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名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【3章】
81/106

【84】過去の記憶(4)

【8】


「奴隷……ですか」


 モニカは悲しそうに呟く。

 元々、この国には奴隷という習慣はなかった。かつては〈山向こうの国〉の文化であり、様々な器械の文明と共に入ってきた。

 奴隷制度は、重犯罪者を死刑にする代わりに導入されたモノだった。しかし、無実の罪を奴隷に堕とそうとする者も現れた為、この制度を廃止する動きが出ていた。その先鋒が、シャリオット王子だった。

 モニカも、人を売り買いするという考えにあまり良い印象を持っていない。


「まさか……」


 その言葉を遮るように、アルヴィス師匠の優しくも鋭い声がとぶ。


「それ以上は言ってはならぬ。常日頃から、予想だけで物事を語ってはならぬ、と教えたであろう」


 その通りだった。

 ましてや王家の人間なら、その言葉の影響力も大きい。迂闊なことを言ってはならないと、うんざりするぐらい聞かされてきた。


「はい先生、すいません」


 モニカは、シュンとして素直に謝った。すると、アルヴィス師匠は嬉しそうにヒゲを揺らした。そしてゆっくりと口を開いた。


「それで」


 それから、ゆっくりと立ち上がる。


「姫はどうしたいのかね?」


 モニカの目を覗き込むように、聞いてきた。その目に吸い込まれそうになり、戸惑いながらも答えた。


「や、やはり、王宮に留まって首謀者を見つけ出したいと思います」

「ふむ」


 ヒゲをさすりながら遠い目をした。考え事をしている様子だった。期待されていた答えだっただろうか。

 しばらくの沈黙の後、ポツリと言った。


「そうだな……王宮に留まるのは、無理であろうな」


 モニカは悲しくなってしまった。


「逃げなければいけませんか?」

「皆、殺気立っておる。敵も味方もはっきりしない中で留まるのは、得策とは言えまい」


 言われてみればその通りだ。

 ましてや、師匠は自分より状況を把握している。その師匠がそう言うのだから、やはり逃げた方が良いのだろう。

 今は。


「分かりました。先生に従います」


 アルヴィスは、再び席についた。そして大きな溜め息をつく。


「そうか、良かった」


 そして手を振って、いくつかの魔法を行使した。すると、部屋の隅の暗闇から、黒猫が姿を現した。

 黒猫はアルヴィスを見るなり、急に挙動不審になった。


「ご、ご、ご主人、ご、ごめんなさいニャ! で、でも不可抗力ニャ! わ、悪気はないのニャ! ぼ、ぼ、僕が行った時、姫様は既にいなかったニャ! だから僕は悪くないのニャ! ニャニャニャのニャー!」


 猫なのに、起用に口を動かしてペラペラと喋りはじめた。ただ内容は、謝罪しているのか言い訳しているのか、よく分からない。

 モニカは、この使い魔の事は知らなかった。恐らくモニカが卒業してから、アルヴィスが契約したのだろう。それにしても、口数が多い使い魔だという印象を持った。


「クロよ。そう気にするな」


 そのアルヴィスの言葉で、黒猫は動きと声を止めた。そして顔を伏せて、チラリとアルヴィスのご機嫌をうかがう。ヒゲがヒクヒク動き、鼻をくんくんと鳴らしている。


「……ご主人、怒ってないかニャ?」

「怒ってないとも」


 アルヴィスは大仰に頷いた。

 今までの話を総合すると、この黒猫は、モニカを呼ぶ役だったらしい。しかし入れ違いが起きてしまい、役目が果たせなかったようだ。

 だが、アルヴィスは冷淡に言い放つ。


「クロ、次はモニカ姫に変身して、身代わりになれ」


 黒猫クロは、固まった。

 そして、目を大きく見開き、数歩後ろに下がった。背中の毛をぞわぞわと逆立てている。


「そ、それ、本気ですかニャ?」


 アルヴィスはピクリともしなかった。みるみるうちにクロの足が震え出した。


「そ、そんなことしたら、僕、狙われちゃうじゃないですかニャー! や、やっぱりご主人、怒ってるニャー! ニャ、それだけは勘弁ニャー! 死にたくないニャー! 姫様、助けてニャー!」


 そして、モニカに死中の活を求めたらしい。足のそばに寄り添って来て、ペロペロと靴を舐め始めた。

 しかしモニカは困惑し、動けなかった。そして、視線でアルヴィスに助けを求めた。


「ええい、魔法をかけるぞ」


 師匠のアルヴィスは、手を振って、黒猫のクロに魔法を投げかけた。魔力の波動が、手から飛び出した。


「ギニャー!」


 魔法が命中。

 すると、クロの体がどんどん伸びて行き、毛が薄くなっていく。最終的にモニカと同じような顔をした人間に変化した。

 しかも裸。


「ニャー! 使い魔は、ご主人には逆らえないのニャ! ああ、はかない生き物なのニャ!」


 自分と同じ顔をした人間が裸でワンワンと泣き崩れている。モニカはそれを見て、少し引いてしまった。

 クロはその動きに機敏に反応し、さめざめと泣き始める。


「ああ、姫様も冷たいのニャ! も、もう駄目だニャー! 僕の人生終わりニャー!」

「あ、ごめんなさい……」


 ひどく、傷ついたらしい。

 モニカはどうしたら良いか分からずに、オロオロした。すると、師匠のアルヴィスが、どうと言うこともない様子で声をかけてきた。


「気にすることはない。そやつは、いつもそんな調子だからの。クロ、いい加減に服を着ろ」

「ニャー! 嫌だニャー!」

「クロ?」

「ギニャー!」


【9】


 クロは騒ぎながらも結局、服を着た。モニカは、かける言葉が見つからなかった。ただ、モニカにそっくりな身代わりが、そこにたたずんでいた。


「さて、本題に入る」


 アルヴィスがクロを無視して、モニカに向き直る。モニカは、クロが少し可哀想だと思ったが、師匠の意図に逆らえず、次の言葉を待つ。


「……この塔には、ヴァスマイヤ村に直通の〈転移門(ワープポータル)〉がある。モニカ姫は、ひとまず故郷に帰るが良かろう。状況を見て、儂が呼び戻す」


 初耳だった。

 しかし、直にこの王宮から逃げ出すよりは、確実で安全だろう。

 モニカは、軽く頷く。


「はい、お願いします」

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