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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花4 ~恋は戦い~
99/128

第98章:時を超えて《中編》

【SIDE:柊元雪】


 兄貴達と合流したあとは予約していた旅館へと着く。

 思っていた以上に広い旅館で、部屋も立派なものだ。

 

「兄貴、部屋割のことなのだが」

 

「……なんだ?いいじゃないか、これで。それともなんだ?元雪は僕と二人の部屋がいいと?僕は嫌だね、旅行に来てわざわざ弟と同室ってのは勘弁してもらいたい」

 

「俺も同感だっての。でも、ホントにいいのか?」

 

 そう、予約してたのは2部屋。

 兄貴と麻尋さん、俺と唯羽と和歌の部屋割になった。

 当然と言えば当然の部屋割なのだが、これでいいのかと戸惑いもある。

 

「元雪はそう言う所が真面目だな。大体、今さら気にする事でもないだろう?元雪達は普段からも一緒の家に暮らしているんだ。彼女達と一緒に寝た経験とかないのか?」

 

「……あるけど」

  

「それに変な意味での心配ならしてない。元雪がその気ならとっくにしてるだろ」

 

「その信頼は、ヘタレの意味も込められて嫌だ」

 

 普段と変わらない、そう言われてしまえばそれまでだ。

 だが、旅行と言うのは普段と違う雰囲気もあるわけで。

 深く考えずに普通に楽しめばいいか。

 

「元雪~、浴衣に着替え終わったよ」

 

「うぃ。すぐに行く」

 

 女性陣が浴衣に着替え終わったらしい。

 俺達が部屋に入ると、温泉旅館の定番の浴衣姿の唯羽と和歌がいた。

 まぁ、唯羽は家での普段着が浴衣だったりするので変わった様子がないけどな。

 ……しかし、温泉旅館の薄い浴衣は妙な色っぽさもある。

 

「お祭りの時よりもラフな感じですな」

 

 

「元雪様、ジロジロとみられると恥ずかしいです」

 

 俺の視線に気づいてそっと胸元を手で隠す和歌。

 和歌はスタイルがいいから、つい見ちゃうのは仕方ないんだよ。

 

「こら~っ、元雪。ヒメちゃんばかり見ない。私も見て」

 

「前にも言ったが、唯羽は普段から見慣れてる感があるからな。新鮮味に薄れるんだよ」

 

「えー。私だって特別視してよぉ」

 

 不満そうな彼女は唇を尖らせた。

 唯羽の場合は自堕落な時に、もっと浴衣が着崩れてギリギリできわどかったのを思い出した。

 ……あれは、今思い返すと普通にやばかったよな。

 

「ヒメちゃんにだけ見惚れるなんてずるい」

 

「ふふっ。これはギャップの違いですね、お姉様」

 

「……おにょれ、ヒメちゃんめ。元雪を誘惑するなぁ」

 

 険悪モード再び、いつものやり取りになってきた。

 

「はいはい、ふたりとも喧嘩してないで。夕飯にいくよー」

 

 ふたりの仲裁に入ったのは麻尋さんだった。

 夕食の時間になったので呼びに来てくれたらしい。

 

「ユキ君もしっかりしなきゃダメだよ?」

 

「……努力はします」

 

 けれど、このふたりの争いにどう入りこめばいいのか分からないのだ。

 

 

 

 

 食堂のテーブル席は5人分の食事がセットされていた。

 

「食事は皆、一緒なんだ」

 

「あぁ、そう頼んでおいたんだ」

 

 ここは兄貴の友人がやってる旅館だ。

 今回は団体客のキャンセルで友人達を集めたと言う事もあり、周囲の人々も兄貴の友達ばかりらしい。

 楽しそうに会話をする兄貴達を見ながら和歌が言う。

 

「元雪様。誠也様は友好関係が広いんですね」

 

「気さくで優しいから友人も多いよ。人気もあったから高校時代も相当、女の子にモテていたような……ハッ!?」

 

「へぇ、そうなんだ?その話、ちょっと興味があるかも」

 

 俺の背後に麻尋さんが立っていた。

 兄貴はそう言う話をあんまり麻尋さんにするはずもなく。

 

「え、えっと……俺は教えづらいかも」

 

「どうして?昔の誠也さんのこと、知りたいと思うのは不思議な事じゃないでしょ?」

 

 お姉さんの顔が笑ってないから怖くて言えません。

 こういうこと、麻尋さんは結構気にするタイプだからな。

 

「そうだけど、あ、そうだ。ほら、皆に聞いてみればいいんじゃないかな?」

 

 俺は兄貴の友人達に視線を向けて言うと、麻尋さんは「そうね」と頷いた。

 結局、食事前に兄貴の友人達に色々と彼女は過去の兄貴について尋ねていた。

 昔、どういう子と付き合ってたとか面白そうに話す友人達に慌てて兄貴が口止めに走る。

 

「……元雪、頼むから余計な事を麻尋には言わないでくれ。お願いだ」

 

 どっと疲れたような顔で兄貴にお叱りを受けました。

 

