表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名もなき魔術師の一生  作者: きゅえる
【2章】
38/106

【41】33歳ハインツ、始動する

【1】


 〈冒険者組合〉東支部の一室。

 防諜の施されたその部屋で、頭上の〈光球〉を中心に、四人の影が放射状に伸びる。


「街道が封鎖された、だと?」

「うん。」


 冒険者組合東支部諜報部長のオットマーは、他人事のように頷く。そして、漆黒のマントを揺らし、フードを深く被り直した。


「敵の首謀者と思われる、若い女の亜人(デミヒューマン)が四人。そのうちの一人は捕まえたけど、奪い返された。もう一人は、西の諜報部が接触したとの連絡を受けたよ。残りの二人は調査中。」


 同じく、冒険者組合東支部人事部長のカールは首をひねった。眉間にはシワが寄っている。


「亜人ってのは何だ。」

「人とそれ以外の混血。まあ、邪法だよ。禁忌中の禁忌。今回は精霊との混血である〈精霊の子(エルフ)〉みたいだね」


 冒険者組合副組合長(サブギルドマスター)のハインツが、暗い顔になった。


「〈精霊の子(エルフ)〉か。おとぎ話の類と思っていたが」

「うん?」


 文学にはあまり学のないカールが、疑問を投げ掛けた。すると、オットマーが横から口を出す。


「有名なところで言えば『ウンディーネの呪い』かな。解説、要る?」

「あー、頼む」

「少し長くなるけど。今回と関係ない話でもないし。」


 オットマーは前置きを置いてから、朗々と語り始めた。


【2】


 昔々、ある海の波間に、水の精霊(ウンディーネ)がいました。彼女は特に自我もなく、波の向くまま、風の向くままに、たゆたっていました。

 しかし、数十年の時が経ち、ついに自我を得ます。生まれたばかりの彼女には、世の中の全てが輝いていました。

 そして、世界中の海を旅します。

 東に行っては日の出を見て感動し、北に行っては氷の谷に驚き、西に行っては魔術師と会話を楽しみました。

 次に向かった南の大陸で、彼女は運命に遭遇しました。海辺で偶然見かけた王子様に、一目惚れしてしまいます。

 しかし、精霊は自然の一部。人に触れることすらできない身です。恋い焦がれながらも半ば諦め、旅を続けます。

 ところが旅先で出会った魔女に、自分の悩みをなんとはなしに打ち明けると、どうにかなるかもしれないと言われました。

 詳しく話を聞くと、精霊を人間にするという儀式があるらしいのです。さっそく懇願しました。

 魔女は言いました。


「人間にするには、条件がある。決して人と交わってはいけないよ」


 彼女は、二つ返事で承諾します。そして、ついに彼女は人間になりました。

 さっそく、彼女は王子様の国に向かいます。初めて見る人間の国。右も左も分からない彼女は、王宮に向かいます。

 当然、門の兵士に追い出されますが、運良くそこに、王子様が通りがかります。

 彼は驚きました。

 何故なら、彼女は人間離れした美貌の持ち主だったからです。

 彼もまた彼女に一目惚れし、彼女を王宮に招き入れました。それからしばらくは王宮で過ごします。

 しかし、王宮で過ごすうちに、彼女は段々と弱っていきます。元〈水の精霊〉である以上、水の無いところでは生きられなかったのです。

 彼女は、別れも言えずに、王宮を立ち去ります。直ぐに気がついた王子様は、彼女を追いかけます。

 そして言いました。


「僕は君が居なくなるのが、耐えられないんだ」


 その言葉を聞いた彼女は、泣きながら告白しました。自分は水の精霊だと。人と精霊は交わってはいけない運命だと。


「それでも、君を愛している」


 二人は抱きしめ合いながら、共に暮らすことを約束します。そして王宮に戻り、直ぐに彼女が住めるように改良しました。

 やがて、二人は結婚しましたとさ。

 めでたし、めでたし。


【3】


 オットマーは意地の悪い笑みを浮かべた。

 カールが無精髭を撫でながら、鼻を鳴らす。ハインツは黙って聞いている。


「女の子向けのおとぎ話か。だが、話が見えないな。」

「流通している貸本では、ここまでだ。だけど、本当はまだ続きがある。」

「ふむ?」


【4】


 王子様と結婚した〈水の精霊〉は、やがて子供を身籠もります。

