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名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【3章】
61/106

【64】25歳モニカ、動き出す(4)

【16】


 モニカ達は7階層に降りた。

 冷んやり湿った空気が、より密度を増してまとわりつく。流水の音は収まったものの、天井から垂れ落ちる水滴の音が、雨のように鳴り響いている。


「ここは、地下水脈の下みたいだな」

「そうですね」


 モニカは辺りを見回しながら、相槌を打った。


「そうなると、やはりあのガイドブックは嘘だったのでしょうか」


 ガイドブックによると、クレメンスは、水源の浄化と引き換えにフルスベルグの治水を指示したのだという。

 〈水の上位精霊〉と契約するならば、先ほどの6階層ほど、適した場所はないはずだ。しかし、魔法陣などといった契約の痕跡は、全く見られなかった。


「わからん。より下層に原因があったのかもしれん。ここで悩んでも、仕方がない。行こう」


 光源を兼ねた〈地図記憶(マッピング)〉の光が、くるくると回転する。複雑になりすぎて、もはやモニカの目には、地図が読めない。


「その地図、読めるんですか?」

「まあな」


 軽薄そうな男は、自慢気に鼻を鳴らした。


「見やすくもできるぜ。……〈光の中位精霊(ウィルオウィスプ)〉よ、第7階層だけ表示しろ」


 明かりが、急に暗くなった。

 モニカは目を慣らしながら、地図の光を凝視する。今いる階層だけが表示されているようだ。この階層には来たばかりなので、ほとんど描かれてない。


「わぁ……凄いですね」


 モニカは、感嘆した。

 魔法の魔力消費量は、大雑把に言うと、操作量、威力、強度、時間、精密さ、操作距離によって決まる。

 操作量は、一度に維持できる球の数で推し量ることができる。

 威力は、球を動かす速さ、力、あるいは加工する能力を示す。

 強度は、敵の魔法妨害に、どの位耐えられるか。あるいは魔法妨害をどれだけ貫通するか。

 時間は、魔法を維持する時間。

 精密さは、どれだけ細かい操作ができるか。

 操作距離は少し特殊で、2倍、3倍と伸ばすたびに、その魔力消費量は4倍、9倍へと膨れ上がっていく。

 この男は、飛び抜けて精密さに優れているのだ。モニカには、とても真似できない芸当だ。


「まあ、これぐらいならどうってことはない」


 と言いつつ、満更でもない様子だった。

 モニカはクスリと笑った。言葉と態度が、あまりに違いすぎる。


「ええ、よろしくお願いします」

「よし〈光の中位精霊〉よ、元に戻れ」


 光の地図は、再び輝きを取り戻す。そして、彼によって見やすいと思われる角度で固定された。


【17】


 それから、少し経った頃。


「止まれ」


 ハインツが手で制した。慎重に、気配を探っている。彼の〈探索(サーチ)〉技能に、何かが引っかかったのだろう。

 全員の緊張感が、一気に高まっていく。


「次の曲がり角に、何かが……いる?」


 いつもの彼なら、敵の種類、数をかなりの確率で言い当てる。だが今回は珍しく、言葉を詰まらせた。


「どうかしたんですか?」

「いや……とにかく明かりを飛ばしてくれ」

「ほいよ」


 男が〈光の中位精霊(ウィルオウィスプ)〉を操作して、新しい光球を作成した。そして、曲がり角に投げつける。

 軽い破裂音がして、光球が光って消えた。その瞬間、僅かに敵の影が見えた。


 その影は、通路を完全に埋めつくさんばかりに巨大だった。そして、何本もの手のようなモノが生えている。

 見たことがない、異形のモノだ。


「こいつは……初めて見る……いや、ヤバイぞ」


 ハインツの声に、緊張と焦りが混じる。

 隣に立つ男が剣を抜いた。自然体で構える。


