。
成り行きで、直属の従者を半分王宮に残して、ここに来てしまったのだ。直ぐに合流すると思っていたので、深く考えてなかったが、残してきた従者たちも心配だ。まるで我が身を半分失ったような喪失感を覚える。
「やはり、逃げるべきではありませんでした……」
モニカは焦燥感が高まるのを感じつつも、無意識につぶやいた。
シャリオット王子の安否もわからない。師匠とも連絡が取れない。一族はどうなってしまうのだろう……。
部屋の中には誰もいないことを良いことに、モニカはそっと涙を流した。
【2】
秋が過ぎ、冬が近づいて来た。
空には分厚い雲がかかり、昼にも関わらず外は薄暗い。
屋敷の中では、厚着をしたモニカが、一人で暖炉にマキをくべていた。そしてマキに火がつくと〈火の精霊〉を駆使して、加減を調節する。
従者は全員、情報収集に向かわせているため、モニカが自分でやるしかないのだ。
作業をしている間、ふとモニカは何かに気がつき、窓から外を眺める。
雪がシンシンと空から降ってきていた。
「あ、雪……」
モニカは〈火の精霊〉に指示を飛ばして、少し火力を強める。
「通りで寒いと思った」
モニカは、くちゅんとクシャミをした。
その時、カランカランと鐘の音が鳴る音がした。来客だ。誰かが屋敷のドアノッカーを叩いている。
モニカは急いで、玄関に向かった。その間も、鐘の音はなり続ける。
「はいはい、今すぐ行きますよ」
モニカは小走りに廊下を走り、玄関にたどり着いた。そして、玄関の鍵を開け、扉の隙間から来客の顔を覗いた。
「あれ、村長さん」
来客は、ヴァスマイヤ村の村長だった。老年の男性で、雪よけのフードコートを被っていた。
そして、フードを外しながら、口を開いた。
「モニカ様、お願いしたい事があります」
モニカは玄関を開けて、彼を屋敷の中に招き入れようとする。
「今日は寒くなりそうです。屋敷の中で話しましょうか」
「いえ、ここで結構です。ひょっとしたら急がなければならないかもしれません」
「……何かありましたか?」
村長の言葉には、若干の緊張感がうかがえる。モニカも身構えて、耳を立てた。
「近くの山で爆発があったのです」




