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名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【3章】
63/106

【66】25歳モニカ、動き出す(6)

【27】


 急いで9階層に戻ったモニカは、ブローチを操作した。


「屋敷に戻って〈侍女メイド〉達に助けを求めて下さい! レベッカさんの所へ、と言えば分かります!」


 〈転移門(ワープポータル)〉を開ける作業を続けながら、仲間の二人に語りかける。


「モニカさん!」

「嬢ちゃんはどうするんだ! 魔法が使えないんだぞ!」

「その事ですが、一つだけ勝算があります!」


 男は一瞬、動きを止めた。モニカは言葉を続ける。


「魔法が使えない、維持できないのは、分かります。ですが、体内に宿らせた精霊はどうですか!」


 男は思案している。しかしモニカは、返事を期待していない。時間が惜しい。


「私たちの体には〈生命の精霊〉が宿っています。しかし、体調の変化はありませんでした。ですから、体内に宿らせた精霊は大丈夫なはずです!」

「そうか……いや、理屈ではそうかもしれんが」

「時間がありません! さあ、二人とも行ってください!」

「しかし」

「早く!」


 モニカは男の言葉を無視して、二人の体を〈転移門〉の中に押し込んだ。しかし、男はまだ躊躇し、抵抗する。


「仲間を信用してください!」


 トドメとばかりに、先ほど言われた言葉を言い返す。男はぽかんとした後、やられたという顔をする。そして鼻で笑った。


「わかった、わかったよ! 信用する! 生きて帰って来いよ!」


 ついに諦めた男は、コルを背負いながら〈転移門〉の中に入っていく。最後に、ちらりと振り向いた。


「帰ったら、デートしようぜ!」

「お断りします!」


 モニカは、笑顔で即答した。

 二人が入ったのを確認したモニカは、ブローチを操作して〈転移門〉を閉じた。

 辺りは暗闇に包まれた。

 一人になったモニカは、大きく息を吸う。

 

「〈光の精霊(イルリヒト)〉と〈音の精霊(エコー)〉よ、我が求めに応じよ。そして我が身に宿れ!」


 モニカは光球と音球を召喚し、体内に取り込んだ。

 精霊を体に馴染ませ、調和させていく。モニカの意識に変化が起きる。わずかな衣擦れの音が、うるさく感じる。わずかな光が、眩しく感じる。

 さらに〈腰嚢(ウエストパック)〉をまさぐった。いくつかの試験管と薬包紙を取り出して、調合する。


 これだけでは、まだ足りない。


 敵も〈索敵サーチ〉技能を持っている。近づいただけで気づかれてしまう。

 モニカは少しためらったが、意を決して服を脱ぎ始めた。服が足元に落ちる音が、耳につんざく。とうとう、上から下まで完全に裸になった。脱いだ服は、物陰に隠しておく。

 幸い、この階層は暖かい。風邪をひくことはなさそうだ。


「〈光の精霊〉よ。我が身から発する、全ての光を遮断しろ」


 モニカの裸がぼやけ、黒ずんでいく。ついには黒い影になった。モニカは自分の手を見て、その効果を確認した。

 さらに詠唱を続ける。


「〈音の精霊〉よ。我が身から発する、全ての音を遮断しろ」


 さっきまでやかましく鳴り響いていた心臓の音が消えた。筋肉がきしむ音が消えた。関節がこすれる音が消えた。

 あーあー。

 発声してみたが、何も聞こえない。分かっていたことだが、声もかき消された。

 これで、魔法を自力解除できなくなった。

 自力で解除するには、思念だけで精霊と交信する〈沈黙詠唱(サイレントキャスト)〉という技能が必要だ。

 モニカは、階下に視線を向ける。調合で作った薬品と、短剣だけを持って、階段を降りて行く。


【28】


 モニカは10階層に戻った。

 辺りは完全に闇であるはずなのに、驚くほどよく見える。さらにハインツ達のだいたいの位置が聞こえる。

 素足の裏の痛みを感じなから、音のする方へ歩く。徐々に剣戟の音が大きくなっていく。うっすらと灯りが見えてきた。ゆっくりと接近していく。

 ついに、戦闘場面に出くわした。

 味方の剣使いとハインツは、まだ生きていた。

 敵は、二人の〈白銀の騎士ジルベラスリッター〉と、後ろで待機している一人の女。

 敵の前衛の男は、奇妙な構えをしている。鞘に剣を納め、前傾姿勢を取っている。中衛に立つ男は、鞭をしならせながら振り回していた。後ろの女は、指向性の〈提灯(ランタン)〉を手にして、光源を操っている。

