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名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【2章】
51/106

【54】24歳モニカ、竜退治をする(2)

【8】


 〈攻城弓(バリスタ)〉。

 その名の通り、元々は城を攻める際に利用される、巨大な弩である。

 しかし今回、使用されるのは、対竜用に改良が施されたモノだ。機動性に優れ、射角を広く取れるようになっている。

 その射程は、通常の弓の数倍に及び、魔法、弓、ほぼ全ての遠距離攻撃の外から撃ち落とすことができる。

 そんな車輪の付いた巨大な〈攻城弓〉が、組合の倉庫に所狭しと並べられていた。


「一つの〈攻城弓〉に8人から10人ついてくれ。ただし、魔法付与を使える者が、必ず一人はいるように」


 ハインツの指示が飛ぶ。それに合わせて人も動く。〈音の精霊(エコー)〉の拡声効果により、確実に声が届き、人の配分が進んでいく。

 同時に、外から多数の馬が、列をなして連れてこられた。


「ハインツさん、予定の数だけ揃えましたよ」


 馬の配列の先頭にいた男がハインツに声を掛けてきた。


「わかった。ありがとう」


 馬同志をつないでいた縄は、外された。それから、それぞれの〈攻城弓〉に馬が繋げられていく。

 モニカは、ジッとその様子を見ていた。

 ただ、どうにも馬を連れてきた人物に見覚えがある。誰だったか。

 と思っていると、男がモニカの方に駆け寄ってきた。


「やあ、モニカさん、お久しぶりですね」


 声をかけられて思い出した。モニカ達が、かつて馬の訓練をした厩舎の所長だった。名前が思い出せない。


「馬は、お元気ですか?」

「ええ、元気です。ただ……」


 名前を一生懸命思い出しながら、モニカは答える。


「ブラックアイが、走れなくなってしまったんです」


 ブラックアイは、モニカの馬だ。足を怪我してからというものは、歩きはするが、なかなか走ろうとしない。

 コルに何度か治癒をしてもらってはいるが、効果は薄いようだ。コルによると、古傷に、回復魔法は効きが弱いという。


「何があったんですか?」


 馬好きの所長にとっては、切実な話だったのだろう。モニカは、ブラックアイについて、軽く事情を説明した。

 所長は、モニカの一言毎に、真剣に頷いた。話が終わると口を開く。


「そのコ、うちに預からせてもらえませんか。何とかなるかもしれません。」

「本当ですかッ?」


 モニカは叫びながら、所長の名前をそもそも聞いていなかった事を思い出した。ただ、所長と呼んでいただけだ。


「今は、無理でしょう。戦いが終わったら、改めて来てください」

「はい、お願いします」


 所長との会話が終わる頃には、全ての準備が完了していた。〈攻城弓〉は既に外に運び出されていた。

 モニカは慌てて、空っぽの倉庫を走り出て、皆の後についていった。


【9】


 フルスベルグから北西に少し行った所に、低地の草しか生えていない小山がある。

 南を向けば、東西に走る街道が望め、また北西には、竜がいると思われる山岳地帯が見える絶好の位置だ。