 ところが、時を同じくして、風の噂を聞きつけた例の魔女がやってきました。


「なんて事をしてくれたんだ! 今からでも遅くはない。子供を私に預けなさい!」


 この言葉に、王となった彼は、激怒しました。


「この者を捕らえ、牢屋に入れよ!」

「愚王め! この国は近いうちに不幸に見舞われるであろう!」


 やがて、彼女は男の子を産みます。しかし、その赤ん坊は異常でした。眉目秀麗な顔ながら、色白の肌、青い髪、長い耳。

 人ではありませんでした。

 しかしそれでも、初めての子供。彼女は、化粧で隠しながら育てます。


 ところが、その子が育つにつれ、国中に異変が起きます。口から水を吐いて溺れ死ぬ病が流行り始めたのです。

 王は様々な対策を施しましたが、効果は現れません。仕方なく数年ぶりに、牢屋に閉じ込められていた魔女を呼び出しました。


「もはや、手遅れだ。その子の魔力は暴走している。私にはどうしようもない。殺すしかない」


 王様は苦悩しました。

 不幸の原因があるならば、排除するしかない。しかし、自分の子供を失いたくはない。

 そこで、自分の妻と子供を高い塔に幽閉し、その間に対策を考えることにしました。

 しかし、時すでに遅し。ついに、王様もその病気にかかり、亡くなってしまいます。

 彼女とその子供は、知らせを受けると、悲観し、後を追って塔の天辺から身投げをしてしまいました。

 おしまい。


【5】


「うちの娘たちには、あんまり聞かせたくない話だなあ」


 カールは、無意識に無精髭を手でさする。


「おっちゃん、娘さんも居るんですか?」

「ああ、今年で16と14かな。最近、嫌われているのか、話をまともにしてくれん」

「おとぎ話という年齢でもないでしょうに。子供扱いをするのが原因じゃないですか?」


 カールは言い返せず、むうと唸った。


「そうかもな。だが、親にとっては、子供はいつまでたっても、子供なんだよ。ハインツ坊も覚えておくといい」

「それはどうも」


 ハインツは無表情で受け流す。

 モニカとの子供を作った後のことを言いたいらしい。だが、そこまで仲は進行していない。彼の頭の中では、どんなことになっているのか興味ある。

 いや、やはり、知りたくはない。

 オットマーは首をすくめた。


「それで話の続きはいいかい?」

「すまなかった。続けてくれ。」

「まあ、おとぎ話なんだけどね。実際にあった話を元にしてるらしく、一部、事実が含まれている」


 一度、言葉を切ったオットマーに対して、ハインツとカールが無言で次を促す。


「〈精霊の子(エルフ)〉は、髪の毛が対応する精霊の色で染まるということ、長い耳であること。そして、生まれつき、対応する精霊の魔法を使いこなすということだ。あとは」


 ハインツが驚きの声をあげる。


「おい、近づいただけで、口から水を吐いてやられるのか?」

「いや、そこまではいかない。〈ウンディーネの呪い〉は、簡単に発動できない。体内を操作する魔法は、生命の精霊が強固に守ってくれる。ただ、直接触られたら、わからん」

「面倒だな」

「確認されたのは、地水火風の〈|精霊の子〉だ。だから、最低でも四属性に対応する魔術師を連れて来て、相殺しながら戦うしかない」

「まあそれなら、なんとかなるのか?」


 ハインツの頷きに、オットマーは首を横に振った。フードを被り直す。


「まだある。さらに〈翼竜(ワイバーン)〉も目撃されたってさ」

「翼竜か」


 ハインツは苦々しい顔をした。〈翼竜〉自体は簡単に撃ち殺せるが、他と連携されると面倒だ。特に、矢を弾く〈風の魔術師〉と相性は抜群だ。


「翼竜か。昔を思い出すな」


 カールは口笛を吹きながら、椅子の背もたれに寄りかかった。


「三十年前の?」

「そうだ。あの時は、街に竜の群れが襲撃してくる度に、カーンカーンと時計台の鐘の音がけたたましく鳴ってな。それが避難の合図だった」

「そんなに凄かったんですか?」


 カールは、まるで少年のように興奮しながら、手振り身振りで語り始めた。


「そりゃもう。俺は目の前に竜がおりてきて、もうダメだ、と幼心に思ったんだ。だが、〈竜殺し(ドラゴンズレイヤー)〉の英雄ヴォルフが横から飛び込んできてな。遥か上から見下ろしてくる竜に、先頭切って立ち向かっていったんだ。その姿に痺れたもんだ。実は、俺、彼に憧れて冒険者組合に入った口でな。」


