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名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【2章】
50/106

【53】24歳モニカ、竜退治をする(1)

【1】


「ヴィクトール侯、今日はお早いですね」

「うむ、事態が大きく改善されたのでな」


 フルスベルグ中央区、立ち並ぶ政治関連施設の一室で、ヴィクトール=フルスベルグ侯爵が帰宅の準備をしていた。

 最近、侯爵の白髪が増えたのを、部下は知っている。彼は滅多に口にはしないが、娘のアーデルハイト嬢がかなりのお転婆で、嫁ぎ先が見つからないらしい。

 何か良い相手がいないかと、話を持ちかけられたことがある。だが、残念ながらそのような伝手はなかった。侯爵本人は立派な人物なだけに、忸怩たる思いだ。

 噂では、ついに部屋に引きこもってしまって、一歩も外に出てこないという。しかし、噂を本人に確認するほどの勇気はない。


「穀倉地帯への街道の安全が確保されたのは、大きいですね」

「うむ、ハインツだったな。彼には色々と迷惑を掛けた。今度の昇級会議では、彼をクラスBへの昇級に強く推薦しようと思っている」


 当たり前の話だが、フルスベルグ直系の貴族は、ランクBの冒険者を認める事を非常に嫌がる。ランクBになると、貴族と同等の発言力を持つからだ。しかも、血の繋がりが無いために、操り糸をつける事もできない。

