【26】エリー、街を守る(1)
【1】
コルは、現金輸送車の銀行員と話をしている時に、馬が後方が走ってくる音を聞いた。
急いで、現金輸送車の後ろを覗き込むと、馬が走ってくるのが見えた。
即座に飛び出した。
「ホーホーホー!」
コルは、馬を落ち着かせる言葉を叫びながら、走ってくる馬の前に両手を広げて立ち塞がった。
銀行員達は一瞬、目を背けた。17歳の女の子が馬に跳ね飛ばされて死ぬシーンを想像してしまったから。
やがて。
「大丈夫、大丈夫だから。ね。ほら、怖くないから。」
その声にようやく目を開けた銀行員たちが見たものは、自身の身長より高い馬の首筋を懸命に撫でて、宥めているコルの姿だった。
呆然とした銀行員の視線に気がついたコルは少し照れたように言った。
「申し訳ありません、お話の途中でした。ところで、たった今、連れていって欲しい馬が増えてしまったのですが、お願いできますか?」
「あ、ああ……。」
まるで伝説の〈戦乙女〉のようなキリと引き締まったコルの姿にただ、同意するしかできなかった。
銀行員は予備の手綱を取り出して、二頭立てから、即席の四頭立ての馬車にした。
現金輸送車とコルは王都に向けて出発した。
【2】
『組合のおっちゃん』ことカールは早馬制度を使って、フルスベルグを目指していた。
早馬制度とは、馬を全力で走らせるかわりに〈駅〉で馬を交代させて、昼も夜も走り続けるというモノである。
追いかけて来ていた盗賊は、早馬制度を利用できる訳もなく、初日からぶっちぎった。
そのお陰もあって、カールは普段なら6日かかる日程を不眠不休で2日でフルスベルグに到達することが出来た。
フルスベルグに着くな否や、冒険者組合東支部の〈組合長〉であるミヒェルに報告することになった。
作戦室に呼び出されたカールは、ミヒェルだけでなく、彼の若き右腕、ハインツも同席している事に気がついた。
「カール、よく生き残ってくれた。まずは礼を言う。」
「有難うございます。事件の詳細は追って書類で報告します。それに先んじて、エリーの方から〈組合長〉に伝言がありますので、受け取ってください。」
そう言ってカールは、エリーから受け取った〈身分証明の金属板〉をミヒェルに手渡した。
ミヒェルの名の下に魔力を注ぎ込むと、伝言が現れた。それに目を通す。しばらく無言の時間が流れた。
「それでなんと?」
興味を抑えきれないカールがミヒェルに言葉を促す。
「ふむ、これはあまり他言できるような事柄でもないが……敵の正体についての予想が書いてある。」
カールもハインツも目を丸くした。
「一体どういうことです?」
フルスベルグに不穏な空気が流れたのは今から凡そ30年前。行方不明になった冒険者の数が微増したことから始まる。
クラスE〜Gの冒険者がフルスベルグ内で宿泊するには、必ず指定の宿で泊まらなければならないことになっている。その為に冒険者組合から旅館組合に補助金が出ているのだが、代わりに冒険者の動向や消息を報告しなければならない。
そこからわかる冒険者数失踪者の統計の数字が、その年から今日に至るまで微増を続けていたのである。
原因がわからない中枢部は、様々な対策を行った。例えば、冒険者勧誘用のガイドブックの発行を中止させ、本の回収を行うなどの内部情報を外部に漏らさないように努力した。それでも微増を止める事ができなかった。
「敵の正体はかつてこの地方を納めていた王国の生き残りだろうと、言っている。」
ミヒェルの声は硬い。
「王国? 100年以上前からこの辺は我が国じゃないですか。」
カールが当然疑問に思ったことを口に出した。
「うむ、160年前ぐらいに滅んだのだそうだ。」
カールは想像の上をいった。狼狽した。しかし、あまりにも昔過ぎる。
「なんで今更なんです。」
そのカールの質問はミヒェルにとっても同じ気持ちだった。残念ながら、その質問に答えられる情報は、伝言には入ってなかった。
「それはわからん。だが、敵がその国にあった〈遺失魔法具〉を所有し、こちらの冒険者達を拉致して味方に引き込んで、向こう側の尖兵にしているそうだ。だから関係があるだろう、と。」
