【41】33歳ハインツ、始動する
【1】
〈冒険者組合〉東支部の一室。
防諜の施されたその部屋で、頭上の〈光球〉を中心に、四人の影が放射状に伸びる。
「街道が封鎖された、だと?」
「うん。」
冒険者組合東支部諜報部長のオットマーは、他人事のように頷く。そして、漆黒のマントを揺らし、フードを深く被り直した。
「敵の首謀者と思われる、若い女の亜人が四人。そのうちの一人は捕まえたけど、奪い返された。もう一人は、西の諜報部が接触したとの連絡を受けたよ。残りの二人は調査中。」
同じく、冒険者組合東支部人事部長のカールは首をひねった。眉間にはシワが寄っている。
「亜人ってのは何だ。」
「人とそれ以外の混血。まあ、邪法だよ。禁忌中の禁忌。今回は精霊との混血である〈精霊の子〉みたいだね」
冒険者組合副組合長のハインツが、暗い顔になった。
「〈精霊の子〉か。おとぎ話の類と思っていたが」
「うん?」
文学にはあまり学のないカールが、疑問を投げ掛けた。すると、オットマーが横から口を出す。
「有名なところで言えば『ウンディーネの呪い』かな。解説、要る?」
「あー、頼む」
「少し長くなるけど。今回と関係ない話でもないし。」
オットマーは前置きを置いてから、朗々と語り始めた。
【2】
昔々、ある海の波間に、水の精霊がいました。彼女は特に自我もなく、波の向くまま、風の向くままに、たゆたっていました。
しかし、数十年の時が経ち、ついに自我を得ます。生まれたばかりの彼女には、世の中の全てが輝いていました。
そして、世界中の海を旅します。
東に行っては日の出を見て感動し、北に行っては氷の谷に驚き、西に行っては魔術師と会話を楽しみました。
次に向かった南の大陸で、彼女は運命に遭遇しました。海辺で偶然見かけた王子様に、一目惚れしてしまいます。
しかし、精霊は自然の一部。人に触れることすらできない身です。恋い焦がれながらも半ば諦め、旅を続けます。
ところが旅先で出会った魔女に、自分の悩みをなんとはなしに打ち明けると、どうにかなるかもしれないと言われました。
詳しく話を聞くと、精霊を人間にするという儀式があるらしいのです。さっそく懇願しました。
魔女は言いました。
「人間にするには、条件がある。決して人と交わってはいけないよ」
彼女は、二つ返事で承諾します。そして、ついに彼女は人間になりました。
さっそく、彼女は王子様の国に向かいます。初めて見る人間の国。右も左も分からない彼女は、王宮に向かいます。
当然、門の兵士に追い出されますが、運良くそこに、王子様が通りがかります。
彼は驚きました。
何故なら、彼女は人間離れした美貌の持ち主だったからです。
彼もまた彼女に一目惚れし、彼女を王宮に招き入れました。それからしばらくは王宮で過ごします。
しかし、王宮で過ごすうちに、彼女は段々と弱っていきます。元〈水の精霊〉である以上、水の無いところでは生きられなかったのです。
彼女は、別れも言えずに、王宮を立ち去ります。直ぐに気がついた王子様は、彼女を追いかけます。
そして言いました。
「僕は君が居なくなるのが、耐えられないんだ」
その言葉を聞いた彼女は、泣きながら告白しました。自分は水の精霊だと。人と精霊は交わってはいけない運命だと。
「それでも、君を愛している」
二人は抱きしめ合いながら、共に暮らすことを約束します。そして王宮に戻り、直ぐに彼女が住めるように改良しました。
やがて、二人は結婚しましたとさ。
めでたし、めでたし。
【3】
オットマーは意地の悪い笑みを浮かべた。
カールが無精髭を撫でながら、鼻を鳴らす。ハインツは黙って聞いている。
「女の子向けのおとぎ話か。だが、話が見えないな。」
「流通している貸本では、ここまでだ。だけど、本当はまだ続きがある。」
「ふむ?」
【4】
王子様と結婚した〈水の精霊〉は、やがて子供を身籠もります。
ところが、時を同じくして、風の噂を聞きつけた例の魔女がやってきました。