 よって、政治的圧力もなしに、ランクBに昇級できる冒険者はまずいない。


「どう、根回ししましょうか」

「反対派は放っておけ。中立派の取り込みに専念すれば良い」


 部下は、脳内で素早く、政局予測表を組み立てた。会議に参加できるのは、直系血族かつ役職を持つ者のみ。そうなると、会議参加者はあまり多くない。


中立派5名

銀行長(バンクマスター)〉バルドゥル=フルスベルグ

魔術師組合長ウィザードギルドマスター〉メルヒオール=フルスベルグ

冒険者組合北支部長ベンチャーズギルドマスターノースブランチ〉ジークフリート=フルスベルグ

厚生組合長ウェルフェアギルドマスター〉イジドール=フルスベルグ

国属法務官ロイヤルローオフィサー〉トリスタン=フルスベルグ


反対派2名

冒険者組合南支部長ベンチャーズギルドマスターサウスブランチ〉アンドレアス=フルスベルグ

貸本組合長ライブラリギルドマスター〉ヒエロニムス=フルスベルグ


賛成派2名

流通組合長インフラストラクチャギルドマスター〉ジルヴェスター=フルスベルグ

農業組合長アグリカルチャギルドマスター〉ヴィクトール=フルスベルグ


 部下は、脳内の予測表を眺める。5人のうち、3人を引き込めば良さそうだ。標的対象を絞り込む。


「そういえば、年頃の娘が喜びそうな物に何があるのだろうか」


 ヴィクトール伯爵は、外套を羽織りながら、ポツリと口にした。突然の言葉に、部下は、素早く思考を切り替えた。


「そうですね……花なんかが良さそうです」

「む、む、そうだな……」


 どうやら、噂は本当らしい。侯爵の方から話を振ってくるということは、相当、参っているようだ。


「他に、何かないか?」


 侯爵は言葉を詰まらせながらも、質問してくる。この様子だと、既に色々と試したようだ。そして、結果は思わしくないことも想像できる。


「それならやはり、親子の会話が一番じゃないでしょうか。腹を割って話をすれば、意外にすんなりいくかもしれませんよ?」

「そうだな……。む、やはり、そうだな。分かった。やってみよう」


 納得したヴィクトール侯は、扉に手をかけた。部下は、最後に思い出したことを口にする。


「そうだ。お待ちください。食べ物は試しましたか? 甘味は人を幸せにするそうですよ。最近、近くに珍しいケーキ屋さんができたそうです」

「ほう、初耳だ」

「バウムクーヘンと言ってですね、こう、木の年輪のような模様が刻まれているそうです」


 部下は、両手でバウムクーヘンの形を表現した。侯爵は、その手の動きを真剣に凝視する。


「店主のカール=ユーハイムという方が、感謝してましたよ。せっかく侯爵が守った味です。娘さんと一緒に食べてみてはいかがでしょう」

「……わかった。その通りにしてみよう。感謝する」


 侯爵は、扉を押し開き、執務室を後にした。


【2】


 ヴィクトール侯爵は、籠馬車の中で考え事をしていた。膝には、バウムクーヘンの入った箱が置かれている。窓の外には、西区の街並みが流れている。

 考え事の内容は、もちろん、娘のアーデルハイトの事だ。話をしなければならないのはわかるが、どう切り出せば、良いのかわからない。

 妻を亡くして以来、本音を言えば、自分も逃げていたのかもしれない。育児が自分の肩にかかってきた。ゆえに、執事に全てを任せっきりにしてしまった。娘と顔を合わせたことなど、数えるほどしかない。上の息子たちはまだマシだった。男同士、付き合い方はなんとなくわかる。