人事に関わりが深いハインツがハッと何かに気がついた。
「確かにそれだと辻褄が合いますね。」
ミヒェルは苦々しい顔で歯を食いしばった。
「この事を今から中央部の冒険者組合に連絡しなくてはならん。カール、ハインツ。東支部の内部調査を頼む。儂が完全に信用できるのはお前たちだけだ。頼む。」
「了解。」
「わかりました。」
【3】
ミヒェルが去った作戦室のカールとハインツはお互い視線を合わせ、苦笑した。
「あのハインツ坊がここまで偉くなるとはねえ。」
「辞めてください、『〈組合〉のおっちゃん』。昔を懐かしんでる暇なぞないでしょう。」
「まあな」と鼻をそらんじた後、カールは思い出したかのようにハインツに金属板を差し出した。
「エリー嬢はお前にも伝言を残している。見てみるか?」
「うん? 彼女とはそんなに接点はないはずだが……?」
「そんなってどんなだ。」
「たまに指名依頼で街の観光案内させられるだけだ。そうだな、二年ぐらい前から。」
カールは吹いた。
「くっくっくぅあっはっはっはっ!」
吹いた後、腹を抱えて大爆笑した。
「そりゃ、向こうに気があったんだよ! まるでデートの誘いじゃねえか! モテる男は辛いねえ?」
「だが、いつも三人での案内だったぞ?」
「なら、そのうちの誰かだな。まあ、いい、見てみろ。」
ハインツはカールから金属板を受け取り、掌で転がした。そしてギュッと握りしめ、魔力を注ぎ込む。
そして、ハインツの名において情報を引き出した。
ーーハインツ=ドレイアー様へ。
この伝言が貴方に届く頃には、恐らく貴方の知るエリーはこの世にはいないでしょう。
そこで、貴方にお願いがあります。
それはモニカ=アーレルスマイヤの事です。モニカ本人は気がついていませんが、貴方に気があるようなんです。
そこであたしが彼女を守れなくなった場合、貴方に守ってもらえるように二年前から、準備してきました。
貴方もモニカのことが気になっているのは気がついていました。
身勝手なお願いではありますが、彼女を保護して頂けないでしょうか。本当はあたしが守りたいのですが、それは不可能なようなので、大切な妹を貴方に託します。
どうかお願いします。ーー
「どうだった?」
カールがまだ最後まで読み終えてないハインツに話しかけた。
「おっちゃんのいう事はだいたい合ってた。モニカの事を宜しく頼むって書いてある。」
ハインツは伝言から目を離して応えた。
「やっぱりか。で、お前はどうなんだ。ん?」
カールはニヤニヤした顔でハインツに問いかける。こういう話が好きらしい。
「まあ、確かに、負けず嫌いの面倒臭い女だなあ、とは思ってはいたが……」
「なんでえ、お前も十分に鈍感な、面倒くせえ男じゃねえか。お似合いだよ。」
「いや、だが、しかし……。」
ハインツは逡巡する。
この街では、街の原型となったフルスブルグ村の子孫が実権を握っている。従って、街の中枢にいけば行くほど、フルスブルグの名を持つ人間が増えていく。
そこで外部の人間が街の中枢に関わる場合、フルスブルグ家の女と政略結婚することが慣習となっている。
実際〈組合長〉は政略結婚し、フルスブルグ家とは外戚関係になっているのだ。
そこで、今、ハインツも付き合っているフルスブルグ家の女がいるのだが。
実際のところ形だけで、何の感情もない。何度か会っただけだが、権力を傘にするような女だったので、本音を言えば付き合いたくない嫌な女だ。将来や権力のことを考えずに言えば、モニカの方がマシだった。だが、将来を考えれば……。
「実は、俺に政略結婚の話が来ている。」
ハインツの一言で、カールは全てを察した。
「ああ、なるほど。」
カールの顔が一転苦しい顔になった。それでも、言葉を続ける。
「だが、モニカのやつはな。村から追い出されて、頼る相手がいない可哀想な女なんだ。……弱った女を守ってやれない男なんて、男じゃねえよ。」
そんな決めゼリフにハインツの顔が一層、渋ったような顔になる。
「おっちゃんの価値観を押し付けないでください。後、文法がおかしい。」