 一方、味方の剣使いは、剣を正眼に構えている。ハインツは腰に〈提灯〉を差し、弓を構えている。

 どうやら、膠着状態に陥っているようだ。辺りには、鞭にへし折られたと思われる矢の残骸が散らばっていた。

 そして、誰もモニカに気がついていない。

 モニカは思案する。

 今、自分は影になっている。敵を暗殺する為にも、光源を打ち消したい。

 ならば、狙うのは女。

 そう決断したモニカは、敵の女に狙いをつけ、大きく背後に回っていく。

 その時、敵の男が低い声を発した。


「何者だ」


 ばれた。

 モニカは硬直した。短剣を持つ手が汗で湿っていく。歯が震える。胸が張り裂けそうだ。男から目が離せない。


「お前たちこそ、何者だ」


 ハインツが答えた。


「聞いているのはこちらだ」


 敵の男は、威圧的に言い放った。僅かに身じろぎし、眼光が鋭くなっていく。

 どうやら、気づかれていなかったようだ。

 モニカの緊張は、へなへなと急速に萎んでいった。気を取り直して、再び足を動かし始めた。

 敵とハインツの会話は続く。


「身なりからして、冒険者なのは分かっていく。どこの者だ」

「お前らはここで何をしている」


 話が噛み合っていない。


「今頃、逃げた者たちは捕まっているだろうな。諦めて投降しろ」

「お前らの仲間は、ここにはいない」


 モニカは、細心の注意を払いながら、ついに女の真後ろに回った。今度は、女に近づいていく。


「帰って調べれば、お前達の正体は分かる。今のうちに吐いた方が、身の為だぞ?」

「帰さなければ、どうという事はない」


 女の首まで、後8歩。


「やけに強気だな。俺たちに何かあれば、フルスベルグの全てが、お前の敵になる」

「戯れ言だ」


 残り4歩、3歩、2歩。

 モニカは、短剣を振り上げた。


「やはり、痛めつけて白状させるしかなさそうだな」


 力一杯に斜め右から突き刺した。さらに、手首をひねり、えぐった。

 女は、声をあげることも出来ずに、崩れ落ちた。カランカランと〈提灯(ランタン)〉が床を転がった。

 モニカはそれを蹴り飛ばした。足の甲に激痛が走る。中の火が消え、辺りは少し暗くなる。


「何が起きた!」


 モニカは、間髪入れずに手持ちのガラス管を二人に投げつけた。

 四本のうち一本が、鞭使いに命中した。割れたガラス管から飛び散った濃硫酸を、頭から被った。

 その隙をついて、ハインツが矢を放つ。

 鞭使いの胸に命中した。しかし、致命傷には至らない。


「何かがいる!」


 鞭使いの鞭が大きくうねり、モニカに襲いかかってきた。モニカは、必死に床に伏せた。頭上を風切音が通り過ぎる。


「壁に寄れ!」


 敵前衛の男は、鞭使いに声を飛ばした。弾かれたように、二人はその場から逃げ出した。

 ハインツ達が追いかける。矢を飛ばす。

 敵は矢を弾き飛ばしながら、壁際に向かっていく。

 モニカは、ようやく敵の意図を察した。背後からの奇襲を避ける為に、壁を背にするつもりだろう。


「逃げるぞ!」

「追いかけなくていい!」


 そのまま敵は、近くの出入り口から逃げ出した。多分、別の階段を使うのだろう。

 後にはハインツと、仲間の剣使いが残された。

 モニカの緊張の糸がプツリと切れた。大きく息を吐く。


「……魔物か?」


 ハインツの警告が、モニカの耳に届いた。

 まずい。このままだと、味方に殺されてしまう!