「なんて事をしてくれたんだ! 今からでも遅くはない。子供を私に預けなさい!」
この言葉に、王となった彼は、激怒しました。
「この者を捕らえ、牢屋に入れよ!」
「愚王め! この国は近いうちに不幸に見舞われるであろう!」
やがて、彼女は男の子を産みます。しかし、その赤ん坊は異常でした。眉目秀麗な顔ながら、色白の肌、青い髪、長い耳。
人ではありませんでした。
しかしそれでも、初めての子供。彼女は、化粧で隠しながら育てます。
ところが、その子が育つにつれ、国中に異変が起きます。口から水を吐いて溺れ死ぬ病が流行り始めたのです。
王は様々な対策を施しましたが、効果は現れません。仕方なく数年ぶりに、牢屋に閉じ込められていた魔女を呼び出しました。
「もはや、手遅れだ。その子の魔力は暴走している。私にはどうしようもない。殺すしかない」
王様は苦悩しました。
不幸の原因があるならば、排除するしかない。しかし、自分の子供を失いたくはない。
そこで、自分の妻と子供を高い塔に幽閉し、その間に対策を考えることにしました。
しかし、時すでに遅し。ついに、王様もその病気にかかり、亡くなってしまいます。
彼女とその子供は、知らせを受けると、悲観し、後を追って塔の天辺から身投げをしてしまいました。
おしまい。
【5】
「うちの娘たちには、あんまり聞かせたくない話だなあ」
カールは、無意識に無精髭を手でさする。
「おっちゃん、娘さんも居るんですか?」
「ああ、今年で16と14かな。最近、嫌われているのか、話をまともにしてくれん」
「おとぎ話という年齢でもないでしょうに。子供扱いをするのが原因じゃないですか?」
カールは言い返せず、むうと唸った。
「そうかもな。だが、親にとっては、子供はいつまでたっても、子供なんだよ。ハインツ坊も覚えておくといい」
「それはどうも」
ハインツは無表情で受け流す。
モニカとの子供を作った後のことを言いたいらしい。だが、そこまで仲は進行していない。彼の頭の中では、どんなことになっているのか興味ある。
いや、やはり、知りたくはない。
オットマーは首をすくめた。
「それで話の続きはいいかい?」
「すまなかった。続けてくれ。」
「まあ、おとぎ話なんだけどね。実際にあった話を元にしてるらしく、一部、事実が含まれている」
一度、言葉を切ったオットマーに対して、ハインツとカールが無言で次を促す。
「〈精霊の子〉は、髪の毛が対応する精霊の色で染まるということ、長い耳であること。そして、生まれつき、対応する精霊の魔法を使いこなすということだ。あとは」
ハインツが驚きの声をあげる。
「おい、近づいただけで、口から水を吐いてやられるのか?」
「いや、そこまではいかない。〈ウンディーネの呪い〉は、簡単に発動できない。体内を操作する魔法は、生命の精霊が強固に守ってくれる。ただ、直接触られたら、わからん」
「面倒だな」
「確認されたのは、地水火風の〈|精霊の子〉だ。だから、最低でも四属性に対応する魔術師を連れて来て、相殺しながら戦うしかない」
「まあそれなら、なんとかなるのか?」
ハインツの頷きに、オットマーは首を横に振った。フードを被り直す。
「まだある。さらに〈翼竜〉も目撃されたってさ」
「翼竜か」
ハインツは苦々しい顔をした。〈翼竜〉自体は簡単に撃ち殺せるが、他と連携されると面倒だ。特に、矢を弾く〈風の魔術師〉と相性は抜群だ。
「翼竜か。昔を思い出すな」
カールは口笛を吹きながら、椅子の背もたれに寄りかかった。
「三十年前の?」
「そうだ。あの時は、街に竜の群れが襲撃してくる度に、カーンカーンと時計台の鐘の音がけたたましく鳴ってな。それが避難の合図だった」
「そんなに凄かったんですか?」
カールは、まるで少年のように興奮しながら、手振り身振りで語り始めた。