「戦うか? それとも逃げるか?」


 曲がり角の影から、のそり、のそりと、敵の一部が姿を現した。遠くからでも、威圧感を感じる。

 ハインツは、俯いて、ブツブツと何かを考えている。しばらくして、顔をあげた。


「いや、こいつから逃げ回りながら階段を探すのは、無理だろう。ここで迎え撃つ」


 ハインツは弓を構えた。それを聞いたモニカ達も、戦闘体制に入った。

 とうとう、敵が完全にその姿を見せた。

 まず目に入ったのはその巨体。完全に腐っていた。


 さらに。


 分かる範囲では、鹿、猪、人、熊、狼、魚、竜、蛇、牛、馬。そんな有象無象の動物の体、足、手、顔が、肉の塊から無数に生えていた。どれもこれも腐っており、穴からどろりとした黄色い膿が滴っている。

 さしずめ〈不死の合成生物(アンデッドキマイラ)〉か。


「なんだありゃあ……」

「気持ち悪い……」


 と同時に、強烈な腐臭がモニカの鼻をかすめた。誤って、その空気を思いっきり吸ってしまい、激しく咳き込んだ。


「ゲホッ、ゲホッ!」


 喉の痛みに耐えかねて、思わずしゃがみこむ。コルが、背中をさすってくれた。


「モニカお姉様!」

「ゲホッ、ごめんなさい、コルちゃん、大丈夫」


 気を取り直したモニカは、速やかに立ち上がった。即座に、精霊の召喚準備に入った。


「〈風の精霊(シルフェ)〉よ! 我が求めに応じて、我らを守護せよ!」


 周辺に風の渦が発生した。追い風となって、腐臭を追い払う。モニカ達は、清浄な空気に包まれた。


「〈植物の精霊〉よ! あれを束縛して!」


 岩肌に沿って、ツタがズルズルと広がっていく。そして敵の近くまで行くと、投げ縄のように敵の体にまとわりついた。

 しかし〈不死の合成生物(アンデッドキマイラ)〉はビクともしない。ツタを引きちぎりながら、突進してきた。

 ハインツが、矢を放つ。

 一度に、数本の矢が突き刺さった。それでも、突進を止められない。さらに、数本追加する。びくともしない。

 剣を抜いた男が、叫んだ。


「下がれ!」


 このままだと全員、轢き潰される。

 その巨体は眼前まで迫ってきた。モニカ達は走る。間一髪で、岩陰に飛び込んだ。

 次の瞬間〈不死の合成生物〉は、岩を砕き、削りながら通り過ぎて行く。岩には、肉片がこびりついていた。

 ハインツは、やや汗をかいていた。


「くそ、こんな化け物、どうしようもない! 何か、弱点はないか!」


 モニカは、人差し指を咥えながら考える。

 〈火の精霊(サラマンデル)〉で、火をつけるのはどうか?

 その頑丈さは、今見たばかりだ。火を焼かれながらも、動き続けるだろう。第一、この洞窟は水属性が強い。威力は半減する。

 では〈地の精霊(ノーム)〉で落とし穴に作って、落とし込むのはどうか?

 あの巨体をはめ込むだけの穴を作るのは、無茶だ。やるにしても、時間がかかり過ぎる。

 水と風では、どうにも対処はできない。

 光で目くらまし……は無理だ。

 音? 忘れろ。

 モニカは、速やかに結論を出した。やはり時間を稼いでもらって、落とし穴を作るしかない。

 情報を整理して、口を開こうとした。


「弱点なら、あります」


 コルだった。

 一斉に、視線が彼女に集まる。


「コルちゃん?」


 コルは、何かを決意したかのような顔だった。


「そもそも〈不死生物(アンデッド)〉がどうして動くと思いますか?」

「え……?」


 モニカは、突然の質問に意表を突かれた。そんなこと、考えた事もない。


「一言で言えば、怨念です。〈精神の精霊〉が〈生命の精霊〉の働きに干渉しているのです。これらは親和性が高く、お互いに干渉できるのです」


 ハインツは、話を聞きながら、無言で敵の様子をうかがっていた。再び、こちらに標準を合わせているようだ。ヤツは肉体の後ろにも、沢山の足と目がある。前後という概念があるか疑わしい。