 モニカは我に返って、飛び起きた。ハインツの〈提灯〉が、モニカの影を照らす。


「お前は何者だ」


 モニカは、自分が裸であることも忘れ、必死に、体で表現する。

 とにかく、降参ポーズを取ってみたり、両腕でバツを作ってみたり、体で文字を表現してみたりした。

 心の中で『きっとハインツさんなら、分かってくれるはず!』と念じる。


「モニカ……?」


 やった、通じた!

 今度は、大きく頷いてみたり、感謝を表すジェスチャーをしてみたりした。

 何故か変な顔をされているが、気にしてはいけない。


「どうやら、安心していいみたいだな」


 剣使いが、構えていた剣を鞘に収めた。


「よく分からんが、他の仲間と合流しよう。色々調べたい事があるしな」


 ハインツは頭を振った。そして、白銀の鎧を着た女の死体に、目を向ける。


【29】


 それから、モニカ達は9階層に戻った。

 まず、隠した服を取り出した。

 そして、男には後ろを向いてもらう。下着を見られるのは、裸のシルエットを見られるより恥ずかしいものがある。

 ようやく服を着たモニカは〈背嚢〉から、メモ用紙を取り出した。そして、筆談を交わして、今の状況をハインツ達に説明していく。

 一通り説明を終えると、ハインツは腕を組みながら、呟いた。


「……先にコルの容体を見に行こう。それにモニカの魔法解除も必要だ。調べるのは、後でもできるだろう」


 一度、街に戻ることになった。

 モニカは、ブローチを操作して〈転移門〉を開ける。三人は、穴の中に飛び込んだ。


【30】


 〈転移門〉を通って、屋敷に戻る途中の事だった。


 モニカは、一番後ろを歩いていた。

 目の前には、ハインツ達が歩いている。

 コルの容体が心配だ。早く戻らなくては、と思う。

 しかし、体調が優れない。思ったより、速く歩けない。

 初めて〈音の精霊〉と〈光の精霊〉を宿らせたからだろうか。

 じわじわと、魔力を失い、足が重くなっていくのがわかる。

 ハインツ達との距離が、少しずつ広がっていく。二人の歩く速さに追いつけない。


 待ってください!


