【28】エリー、街を守る(2)
【8】
冒険者組合の東支部、作戦本部にて。
ミヒェル組合長を中心に、ハインツ副組合長、カール、書記含む何人かの役員が着席している。
更に、魔術師組合、銀行、西南北の冒険者組合の出向者が1人ずつ。さらに組合に馴染みの商人達が数名が作戦本部に詰めていた。
ハインツが口を開く。
「報告します。まず、暫定的にですが、東支部では、クラスC約100名、クラスD約200名、クラスE約300名は調査完了し、安全を確認しました。その他の支部も報告お願いします。」
西支部の役員は自慢げに報告する。
「西支部はクラスCが約70名、クラスDが約100名、クラスEが約100名の内調が終わっています。」
北支部の役員は淡々と報告。
「北支部は、Cが100だ。Dには手が回らん。」
「南支部は、クラスCが50人ほど終わっている。」
南支部は肩身を狭くして報告した。
ハインツはそれらの報告を受け、言葉を付け足した。
「全ての冒険者達が〈緊急依頼〉として既に本人に了解を得ています。」
「ご苦労。」
ミヒェルは頷いた。
確認を取ったハインツは、司会をそのまま勤める。
「まず、最初の議題ですが、襲撃地点周辺で発見された敵の拠点と思われるダンジョンの探索です。これは西支部が指揮を取ることになっています。」
西支部の出向者が言葉を引き継ぐ。
「その通りです。我が西支部ではクラスC10名がこれに当たる事になっています。つきましては、東支部からも人を出してもらうよう頼まれてます。」
ミヒェルが鷹揚に首肯する。
「では、西支部の方、こちらからクラスDを50名ほど貸し出そう。カール、適当に見繕っておいてくれ。」
「はい。」
そこに商人が口を挟む。
「では、我が商会は70人分の馬車を準備すれば宜しいので?」
特に問題ないのでそのまま受諾しておく。
「ああ、ぜひ頼む。書類は事後で良い。」
ハインツはしばらく待ち、誰も発言しない事を確認して次の議題に移る。
「次は、フルスベルグの防衛に関してです。今日から正門を閉じ、門を通る人間は厳密なチェックを受けさせる為、人員を増やすように、中央部から要請されています。」
ミヒェルは渋い顔をした。
「それは構わないが、監視の質をあげる必要はあるか?」
「ないでしょう。」
「なら、通常の募集枠を広げるだけで良いな。」
「ではそのように。」
「そう言えば、昇級試験襲事件の生存者2名が何事もなければ明後日、到着するそうです。どうしましょうか。」
受験者が10名中、2名しか生き残らないというのは、過去最低の試験だ。ミヒェルは歯を噛み締めた。
「……無事に現金輸送車を送り届けている。儂は、ランクDにあげても良いと思うのだが。」
銀行の出向者が反応する。
「こちらとしても異存はありません。」
昇級の判定には、組合長ミヒェル、依頼人、試験監督官2名の承認が必要だ。ちょうどこの場に全員いる。
ミヒェルは振り返って試験監督官にも尋ねる。
「お前たちも、異存はないのか?」
「……ありません。」
試験監督官は、複雑な顔をした。今回の試験の責任者である以上、今後事情聴取が予定されている。どこでどう裏切り者が手引きしたのかを調べなければならない。文句を言えるはずがなかった。
ミヒェルは言った。
「ならば、到着次第、略式に認定授与を行い、さらに、儂の所に来るよう、手配してくれ。」
「はい。ではそのように。」
ハインツは手持ちの書類をめくりながら言う。
「では、次に行きます。周辺の村のいくつかで不穏な動きが見られます。」
「だいぶ前から報告があった奴か。それがどうした?」
ハインツが、何度も書類を見直す。
「それが、連絡が取れないんです。」
「うん……?」
そこに魔術師組合の出向者が話に割り込んできた。
「それについてはこちらに情報がある。」
ミヒェルは目を見開いた。視線で次を促す。
「一部の村が魔法を使って要塞化しているようだ。つまり何かと戦う準備をしているという事だ。」
ミヒェルは唇を舐めて悔しがった。