 当時のことを語るカールを、聞き流しながら、ハインツは、以前漁った文献を思い出していた。

 いくつか、竜殺し用の武器を色々と考案されたらしい。必要になるかもしれない。

 ハインツはずっと沈黙を保っていた四人目の男に、目を向ける。


「クサーヴァ。対竜武器を準備できるか?」

「ん。多分、できる。」


 クサーヴァと呼ばれた男は、今年、新設された兵站部の部長だ。物資、武器に関しては彼に全て一任してある。商人の扱いも彼だ。

 やや寡黙な男だが、信用はできる。


「しかし、街道封鎖をされたのなら、長期補給は不可能だ。短期決戦が望ましい」

「分かってる。街の食糧ももう苦しい。今のところ、備蓄食糧を放出している事で体裁を保っているようだが……。しかし、どこを叩けば、戦争が終わるのかわからん」


 穀倉地帯の道は、一見、確保されているようだが、山々に潜む盗賊に頻繁に襲撃を受け、奪われている。これを征伐しない限り、確保したとは言い難い。


「マテウスを倒せば、終わるんじゃないのか?」


 カールが意見を述べるが、オットマーが否定する。


「それが、マテウスとは全く関係ない動きも見られるんだ。彼の上に誰かが居るはず」


 ハインツが口を開く。


「オットマー。お前の動きが、今回の戦いの最前線だと思う。早く、敵の組織全体像を見つけてくれ」

「わかってるよ」


【6】


 会議の最後で、ハインツが内容をまとめた。


「今の課題は、大きく4つだ」


 一つ目は、物資の不足。

 街道の封鎖により、物資の不足が予想される。これにより多少強引にでも、物事を進めなければならなくなった。

 最悪、食糧の配給制を検討中だ。

 なお、リベンジは西支部が行う。ハインツたちがやれることは余りない。


 二つ目は、フルスベルグ包囲網対策。

 今は、南支部と北支部が協力して、周囲の村々を巡り、監視している。今のところ大きな問題は起きていない。


 三つ目は、フルスベルグ市内の治安。

 街道の封鎖によって、市内に不安の気配があるという。少しずつ情報を流す事で対応する。これは全支部の冒険者組合長と諜報部が対応する。


 四つ目は、街道封鎖に呼応した各地での魔物や盗賊の鎮圧。

 ハインツは、これらのうち、東支部の担当を〈依頼(クエスト)〉化してまとめた。

 内容は以下の通り。


1 東北の、穀倉地帯に向かう街道沿いの盗賊の拠点探索と討伐

2 東南の〈不死生物アンデッド〉の洞窟の最下層踏破

3 冒険者の大量失踪についての調査

4 東の村々が、突然集団失踪した件についての調査


 依頼を受けられる条件は冒険者クラスCかつ、〈指導者〉技能C以上であること。


「以上だ。では、会議を終了する」


 部屋に最後まで残っていたハインツは、カールに話しかけた。


「おっちゃん、後でいいから、人事リストを見せてもらえないか?」

「構わないが、どうするんだ?」

「先ほどの〈依頼〉を受けられる相手なんて数える程しかいないはずだ。だから、こちらから、目ぼしい相手に依頼しに行く。それでも無理なら、俺がやるしかない」

「まあ、それもそうだな。じゃあ、用意しておくから、奥の部屋で待ってろ」

「ありがとう」


【8】


 ハインツは、モニカの屋敷の前に来ていた。ドアノッカーを叩く。

 しばらくすると、鍵の開く音と共に玄関が開いて〈侍女(メイド)〉が顔を出す。初めて見る顔だ。

 新しく、人を入れたのだろう。


「どちらさまですか?」

「ハインツ=ドレイアーという。モニカはいるか?」

「ご主人様ですか。少々お待ちください。」


 パタンと扉が閉まる。

 ハインツはしばらく待つと、先ほどの侍女が慌てながら、また顔を出した。


「ハインツ様、申し訳ありませんでした。ご主人様は中庭に居ますので、そちらはお周りください」

「どうも、ありがとう」


 案内を受けて、中庭に向かう。

 中庭ではモニカがいた。二階の窓辺にいるコルと、大きい声を交わしている。


「少し、大きいですー!」


 何をやっているのか分からない。しばらく見ていると、コルがハインツに気がついた。


「モニカお姉様ー! 後ろー!」