「そりゃもう。俺は目の前に竜がおりてきて、もうダメだ、と幼心に思ったんだ。だが、〈竜殺し〉の英雄ヴォルフが横から飛び込んできてな。遥か上から見下ろしてくる竜に、先頭切って立ち向かっていったんだ。その姿に痺れたもんだ。実は、俺、彼に憧れて冒険者組合に入った口でな。」
当時のことを語るカールを、聞き流しながら、ハインツは、以前漁った文献を思い出していた。
いくつか、竜殺し用の武器を色々と考案されたらしい。必要になるかもしれない。
ハインツはずっと沈黙を保っていた四人目の男に、目を向ける。
「クサーヴァ。対竜武器を準備できるか?」
「ん。多分、できる。」
クサーヴァと呼ばれた男は、今年、新設された兵站部の部長だ。物資、武器に関しては彼に全て一任してある。商人の扱いも彼だ。
やや寡黙な男だが、信用はできる。
「しかし、街道封鎖をされたのなら、長期補給は不可能だ。短期決戦が望ましい」
「分かってる。街の食糧ももう苦しい。今のところ、備蓄食糧を放出している事で体裁を保っているようだが……。しかし、どこを叩けば、戦争が終わるのかわからん」
穀倉地帯の道は、一見、確保されているようだが、山々に潜む盗賊に頻繁に襲撃を受け、奪われている。これを征伐しない限り、確保したとは言い難い。
「マテウスを倒せば、終わるんじゃないのか?」
カールが意見を述べるが、オットマーが否定する。
「それが、マテウスとは全く関係ない動きも見られるんだ。彼の上に誰かが居るはず」
ハインツが口を開く。
「オットマー。お前の動きが、今回の戦いの最前線だと思う。早く、敵の組織全体像を見つけてくれ」
「わかってるよ」
【6】
会議の最後で、ハインツが内容をまとめた。
「今の課題は、大きく4つだ」
一つ目は、物資の不足。
街道の封鎖により、物資の不足が予想される。これにより多少強引にでも、物事を進めなければならなくなった。
最悪、食糧の配給制を検討中だ。
なお、リベンジは西支部が行う。ハインツたちがやれることは余りない。
二つ目は、フルスベルグ包囲網対策。
今は、南支部と北支部が協力して、周囲の村々を巡り、監視している。今のところ大きな問題は起きていない。
三つ目は、フルスベルグ市内の治安。
街道の封鎖によって、市内に不安の気配があるという。少しずつ情報を流す事で対応する。これは全支部の冒険者組合長と諜報部が対応する。
四つ目は、街道封鎖に呼応した各地での魔物や盗賊の鎮圧。
ハインツは、これらのうち、東支部の担当を〈依頼〉化してまとめた。
内容は以下の通り。
1 東北の、穀倉地帯に向かう街道沿いの盗賊の拠点探索と討伐
2 東南の〈不死生物〉の洞窟の最下層踏破
3 冒険者の大量失踪についての調査
4 東の村々が、突然集団失踪した件についての調査
依頼を受けられる条件は冒険者クラスCかつ、〈指導者〉技能C以上であること。
「以上だ。では、会議を終了する」
部屋に最後まで残っていたハインツは、カールに話しかけた。
「おっちゃん、後でいいから、人事リストを見せてもらえないか?」
「構わないが、どうするんだ?」
「先ほどの〈依頼〉を受けられる相手なんて数える程しかいないはずだ。だから、こちらから、目ぼしい相手に依頼しに行く。それでも無理なら、俺がやるしかない」
「まあ、それもそうだな。じゃあ、用意しておくから、奥の部屋で待ってろ」
「ありがとう」
【8】
ハインツは、モニカの屋敷の前に来ていた。ドアノッカーを叩く。
しばらくすると、鍵の開く音と共に玄関が開いて〈侍女〉が顔を出す。初めて見る顔だ。
新しく、人を入れたのだろう。
「どちらさまですか?」
「ハインツ=ドレイアーという。モニカはいるか?」
「ご主人様ですか。少々お待ちください。」
パタンと扉が閉まる。
ハインツはしばらく待つと、先ほどの侍女が慌てながら、また顔を出した。
「ハインツ様、申し訳ありませんでした。ご主人様は中庭に居ますので、そちらはお周りください」
「どうも、ありがとう」
案内を受けて、中庭に向かう。
中庭ではモニカがいた。二階の窓辺にいるコルと、大きい声を交わしている。