「ここでこうくると言う事は、敵は村々に対しても懐柔工作をしていたという訳か。我々が宥めすかしていたのが徒労に終わった訳か。」
銀行の出向者が口を開く。
「我々は裏切り者に対して、口座の封鎖、及び貨幣の取り扱い中止を予定していますが、村単位となると……。」
誰かがその言葉を引き継いだ。
「食べ物がこの街に入らなくなるという事か」
「ええ、金の流れの逆は、物の流れ。金を堰き止めると物が入ってこなくなります。」
ミヒェルが言う。
「王都の方から回してもらえないのか?」
これに対し、腕を組んでいた商人が遠い目をしながら言った。
「可能でしょうが、馬で12日はかかる日程。金はともかく、腐る物はこちらに届かないでしょうなあ。」
誰かが口を出す。
「魔法で凍らせればいいんじゃないか? 氷室のようにすれば良い。」
魔術師組合の出向者はウンザリしたような口調で言った。
「それは出来ない。禁呪に該当する。少量ならどうにかならんでもないが。なんなら、値段を20倍にしても良いなら請け負ってやってもいいぞ。」
誰も返事を返さない。
その様子を見ていたミヒェルが、ハッとして、兵站部門の役員の方に向き直った。
「もし、我々が補給なしで戦いを始めた場合、何日もつ?」
彼は頭で計算し、やがて言った。
「そうですな、詳しく調べ直さないと分かりませんが、騙し騙しで3ヶ月と言ったところでしょうか。
そこに商人が口を出す。
「待ってください。まず、街道を安全にして頂ければ、補給はやります。」
ミヒェルは商人に手を翳して窘めた。
「別に補給しないと言うわけではない。最悪の場合を想定しただけだ。」
ハインツはそこに待ったをかける。
「お待ちください。周辺の村を制圧すれば、幾つかの物資補給路が回復します。」
ミヒェルは首を傾げた。
「うん、全ての村が反旗を翻した訳ではないのか?」
「大体、全体の4割と言ったところでしょうか。街周辺の村々が多いです。特に東北にある穀倉地帯に通じるルートを確保すれば楽になります。」
「ふむ、囲い込み戦術か。」
「ええ、ですが、不完全です。包囲網が完成する前に発覚して助かりました。」
西支部の出向者が口を出す。
「その、敵味方の地図は、こちらに提供してくれるんでしょうな。」
ミヒェルはその言葉に反応して、他の地区の出向者の顔を見渡した。これは当然共有しなければならない情報だ。渡さない理由はない。
だから、心の中で舌打ちをした。西支部と、北支部はまだいい。南支部の組合長は直系でありながら、敵と通じている可能性があるのだ。内情を探る準備はまだ出来ていない。
だから断りたい。
「分かりました。こちらの情報を皆さんに提供しましょう。」
ハインツの方を見ると、「いいんですか?」という目を向けてきた。悟られてはならない。その視線を無視する。
「まずは、補給路の確保だな。王都に通じる西の街道の制圧維持か、東北に通じる穀倉地帯への制圧を優先するか。」
「西の街道の治安維持は、我が支部がやります。」
西支部の出向者が、勇んで語った。
「そうか、ならば儂らは東北の穀倉地帯の制圧に向かう。所詮、農民だ。補給が尽きる前に制圧出来るだろう。」
ミヒェルは南支部と北支部の出向者の顔を交互に見た。
「そちら方の状況は?」
「我輩らはまだ、団を出せる程度に内部調査が安定しておらぬ。もう少し時間がかかる。」
「こちらも同様だ。」
北支部と南支部は揃って、横に首を振った。
ミヒェルは定型文で釘を刺しておく。
「ならば、速やかに対応をお願いしたい。」
ハインツが取り纏めに入る。
「今日の議題は以上ですが、他に何か質問はありますか?」
魔術師組合の出向者が軽く手をあげて発言する。
「敵は数々の〈遺失魔法具〉を所有していると言ってたな。ならば、入手できたのならば.今度こそ、我が組合に提示してもらうぞ。」
ミヒェルはやや怒り気味の彼を、面白そうに見つめ、言った。
「おや、イルムヒルデ女史はお宅の組合にも所属していたはずだが?」
「あれは特別だ! 第一引退者を引きずりだすなど、卑怯だ。引き篭もる事を前提に、わざわざ三つもの商売を許したのだ。これでは約束が違う!」