 声は出なかった。

 ハインツ達は気づかずに、ドンドン先に行ってしまう。

 モニカは、ついに足を前に出せなくなった。

 その場に座り込んでしまう。


 気がつけば、ハインツ達の姿がない。

 置いてかれてしまった。


 急にめまいが襲ってきた。

 頭を持ち上げる事すらできない。

 モニカは床に突っ伏した。

 地面が揺れている感じがした。


 このままでは、助けを呼ぶことも出来ない。

 第一、人が通りかかるような場所でもない。


 このまま、放置されたら死んでしまう。

 モニカは、急に寂しくなってきた。


 思い出すのは、エリーの事。

 彼女はいつだってムードメーカーだった。いざという時はとても頼もしかった。

 コルの事も思い出された。

 今ではモニカより背が高い。しかしモニカな中では、よく懐いてくる少女時代のコルだ。

 ハインツの事も思い出された。

 淡々としているように見えて、色々な事に気を使ってくれる年上の男性。


 しばらくそのままで居ると、背後から誰かが来る気配がした。

 助けが来たのだろうか。

 そうに違いない。

 めまいがひどくなった。

 後少しだ。後少しだけ、頑張れ。

 めまいを耐えて、後ろを振り向いた。


 さっき、モニカが刺し殺した女だった。


 首に短剣が突き刺さっている。

 首から下は血にまみれている。

 苦悶と憤怒の顔をしている。

 ゆっくりと、だが確実に近づいて来る。


「よくも、よくも……! あたしを殺してくれたな……!」


 モニカは、絶叫した。


 そうだ。

 そうだった。

 この洞窟の名は〈不死生物の洞窟〉と言われている。そこで死んだ者の魂は、永遠に閉じ込められる。

 女は、モニカに殺された恨みで、ここまで追いかけて来た。

 助けなんて、来るはずがなかった。


「お前も! お前も! 死ね! 死ね! 死ね! 死んでしまえ!」


 女は、血まみれの短剣を首から抜いた。

 首の穴から、勢いよく血飛沫が飛ぶ。

 真っ赤な短剣を、モニカに向ける。


 モニカは動けない。

 ただ、目の前に刃物が近づいて来る。


「呪われろ! 呪われろ! 呪われろ! 呪われてしまえ! 死んで、呪われてしまえ!」


 女は、血まみれの短剣を振り上げた。


「死ね!」


 モニカの眉間に、短剣が突き立てられた。


【31】


「うあああああああ!」


 モニカは、ベッドから跳ね起きた。


「はあ、はあ、はあ、はあ……」


 辺りを見回した。白い部屋だ。

 眉間に手を当ててみる。穴は開いていない。ただ、寝汗で髪の毛がべったりと、張り付いている。


「あ……」


 モニカは、声が出せる事に気がついた。胸を触ってみる。少し速いが、心臓の鼓動を感じる事ができた。

 耳も正常になっている。


「生きてる……?」


 その時、扉が開く音がした。


「良かったな。生きてるぞ」


 入ってきたのは、小柄な老女だった。どこかで見覚えがある。


「あの。どなたですか?」


 途端に老女は渋い顔をした。


「レベッカだよ。レベッカ=ダウム。コルが世話になっているな」


 モニカは驚いた。記憶の中では、レベッカは幼女だったはずだ。しかし、そう言われてみれば、面影は残っている。


「その事は後で説明する。それより、気分はどうだ?」

「酷い、悪夢をみました……」

「それは当然だ。それ以外では何かあるか?」

「特には。ただ、少し頭が痛いです」

「それはどうしようもない。しばらくは我慢しな」


 モニカは、コルの事を思い出した。


「そうだ、コルちゃんはどうなったのですか!」

「もう、ピンピンしているよ」

「良かった……」


 胸を撫で下ろした。


「それで、何がどうなったのですか?」

「その前に渡しておく物がある」


 そう言ってレベッカは、宝石を投げ渡してきた。モニカは、うまく手に取って観察してみた。

 綺麗に加工された透明な宝石の中に、不思議な光が閉じ込められている。


「魔晶石だ」

「魔晶石というと……あの?」

「そうだ。中に魔力そのものを閉じ込める事ができる。余裕のある時に補充し、足りない時に使いなさい」

「どうして、こんな貴重な物を……?」

「どうして、だって? 君の口からそれを言うのか!」


 レベッカは声を荒げた。


「連れの男から聞いたぞ。色々と無茶をしたそうだな」

「は、はい……」

「体内に宿す精霊は一つまで、と忠告したはずだ」

「はい……」

「それを破り、再び二つ同時に使った」

「…ぃ……」

「何か、言い訳は?」

「……ありません……」

「ならば、よろしい」


 モニカは、完全に沈没した。

 レベッカは、ため息をついた。


「だからだ。その魔晶石は、かなりの量の魔力を貯める事ができる。いざと言う時に使いなさい」


 モニカは、ハッと気がついた。


「もしかして、レベッカさんのその姿……」