カールは出鼻を挫かれたのか、それ以降、黙ってしまった。
手持ち無沙汰になったハインツは続きを読み始める。
ーー突然、こんなこと言われても戸惑うかもしれません。
ですが、モニカには、沢山良いところがあります。
まず、モニカは間違いなく処女です。
責任持って守ってきました。処女ではありますが、あたしがきっちり育てて来ましたので、夜の営みではとても可愛い声で鳴くと思います。
特に弱点はうなじと……ーー
「うおおおおおおおッ!」
ハインツは思わず叫び声をあげて、金属板を地面に叩きつけた。
驚いたカールは何事かと目を丸くした。
「おいおい、一体、何が書いてあった?」
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。」
カールの質問に答えず、ハインツは膝に手を当てて、息を整えていた。カールはハインツが叩き落とした金属板を取り上げる。
「い、いや……、何でもない……。」
ハインツは信じられなモノを見たかのような顔をしながら、掠れた声で応えた。
「そ、そうか? それで、思いついたんだが……。」
「な、何がです?」
取り敢えず、目を背けたい一心で次の言葉を促した。
「冒険者クラスBになれば、結婚しなくても上に登れるぞ?」
「! そうか! いや、待て!」
ハインツは混乱して意味不明なことを言った。
この街では冒険者クラスBになると、フルスベルグ家と同等の権力を持つようになる。即ち、フルスベルグ家と結婚したのと同じような扱いを受ける。当然、クラスBになる条件は厳しく、街の危機を救ったと認められた者だけがなれる。
つまり、前提として街の危機がないと発生しない身分なのである。
クラスAに至っては、フルスベルグ家より身分が上。街の支配者となれる存在となる。
ハインツはクラスA〜Bの存在を失念していた。危機がなければ生まれない存在なのだから、空気みたいなモノだ。
だが、不思議な仕組みだ、と改めて思った。
街の支配者は貴族たるフルスベルグ家じゃなかったのか? これでは、初めに街を作ったのは冒険者かのような……。いや、今は関係ない話だ。
思考を元に戻す。
クラスBになるというのは、モニカと付き合うことが前提の話だ。
先ほどの、生々しい変態の伝言で激しく心の天秤が揺らめいてた。もちろんそのような話は嫌いではないが、年下の女から生々しい話を見せられると流石にひく。
「待ってくれ。まだ、モニカを選ぶと決めた訳では……。」
「何だ、じゃあ、貴族の女を選ぶのか?」
「そ、その話は後にしてくれ。」
揺れた天秤はなかなか収まらないハインツはこの件を後回しにすることにした。
「ふむ? まあ、確かにそうだな。」
【4】
ミヒェルは、緊急会議に出席した。
出席者は、防衛に関わる組合長を主に、それ以外でも希望する〈組合長〉は外部席として出席できる。
ミヒェルは宣言した。
「長年、掴み損ねていた敵の正体がわかりました。敵は古代王国の生き残りです。」
出席者がどよめいた。
「古代王国は遥か昔に滅びたのじゃないのかね? どうして今になって?」
あれは〈魔術師組合長〉だ。歴史にも詳しい。
「そこまではわかりません。ただ、王国滅亡の歴史が今回の事件に深く関わっていると聞きました。詳しく教えていただけませんか?」
「始まりは第一皇太子が狂って、国王を殺害し、間もなく皇太子が自殺。その後、後継者争いで、内戦化したのだ。難民が我が国に大量に流れ着いた為、我が国が、もはやその国を、王国としての体裁をなさない悪の支配者として宣戦布告。その後速やかに王都を制圧して、二つの国が一つとなったのだ。この街は元々は、その国でも最大の都市であったが、我が国が膨大な資金を投入してここまで大きくした。いわばこの街は二つの国が合併した象徴でもある。」
ミヒェルでも詳しく知らなかった話が飛び出てきたので舌を巻いた。
「その際に、人を思い通りに操作する魔法具が皇太子に使われたのです。〈服従の首輪〉というモノです。」
「情報源はどこからだ?」