 また、反対を向けば、フルスベルグの街並みが一望できる。逆に言えば、敵に取られると一気に不利になる地でもある。

 〈攻城弓(バリスタ)〉は小山の頂上に運び出されていた。


「固定杭を打ち込め!」


 指示が飛ぶ。〈攻城弓(バリスタ)〉の固定化作業が始まった。

 小山に金属音が鳴り響く。

 と同時に、設営準備も始める。荷馬車から引き下ろされた荷物から、テント機材を取り出した。

 モニカも手を出す。

 〈光の精霊(イルリヒト)〉に頼んで、光球を大量にばらまき、〈地の精霊(ノーム)〉を使って地ならしと穴掘りをした。

 調整作業が終わる頃には、20門の〈攻城弓(バリスタ)〉は北西に向けられ、その背後には、多数のテントがたっていた。

 空は、うっすらと明るくなっている。

 モニカは、明るくなった事に気がついて、空を見上げると、竜の群れらしき点が視認できるようになった。

 この分だと、今日には戦闘が始まるに違いない。


「ギリギリ間に合ったな」

「そうですね」


 モニカが、声のする方向に顔を向ける。すると、徹夜特有の疲れた顔を滲ませた、ハインツが居た。


「モニカ、念の為に〈転移門(ワープポータル)〉を繋げてもらえないだろうか」

「はい、わかりました」


 モニカは、既に設置してあるテントの中に入り、誰もいないのを確認してから〈転移門(ワープポータル)〉を開き、場所の登録を済ませた。

 アプト村攻略から数ヶ月が立ち、ブローチの研究は進んだ。〈転移門(ワープポータル)〉は3つまで増えた。アプト村と、フルスベルグの自宅、そして、この小山。

 二階層は、百人程度が入る程度の居住地を作り、半分は逆に迷宮化させ、大量の罠を設置した。中枢を担う三階層には、部外者は誰も入れないように、鍵付きの扉を設置した。

 モニカは〈転移門(ワープポータル)〉の登録を済ませ、ハインツの元へと戻った。


「ハインツさん、終わりましたよ」

「ありがとう。まだ少し時間がある。昼まで休んでるといい。」


 モニカが戻ってくると、ハインツは、知らない人たちと話の打ち合わせをしていた。

 それではと、モニカは言葉に甘えて、既にコルが休んでいるテントに向かう。


【10】


 フルスベルグ西区の高級住宅街の一角にある、ヴィクトール侯爵の屋敷の前。

 辺りはまだ、少し薄暗い。


「まさか、貴殿に来ていただけるとは思いませんでした」


 総指揮を任されている冒険者組合北支部の〈副長(サブギルドマスター)〉であるフェルディナントは、敬礼を取った。

 敬礼の相手は〈魔術師組合長ウィザードギルドマスター〉メルヒオール=フルスベルグだった。

 メルヒオールは、緻密に魔法陣が描かれた外套を着、肩まで伸びた黒色の髪の毛は、粗雑にリボンで結んでいる。


「話を聞く限り、俺以外に対応できる者はいないだろう。だから、俺が来た。では、詳しく聞こうか」


 フェルディナントは敬礼を解き、説明を始めた。周囲では、人員が忙しそうに物資補給の準備をしている。


「はい。異常な魔力を感知したとの報告を受けて、調査をしました所、発信源はヴィクトール侯の屋敷と判明しました。まずは、普通に伺ったのですが、応答がありませんでした。よって、緊急事態として数人を行かせてみたのですが、今だ戻ってきません」