「すまん、結論から言ってくれ。何をすればいい? 何を手伝えばいい? 時間はあまりないぞ」

「私が、あの化け物に直接触ります。そして、精霊の干渉を断ち切ります。そうすれば倒せるでしょう」


 ハインツは、やや俯いて唸った。


「コルネリアさん、貴女……」


 仲間の女性が、言葉を失っていた。コルが、禁呪の〈精神の精霊〉に関わりがあることに気がついたらしい。


「細かい話は後だ。それで行く」


 ハインツは即断した。モニカは驚いた。


「コルちゃん!」

「モニカお姉様、ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも、守られてばかりというのは、もう嫌なのです。お願いします。私にやらせて下さい」

「コル、ちゃん……」


 モニカは、勢いに押されて、ただ首を縦に振るしかなかった。

 同意を得たコルは、ハインツと目を合わせる。


「危険が伴うが、いいか?」

「構いません」

「ならば、俺が陽動になる。ヤツの動きが止まった所で、背後から叩き込め」

「はい」

「なら俺が、剣で露払いしてやるよ」

「お願いします」

「私たちが全力で援護するわ」

「はい」

「コルちゃん……本当に……怪我しないでね」

「努力します」

「よし、始めるぞ」


 ハインツが弓を右手に持って、通路の真ん中に踊り出た。そして、敵に向けて矢を放つ。

 モニカの位置からは見えないが、敵が反応したらしい。ハインツはそのまま、後ろ向きで走り始めた。走りながら、矢を撃ち続ける。

 軽い地響きと共に〈不死の合成生物〉が、目の前を通り過ぎていく。図体はでかくても、結局は知能の低い〈不死生物(アンデッド)〉だ。隠れているモニカ達に目もくれずに、ハインツを追いかけて行った。


「よし、行くぞ」

「はい!」


 仲間の男とコルが、岩陰から飛び出していった。


「じゃあ、私たちも!」


 残りのモニカ達3人も、遅れて飛び出した。全員が列となって、敵を追いかける。

 そして肉の塊は、壁に激突した。洞窟に衝撃が走る。パラパラと土が落ちてきた。

 ハインツの姿は見えないが、無事であることを祈るしかない。

 先頭の男が、両手で剣を持ちながら走り込んで行った。襲いかかってくる触手や腕を薙ぎ払い、道を作っていく。


「〈生命の精霊(セフィロト)〉よ! 想像せよ! 汝の友を想像し、我の心に彼らの神殿を作れ! そして交信せよ! 負の感情を司る〈精神の精霊〉を呼び覚ませ!」


 コルがその後ろを走りながら、詠唱し始めた。

 同時に、モニカ達の援護が始まった。蔓が、敵の手足を縛り始める。土球が、敵の顔を殴りつける。敵の動きがわずかでも鈍っていく。

 

「七つの感情を持ちて、我は名を授ける! 〈傲慢の悪霊(ルシファー)〉! 〈嫉妬の悪霊(レヴィアタン)〉! 〈憤怒の悪霊(サタン)〉! 〈怠惰の悪霊(ベルフェゴール)〉! 〈強欲の悪霊(マンモン)〉! 〈暴食の悪霊(ベルゼブブ)〉! 〈色欲の悪霊(アスモデウス)〉! 我は汝らの姿を認めん!」