 時折、仕事の様子も見せたりと、あちこちに連れ回したこともある。

 今では、早々と独立し、今は王都に留学中だ。

 ひょっとしたら、原因はそれかもしれない。上にかまけてばかりで、娘には手を出さなかった。そのツケが、ここに来ているのか。


「もう少しで着きますよ」


 馬車の外から声が聞こえると、ヴィクトール侯は、我に返った。

 今日はいつもの時間ではない。〈籠馬車組合(キャリッジギルド)〉に無理を言って、当日に、予約時間をずらしてもらったのだ。


「急な要望で済まなかったな」

「いえいえ、とんでもありません。ヴィクトール侯は大変よく働いておられます。たまには、羽を伸ばすのも悪くないかと存じます」


 お世辞とも取れる声が返ってきた。

 しかし、相手に無理を言ったのだから、やはり礼には礼で返すべきだろう。


「〈籠馬車組合(キャリッジギルド)〉の方へは、お金に少し色をつけておくように言っておこう」

「は、は、ありがとうございます」


 嬉しそうな声が返ってきた。わずかに馬の鉄蹄の音が乱れる。そうしている内に、家の近くまで来ていた。

 日が暮れる前に帰ってこれたのは、何ヶ月ぶりだろう。


「着きましたよ」


 侯爵は、声に促されて籠馬車から降りた。目の前には、家の門が開いていた。


「それでは、失礼します」


 籠馬車は、走り去っていった。馬車を見送った侯爵は、門をくぐった。


【3】


 おかしい。


 屋敷に入ったヴィクトール侯は、違和感を覚えた。主が帰ってきたのに、侍従(チェンバレン)たちが出てこない。

 しかし、灯りがついている。


「誰か! 誰かいないか!」


 ヴィクトール侯は叫ぶ。しばらく待ってみるが、声は返ってこない。


 嫌な感じだ。


 賊がいるのかもしれない。屋敷の中を見回ってみようと思い立つ。

 侯爵は、ケーキの箱を小脇に抱え直し、腰から〈巨神の細剣(ティタンレイピア)〉を抜き放った。年に数本しか作られない、貴重な物だ。

 食堂の扉越しに気配を探る。普段のこの時間なら、向こうで侍女(メイド)たちが、和気あいあいと、食事の後片付けをしているはず。

 だが、物音はしない。

 覚悟を決めた。左手で、ゆっくり把手に手をかけ、足で蹴破った。両開きの片方の扉が、大きな音を立てて開く。物陰に誰か居ないかを伺ってから、中に入る。

 室内は〈行灯(ランプ)〉の光がついていた。食堂のテーブルには、冷めきった夕食が並んでいた。まだ、誰も手をつけていない、作りたての。


 嫌な感じが、どんどん膨らんでいく。


 念の為に、隣の台所にも、足を伸ばしてみる。やはり、誰もいない。

 料理を作っていた痕跡はある。料理に使ったであろう器具が、シンクに投げ込まれていた。

 ここまで来たら、心配なのは娘のアデルだ。台所の扉は閉じ、壁に背を向けて、慎重に食堂から出た。

 アデルの寝室は、二階にある。

 二階の気配を探りながら、ゆっくり階段を登る。階段を中ほどまで昇った時、上からわずかな音がした。はやる気持ちを抑え、一歩ずつ昇る。

 ついに、階段を昇りきった。

 侯爵は、二階の廊下を探る。うす暗くてよく見えない。それでも、アデルの寝室に向かう。

 その時、廊下の向こうから、誰かが近づいてくるのが見えた。


「誰だ?」


 返事はない。しかし、フラフラと近づいてくる。やがて、姿が見せた。


「アデル……か?」


 その姿は確かに、室内着を来た娘だった。娘に刃を向けるわけにはいかない。〈巨神の細剣(ティタンレイピア)〉を鞘に戻す。

 小脇に抱えていたケーキの箱を差し出しながら、優しく話しかけた。


「アデル、今日は、珍しいケーキ屋さんを見つけたんだ。食堂でパパと一緒に食べないかい?」

「パ……パ……?」


 アデルの足取りがおぼつかない。侯爵は、手を差し出した。


「パパ、あたしね……おなかすいたの……」


 アデルは、差し出された父親の手を取る。娘の手は、異様に冷たかった。


「そうか、そうか。なら、一緒に食べよう」

「そう、じゃないの」


 侯爵は、気がついた。

 アデルの髪の色が変化していたのを。


「アデルは髪を染めたのか? その赤緑色、似合ってるぞ」


 過去の記憶では、妻から受け継いだ綺麗な金髪をしていた。赤緑に染める髪染料なんてあるのかは知らなかったが、立ち直るきっかけになれば、それでいいと思った。


「どういうことだい?」


 娘の機嫌を損ねないように、注意を払いながら尋ねた。


「自分でも、よく分からないの」


 侯爵は、自分の体が、急速に冷たくなっていくのを感じた。同時に目の前が暗くなっていく。


「あれ、パパ、風邪ひいたのか……な……」


 手足に力が入らない。手に持っていたケーキの箱を取り落としてしまった。中から、バウムクーヘンがこぼれ落ち、半分に裂けて、絨毯の上に散らばった。


「あ……。大事な……ケーキが……」


 侯爵は、箱を拾い上げようとして、腰を屈めようとした。そのまま、膝が落ちる。

 娘と繋いでいた手が、離れてしまう。


「ア、デル……」


 父親は、動かない体を使って、なんとか後ろを振り向いた。もう、意識が保っているのが難しい。


「あ、でる……あ、いして……」


 父親の息が止まった。


【4】


 フルスベルグの西の監視塔で、二人の監視員が、欠伸をしていた。

 もうすぐ日が沈む。日が沈めば、夜勤と交代だ。グッスリと寝られる。


「先輩ー。あれ、何ですかねー」


 先輩と呼ばれた男は、後輩の指差す方向に、視線を向けた。


「んー……。カラスの群れか?」


 地平線に沿って、黒い点々が、夕焼けに焼けた赤い空を食い破っていくように見えた。鳥の群れにしては、数が多すぎるような気がする。

 男は、懐から携帯用の望遠鏡を取り出した。そして、黒い点々に向けて、覗き込んだ。


「……おい。下の者に連絡しろ」

「先輩ー。一体、何なんですかー?」


 後輩は、先輩の硬い声に少し驚いたが、興味を持って尋ねた。


「いいから速く行け! あれは多分……竜だ!」

「え!」


 後輩は飛び上がり、慌てて階段に向かって駆けていく。しかし、階段の横にある備品の箱に、蹴り躓いて転んでしまった。そのまま、悲鳴をあげながら、階段を転げ落ちて行く。


「ぎゃああああぁぁぁ……」

「……ドジな奴」


 先輩の呟きは、誰に聞かれることなく、風に乗って消えていった。


【5】


 〈|冒険者組合東支部長《ベンチャーズギルドマスターイーストブランチ》〉ミヒェル=エフラー=フルスベルグは、緊急招集を受け、馬車で、中央区にある本部に向かっていた。