「ふむ」


 魔術師組合長メルヒオールは、指をアゴに当て、屋敷を見回す。

 それから軽く腕を振るうと、たちまち屋敷全体が輝き始めた。〈沈黙詠唱(サイレントキャスト)〉で、対象を光らせる魔法付与を屋敷全体にかけたのだ。

 しかし、所々、一部の屋根や壁に輝きが抜けている所がある。


「灯りがついていない所がわかるか?」

「はい」

「魔法付与がかからないということは、生きている。生きているということは、敵だと思え」

「はあ、壁が、ですか?」


 フェルディナントは、話の意味が理解できず、首を傾げた。


「あの色は〈生命の上位精霊(ユグドラシル)〉だ。この精霊は、命なき物に、生命を与えることができる。扉、絨毯、甲冑。家のあらゆる物が襲ってくると思え」


 メルヒオールの言葉に、彼は耳を疑った。そんな訳のわからない物と戦った経験などない。これは骨が折れそうだと、心の中で嘆息した。


「では、連絡を回しつつ、日が昇ったら、隊を組んで攻めます」


【11】


 太陽が地平線に顔を出し始めた頃、西区一般住宅街も慌ただしくなってきた。

 冒険者組合東支部の人事長カール=クプファーは、クラスEやFの冒険者たちと共に、西区を走り回っていた。

 万が一を考えて、予め、住民を東区に避難誘導の指示を出す役だ。


「父ちゃん! こっちの道の家全部、連絡したよ!」


 カールの息子、ラルス=クプファーが、カールに駆け寄って来た。


「バカ、父ちゃんと呼ぶな! せめて隊長と呼べ!」


 カールは、周囲の視線を気にしながら、慌てたように言い返した。実際、今のこの時点でも、他の冒険者からも連絡を受けている。

 なお、目的を持った中規模の戦闘団体を〈隊〉と呼ぶ。この場合は、住民の避難誘導が目的だ。別の地区では、カール以外のいくつかの隊が走り回っている。


「えー」


 ラルスは、困ったような、嬉しそうな顔をした。顔を下げて一通り悩み抜いた末に、顔を上げて叫んだ。


「父ちゃん隊長!」


 カールに報告している女性の冒険者が、失笑した。呆れたカールは、無精髭を撫でながら、溜め息をついた。


「あー、もう分かったから! 次はあっちの地区に行け!」


 手をひらひらさせて、ラルスに次の行動を指示する。ラルスは素直に受け入れて、父親が指差した方向に駆け出した。


「見苦しいところを見せてしまって、すまなかった。それで、指示器の設置はすんだか?」


 女性冒険者は、苦笑を交えながらも答えた。


「はい、避難地までの経路は一通り」


 指示器とは、矢印の形に光る看板のような物で、地面に打ち付けて、避難誘導に使う。魔法付与の延長に向かない鉄や銅を使っているので一日しか使えない。しかし、目的を果たした後はむしろ邪魔なので、むしろ、鉄や銅の方が向いている。


「目的が済んだら、俺たちも東区に逃げるぞ。戦闘は戦闘狂クラスに任せればいい」


 冒険者クラスCとDは、別名、戦闘狂クラスとも言われる。比較的良い意味では使われている。冒険者クラスDになると、一通りの市民権を得られるので、脱落する者が多い。しかし、その権利に甘んじずに、荒事の依頼をこなすとクラスCに昇格できる。彼らは、必要な存在なので、尊敬と畏怖の念を込めて、戦闘狂と呼ぶことがある。実際、一癖、二癖ある者が多い。


「そうですね」

「じゃあ、次はこっちの地区に行ってくれ」


 女性冒険者は、カールの指示を受け、避難誘導の為に走っていった。


【12】


 日が昇った。

 時計塔の鐘が鳴る。鐘が一回、それから二回。時刻は第7刻を指す。普段なら、街が動き出す時間だ。

 しかし今日の西区には、その雰囲気は全く見られない。高級住宅街の一角は、朝に似つかわしくない異様な雰囲気に包まれている。

 冒険者組合北支部の〈副長(サブギルドマスター)〉フェルディナントは、声を上げて指示を飛ばす。それに合わせて、武器を持った冒険者たちが慌ただしく動く。

 一夜明け、フェルディナントは戦いの方針を決めた。

 連携も考えて、5人の〈(パーティー)〉を10組編成する。そして、時間を置いて、入り口から入ってもらうようにした。


「それじゃあ、行ってくれ。とにかく、命を大事に行動しろ。まだいけそうと思った時が、戻って来る時だ。情報を持って帰れば、次の者たちが楽になる」


 フェルディナントの訓示を受けて、第1組の冒険者たちが出発した。


「随分と、慎重じゃないか?」


 メルヒオールの言葉が、背中に突き刺さる。フェルディナントは、真意を悟られないように振り向かずに答えた。


「そうですね。ですが、これが私たちのやり方ですので」

「まあ、そうか。あいつは、そういう奴だったな」


 あいつというのは、上司である〈組合長ギルドマスター〉のジークフリート侯の事だろう。フェルディナントは、顔を見せないように、屋敷に入って行く冒険者たちをじっと見つめ続けた。