「少し、大きいですー!」
何をやっているのか分からない。しばらく見ていると、コルがハインツに気がついた。
「モニカお姉様ー! 後ろー!」
その声にモニカは振り向いた。そしてパタパタと駆け寄って来た。
「ハインツさん。こんにちわ。」
「やあ」
軽く挨拶を返すと、モニカは、視線を軽く外した。ハインツは思わず頬を掻く。
「それで、何をやっていたのだ?」
「あ、えと〈音の精霊〉を試していたのです」
モニカは、ぎこちない動きでハインツの右を見ながら言った。少し俯いて、人差し指を口に当てている。
「〈音の精霊〉?」
「そうです。あ、そうだ。ハインツさんも、少し実験に付き合って頂けますか?」
「構わないが、何をすればいいんだ」
「では、あそこに立ってください」
指差されたところは、モニカからもコルからも離れた位置だ。丁度、正三角形の頂点のような配置になる。
ハインツは指示された位置に向かう。遠いのでやや大きい声で言い返す。
「これでいいのかー!」
「はい、結構です。聞こえますか?」
モニカの声がすぐ背後から聞こえた。驚いてハインツは後ろを振り向くが、誰も居ない。
「これが〈音の精霊〉の基本魔法です。自分の声を遠くに届ける事ができます」
ハインツはううむと唸った。
彼の知っている〈音の精霊〉の効果は、オットマーが使う防音、消音ぐらいしか知らない。
これはこれで、使いどころは難しいが、うまく使えば役に立つ気がする。
「なるほど、これは面白い」
「……」
モニカから返事が来ない。聞こえなかったのかと思い、もう一度言う。
反応なし。
「モニカ?」
モニカは、その言葉を無視したかのように、言葉を続けた。
「ただ、問題がありまして、相手からの声が聞こえないのです」
「ぶっ」
前言撤回。使えねえ。
ハインツはモニカのところに戻る。実験は終了したらしく、後片付けをしていた。
「お待たせしてすいません。それでは客間に案内します」
「ああ」
【9】
ハインツは客間に案内された。
誘導され、ふかふかのソファに座る。まもなくブリギッテが、盆に載せたティーカップを三つ運んできて、目の前に置く。
「ブリギッテ、ありがとう」
「はい、では失礼します」
お辞儀をして、彼女はそそくさと立ち去った。モニカは、ティーカップに手を伸ばす。
「そういえば、新しい〈侍女〉を雇ったんだな」
「ええ、冒険者クラスEの娘です。魔法を教える代わりに、賃金を安くしてもら」
モニカは途中で言葉を止めた。手に持ったティーカップをプルプル震わせていたと思いきや、そのままゆっくりとコースターの上に戻す。
「失礼しました。賃金を安くしてもらったのです」
ティーカップをよく見ると、口の部分が少し割れていた。モニカの顔が少し引きつっていた。
納得したハインツは、気がつかないふりをして話を続ける。
「ふむ、潰しが効くのは良い事だ。それで本題になるが」
ハインツは、今の状況とやるべき事を簡潔に説明した。その上で、モニカにお願いをする。
「〈党〉編成ですか?」
「そうだ」
ハインツのお願いとは、パーティーメンバーの勧誘だ。
「これから俺は、高難度の〈依頼〉を平行して消化していかなければならない。そこで、俺が考える限りの最高の〈党〉を編成したい」
モニカは、人差し指を口に当てて考え始めた。コルが隣で心配そうな顔で彼女を見つめている。
「評価して頂けるのはありがたい事です。期間はどの位になりそうですか?」
「最低で半年。長くて二年」
「屋敷を長期間、空けるわけにはいきません。街に帰ってこれますか?」
「少し難しいが、一ヶ月に一回は帰ってこれるようにしよう」
モニカは再び考え事を始めた。
ハインツは、彼女の癖を分かっているので、しばらく黙って待つ。
「その一ヶ月というのは、移動手段は何ですか?」
「馬車だ」
ハインツは自前の二頭立ての馬車を持っている。コストは高いが、思いつく限り最高の機動力を持つ。馬車の揺れを気にしなければ。