 ついに二人は〈不死の合成生物(アンデッドキマイラ)〉の足元にまで到達した。男が剣を捨て、コルの方を向いて待ち構えた。


「乗れ!」


 コルは飛び上がり、左足で男の手を踏む。男はその足を高く放り上げた。コルの体が高く舞い上がる。

 化け物の様々な腕が、襲い来る少女を引き剥がそうと掴みかかった。


「〈生命の精霊(セフィロト)〉よ! 我は命ずる! 汝らの精神の紐を弾け! 肉体に安らかなる死を!」


 コルの手がついに〈不死の合成生物(アンデッドキマイラ)〉の体に触れた。


「〈不浄なる者は塵に返れ(ターンアンデッド)〉!」


 ドス黒い魔法の光が、コルの体を包む。そのままコルは、肉塊の中に埋れ、見えなくなった。


「コルちゃん!」


 モニカは、金切り声をあげた。

 何も変化が起きない。

 と思う間もなく、肉塊がドロドロと溶け始めた。大きな塊がべチャリ、べチャリと地面に落ちる。一度、崩壊が始まると後は速かった。どんどん形が崩れていく。

 とうとう最後には、肉の残骸を残して完全に消滅した。


「コルちゃん!」


 もう一度モニカは叫び、肉のプールに足を踏み入れた。

 コルは赤黄色い肉汁の中で倒れていた。モニカは、慌てて抱き起こす。彼女は、精も根も尽き果てた顔をしていた。


「あ、モニカお姉様。私、やりました」

「コルちゃん、よくやった! よくやったわ!」


 コルを強く抱きしめ、頬にキスをした。顔にこびり付いた腐汁も気にならなかった。


「お姉様、痛いです」

「本当に、無事で良かった……!」


 背後から、仲間たちが近づいてくる足音がした。


「嬢ちゃん、やったな。惚れてしまいそうだぜ」

「凄いですね、本当に」

「休憩が必要だな」


 モニカは、最後の声に驚き、顔を上げた。そこには土まみれのハインツの姿があった。


「ハインツさん!」

「モニカ、コル、本当に良くやってくれた。君らは、俺の想像の遥か上を行った。これからも頼りにさせてくれ」

「……はい」


 今のままでは、探索は続けられない。物資の補給や、汚れた服の着替え、休息をする必要がある。

 モニカは、ブローチを操作して〈転移門(ワープポータル)〉を開いた。そして一人ずつ、穴に入っていく。


【18】


 モニカの屋敷の庭。

 そこで二人の〈侍女(メイド)〉が立ちすくんでいた。


「うっへ」


 〈侍女(メイド)〉ブリギッテは、変な声をあげた。突然、帰ってきた主人に、服を洗うように指示されたのだ。

 これがまた、強烈な臭いを放っている。鼻が曲がる思いをしながら、服を摘まみ、ようやく水を溜めた洗濯器の中にぶち込んだ所だった。


「先輩ー、そんな嫌そうな顔をしないで下さい」


 その横で、同じく〈侍女(メイド)〉のカトリンも、嫌そうな顔をしている。


「カトリンも嫌そうな顔をしてるじゃないのさー。魔法でパパーって、どうにかならない?」

「先輩ー。魔法は、そんなに万能じゃないですー」


 カトリンは、胡乱げな目で返事をした。

 それを聞いて、ブリギッテはシオシオとへたれた。と思いきや、急に元気になる。


「あ、そうだ! あたし、今のうちにご主人様たちの代わりの服を用意しなくっちゃ!」

「な!」

「いやあ、忙しい、忙しい!」

「ちょ、何言ってるんですか! 逃げないで下さいよ!」

「カトリン! 後は頼んだ!」


 ブリギッテは、カトリンに背を向け、猛烈な速さで逃げていった。


「先輩! ちょまっ! ひどい!」


 後に残されたカトリンは、大きくため息をついた。そして薄汚れた腐臭漂う服に目を向ける。


「あー、もう!」


 カトリンは頭を掻きむしった。臭いに顔をしかめながらも、洗濯板で汚れを洗い流し始めた。


【19】


 モニカとコルは、二人きりで屋敷の温泉に入っていた。


「ん」


 二人で温泉に入るよう、提案したのはモニカだ。コルは了承した。しかしまだ、一言も会話を交わしていない。

 今、モニカは背中をコルに洗ってもらっている。


「流します」

「お願い」


 背中に温かいお湯が流された。とても気持ちが良い。

 実は、ここまで来ておいて、コルに言おうか言うまいか、迷っている。口は開くが、声は出ない。


 だが、言わずに避けていたからこそ、エリーは離れて行ってしまった。


 今なら、エリーの気持ちが分かる。

 エリーは腕輪の影響で、モニカの事が性的に好きになっていた。そして、その事を必死にアピールしていた。しかし同時に、女同士の愛は普通じゃないことも知っていた。

 二つの感情に板挟みとなった彼女は、逃げるように腕輪の影響を受け入れていった。

 そして、徐々に人格が荒廃していく。元々、怪我をいとわない性格ではあったが、今から思えば、死ぬことを望んでいたようにも思える。ひょっとしたら、新たな体に転生して、会いにくる予定だったのかもしれない。

