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名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【3章】
79/106

【82】過去の記憶(2)

【4】


 モニカは、廊下を駆け抜けていく。

 もはや、争いはごまかせない所まで来ていた。戦闘の跡が至るところで散見される。壁は所々焼け焦げ、天井は崩れ落ちている。絨毯は赤黒いシミで染まり、飾りは破壊されていた。そして、非戦闘員はパニックに陥り、右往左往している。

 それらの光景が、後ろに消えて行く。

 モニカは、もはや我慢ができない。


「立ち止まりなさい! 彼らも避難させなければなりません!」


 先頭を走る兵士に向かって叫んだ。

 兵士は足を止めて振り返る。そして胸に拳を当て、モニカの目を見ながら敬礼の姿勢を取った。


「姫、なりません! 恐れながら申し上げますが、一番危険なのは王族たる貴方なのです!」


 モニカも負けずに言い返す。


「駄目です! たとえ、我が身が一番の危険でも、無辜の民を見捨てて逃げるわけにはいきません!」


 そのままモニカを守護している〈守護の陣形〉を無視して、近くの侍女たちに詰め寄った。


「姫さま!」


 背後から近衛兵たちの叫びが聞こえる。無視。

 彼女たちは怯え、唇が紫色に染まっていた。できる限りの柔らかい笑みで、モニカは話しかける。


「皆さん、大丈夫ですか?」


 侍女たちの中で一番年長らしい女性が話しかけてきた。


「モ、モニカ姫さま。一体何が起きたのでございますか?」


 一瞬、言葉に詰まった。

 義兄シャリオット王子が、殿中で刃物を振り回したというのは、今でも信じられない。ただ、はっきりしているのは王族に敵対する組織がいる事だけだ。

 すぐに言葉を選びながら答えた。


「反乱、が起きたようなのです。皆さんは大丈夫ですか? さあ、共に避難しましょう」


 侍女たちに向かって手を差し出した。


「姫さま……」

「姫! 無理です!」


 モニカは背後に向かって、凛とした声で言い返す。


「では、彼女たちを置いて行くのですか?」

「そういうわけではありません! 我らと行動すれば、より危険です! ご自重下さい!」


 モニカは、一寸考えて反論する。


「では、このまま私が逃げたとして、敵は私たちを隅から隅まで探すのでしょう。その時、彼女たちに害がないと言い切れますか」

「それは……」


 口を開きながら、自分のすべき事を考えていく。このまま逃げてしまうのは、自分が許せなくなる。


「わかりました」


 モニカは振り返り、近衛兵たちに指示を飛ばす。


「私は逃げません。このまま非戦闘員を守護しながら、どこかの部屋に立てこもるのです」


 モニカを守る兵士たちは戸惑い、お互いに顔を見合わせる。


「姫さま!」

「静かになさい。もう決めた事です。皆さんの役割は私を守ること。違いますか?」


 しばらく兵士たちの顔を眺めていたが、文句が出ないようなので、そのまま、案内の兵士に声をかける。


「急いで連絡して頂きながら、申し訳ありませんでした。他の王族の方の避難に向かって頂きますか?」

「姫……いえ、わかりました。姫さまがそこまで仰られるのなら、そのようにします。どうかご武運を」


 斥候の兵士は、礼をした後にそのまま一人で立ち去っていった。モニカはその後ろ姿をじっと見つめ続けた。

 そして、近衛兵たちに見回す。

 護衛がついているとはいえ、王族は全員が高度な魔法の使い手だ。生半可な敵は、全て返り討ちにできる。


「さあ、まずは防御の魔法陣を組みます。女性三人は私を手伝ってください。兵の殿方たちは私たちの護衛と近くの非戦闘員を探してきて下さい」


 モニカの直近の部下たちは、飛び跳ねるように動き出した。次は呆然と推移を見守っていた侍女たちに向かって声をかける。


「ということなので、この近くに立てこもれるような部屋がありますか?」

「あ、あの……」


 その場にいた侍女たちのうち、最も若い者が、恐れ多いという顔をしていた。


「こ、この近くに……王宮魔術師の修練場があるのですが、あそこは出入り口が一つしかなかったと思います……」

「それはいいですね。そこに集まりましょう」



【5】


 一番の若い侍女の案内により、王宮魔術師の修練場へと向かう。

 修練場は王宮内の一室ではなく、外の尖塔の中にある。従って、一度外に出なければならない。


「〈風の中位精霊(エアリアル)〉よ! 我らを矢から守りたまえ!」


 室外に出てしまうと、遠距離から狙撃される可能性がある。だから、モニカは〈矢除け〉の魔法を唱えた。


「あそこです!」


 若い侍女が指差す方向に、一際高い尖塔が見える。しかし、尖塔の前に小規模な騎士団に出くわした。

 どうやら戦闘が始まっているようだ。王宮魔術師は、基本的に王族寄りの人間が多い。だから、今のうちに封じ込めておく作戦なのだと思われる。

 よって、目の前にいる騎士団は、敵だ。

 ……念の為に確認もしておこう。


「我は、第三が王女モニカである! 我は魔術師修練場に用がある。道を開けよ!」


 途端に騎士団の目の色が変わっていく。どう見ても味方という感じではない。


「侍女の方々は下がってください」


 敵の確信を得たモニカは、呪文の詠唱を始める。まだ、距離がある。今のうちに速攻攻撃を仕掛けなければならない。


「〈火の精霊〉よ!」


 モニカの頭上に〈火球〉が飛び交い始めた。


「〈水の精霊〉よ!」


 辺りに細かい霧が発生する。


「〈風の精霊〉よ!」


 霧が唸りをあげて竜巻を作り上げる。


「〈地の精霊〉よ!」


 地響きが聞こえる。

 そして、モニカは四大属性の攻撃魔法を敵の集団に投げつけた。

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