表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【2章】
40/106

【43】23歳モニカ、盗賊狩りをする(2)

【4】


「ちょっと! 今、大事な話をしていた所なの! 後から、しゃしゃり出て来ないでくれる?」


 ロスが声を張り上げた。

 アーデルハイトが、ハインツの影から彼女を見る。途端に、何か汚物を見るような顔になった。直ぐに、ロスヴィータが男である事に気がついたようだ。

 ハインツの手を振り払って押しのけ、前面に出た。


「そこの変態。わたくしの邪魔をしないでくださる? お前なんか、この街に居られなくさせてやってもいいのよ?」


 アーデルハイトも負けじと、杖を持ち直して、ロスに向ける。

 ハインツは、今だ衝撃から抜け出せず、二人の間で口を出せずにいた。流石にここで魔法はマズイだろうとは思うが、頭が動かない。


「ハインツ、早い所、そのガキを追い出しなさいよ」


 ロスの冷徹な声に我に返る。

 ハインツは間に割って入り、アーデルハイトに向き直った。


「まだ、話があるんだ。アデルは少し外に出ていてもらえないか?」

「何よ。あのオカマの言いなりになるわけ?」

「ま、まだ、アデルを連れて行くと決めたわけじゃない。それに、アデルを連れて行くとなると、計画の練り直しになるから、その事も含めて、話し合いをしないと」


 ハインツの慌てたような説明に、アーデルハイトは納得したのか、釣り上げた眉を戻して、やや声を沈めて言った。


「分かったわ。一度、外に出るわ。でも、連れていって貰うまで、絶対に動かないからね!」


 アーデルハイトは、もう一度ハインツの胸に飛び込み、頬ずりした。そして一歩下がり、扉を閉めて出て行った。

 ハインツは即座に扉に手をかけ、鍵を閉めた。そして、周りの目を気にせずにホッとする。扉に額を当てながら、崩れ落ちかけた。


「ハインツ。ちょっと話があるの。」


 ロスの冷めた声に、吐いた息を飲み込んだ。足に力を込め直す。


 そうだ。

 まだ、事態は改善されていない。

 力を抜ける状況じゃない。

 それにロスの顔も怖い。


 振り返って見回せば、モニカは戸惑ったような顔。コルは平然とした笑顔で、何を考えているかわからない。ボニーは、無関心な、面倒くさそうな顔をしていた。


「ハインツ! 聞こえてる?」


 ロスの鋭い声。

 手を握ると、冷や汗が出ていた。


「あ、ああ」


 かすれたような声にながらも、返事をする。ロスはモニカに顔を向け、さらに優しい声で言った。


「モニカちゃん、さっきの倉庫をもう一度出してくれる?」

「え、あ、はい。」


 彼女も呆然としていたようで、言われるまま、機械的にブローチに魔力を込める。洞窟の穴が出現した。


「さあ、来なさい」


 ロスが、ハインツにツカツカと歩み寄り、腕を掴んだ。かなりの握力だ。ハインツは、引きずられるままに穴に連れ去られていく。


「ちょっと、三人は待っていてくれるかしら」


 ロスの迫力にモニカはただ、首を縦に振るばかりだった。


【5】


「おい、どこまで行くんだ」


 ロスは、ハインツの声を無視して、ダンジョンの奥まで引っ張っていく。そしてようやく立ち止まり、ハインツの手を離した。

 やっと平常心を取り戻したハインツが頭を下げる。


「ロス。助かったよ。礼ぅごっ」


 最後まで言い切ることが出来なかった。何が何やら分からないまま、ハインツは膝をつく。

 どうやら、顎を思い切り殴られたようだ。軽い脳震盪で、まともに立てない。


「ハインツ、あんた、二股かけたの?」


 頭上から、ロスの声。

 

「何の事だ?」

「モニカって娘とデキているんじゃないの? なのに、許嫁って何?」


 脳震盪がやっと収まったハインツは立ち上がる。口を切ったらしい。血を吐き捨てた。

 