 

 

 

 旅館の食事も豪華なもので、美味しそうな料理が並ぶ。

 

「おっ、美味そうだな。いただきます」

 

 俺はさっそく、刺身に箸を伸ばす。

 

「海も山もあるから食材も豊富なんだってさ」

 

「なるほどねぇ。この刺身も新鮮ですごく美味い」

 

 和食好きの俺としてはメニューも大満足だ。

 食事をしていると、麻尋さんはある事に気付く。

 

「……和歌ちゃんってすごく丁寧な箸使いをするわよね」

 

「私ですか?」

 

「うん。食べ方ひとつにしても上品だもの。さすがは大和撫子って感じだよね」

 

「お褒めていただいて、ありがとうございます」

 

 確かに麻尋さんの言う通り、和歌は姿勢もいいし、礼儀正しい。

 箸使い一つにしても優雅さがあり、清楚なお嬢様っぽい。

 そう言う仕草を麻尋さんは気にいったらしい。

 

「小さな頃からお父様にしつけられてましたから」

 

「やっぱり小さな頃からの習慣って大事なんだ。私も子供が生まれたらしっかりとしつけようかな。和歌ちゃんみたいに上品な仕草が自然にできる子になってもらいたいし」

 

「麻尋がまず、それを教えるだけの上品さを身につけてからの話だと思うけどね」

 

「うっ、誠也さん。痛い所をつかないでよ」

 

 先程の事を根に持ってるのか、兄貴が珍しくチクリと麻尋さんに突っ込む。

 

「ねぇねぇ、元雪。私はどう?」

 

「まず、唯羽の場合はいつも猫背だし。姿勢を正す所から始めようか」

 

「うーん。自堕落生活のツケがここに。私には大和撫子は無理かぁ」

 

 茶色の髪を撫でながら拗ねる。

 唯羽だって悪いわけじゃないけども、比べる相手が悪い。

 和歌という、本物の大和撫子は隙がないのだ。

 

「元雪、これ苦手だからあげる」

  

「トマトか。今の時期が美味しいのに」

 

「酸っぱいのはあんまり好きじゃないんだ」

 

 俺の皿に唯羽が苦手なトマトを置く。

 その代わりに俺は彼女に俺の苦手なエビを箸でつまむ。

 

「代わりにこれをやるよ。俺の天敵だ」

 

「そっか、元雪はエビが苦手だもんね。あーん」

 

「わざわざ、食べさせろってか。しょうがないな、ほら」

 

 彼女の開けた口に入れてやると嬉しそうに彼女は微笑んだ。

 

「んー、甘くて美味しい。これが苦手なんて元雪は損してるよ」

 

「嫌いなんだからしょうがないだろ。匂いもダメなんだ」

 

 エビだけは俺も本当に苦手なのだ。

 多分、俺の前世からの因縁でもあるんだろう、そうに違いない。

 

「……」

 

 そんな俺と唯羽に他の3人からの微妙な視線を感じる。

 

「何だよ、皆して?」

 

「ユキ君と唯羽ちゃんがまるで長年付き合ってる恋人同士みたいに、自然に甘ったるい事をしてるから、びっくりしただけ」

 

「普通のことなんだけどな」

 

 この程度は別に意識する事でもない。

 ただ、その行為に不満を抱く女の子はいるわけで。

 

「……元雪様、はしたないです」

 

「うぐっ、そうか?」

 

「いいじゃん。ヒメちゃんは行儀が悪い事はできないもんね?羨ましい?」

 

「う、羨ましくはないです」

 

 そっぽを向いてしまう和歌。

 機嫌を損ねてしまうのは困る。

 

「あらら、拗ねちゃった。ユキ君のせいだね」

 

「わ、和歌?」

 

「元雪様っ。お姉様ばかり甘やかせるのはやめてください」

 

 和歌は意外と怒らせると怖いんだよ。

 

「和歌も食べるか?」

 

「いいですっ。元雪様、行儀が悪いですよ」

 

「……これはこれで、普通のシチュのひとつだと思うのだが」

 

 怒られた俺は黙り込むしかない。

 むすっと拗ねてしまった彼女の機嫌を取ろうと必死だ。

 

「元雪、3角関係は大変だな。あちらも、こちらも気を配るってのはさ」

 

「……2人を好きになったんだから仕方ないよ」

 

 兄貴に俺はそう答えてみせた。

 仲違いしている時はどちらに肩入れする事もできないけども。

 俺は2人を愛すると決めたんだからその想いの責任は取る。

 俺は影綱と違うんだ、と証明してみたい。

 

「ユキ君。純粋で初々しい行為を私もされてみたい。あーん」

 

「事態がこじれるからやめてください。兄貴に頼んでくれ」

 

「えー、誠也さん。そういうこと、全然してくれないし。する歳でもないし。ユキ君にされてみたい~っ」

 

 ……若干1名、この状況を混乱させようと企むお姉さんがいるのだがどうにかしてくれ。

 旅行の夕食は慌ただしく過ぎっていった。

 

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