「なるほど、では彼女が信用出来ないと。」
「くっ。いや、そんな事はない!」
魔術師は悔しそうに否定した。
ミヒェルは彼らの本音が少し読める。
魔法を追求するのが、魔術師組合の本質である。魔法具販売店の許可証や、鑑定業の許可証などは副次的なものにすぎない。
数々の遺失魔法具や魔法が向こうから飛び込んでくるのだ。きっと、大喜びだったのだろう。
ゆえに魔術師組合は、今までは分からないが、これからは敵に回る事はないだろうし、敵に通じるという事もないだろう。
何故なら、遺失魔法具を手にするのなら、取引するより、収奪した方が速いし、見返りを提供しなくてすむ。
何より戦いの先頭に立つのは冒険者たちなのだ。彼らは、美味しい汁を吸える位置にいる。
ハインツは二人の様子を確認した後、再び、締めに入る。
「他に何かありますか? なければ会議は終わります。」
【9】
会議後。
閑散とした会議室で、ミヒェルとハインツ、カールだけが集まっている。
組合長であるミヒェルは東支部の内部調査だけでなく、他の支部の調査をしていた。
「他の組合について、どうなっている?」
カールが髭をなぞりながら、ミヒェルの問いに答えた。
「魔術師組合に関しては、特に変化は見られないようです。」
ハインツも意見を述べた。
「俺も、それとなく知り合いに聞いてみましたが、今回の件は今まで培った技術の展覧会みたいな感覚でいますよ。きっと、今度の戦争は派手でしょう。」
二人の意見にミヒェルも同調する。
「ふむ、儂も似たような印象だ。魔術師組合については調査中止でいいだろう。」
「了解。」
ミヒェルに次の話題に移る。
「冒険者組合についてはどうか?」
「西支部は、裏切り者を出したので、名誉挽回に必死みたいです。下の者はかなり無理させられてるそうですよ。」
「確かに内部調査も我らの次に進んでおるな。」
ミヒェル達の東支部は、カールの持ち込んだ情報により、他より3日早く作業を開始する事ができた為、他より作業が進んでいる。西支部は、それに追随する量の仕事をこなしているのだ。
「では、西支部はシロ?」
「ほぼ。だが、現段階で確証は取れない。敵の拠点の探索の結果次第だと思う。」
ミヒェルは北支部の話に移る。
「北支部はどうだ。あそこは何を考えているのかわからん。」
ハインツはそれに答える。
「それが、北支部は組合は、平常通りに作業しています。」
「では、問題ないのか?」
ハインツが首を横に振った。
「それが、平常通り過ぎるんです。冒険者組合の施設を覗いて見ましたが、組合由来の依頼が少ないんです。」
「やる気がない、という事か?」
ハインツは首を竦めた。
「どうでしょうね。ひょっとしたら、兵力を温存する腹なのかもしれません。」
「ふむ……。ならば、北支部は調査続行だ。」
「はい。」
「では、一番怪しい南支部はどうだ。」
「北支部と比べると依頼の数は増えています。聞き込みした所、別に偽依頼でもなく、きちんと活動しています。」
ミヒェルは緊急会議での、南支部の組合長の顔を思い出していた。名指しでミヒェルを批判した。
彼はフルスベルグ直系の貴族で、やたらプライドが高い。外戚のミヒェルを目の敵にしている所があると思われる。
「ふむ。やる気はあるなのは確かか。ただ、組合長の性格がな……。」
「ええ、まさに街の中枢にいるような人間が、相手に与するとはちょっと考えづらいですが……。」
「こちらも一応、監視対象にしておくように。」
「分かりました。」
【10】
モニカ達が帰還した。
モニカはエリーが街に帰ってきていない事を知り、宿で臥せってしまった。代わりにコルが冒険者組合に出頭することになる。
「よう、おかえり。」
カールこと『組合のおっちゃん』が出迎えた。目の下には隈が出来ている。
「おじさま、只今、帰還しました。」
コル一人であることに気がつき、カールは質問した。
「モニカ嬢は?」
コルは、心配な面持ちで顔を伏せた。しばらくして顔をあげ、質問に答えた。
「エリーお姉様が帰っていらっしゃらないので、元気がないようです。」