「アデルとは既に解消済みだ。許嫁は彼女が勝手に言っているだけだ」

「それは本当? いつ解消したの?」

「半年前だ」

「政略結婚?」

「そうだ」

「なら、なんて向こうの親に断ったの」

「扱い切れない、と」

「向こうは?」

「そうか、と」

「彼女の気持ちはどうなるの?」

「どうと言われても、無理なモノは無理ぅごっ!」


 また、殴られた。

 今度は警戒していたので、膝から崩れ落ちはしなかったが、やはり痛い。

 それから、ロスは沈黙し、少し考え込んだ。


「確かに、無理かもしれないわね」

「……おい、それじゃ今、何で殴ったんだ?」


 ロスは、苛立ちを隠そうともしない。髪の毛を触りながら、視線が左右に揺れる。


「それで、あんたの気持ちはどうなの」

「どうって、あんな高慢ちきな娘は無」


 彼女は、その言葉を遮って、大声を張り上げた。


「そんなのは、最初から分かってるわよ! この朴念仁!」


 ハインツは彼女の言いたいことがさっぱり分からない。ただ、もどかしさだけが伝わってくる。


「モニカちゃんに対して、どういう気持ちなのよ!」

「それは……」


 ハインツは俯いて、考え込んでしまった。ロスはついに苛立ちを爆発させた。


「あんたが、そこまでバカだとは思わなかった! 昔からそう! 言われるまま、頼まれるまま、何でもソツなくこなすけど、それだけ! 自分というモノがない! 大方、モニカちゃんも、誰かに頼まれたんじゃないの!」


 ハインツは衝撃を受けた。

 その言葉にかなりの真実が含まれているように思えたから。

 思わず、顔をあげて叫んだ。


「いや、そうだけど! そうじゃない!」


 自分で自分が何を言っているか、分からなかった。だが、彼女の言葉は、何かが違うと心のどこかで思った。

 ロスは、少し満足したような顔をして、声の音量を下げた。


「どういうことよ」


 ハインツは考えた。今、自分の言った言葉の意味を。


「そうだ……初めはどっちでもいいと思ったんだ」

「何が?」


 ロスのハスキーな声の相槌が、洞窟の中を冷たく響く。ハインツは、床を見ながら語りはじめる。


「アデルとモニカ、どっちを選ぶか、だ」

「……それで?」


 半年前の自分を思い出す。

 そう、モニカの幼馴染であるエリーの死体を見たときだ。

 何だかんだ言って、エリーには何度か街中を案内してあげたことがある。そんな若い娘の死体を見るのは、ハインツにとっても辛かった。

 考えるより先に口が出る。


「モニカが、彼女の幼馴染の死体を検分して、少しも涙を出さなかったのを見た時」


 そうだ。自分でさえ、あんなに辛かったのだから、モニカはもっと辛かったはずだ。

 そう思ったのだ。

 