「オレの事はどうでもよろしい。それにこの姿にも、それなりの理由がある。気にするな」

「はい、ありがとうございます……」


 ベッドのそばに、モニカの荷物が置かれていた。モニカは、さっき受け取った魔晶石を、慎重にしまう。


「オレからは以上だ。何か質問はあるかね?」


 モニカは、少し思案した。そして、先ほどのレベッカの言葉を思い出した。


「先ほど、悪夢を見るのは当然、だと言いましたけど。どうしてですか?」

「簡単なことだ。〈光の精霊〉と〈音の精霊〉には、わずかに〈精神の精霊〉に属する要素があるからだ」

「そうだったんですか……」


 精神に干渉できる精霊を、体内に取り込んだ為に、精神が不安定になったのだろう。


「他には?」

「ここに運ばれてくるまでの記憶がありません。私、いつ倒れたのですか?」

「連れの男が言うには、繋がってすぐ、と言っていた。よく分からないが、君にしか使えない移動魔法があるらしいな」


 つまり〈転移門〉を開けて、すぐに倒れた事になる。という事は〈転移門〉を通った後の出来事は、全て夢だったのだ。

 モニカは、胸を撫で下ろした。


「私が倒れてから、どの位経ったのですか?」

「丸々三日、という所だな。もうすぐ夕方になる。目が覚めたのなら、さっさと動け。またリハビリしたいか?」


 モニカは、首をフルフルと横に振った。


「いえ、結構です!」

「そうだ。そうでなくては困る。でなければ、魔晶石を使った意味がなくなってしまう」


 モニカは、ベッドから立ち上がった。前回と比べて筋力が落ちていない。これなら動けそうだ。


「連れの男は、毎日、朝と夕方に看病しに来ていたぞ。心配かけているだろうから、早く姿を見せにいってやれ」

「はい、分かりました」


 モニカは、丁重に礼を述べて、レベッカの医療施設を後にした。


【32】


 モニカが屋敷に戻ると、コルを含めた全員が玄関で待ち構えていた。

 

「モニカお姉様!」


 コルが、モニカの胸に飛び込んで来た。モニカはコルの体を強く抱きしめた。


「ご主人様、お帰りなさい!」


 ブリギッテとカトリンが、手を広げて喜んだ。


「モニカ、無事で良かった」


 ハインツが、ぽそりと言った。


「よし、デートの約束を果たす時が来たな!」


 モニカに気があるらしい〈光の精霊使い〉が嬉しそうにはしゃいだ。


「な、なんだってー!」


 間に受けたブリギッテが反応する。


「ちょっと待って下さい。それは彼の嘘です!」


 〈植物の精霊〉を使う女性が慌てて、たしなめた。

 モニカは、一連の様子を見て苦笑いした。

 そこに〈剣使い〉が近寄ってきた。


「俺は、お前さんを尊敬するよ。あそこまで体を張って、さらに結果まで出せる人間は、そうはいない」


 それだけ言うと、男はそそくさと立ち去っていった。

 モニカは、自然と涙がこぼれてきた。涙が口に入って、しょっぱい味がした。


「モニカお姉様……?」


 そばにいたコルが、モニカの顔を見た。


「私は、一人じゃない。一人じゃないの。だから大丈夫。大丈夫。大丈夫。絶対、大丈夫。」

「お姉様……」


 モニカの独り言を、コルだけが聞いた。

 そして、コルはそっとモニカの背中をさすりはじめた。


「モニカお姉様。私はモニカお姉様のずっとそばにいます」


 結局、その日の夜は、ささやかながら屋敷で宴会となった。全員が生きて返ってきたことを喜び合う。

 全員が楽しんだ。

 そして、モニカも、悪夢を忘れるかのように、お酒を沢山飲み干した。


【33】


 真夜中。

 モニカは、ベランダで涼んでいた。少々飲みすぎた。体が火照っている。


「何かあったのか?」


 背後から声がした。ハインツだ。


「何も……」

「そんなはずはない。様子が変だ」


 何だかんだ言って、モニカの事をよく観察している。そして、要所要所で声をかけてくる。

 狙っているのではなく、天然であることをモニカは知っている。


「分かりました。でも、話が長くなりますので、私の部屋で話しませんか?」

「ああ」


【34】


 モニカは自分の寝室に、ハインツを連れ込んだ。寝室の扉を閉め、鍵をかけた。


「それで話と言うのは……」


 ハインツが戸惑ったかのように呟いた。

 モニカは、自分のベッドに座る。そして服を脱ぎ始めた。


「ごめんなさい。でも、何も言わないで下さい」


 次々と服を脱いでいく。


「モニカ……」


 ハインツは言葉を失った。


「はしたないと思うかもしれませんが……私を、私をもらって下さい……お願いします。お願いします……」


 ハインツは息を飲んた。そして、決意したような顔で、モニカのベッドに近づいていく。


 その日の夜、二人はまぐわった。

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