コルの言葉を聞いてカールは無精髭を撫で回した。
「出頭は無理か。」
「無理だと思います。」
「……そうか。」
カールはしばらく沈黙していた。やがて、口を開く。
「エリーから伝言預かっていると、言ってもか?」
コルの目が見開いて、ソワソワしだす。伝言の話を聞けば、モニカも元気出すかもしれない。もしかしたら今エリーお姉様がどこにいるかわかるのかもしれない。
「伝言ですかッ?」
「エリー嬢と別れる前に、伝言を入れた金属板を預かってな、君らがいない間、組合長が大切に保管してくれた。今ここで、君らに返そうと思う。」
そう言ってカールは、胸につけていたエリーの〈金属板〉を取り外し、コルに受け渡した。
「あ、あ、ありがとうございます……。」
コルは感極まったのか、涙が零れ落ちた。
「どんな伝言が入っているかは知らん。宿のご亭主や女将さんにも残してあるらしいから、彼らにも伝えてやってくれ。」
「はい、分かりました。」
コルは急ぎ足で〈冒険者組合〉を後にしようとした。
玄関の扉を開こうとした時に、後ろから声を投げかけた。
「伝言を聞いた上で何かやりたいことがあったら、うちに来てくれ。やらなきゃならんことが一杯ある。」
「はい。」
コルは後ろを振り向かずにそのまま入り口を出た。
【11】
コルは宿に戻った。
宿に戻ると、三つあるベッドのうちの一つにうつ伏せでモニカが居た。
「モニカお姉様……。」
返事がない。
その様子を見て、どうしてコルは自分がこんなに強いのか不思議に思った。そして思い当たる。
最後にエリーお姉様と二人で戦いをしたのだ。まだその感覚が続いているのだと。
一方のモニカお姉様は、記憶を消去された為、いつの間にかエリーお姉様が居なくなってしまった感覚なのだ。
コルがそのような分析をしていると、モニカがようやく嗄れた声で顔を伏せたまま、コルに呟きかけた。
「あ……コルちゃん……。どうだった……?」
「モニカお姉様。元気を出してください。」
「……だってエリーが……エリーが……。」
ようやく、モニカは顔を上げた。顔にはひどく泣いた後があり、目の周りは真っ赤だ。
コルは落ち着いて、モニカに話しかけた。
「エリーお姉様がモニカお姉様に伝言を残されたようです。」
そう言ってコルは、エリーの〈金属板〉を差し出した。
それを見たモニカはますます泣き出してしまった。コルは困ってしまった。
元々、モニカが不安になっていたのは、エリーの馬、背嚢があるのに、本人がいないからである。さらに普通なら、肌身離さず持ち歩く身分証明ですらここにあるのだから、もっと絶望してしまったのも無理はない。
「まずは、伝言を聞きましょう。」
コルはそう言って、モニカに金属板を手に握らせた。
しばらく無反応だった。しかし、コルが辛抱強く待っていると、上半身を起こして魔力の注入を始めた。
そして、モニカは読み始めた。
ーー
モニカ=アーレルスマイヤへ
まずは落ち着いて、読んで下さい。
最初のダンジョンのこと覚えてますか?
あそこで私は、不用意に物に触ってごめんなさい。あの時、モニカっちは酷く怒りました。今にして思えば、あたしはとても愚かだった!
もう一度言います。ごめんなさい。
ーー
文章は冒頭から突然、昔語りが始まったので、大粒の涙が流れ落ち、嗚咽をこぼしはじめた。
あの時は、何でもないようなことが幸せだった! どんなに辛いことがあってもエリーと一緒なら耐えられるような気がした!
気が動転していたが何とか、気を落ち着けることに成功した。
モニカは読み進めた。
ーー
あの腕輪はただの腕輪じゃなかった。
身につけた物の記憶、知識、自我、能力、全てを吸い込み、次の装備者にその記憶を受け継がせる、とんでもない物だった!
時が経つにつれ、腕輪を作った魔術師の知識があたしの中に入ってきた。段々、あたしがあたしでなくなっていくのが怖かった。
ーー
モニカはここで一度読むのを止めた。
いつも能天気に見えていたエリー。だけど、この数年間、そんなトンデモないことになっているだなんて全く気が付かなかった!