「どうにかしてやりたいと思ったんだ」


 ハインツはやっと、自分の気持ちを自覚した。ロスは彼の顔を見て、穏やかな笑みを浮かべた。


「それが、あんたの本音なのね」

「ああ」


 ロスは、首を横に振って、溜め息をついた。それから、あーあーと声を出しながら頭を振る。


「全く、面倒くさい男ね」

「それ、前にも誰かに言われたな」


 ハインツは苦笑した。

 満足したロスは、赤いマントを翻し、彼の横を通り過ぎて、入り口の方へ向かう。


「さて、あんたの本音を確かめたところで聞くけど、彼女をどうする気?」


 彼女とはアーデルハイトのことだ。

 ハインツは、先行くロスの背中を追いかけながら、答える。


「連れて行く。このまま追い返しても、事態を先延ばしにするだけだ」


 途端にロスは歩みを止め、振り向いた。

 ハインツもつられて、立ち止まり、マジマジとロスの顔を見てしまう。


「あんたってやっぱり、天然の女たらしね」


 ハインツは首を傾げた。意味が分からない。ロスはそのままプイと前を向いて、歩き出した。


「モニカちゃんには、私から言っておく。あんたはやるべき事をやりなさい」


 ハインツも同時に歩き出す。先ほどの動揺が嘘のようだ。


「ロスヴィータ。君と知り合いで良かったと思う。感謝している」


 ロスは無言で前を歩く。

 返事はないが、聞こえているはずだ。


「バーカ」


 と、かすかに聞こえた気がした。


【6】


「やはり、彼女も連れて行こうと思う」


 ダンジョンから戻って来て、開口一番、ハインツは皆の前で言った。

 〈党首(パーティーリーダー)〉であるハインツに最終決定権がある以上、有無を言わせないこともできるが、頭を下げた。


「彼女はアーデルハイト=フルスベルグといって、俺の許嫁だった。しかし、ある事情により、その約束は御破算済みだ。よって、旅の道中で彼女を説得しようと思う。皆には迷惑かけるが、彼女も守ってやってくれ」