 その声にモニカは振り向いた。そしてパタパタと駆け寄って来た。


「ハインツさん。こんにちわ。」

「やあ」


 軽く挨拶を返すと、モニカは、視線を軽く外した。ハインツは思わず頬を掻く。


「それで、何をやっていたのだ?」

「あ、えと〈音の精霊(エコー)〉を試していたのです」


 モニカは、ぎこちない動きでハインツの右を見ながら言った。少し俯いて、人差し指を口に当てている。


「〈音の精霊〉?」

「そうです。あ、そうだ。ハインツさんも、少し実験に付き合って頂けますか?」

「構わないが、何をすればいいんだ」

「では、あそこに立ってください」


 指差されたところは、モニカからもコルからも離れた位置だ。丁度、正三角形の頂点のような配置になる。

 ハインツは指示された位置に向かう。遠いのでやや大きい声で言い返す。


「これでいいのかー!」

「はい、結構です。聞こえますか?」


 モニカの声がすぐ背後から聞こえた。驚いてハインツは後ろを振り向くが、誰も居ない。


「これが〈音の精霊(エコー)〉の基本魔法です。自分の声を遠くに届ける事ができます」


 ハインツはううむと唸った。

 彼の知っている〈音の精霊〉の効果は、オットマーが使う防音、消音ぐらいしか知らない。

 これはこれで、使いどころは難しいが、うまく使えば役に立つ気がする。


「なるほど、これは面白い」

「……」


 モニカから返事が来ない。聞こえなかったのかと思い、もう一度言う。

 反応なし。


「モニカ?」


 モニカは、その言葉を無視したかのように、言葉を続けた。


「ただ、問題がありまして、相手からの声が聞こえないのです」

「ぶっ」


 前言撤回。使えねえ。


 ハインツはモニカのところに戻る。実験は終了したらしく、後片付けをしていた。


「お待たせしてすいません。それでは客間に案内します」

「ああ」


【9】


 ハインツは客間に案内された。

 誘導され、ふかふかのソファに座る。まもなくブリギッテが、盆に載せたティーカップを三つ運んできて、目の前に置く。


「ブリギッテ、ありがとう」

「はい、では失礼します」


 お辞儀をして、彼女はそそくさと立ち去った。モニカは、ティーカップに手を伸ばす。


「そういえば、新しい〈侍女(メイド)〉を雇ったんだな」

「ええ、冒険者クラスEの娘です。魔法を教える代わりに、賃金を安くしてもら」


 モニカは途中で言葉を止めた。手に持ったティーカップをプルプル震わせていたと思いきや、そのままゆっくりとコースターの上に戻す。


「失礼しました。賃金を安くしてもらったのです」


 ティーカップをよく見ると、口の部分が少し割れていた。モニカの顔が少し引きつっていた。

 納得したハインツは、気がつかないふりをして話を続ける。


「ふむ、潰しが効くのは良い事だ。それで本題になるが」


 ハインツは、今の状況とやるべき事を簡潔に説明した。その上で、モニカにお願いをする。


「〈パーティー〉編成ですか?」

「そうだ」


 ハインツのお願いとは、パーティーメンバーの勧誘だ。


「これから俺は、高難度の〈依頼(クエスト)〉を平行して消化していかなければならない。そこで、俺が考える限りの最高の〈党〉を編成したい」


 モニカは、人差し指を口に当てて考え始めた。コルが隣で心配そうな顔で彼女を見つめている。


「評価して頂けるのはありがたい事です。期間はどの位になりそうですか?」

「最低で半年。長くて二年」

「屋敷を長期間、空けるわけにはいきません。街に帰ってこれますか?」

「少し難しいが、一ヶ月に一回は帰ってこれるようにしよう」


 モニカは再び考え事を始めた。

 ハインツは、彼女の癖を分かっているので、しばらく黙って待つ。


「その一ヶ月というのは、移動手段は何ですか?」

「馬車だ」


 ハインツは自前の二頭立ての馬車を持っている。コストは高いが、思いつく限り最高の機動力を持つ。馬車の揺れを気にしなければ。

 モニカはその事を思い出したのか、一瞬だけ嫌そうな顔をした。


「それより、速い手段があれば、短縮できますか?」

「モニカお姉様……。」