「急げ!」

「これ以上は無理です! この暗さでは、事故を引き起こしてしまいます!」


 街の景色はほとんど闇に沈み、わずかな街灯だけが、道を照らす。車輪が衝撃を吸収しきれず、椅子が大きく上下に振動する。

 ミヒェルは、焦りだけが募る。

 連絡によると、西方の山岳地帯から多数の竜が、フルスベルグに向かって来ているという。

 先週の山狩りでは、異変は全くなかったという報告が入っている。つまり、敵は一週間の間に戦闘の準備を整えたことになる。

 ただ、はっきりしているのは、前から準備してきた20門の〈対竜用攻城弓アンチドラゴンバリスタ〉の出番がやってきたということだ。


「〈組合長(ギルドマスター)〉! もうすぐ着きます!」

「ああ、くそ! 〈指揮官(コマンダー)〉と呼ばれた方がなんぼかマシだ!」


 〈組合長(ギルドマスター)〉と呼ばれる時は必ず、鬱陶しい政治が絡むので、嫌で仕方ない。洞窟で、部下に〈指揮官(コマンダー)〉と呼ばせて〈不死生物(アンデッド)〉たちと遊んでいた頃が懐かしい。


 ついに〈冒険者組合本部〉に到着した。

 ミヒェルは、馬車から飛び降りて、本部に駆け込んで行く。


【6】


 ミヒェルが、会議室に着くと、既に他の組合長(ギルドマスター)は全員揃っていた。行灯の灯りで一層、疲れたような顔をしているように見えた。


「ふん、遅かったな。裏切ったかと思ったぞ」


 会議室に着くや否や、冒険者組合南支部長アンドレアスの嫌味が飛ぶ。戯言は無視しても良かったが、発言を放置すると後が面倒になる。即座に反論した。


「単純に儂が、一番遠い場に居ただけのこと。距離を考えれば、速いはすだ」


 冒険者組合南支部長アンドレアスは言葉を詰まらせる。代わりに睨み返してきた。

 最近、どうして彼がミヒェルを憎むのか、理解できなくなった。初めは、血の繋がっていない外戚だからかと思ったが、そうではないらしい。それならば、西支部長にも同じ態度を示すはずだ。


「そんな事を言っている場合ではなかろう。敵が攻めてきているのだぞ」


 冒険者組合西支部長エアハルトは二人をたしなめた。始めに被害を被るのだから、一番真剣だ。


「監視台からの報告によると、北西の山々から、およそ100匹前後の竜がこちらに向かって来ているとのこと」


 ミヒェルはその数に少し動揺した。数が少し多い。これでは〈攻城弓(バリスタ)〉の数が少し足りない。


「それからフルスベルグ内で、異常な魔力の流れを検知したと〈魔術師組合〉の方から連絡があった」

「魔力の流れ?」


 冒険者北支部長ジークフリートが反応する。


「そうだ。そちらの方にも、手を回さなければならん。魔術師組合の方からも、何人か人を出すそうだ」

「そうか、ならば、そちらの件は私に任せてもらいたい」


 北支部長が、自分から行動を起こすのは珍しい。ミヒェルはチラリと意図を探ったが、彼の無表情に跳ね返された。


「竜については、儂に任せてくれ。対竜攻城弓部隊を編成してある」

「分かった」


 冒険者組合南支部長アンドレアスが、横から口を挟んだ。


「それで、人間の方はどうなっているんだ。敵は竜だけというわけではあるまい」

「街道を登ってくる形で来ているようだが、既に暗くなっていて、規模を確認できない。朝になれば分かるだろう」


 南支部長は鼻を鳴らしてから、静かに宣言した。


「ならば、俺はそちらを担当する」


 それからは、冒険者の人数の調整や、情報のやり取りについて、簡単に意見交換を行う。

 会議は一刻足らずの時間で終了した。


【7】


 日が沈んでから一刻余り。

 普段、この時間なら閉まっているはずの〈|冒険者組合東支部〉の施設には、煌々と灯りが灯っていた。

 何百人規模の冒険者たちが、施設前の石畳の広場に座る。彼は皆、緊急招集を受けて集まった者たちだ。周囲には〈光の精霊〉による光球が数十以上乱舞し、昼より明るい。

 彼らの前で、ハインツは〈副組合長(サブギルドマスター)〉として、高台の上に立っていた。その足元には、モニカとコルが立っている。


「〈音の精霊(エコー)〉よ。彼の者の声を増幅させたまえ」


 モニカは、ハインツに向けて〈拡声〉の魔法を唱えた。


「あー、あー、よし」


 ハインツは、魔法による音声拡張を受けて、

地声の微調整を行った。それから、皆に向けて話し出した。


「こほん、今夜は緊急招集を受け、集まってもらってありがとう。今回は、この俺、ハインツ=ドレイアーが、〈組合長ギルドマスター〉の代理として、皆に指示を出す。たった今を持って、この集団は、小規模な〈(パーティー)〉ではなく〈団〉へと昇格する」