【13】


 〈冒険者組合東支部〉の諜報部長オットマーは〈光の中位精霊(ウィルオウィスプ)〉の力を借りて、数人の部下と共に姿を隠していた。

 目の前には、不審な動きをする冒険者たちがいる。手に持っているのは、何らかの薬品の入った薬瓶。

 彼らは、避難誘導している表通りから裏道に入り、人の目を伺っている。


「本当にこれでいいのか?」

「バカ言え。ここまで来たら、戻れないだろ」

「しかし……」

「お前も、借金で首が回らないんだろ。このままだと、俺たちは身の破滅だぞ」

「そ、そうだな」

「第一、そこまで危険な物じゃない。ちょっと、腹を壊すだけだ」


 彼らは、ヒソヒソと囁き合う。やがて、意を決したように歩き出す。

 そして向かう先は、井戸。

 男は歩きながら、薬瓶の蓋を外す。


 そして。


 瓶が割れた。


 景色が歪む。近すぎ過ぎた為、男の魔法抵抗力によって〈姿隠し(インビジブル)〉が打ち消された。男の周囲に数人の人間が突如、出現する。


「お前たちはたった今、街に仇なす行為をした。この場で処刑する」


 オットマーが、宣言した。

 井戸に毒を流そうとした冒険者は、驚き、身構えた。次の瞬間、背後から黒塗りの短剣を突き立てられ、絶命した。


「ひっ!」


 もう一人の男は、腰を抜かし、床に尻もちをついた。オットマーは素早く、男の前に飛び込む。そして、左手で首を締め、右手に持った短剣を、眉間に突き刺した。

 男はくぐもった叫びをあげながら、絶命した。オットマーは首に手を当て、脈が止まった事を確認して立ち上がった。


「くそっ……」


 オットマーは、男の死体を見下ろしながら、悪態をつく。

 冒険者たちの心の弱みにつけこんで、足を引っ張らせようとする連中がいる。しかし、今だそいつらの尻尾を掴むことすらできない。

 諜報戦としては、敵の方が一枚上手だ。どうしても、後手に回らされる。


 ふと気づく。


 二人の死体の目が開いていた。恨みまがしそうにこちらを見ている。オットマーは、もう一度しゃがみ込み、目を閉ざしてやった。


「次は、失敗するなよ」


 ここにいるかもしれない男たちの霊に、語りかけた。そして、目を閉じ、軽く黙祷を捧げた。

 目を開けたオットマーとその仲間たちは、〈姿隠し(インビジブル)〉を唱え、再び姿を消した。


【14】


 ヴィクトール邸内部。


 北支部の冒険者たち5人は、玄関から屋敷に入った。中を見回せば、屋敷内の全ての物が、淡く輝いている。説明によると、輝いていない物は襲ってくる可能性があると言う。


「なあ、フェルディナント副長の後ろに居た奴は、何者なんだ?」


 先頭を歩く〈黒鎧の男〉が、軽い気持ちで尋ねた。すると、一番後ろに居た〈半袖の女〉が、飛び跳ねるように叫んだ。


「冗談! あの人は、メルヒオール公と仰って、フルスベルグで、一番偉い人たちの一人なのよ!」

「ふうん?」


 先頭の〈黒鎧の男〉は、身分には興味ないようだ。気のない返事を返す。


「しかし、屋敷ごと魔法付与をかけるなんて信じられません」


 四番目の〈白服の女〉が、間に割って入った。その言葉を受けて〈半袖の女〉が言い返した。


「そりゃ、そうよ。あの人は〈魔術師組合長〉だから、それぐらいできて当然じゃない!」

「はは、意外にミーハーなんだな」


 三番目の〈赤髪の男〉が、軽く笑った。〈半袖の女〉は顔を真っ赤にした。どうやら、指摘されると恥ずかしいらしい。


「ばっ、ばっかじゃない! こんなのジョーシキよ! 偉い人の名前ぐらい知っておきなさいよ!」

「名前は知っていても、顔までは知る人は少ないだろう。どうして知ってるんだ」


 〈黒鎧の男〉は、何気ない疑問を口にした。途端に〈半袖の女〉は意味のわからない言葉で喚き出した。

 〈半袖の女〉は何故か、前に居た〈白服の女〉の背中を叩いた。八つ当たりを受けた〈白服の女〉は、よろよろとバランスを崩して〈赤髪の男〉に抱きついてしまう。


「おわっと。役得役得」


 〈赤髪の男〉は嬉しそうに呟いた。〈白服の女〉は顔を赤くして、慌てて体を離した。


「ちょっと! さり気なくいちゃつくんじゃないわよ!」