 珍しい事にコルが口を出した。ハインツは眉をひそめる。


「どういう事だ。」

「説明するより、見てもらった方が早いと思います」


 そう言いながら、モニカは懐からブローチを取り出した。そして魔力を注入する。すると、客間の部屋の壁に大きな穴が出現した。

 ハインツは驚いて、ソファから立ち上がる。


「これは何だ?」

「一言で言えば、持ち運びできるダンジョンです。〈遺失魔法具ロストマジックアイテム〉ですので、詳しい原理は分かりません。」


 ハインツは、壁の穴を慎重に見つめ回す。その背後で、淡々とモニカは説明をする。


「中に入っても、大丈夫なのか?」

「大丈夫です」


 モニカは、ブローチを服に付けながら、コルの方に振り向いた。


「コルちゃん、お留守番をお願いするわ。」

「はい、モニカお姉様」


 そして、ハインツの横を通り過ぎ、ダンジョンに一歩踏み入れながら、彼の方に振り向く。


「では、案内します」


【10】


「〈光の精霊(イルリヒト)〉よ。光球を作り出せ」


 モニカは光球を召喚した。辺りを明るく照らす。周りには、質素な椅子や机、何かが入った木箱が運び込まれていた。


「なるほど、ここに物を運びこめば、馬車がなくても、休憩なしで移動ができるという訳か」


 ハインツは辺りを見回しながら、モニカの後をついて行く。


「それもありますが、ハインツさんに見せたい物は別にあります」


 右、左と曲がっていく。やがて目的地にたどり着いたらしい。モニカは立ち止まった。彼女が立ち止まった場所は、何も無い部屋だ。


「何も無いようだが」

「いえ、魔法陣が巧妙に隠されてます。今、起動させますのでお待ちください」


 モニカは壁に手を当てる。

 しばらくすると、部屋の壁という壁に複雑な紋様が浮かび上がった。そして、モニカの手を当てた場所に、白い穴が発生する。太陽の明かりだ。


「ついて来てください。」


 モニカは穴の向こうへと消えて行く。ハインツも慌てて、追いかけた。

 穴から出てみると森の中だった。モニカは、木々を見上げながら、懐かしそうにしている。


「ここは……?」


 ハインツの疑問に、モニカは答えた。


「ここは、フルスベルグ東門から少し出たところの小山の中腹です。見せたい物は全て見せたので、戻りましょうか」

「あ、ああ」


 ダンジョンから屋敷に戻る間、ハインツとモニカは、話を続けた。


「魔法陣を使って、二点の土地を繋げるという魔法を聞いた事がありますか?」

「いや、聞いたことはないな……」

「先ほどの魔法陣は、恐らく、三つの魔法陣から出来ています。一つ目は、今言った〈転移門(ワープポータル)〉の魔法陣。二つ目は自分自身の魔法陣を転写する〈自己複製(セルフコピー)〉。三つ目は魔法陣を隠蔽する〈不可視(インビジブル)〉。これで、任意の場所に行って帰ってこられるようです。」


 ハインツは先ほどから驚いてばかりだ。


「ということは、移動に馬すら必要ないということか?」

「いえ、初めて行く場所には、馬が必要です。ただ、野宿の必要はありません。いつでも、私の屋敷に帰って来ることができますので」


 間もなく、元の(ゲート)にたどり着いた。明かりが差し込む穴から、コルが心配そうな顔で覗き込んでいた。


「コルちゃん、ただいま」


 コルは嬉しそうに手を振った。


「モニカお姉様、おかえりなさい」


【11】


 再び、客間の中。

 ソファに座ったハインツは、興奮を隠しきれずに膝を揺すった。



「凄い物を見せてもらった。これを本当に利用していいのか?」

「ええ、構いません。ですが、残りのメンバーは口の硬い人でお願いしていいですか?」

「もちろんだ。これは予定が、嬉しい方向にずれ込みそうだ。残りのパーティーメンバーと〈依頼(クエスト)〉内容はまた今度、紹介する」

「ええ、お願いします」


 ハインツは立ち上がって、モニカとコルに手を差し出した。


「それでは、よろしく頼む」

「はい」


 彼女たちは、ハインツの手を順番に握った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