「それは申すことはできません。」
「では信用できないな。」
魔術師組合長は冷徹な響きでミヒェルを一刀両断にする。
「実のところ、その話の真実の有無は重要ではありません。問題はその同じ魔法具が、今回の事件で使用されていたことが発覚しました。」
「証拠はあるのかね?」
魔術師組合長の言葉をミヒェルは即座に切り返した。
「その魔法具そのものを入手しました。」
まだ、コル達が戻ってきてないので厳密に言えばミヒェルの言葉は嘘である。
しかし、その言葉で議場のどよめきが大きくなった。つまり、ミヒェルはこの議場の中に、既に操られている人間がいるという可能性を示唆しているのだ。
魔術師組合長は唸るような声を上げた。
「なるほどなるほど、それで、その魔法具は我が組合に提出して分析させてもらえるかね?」
「それはできません。」
騒ぎが大きくなった。
「静粛に!」
議長が鐘を鳴らして議場を静まらせる。
「では、その魔法具を独り占めするというのかね?」
これは冒険者組合西支部長の発言だ。ミヒェルはお互いに疑いだしたら街は滅亡するという、エリーの警告を思い出した。
「人を思い通りに操れるという、魅力は有能であればあるほど、抗い難いものです。今回の首謀者は、西支部組合長、貴方の部下のクラスCの〈組合員〉が起こした事件でしたよ。」
「それは本当かね?」
「ええ。」
「責任を擦りたいが為に嘘を言っているのではないか!」
激昂した声が議場を木霊した。これは冒険者組合南支部長だ。ミヒェルは、なぜこのタイミングで彼が激昂するのかが理解できない。既に彼が操られている可能性を考慮にいれた。
「おいおい、報告が入ると思いますが現在、ユスティス、マテウスの両名は行方不明です。嘘だと思うのならまず、彼らをここに連れてきてもらえますか?」
南支部長が言葉を詰まらせた。その隙にミヒェルは言葉を紡ぐ。やはり外戚では、直系に比べると立場が弱い。強い言葉で畳み掛けなければならない。
「魔法具は然るべき人物に処分してもらうことが決まっています。それなら、納得してもらえますか?」
「信用できるわけがない!」
南支部組合長が叫んだ。
「では、その人物を言いましょう。冒険者クラスBのイルムヒルデ=デマンティウス。」
ざわめきが大きくなった。と思いきや。
「あらあら、これは最後に大役を仰せつかりましたわね?」
外部席からか細い声が聞こえた。辺りは静かになった。
【5】
内部調査はひたすら地味な仕事である。東支部の冒険者内だけで調べる対象は8000人弱に及ぶ。
クラスCの人間は500人、クラスDの人間は2000人、クラスEの人間は5000人と言ったところか。クラスFやGは、ふらっと来た旅人や身元不詳の人間の為、敵に回っていたとしても害は殆どないので後回しだ。
抽出条件は、妙に下のランクに依頼をする冒険者、妙に人事に口出しする冒険者、関わった人物がよく行方不明になる冒険者などだ。それだけて膨大な作業になる。
昼夜問わずに二人は書類と睨めっこしていた。
「あーハインツ坊よー。無事かー?」
カールが死にそうな顔で書類と睨めっこしながら、後ろにいるハインツに呼びかけた。
「だから、その『坊』をやめて下さい。」
ハインツもまだまだ余裕はあるようだが、それでもしんどそうだ。
内部調査ははっきり言えば身内を疑う作業だ。周りに知られてはならない。故に、ハインツとカールは昼は昼で日常業務をこなし、夜は夜で書類と睨めっこするのである。睡眠時間が物凄い勢いで削られる。なので、まだ、30代のハインツはともかく、既に40代のカールには体力が厳しい。
「怪しいのはこれと、これと……。くそーかなり多いなー。」
カールは抽出した書類をまとめて横におく。
「これは想像以上にヤバイですね……。」
抽出作業はまだまだ終わっていないが、全体の約15%に及んでいた。7人に1人が怪しい計算になる。
「そう言えば、結局、エリノールは何者だったんでしょう。」
ハインツは何気に質問した。もちろんある程度の詳細を聞いている。カールを高位の治癒魔法で完治させたという。戦士であるはずなのに。