 ハインツは、一度言葉を切った。

 集団は、ザワザワと騒ぎ始めた。元々、自由に生きてきた者だ。半強制的に団体に組み入れられるとなれば、戸惑う者も多いはずだ。強い反感を持つ者もいるだろう。


「分かっている。ここにいる者たちは、強制力を持つ〈緊急招集〉で集められたからな。不快な者もいるだろう。だから気に入らない者は、今ここで立ち上がって去ってもいい。しばらく待つ」


 再び、ハインツは言葉を切った。

 冒険者たちは、ザワザワと騒ぎはじめた。その動揺を反映して、光球も揺れ始めた。

 ハインツの目には、何人か、立ち去るのが見えた。他にも、迷って相談している〈(パーティー)〉をいくつか散見する。


「正直に言うと、命の保証はできない。だが生き残れば、英雄になれるぞ。何故なら、相手は……竜だ」


 騒ぎはより一層大きくなった。

 新たに迷い始めた者たち、迷っていたがその場に残る事を決断した者たち、一目散に逃げて行った者たちもいた。

 そんな中、ハインツに、敵意の視線を向け、立ち上がった男がいた。

 全員の視線が彼に集まった。


「何か言いたい事があれば、遠慮なく言ってくれ」


 モニカは急いで、その男にも〈音の精霊(エコー)〉の魔法をかけた。男の声が、全体によく響き渡るようになった。


「俺は、お前の事をよく知らない。いきなり、俺たちの団長になると言われても、納得などいくものか!」

「では、どうしたい」

「俺に指揮を取らせろ。俺の方が上手くやれるはずだ!」


 ハインツは、流石にどうしようかと悩んだ。


「ダメだ。既に色々な準備は済んでいる。今更指揮を変えられない。」

「お前の指揮は信用できないと言っているんだ! 今すぐ変われ!」


 ハインツは、一瞬、裏切り者の存在を頭にかすめた。敵は、人の弱みにつけこんで、内部から崩壊させるのを得意とする。いつ何時、誰が反旗を翻すか分からない。

 裏切り者狩りはとうに済んでいるはずだが、見逃した者もいるかもしれない。


「では、どうすれば信用してもらえるのか」

「もっと前からきちんと準備してこなかったから俺たちが戸惑っているのだろう! それがお前が無能である証拠だ!」


 ハインツは、これは言いがかりなのだろうと察知した。仮に彼の言う通りにしたとしても、事態が良くなるとは思えない。

 素早く、弓を取り出して、矢をつがえた。矢は、先端に吸盤をつけた、殺傷力のない物だ。そして彼の額に向けて素早く放つ。額に命中した。


「せめて、俺の矢が避けられるようになってから吠えてくれ」


 周囲から、失笑が漏れる。確かに、額に矢を生えている姿は、滑稽だ。男は怒りに体を震わせた。


「今のは、不意打ちだ! 卑怯だ! もう一度、正々堂々と戦わせろ!」


 男は、額の矢をへし折って、さらに喚き散らした。ハインツは強制的に退出させようと、口を開きかけた。

 その時、どこからともなく植物の蔓が生えてきて、男を縛り上げた。口を塞がれ、くぐもった声しか出せない。

 モニカは、その様子を見て、驚いていた。ハインツも、とっさに誰が魔法を唱えたか、目を泳がせた。すると、腰まで髪を伸ばした女性に、目が止まった。すると、彼女はニコリと笑みを返してきた。

 話を続けても良さそうだ。ハインツは話を続けた。


「他にないなら、説明に入る。これから、北西の山から100匹以上の竜が襲来してくる。これに対して、我々は〈攻城弓(バリスタ)〉を20門揃えた。この矢にありったけの魔法付与をかけて、遠距離から撃ち抜く。その後、生き残った竜に関しては個別に確実に屠っていく」


 その後も、ハインツの説明は続く。冒険者たちは、自然と彼の言葉に聞き入っていた。

 そして、説明が終わる。


 全員が動き出した。

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