エリーが苦しんでいるのに気づいてやれず、モニカはとても後悔した。
読み進める。
ーー
あたしは、自分が男なのか、女なのか、はたまた小娘なのか、老人なのか分からなくなっていた。
だけど、その中で絶対に変わらないモノがあった。それはモニカっち、君だ。
モニカ=アーレルスマイヤ、君だけは死んでも守る。死んでも、次の装備者の体を乗っ取ってやる。そして、君を迎えに行く。だから、待ってていてくれ。
今だから言える。
モニカ、君を愛してる。
ーー
モニカは涙が止まらなかった。
エリーがこんなにも想ってくれていたこと。そして、ひょっとしたら、いや確実にエリーが生きていること。
生きる希望が沸いてきた。
どうやら、まだ続きがあるようだ。読み進める。
ーー
一つ、モニカっちに謝らないといけないことがある。
余りに愛するあまり、夜な夜なモニカっちを襲ってたの。そして、その度に記憶を消してたの。
あ、処女だけは残しておいたから安心してね?
てへ、ゴメン。
ーー
……ビキ。
「あああぁぁんの、エリーのバカァアアアッ!」
さっきまで、泣いていたことすら忘れ、モニカは大きな声で叫んだ。
コルがびっくりしてベットから転げ落ちた。また、扉の外から宿の女将が心配そうにノックをしてきた。
「だ、大丈夫かい?」
宿の女将もモニカの事を心配していた。
昨日、モニカが帰って来て、いの一番に宿にエリーがいるかを尋ねてきた。その時に、女将は「いない」と答えた時、その場で倒れた。そのままコルの肩を借りて部屋に戻る時は、フラフラと足元が覚束なかったのだ。
それ以後、心配でたまに部屋を見に来ているのである。
「あ、大丈夫です。心配おかけしてすいません。」
コルが扉の中から宿の女将に言った。
モニカは、コルのその様子を見ていた。
まだ、続きがあるようだ。次の文を読み始める。
ーー
今後の事について。
ハインツさんに任せるように頼んであるので、一度、彼に会うように。
それと本当はあたしがこれを言う資格はないんだけど、コルの事は絶対に護ってやって欲しい。
後は任せた。
ーー
「エリー……。」
エリーの金属板をそっと抱きしめた。きっと、エリーもどこかで戦っているのだ。モニカもへこたれていてはいけない。
「モニカお姉様……?」
思えば、コルにも迷惑をかけてしまった。もう一度立ち上がってみよう。
「大丈夫。もう、大丈夫よ。コルちゃん。これは私が預かってていいかしら? エリーに会ったら、叩き返さないといけないし。」
「ええですけど、私も含めて、まだ伝言を残している人たちがいるみたいです。」
泣いていた跡が残ってはいるがモニカは既に泣いていなかった。そこには強い決意が現れていた。
「コルちゃんは伝言を見てないの?」
「いえ、モニカお姉様が先に見るべきだと思いまして……。」
「あら、そんなに気にする事なかったのに。」
そう言って、コルに金属板を手渡した。
「モニカお姉様、何が書いてあったんですか?」
「それは今から説明するわ。まずは、コルちゃんも伝言を見て頂戴。」
「はい、モニカお姉様。」
コルは魔力を注ぎこんで、伝言を見た。
そこには、モニカと同じように、エリーの秘密について書かれていた。
ただ、モニカには秘密で、例の首輪をイル先生に手渡すようにとの指示も付け加えられていた。
【12】
モニカ達は、冒険者組合に来た。
『組合のおっちゃん』ことカールは無精髭を撫でながら、ニヤニヤとしている。
「復活したようだな。」
カールは、モニカの泣き腫らした跡のある顔を見なかったことにした。
「はい、ご迷惑おかけしました。」
モニカは軽く頭を下げた。
「そうか、ならばまず手渡すものがある。」
一体何だろう、とモニカは首を傾げると、カールは封蝋された書類を、2通差し出してきた。
反射的にモニカは差し出されたものを受け取る。
「冒険者ランクDの略式認定証、及び、市民許可証だ。今後、街の中に家を立てる事も店を開く事もできる。露店なんかでなく、な。」
モニカは思い出した。
試験の前、三人で家に住もうと言って、じゃれあっていた事を。
モニカは、思わず涙が出そうになったがぐっと堪えた。泣かないと決めたのだ。
「はい、有難うございます。」
モニカが、頭を下げた。
「正式な認定書は、後で組合長が正式に認定印を押す。その時は改めて日程を連絡する。」
「はい。」
モニカの顔は何か、吹っ切れた顔だった。それを見たカールは、書類棚の奥からリストを取り出してきた。
「早速で悪いんだが、依頼が溜まってるんだ。どれか片付けてくれないか?」