「それは、俺への伝言にあったぜ。」
カールは思いがけない事を言い出した。
「なんと?」
ハインツは後ろを振り返って尋ねた。
「探るな。」
カールは一言で片付けた。
「そりゃまた。」
ハインツは自然と顔がこわばっていく。身内を疑う作業をしているのだ。探るなと言う女が怪しくない訳がない、と今のハインツには思えた。
そんなハインツの様子を察したのか、カールはエリーの声色を物まねをした。
「あたしの事が気になるかもしれませんが、今は街を守る事が第一です。あたしは街を守りたい。貴方も街を守りたい。今はそれで勘弁して下さい。いずれあたしの正体が伝えられる日がくるかもしれません、だとよ。」
そんな言葉にハインツは目を丸くして苦笑した。
「はは、そりゃ心強いな。」
【6】
緊急会議は、全員の組合長が各々内部調査を行う事で一致して閉会した。怪しい言動をした、南支部長の存在が気になるが、それぞれが独立した組織である以上、こちらから手出しをすることができない。証拠を見つけなければならない。
議会は、情報を独り占めしている東支部長のミヒェルが一番強く、思った通りの展開にすることができた。
閉会した議場の外で、ミヒェルとイルムヒルデが周りに聞かれないように小さな声で立ち話をしていた。
「イルムヒルデ女史。助かりました。」
ミヒェルは丁寧に感謝の意を述べた。
「死にかけの老婆になんて〈依頼〉を押し付けるのかしら?」
「実は、エリノール嬢からの要請です。」
「まあ。」
イルムヒルデは手に口を当てて本当に驚いた様子だ。
「思っていたより、私の立場を知っていたのね、あの娘。」
「エリノール嬢から、貴女にも伝言を預かっております。まさか議場で出会うとは思いませんでしたが、私が肌身離さず持っていますので、今、見てもらって良いですか?」
「ええ、構いませんわ。」
イルムヒルデはミヒェルから、金属板を受け取って、魔力を注入する。一瞬苦痛に顔を歪ませる。
しばらく沈黙する。
「ほほ。なるほどね。」
イルムヒルデは薄っすら顔を笑わせた。
「なんと?」
ミヒェルは軽い気持ちで尋ねた。
「いえ、貴方の言う通り、首輪の破壊の依頼だけでしたね。ただ。」
「ただ?」
「報酬は、今までモニカちゃんを虐めた分を許す事、ですって。」
ミヒェルは目が点になる。
「虐めてたのですか?」
「いいえ、モニカちゃんは磨けば光る原石と思ったので、ちょっとスパルタしてただけですよ。」
ミヒェルは少しだけ呆れたような顔をした。
「そ、そうですか。」
【7】
コルとモニカは襲撃を受けてから5日で王都に着くことができた。
王都に着くと、まず、王立銀行に直行し、現金輸送車を受け渡した。肩の荷を降ろした足で、そのまま王立冒険者組合に報告、救助要請をかけた。さらにエリーの馬をフルスベルグの厩舎に送還するように〈依頼〉をかけた。
その一通りの作業が終わるな否や、王立冒険者組合の護衛を伴って、フルスベルグに出発した。
その馬上にて。
「ねえ、コルちゃん……。エリーは本当にフルスベルグに戻ってるの?」
「そのはずです。」
モニカは、襲撃を受けた時からの記憶を全て失っていた。その為、コルが大雑把な説明をしておいたのだが、詳細はコルにもわからない。
モニカは、エリーの消息について何度もコルに問いかけるので、その度に、エリーはフルスベルグに戻っているはずだという儚い期待を口にするしかなかった。
「そ、そうよね。エリーの〈背嚢〉を早く本人に返さないと、エリー、困っちゃうよね。ね、早く戻ろうッ?」
モニカを不安にさせているのはエリーの背嚢の存在だ。エリーの馬と背嚢があって、本人がいないというのはどうしても嫌な想像をしてしまう。
結局、エリーの〈背嚢〉はエリーの馬に結わえつけられていた。中には例の首輪が入っているのをコルは知っているのだが、コルは空恐ろしくて、中を確認することが出来ない。
それでもコルが自分の〈背嚢〉と、エリーの〈背嚢〉の両方持ち歩く事になった。
モニカに持たせるのは、精神上宜しくない、とコルが判断した為。