 〈半袖の女〉は、言いがかりをつけた。〈白服の女〉はどうしたらいいか分からなくなり、ソッポを向いた。


「雑談なんてしている余裕なんてないだろうに。取り敢えず、近くの扉から開けてみろよ」


 先ほどまで沈黙を保っていた、二番目の槌を持った〈髭面の大男〉がたしなめた。

 叱られた〈半袖の女〉は大人げないと思ったのか、静かになった。何故か〈白服の女〉も萎れていた。


「分かったよ、んじゃまず、こっちの通路に、って、おい……」


 先頭の〈黒鎧の男〉が黙った。初めの扉が光っていない。一気に緊張感が高まる。

 光っていない建築物は、敵。


「〈火の精霊(サラマンデル)〉よ、あの扉を焼け!」


 〈半袖の女〉が魔法を唱えた。杖から飛び出た火球が、光っていない扉に飛んで行く。

 次の瞬間、扉が水平に真っ二つに割れた。よく見ると、扉に、人の顔が浮かび上がっている。

 水平の割れ目に、むき出しの歯がびっしりと生えていた。その歯で、先頭の〈黒鎧の男〉の腕を噛み切ろうとした。とっさに〈黒鎧の男〉は手を引いて、後ろに下がった。


「何だこりゃ……」


 扉についた顔が、恨めしそうにこちらを見つめ、歯をガチガチと鳴らしている。〈人面扉(ゲズヒトルツア)〉と言えばいいのだろうか。


「〈風の精霊(シルフェ)〉よ、炎と共に踊れ!」


 〈白服の女〉が魔法を唱える。炎と風が混ざり合う。二人の魔法は〈火大砲(ファイアカノン)〉となった。渦を巻いて巨大となった火が〈人面扉(ゲズヒトルツア)〉に直撃する。


「動かないのなら、楽勝だ……な?」


 〈黒鎧の男〉が目を剥いた。扉は一つも焦げ目がつかず、無傷だ。


「何だこりゃ、燃えそうなもんだが」

「魔法が効かないの!」


 〈半袖の女〉が、甲高い声で叫んだ。代わりに〈髭面の大男〉が前に出て、槌を構えた。


「魔法がダメなら、物理で破壊するしかあるまい」


 〈髭面の大男〉が大きく槌を振り下ろした。

 対して〈人面扉(ゲズヒトルツア)〉は、槌に噛み付こうとする。しかし、メリッと嫌な音を立てて、歯を粉砕されてしまった。

 歯を失い、口が裂けてしまった人面扉は、オウフオウフと泣きながら、口をモゴモゴさせた。


「ん、甘いモノでも食べ過ぎたか? 虫歯には気をつけろよ」


 〈髭面の大男〉の皮肉を受けて〈人面扉〉は、顔をしかめた。そのまま顔を扉の木に埋れさせて、消えてしまった。そして、ガチャリと音を立てて扉が開いた。


「なんだ、弱っちいな」

「恐らく、不意打ちをすることが前提なんだろう。例の魔術師長様のお陰だな」 


 北支部の一行は、一つ目の部屋に入って行く。


【15】


 フルスベルグ郊外の北西の小山。

 〈攻城弓(バリスタ)〉20門を配備してから、2刻程が立った。

 モニカは、体を横にしてみたものの、眠れなかった。テントから這い出て、空を見上げてみた。コルは、まだ寝ていた。

 竜と思われる黒い斑点が、近づいて来ているのが分かる。そろそろではないかと、ハインツのいる所へ向かった。


「モニカ、もういいのか?」

「眠れなくて……」

「そうか、なら無理して眠る必要はない」

「すいません……」


 いつからだろうか。モニカは夜、眠れない時間が増えていた。今のところ、健康に大きな支障はないが、生理が一、二日ほど乱れ始めた。

 考えても仕方ないので、ハインツと同じ空を見てみる。


「見えているのに、まだ撃たないんですか?」

「有効射程というのがあってな。今撃っても、届きはするが、効果が薄いんだ」

「そうなんですか……」

「それに、ギリギリの距離を保っているんだ。恐らく陽動か、何かを待っているんだろう」

「というと?」

「多分、街道の本部隊との連携だと思う。先ほど、街道一杯に約3千人の出奔した元冒険者、野党、盗賊などが集結しているという連絡が入った」

「大戦になりますね……」


 ハインツは空から目をそらさずに、力強い声で言った。


「そうだ。共に生き残ろう」


 モニカは、その言葉に、強さを分けてもらったように感じた。少し、勇気が出てきた気がする。


「ええ」

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