 ところが、恐らくどこかで計算が狂ってしまったのだろう。

 アプト村で会った、エリーの姿を思い出す。

 今でも「あたしを信じてくれ」と言った時の顔が、忘れられない。

 後悔ばかりが、頭をかすめた。

 彼女が腕輪に乗っ取られることを阻止していたら。

 彼女の欲望を、受け入れていたら。

 彼女の異変に、気がついていたら。

 無数の仮定が、意味もなく積み上がって行く。


 けど、もう遅い。

 遅すぎた。


 もう一度。

 もう一度、会えたら。

 どんな事があっても、彼女を受け入れたい。

 しかし、既にエリーの居場所は、半分ハインツにとって変わっている。彼女自身の意向もある。苦渋の決断だったのだろう。

 もしも、エリーが男の姿で再び現れたとしたら。

 そして、モニカを求められたとしたら。

 どんな顔をしたら良いのだろう。


 分からない。


 そして、同じ失敗は繰り返してはならない。

 モニカは、先ほどの戦いの中で、エリーと同じ感情をコルの中に見た。

 コルも、離れて行くのかもしれない。

 それだけは、避けたい。

 モニカは意を決して、口を開く。


「コルちゃん、私に隠していることがあるでしょう」


 コルの手が、一瞬だけ止まった。

 

「……はい」


 コルは、無言で背中を洗ってくれている。

 モニカは、コルの次の言葉を辛抱強く待った。しかし、彼女の口は開かない。痺れを切らして、言葉を続ける。


「〈精神の精霊〉は使えば使うほど、使用者の精神を摩耗させていく。違う?」

「……はい」


 コルの手が単調な動きになった。

 同じところを何度もこすっている。肌に優しくない。


「コルちゃんが、私の事を大事に思ってくれるのは嬉しいの。でも私もコルちゃんの事、同じように大事に思っているの」

「はい」

「だから、約束して。もう〈精神の精霊〉を使わないと」

「……でも」

「約束して?」

「……はい」


 コルにとって褒められこそすれ、まさか叱られるとは思わなかったのだろう。背中を洗う手が、ぎこちなくなっていく。


「コルちゃん、ありがと。今度は私が洗ってあげる」

「はい……」


 モニカは立ち上がった。桶に温泉のお湯を入れ、頭から被った。そして、コルの背中に回る。


「ほら、私より大きいんだから、元気出して」


 モニカは、コルの背中をこすり始めた。


【20】


 屋敷で休憩したモニカ達一行は〈転移門(ワープポータル)〉を通って、第7階層に戻った。


「それでは、出発しようか」


 ハインツの号令の元、探索を再開する。

 それからというものは、特に凶悪な敵は居なかった。無事に探索を終え、第8階層への階段の前に到達する。


「さて、これから第8階層に向かう。俺が前に来た事があるのはここまでだ。前は〈不死の昆虫類(アンデッドインセクト)〉が居たが、今はどうなってるか分からない。特に女性陣は、気を確かに持ってくれ」


 モニカ達は無言で頷いた。


「ハインツさん、気になった事が」

「ん?」

「第7階層でつい最近、人の手が加えられた形跡がありました。私たち以外にも誰かいるのかも知れません」

「そうなのか?」


 ハインツは首を傾げた。

 当たり前と言えば、当たり前だ。〈探索〉技能に優れる彼が、見逃すはずはない。物理的なモノならば。


「魔法的な細工、つまり隠蔽された小さな魔法陣がありました。洞窟を維持する目的のモノだったようなので、口には出しませんでしたが」

「そうか。敵か味方か分からないが、気をつけることにしよう」


 モニカ達はついに、第8階層に足を踏み入れていく。

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