「構わん。だが、彼女の実力はどんなものだ? 見た限りでは、期待出来そうにはないが」

「ボニーの推測通りと思ってくれていい。後、苛立たせる言動が目立つとは思うが、なんとか耐えて欲しい」


 モニカが、不安そうに質問した。


「それで、交代の順番はどうなるのでしょうか」

「俺、コル、アデルのチームと、ロス、モニカ、ボニーのチームで交代で行う。」


 恐らく、コルに負担をかける形になってしまうが、他に選択肢がない。念の為に本人に確認を取る。


「コルは大丈夫か?」

「ええ。大丈夫です」


 話をまとめたハインツは、扉を開ける。

 彼女は、外で今か今かと待ち構えていた。扉が開くや否や、ハインツに飛びついてきた。

 もちろん、かわした。


「ハインツー! どうして避けるのよー!」


 頭から地面に落ちたアーデルハイトが鼻をさすりながら起き上がった。


「アデル。取り敢えずは、お前を旅に参加させる。俺の言う事をよく聞いて、皆に迷惑をかけないように。言う事を聞けないなら、否応無く送り返すからな」

「もちろん、存じ上げてますわ。さあ、悪党どもを、切り伏せに行きましょう!」


 ハインツは、アーデルハイトにも旅の概略を説明する。

 多少のハプニングはあったとは言え、予定通り、午前中にすべての支度を終えることができた。

 そして、午後一番に東門を出発。


【7】


 出発してから二日目。

 ハインツは、街道の遥か遠くに、魔物の集団が横切っているのを見つけた。


「敵だ、止まれ!」


 ハインツは手綱を強く引いた。馬車の馬は急停止に驚いた。ヒヒンと鳴き、前足を高くあげ、暴れる。


「ドウドウ!」


 後ろの馬車から、アデルとコルが飛び出した。意外にも早く、魔物に遭遇したことに驚く。

 ハインツは指示を飛ばす。


「皆さんを呼び出します!」

「頼む!」


 コルは、モニカから教わった手順で、ブローチに魔力を込める。間もなく、空間に黒い楕円が音もなく出現。

 中から、モニカ達が現れた。


 ハインツは、代わりに馬車を穴の中に飛び込ませる。そして、中で待機していたブリギッテに馬車を明け渡した。

 そして穴から出ると、背後で穴が消滅。戦闘体制が整った。


「敵は?」


 ボニーの声。ハインツは街道の向こうに見える黒点に目を凝らす。


「〈食人鬼(オーガ)〉が見える範囲で約30匹。まず、半分に減らすぞ」

「おう」


 ハインツは、背から〈複合弓(コンポジットボウ)〉を取り出す。様々な材質で重ね合わせたこの弓は、魔法が届かない程の遠距離から、狙撃することができる。

 腰に備え付けた赤色の矢筒から、先端が膨らんだ矢を取り出した。


「モニカ、火を」

「〈火の精霊(サラマンデル)〉よ。我が求めに応じよ」


 モニカが詠唱を終えると、火球が飛び出した。前方に向かって、ゆらゆらと揺れて向かっていく。

 ハインツは、ギリギリと弦を弾く。そして、矢に付いている導火線に点火した。


「カウント、十、九、八……」


 発射された。風を切る鋭い音と共に、矢が空を舞う。


「六、五、四、三、二、一……」


 爆発。


 ハインツは次の矢をつがえた。それから発撃ち、爆発で何匹か吹き飛ばした。

 やがて、誰の目にも見える位置まで敵が接近してくる。それでも半分以上は残っている。

 ハインツは舌打ちしながらも、赤い矢筒をアデルに投げ渡す。そして、青い矢筒を取り出した。青い印のついた矢を抜き取り、つがえた。


「飛び込むぞ!」


 ボニーとロスが街道を駆ける。

 ロスは大きく上空へ飛び上がった。ボニーは、背中に背負った大剣を取り出し、両手で握る。

 ボニーより二倍近く身長のある〈食人鬼(オーガ)〉は、太い角材を手にしていた。

 それを斜めに振り下ろす。

 すかさず、ボニーは大きく踏み込んで、大剣を振り上げた。


 大剣と角材が鈍い音を立てて衝突。


 跳ね上げられた角材はボニーの頭上を通り過ぎた。

 ボニーはそのまま、ステップを踏んで半回転。脇腹に叩きつけた。

 〈食人鬼〉はウガアァァと悲鳴をあげて、角材を取り落とす。顔を、痛みと怒りで紅潮させ、拳をボニーの頭上に、振り下ろした。

 ボニーはワンステップ下がり、かわす。


 ロスが降ってきた。


 拳を振り下ろしたことで、丸見えになった〈食人鬼〉のうなじに向かって、サーベルを突き立てる。

 サーベルは、根元まで肉に埋まり、うなじから胸に掛けて貫通。心臓の位置から、刃が飛び出していた。

 ロスはサーベルを残して、再び飛び上がる。

 〈食人鬼〉はぐらりと揺れて、前のめりに倒れた。


【8】


 ハインツは、街道を歩きながら弓を構える。ボニー達を大きく回り込んで、近づいてくる〈食人鬼〉に青い矢を放つ。

 青い矢には、フグの卵巣から採って乾かした毒が塗ってある。

 敵がハインツ達の方へ全力で走ってくる。敵が足に地をつけるたびに、石畳が凹む。

 ハインツは、一番近い敵に狙いをつける。


 撃った。