モニカはその事を思い出したのか、一瞬だけ嫌そうな顔をした。
「それより、速い手段があれば、短縮できますか?」
「モニカお姉様……。」
珍しい事にコルが口を出した。ハインツは眉をひそめる。
「どういう事だ。」
「説明するより、見てもらった方が早いと思います」
そう言いながら、モニカは懐からブローチを取り出した。そして魔力を注入する。すると、客間の部屋の壁に大きな穴が出現した。
ハインツは驚いて、ソファから立ち上がる。
「これは何だ?」
「一言で言えば、持ち運びできるダンジョンです。〈遺失魔法具〉ですので、詳しい原理は分かりません。」
ハインツは、壁の穴を慎重に見つめ回す。その背後で、淡々とモニカは説明をする。
「中に入っても、大丈夫なのか?」
「大丈夫です」
モニカは、ブローチを服に付けながら、コルの方に振り向いた。
「コルちゃん、お留守番をお願いするわ。」
「はい、モニカお姉様」
そして、ハインツの横を通り過ぎ、ダンジョンに一歩踏み入れながら、彼の方に振り向く。
「では、案内します」
【10】
「〈光の精霊〉よ。光球を作り出せ」
モニカは光球を召喚した。辺りを明るく照らす。周りには、質素な椅子や机、何かが入った木箱が運び込まれていた。
「なるほど、ここに物を運びこめば、馬車がなくても、休憩なしで移動ができるという訳か」
ハインツは辺りを見回しながら、モニカの後をついて行く。
「それもありますが、ハインツさんに見せたい物は別にあります」
右、左と曲がっていく。やがて目的地にたどり着いたらしい。モニカは立ち止まった。彼女が立ち止まった場所は、何も無い部屋だ。
「何も無いようだが」
「いえ、魔法陣が巧妙に隠されてます。今、起動させますのでお待ちください」
モニカは壁に手を当てる。
しばらくすると、部屋の壁という壁に複雑な紋様が浮かび上がった。そして、モニカの手を当てた場所に、白い穴が発生する。太陽の明かりだ。
「ついて来てください。」
モニカは穴の向こうへと消えて行く。ハインツも慌てて、追いかけた。
穴から出てみると森の中だった。モニカは、木々を見上げながら、懐かしそうにしている。
「ここは……?」
ハインツの疑問に、モニカは答えた。
「ここは、フルスベルグ東門から少し出たところの小山の中腹です。見せたい物は全て見せたので、戻りましょうか」
「あ、ああ」
ダンジョンから屋敷に戻る間、ハインツとモニカは、話を続けた。
「魔法陣を使って、二点の土地を繋げるという魔法を聞いた事がありますか?」
「いや、聞いたことはないな……」
「先ほどの魔法陣は、恐らく、三つの魔法陣から出来ています。一つ目は、今言った〈転移門〉の魔法陣。二つ目は自分自身の魔法陣を転写する〈自己複製〉。三つ目は魔法陣を隠蔽する〈不可視〉。これで、任意の場所に行って帰ってこられるようです。」
ハインツは先ほどから驚いてばかりだ。
「ということは、移動に馬すら必要ないということか?」
「いえ、初めて行く場所には、馬が必要です。ただ、野宿の必要はありません。いつでも、私の屋敷に帰って来ることができますので」
間もなく、元の門にたどり着いた。明かりが差し込む穴から、コルが心配そうな顔で覗き込んでいた。
「コルちゃん、ただいま」
コルは嬉しそうに手を振った。
「モニカお姉様、おかえりなさい」
【11】
再び、客間の中。
ソファに座ったハインツは、興奮を隠しきれずに膝を揺すった。
「凄い物を見せてもらった。これを本当に利用していいのか?」
「ええ、構いません。ですが、残りのメンバーは口の硬い人でお願いしていいですか?」
「もちろんだ。これは予定が、嬉しい方向にずれ込みそうだ。残りのパーティーメンバーと〈依頼〉内容はまた今度、紹介する」
「ええ、お願いします」
ハインツは立ち上がって、モニカとコルに手を差し出した。
「それでは、よろしく頼む」
「はい」
彼女たちは、ハインツの手を順番に握った。