 狙いは心臓。しかし、敵は手に持った角材で、矢を叩き落す。

 ハインツは慌てずに、矢を二本取り出した。

 まずは一本目。ギリギリと音を立てて、弦を引く。

 今度は、顔を狙う。

 放つ。

 さらに素早く二本目をつがえ、足を狙って撃った。

 敵は顔に飛んできた矢は振り払ったが、足元の矢を見逃した。右の太ももに突き刺さった。膝が折れる。敵は石畳を手をついて転がりながら、転倒した。

 すぐに後ろに居た食人鬼が、倒れた敵を飛び越えてきた。


 もう、距離が近すぎる。

 ハインツは走り出して、街道を外れる。

 敵は三匹。一匹はこちらに向かってきた。そして二匹はアデル達の方へ向かう。

 ハインツは、矢を一本取り出して、矢筒の蓋を閉めた。


 角材が、振り下ろされる。


 ハインツは敵の股下にスライディング。そのまま背後に回る。

 敵は一瞬、ハインツの姿を見失ったようだ。その隙に、アデル達に向かう〈食人鬼〉に向かって、狙いをつける。


「一、二、一、二……」


 テンポよく、数える。

 速やかに矢を撃った。そして走り出す。

 気がついた敵が、ハインツ目掛けて〈踏み下ろし《フットスタンプ》〉してきた。先ほどまで居た位置に、剛毛の足が降ってきた。地面は窪み、小石や土が跳ねた。


 放った矢は狙いたがわず、走っていた〈食人鬼〉のアキレス腱に命中。頭から、倒れた。


【9】


「〈地の精霊(ノーム)〉と〈水の精霊よ(ウンディーネ)〉よ。姿を見せよッ!」


 モニカは、多重召喚した。

 ボコボコと街道わきの土が盛り上がり、モニカの周囲上空に、土球が9つ漂う。

 そしてその穴から、地下水脈の水が染み出し、水球も更に9つ出現。


「土と水、7対3で配合しろ」


 土色の球と透明の球が混ざり、ぶよぶよした泥の塊が生み出される。

 モニカはその〈泥球(マッドボール)〉を襲いかかる食人鬼に投げつけた。

 特に目、鼻、口、耳を狙う。


 一発目、敵の角材に阻まれた。泥球は、粉々に弾けた。

 二発目、敵の頬に命中。少し口に入ったが、効果はない。

 三発目、左肩の上を通り過ぎた。魔法操作圏から外れ、地面にべちゃりと落ちる。

 四発目、再び角材に叩かれる。

 五発目、あごに当たる。

 六発目、左目に命中。敵は暴れ出す。

 七発目、大きく迂回させた泥球が、右耳を直撃。

 八発目、額に命中。

 九発目、顔を拭おうとしている左手の甲に命中。


 モニカは、下がりながら次の詠唱に入る。敵は左手で顔を拭いながら、右手で角材を目茶苦茶に振り回す。


「モニカお姉様!」


 大きな皮の盾を構えて、コルが前に立つ。腰に差した〈細剣(レイピア)〉は抜いていない。

 振り回した角材が偶然、コルに直撃しそうになる。それを盾で弾いて流す。


「土の精霊と風の精霊よ。球を補給しろッ!」


 再び、周囲の大地からボコボコと土球と水球が発生し、上空に浮かび上がる。


「配分は6対4! 発射!」


 よりドロドロの泥球を、敵の顔に目掛けて、次々と放つ。今度は全て命中した。

 腰に付けた油壺の蓋を開けながら、間を置かずに命令する。


「地の精霊と、水の精霊は帰還せよッ。そして〈風の精霊(シルフェ)〉と〈火の精霊(サラマンデル)〉は、応じよッ!」


 風を巻いて、ストロー状に変形させた。壺から油が吸い上げられていく。充分に上空に巻き上げられると、今度は火球が飛んで行き、着火した。


「顔を狙えッ!」


 上空の火塊から、風によって加速された〈火弾(ファイアバレット)〉を連射する。火が流星のように尾を引いて、降り注いだ。

 食人鬼は大量の火弾を浴びた。少しずつ、目、鼻、口の泥が乾いていく。

 ついに、角材を手から落とした。鼻の穴に指を突っ込んだり、喉を掻きむしる。

 しばらく暴れるも、やがて窒息し、動きを止めた。


【10】


 全ての敵を片付けた。

 ハインツは、仲間を集めて回復や武器の回収を行う。そして、移動の再開を指示した。

 待機組は、空間に浮いた穴の中に戻って行く。

 しかし、ロスが穴に入っていく直前に、奇妙な事を言いだした。


「〈食人鬼〉に隠れて、逃げた人間が居たわよ?」


 ハインツは馬車の点検をしながら、首を傾げた。


「人間?」

「そうね。山の中に逃げて行ったわ」

「〈食人鬼〉を操っていた?」

「さあ? 判断はあんたに任せるわ」


 言いたい事を言い終えると、顔を背けて穴の中に消えた。完全に入った事を確認したコルは、穴を消した。


 ハインツは考える。

 逃げた人間を追いかけて捕まえれば、敵の情報をいくつか拾えるかもしれない。しかし補給路の確保は急務だ。それに比べれば、優先順位は多少落ちる。

 山の中に逃げ込んだ以上、馬は使いにくい。それに、山狩りは尋常ではない面倒くささだ。


「気になるが、今は無視する。行くぞ」

「はい」


 コルとアーデルハイトは、馬車に乗り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