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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花4 ~恋は戦い~
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第85章:無邪気な願い

【SIDE:柊元雪】


 ホント、人生ってのは不思議なものである。

 まるで女の子に縁のなかったはずの俺が、この数ヶ月間で大きく人生を変えたのだから。

 和歌と唯羽、2人の恋人。

 俺は俺なりにふたりと接して行くと決めた。

 自分の気持ちと向き合わなきゃいけないんだ。

 そして、本日は唯羽とのデートである。

 朝の早くから彼女にたたき起こされて準備をしてやってきたのは、どこまでも広がっている青い海だった。

 

「――海水浴っ!見て、綺麗な海~っ」

 

 唯羽は砂浜を歩きながら、俺の前で子供のようにしゃぐ。

 

「あー、ホントに来たんだな」

 

 まさか海水浴に誘われるとは思ってもいなかった。

 引きこもり少女、ネトゲ廃人だった、あの唯羽がこの選択をするようになるとは……その成長っぷリにお兄さんは嬉しいぞ。

 何て言うか、人って変われば変わるんですな。

 そもそも、唯羽はやればできる子だ。

 中学の頃は運動神経も抜群で、全国大会を争える程のテニスプレイヤーだった過去もある。

 当時の唯羽ならば当然、泳ぎも上手だったのだろう。

 ただし、ネトゲ生活で体力低下した今はどうなのか知らない。

 

「確認だが唯羽は泳げるのか?」

 

「泳げるよ。中学の頃はものすごく上手に泳げました」

 

「おい、待て……中学の頃は?今はどうなんだよ?」

 

「さぁ?泳いでみないと分からないなぁ。こう見えて、体力は徐々に回復してるし。多分だけど、大丈夫だと思うよ?」

 

 明るい声で言うのは良いが、海まできて体力不足で溺れるのはやめてくれ。

 せめて、プールで自分の現在の実力くらいは確かめてから海に来て欲しかった。

 

「それじゃ、水着に着替えてくるね。早く泳ぎたい」

 

 ……ホントに大丈夫なのか?

 俺はそこはかとない不安を抱きながら彼女の後姿を見つめていた。

 


 

 

 しばらくして、俺も水着に着替えて、唯羽を待つ。

 やがて、こちらにやってきたのは……。

 

「お待たせ、元雪。どう?可愛い?」

 

 淡い水色をした花柄模様の可愛らしいセパレートタイプの水着を身にまとい、白い肌をさらけだす。

 その水着姿に思わず見惚れるのは男として仕方がない。

 相変わらず胸の辺りは寂しいが、全体的に健康的な体つきに戻りつつある。

 身体を壊すまでネトゲをしてた頃に比べたらマシだ、あの時はかなりの痩せ型で心配してたのだ。

 

「可愛い水着だな。それに体型も戻りつつあるみたいで何よりだ」

 

「えーっ。それって私が太って見えるってこと?……うぅ、悲しい」

 

「健康で何よりだ。以前の唯羽は痩せすぎだったんだよ。標準に戻りつつある事にホッとしてるだけだ」

 

「心配してくれたの?えへへっ、元雪は優しいねー。そう言う優しい所が好き」

 

 嬉しそうに笑う彼女に俺は照れくさくなる。

 だが、いらない事まで思い出されてしまう。

 

「そう言えば、元雪には私の裸を見られちゃってるんだよね?」

 

「なっ!?え?あ、いや……あったっけ?」

 

「忘れてる?前に元雪がお風呂場で私の……」

 

「覚えてます!?ごめんなさい。だから、もう言わないで」

 

 忘れてるわけがない……俺も男なのだから。

 今でも思い出せる、あの綺麗な背中からお尻にかけてのラインの綺麗さ、白い肌……。

 ただ、あのハプニングについては黒歴史的な意味で伏せておきたい。

 主な理由は和歌にバレたら怖いので、その過去を封印してください。

 

「元雪ってば案外、照れやだ。可愛いなぁ」

 

「やめてくれ。はいはい、海に行くか。オイルとか塗ったのか?唯羽は肌の色が白いんだから、日焼け防止しておけよ」

 

「うん。それは大丈夫だけど……しまった、私、自分で塗っちゃった。せっかくだから元雪に塗ってもらえばよかったのに」

 

「唯羽さん……それはまた別の機会にしようか。その時はぜひ」

 

 俺も残念な気持ちなのは黙っておこう。

 いつまでも、この快晴の照りつける太陽の下はキツイ。

 俺達は涼しさを求めて、海の中へと入る事にした。

 

「きゃっ。冷たい~。元雪、海の水が冷たくて気持ちいいよ」

 

「おー。いい感じに冷たいな。この夏の暑さを忘れられそうだ」

 

 波しぶきをあげる浜辺で俺達は水の感触を楽しむ。

 実は俺はあまり海に来た事がない。

 というのも、うちの親父は基本的に山好きなのだ。

 たまの休みに家族と共にアウトドアに行ったりするが、山がメインな事が多かった。

 海にはそれほど縁がなかったのですごく新鮮ではある。

 

「海に女の子と来たのなんて初めてだ」

 

「え?ホントに?私が初めての相手なの?」

 

「そう言う事になるな。海自体もそれほど来た事がない。プールメインだからさ」

 

「ふーん。そっか。でも、ヒメちゃんより先に初めての海水浴ってのは素直に嬉しいかも。そうだ、元雪。初めて繋がりで、女の子と花火を見た経験は?」

 

 唯羽の問いに俺は「それもないな」と頷いてみせた。

 少し前に唯羽達とお祭りを楽しんだ事を思い出していた。

 祭りは楽しんだが、女の子と花火を一緒に見たことはない。

 

「それじゃ、花火を見に行かない?と言っても、花火大会は8月の終わりだから、まだ少し先の事だけど。ヒメちゃんと3人で見に行きたい。どうかな?」

 

「ふたりじゃないのか?唯羽ならそう言うと思ったが」

 

「2人っきりを望むならそれでもいいよ。大歓迎。でも、それじゃアンフェアじゃない?私はヒメちゃんとはフェアでいたいの。シェア彼氏だもん。だから、3人で行こうよ。その方が皆で楽しめるじゃない」

 

 本当に唯羽っていい奴なんだよな。

 和歌相手にしても、自分勝手に強引にかきまわしてるように見えて配慮してる。

 相手を思いやる心。

 性格が変わっても本質的な優しさ、唯羽は唯羽なのだと安心できる。

 

「3人で花火か。いいな。楽しみにしてるよ」

 

「うんっ。そろそろ、身体も水に慣れてきた。頑張って泳いでみようかな」

 

 唯羽はそう言うと深い所へと水の中を進みだす。

 

「唯羽。無理ならすぐに言えよ。俺が助けてやる」

 

「大丈夫だよ。泳ぐくらいなら……今の私にもできるはず」

 

 体力不足が心配で俺は彼女の傍で泳ぐ姿を眺めることにした。

 そんな俺の心配をよそに唯羽は綺麗なフォームで泳ぎ出す。

 さすが、元運動神経抜群の運動系少女は伊達ではない。

 

「ほー。中々、上手に泳ぐじゃないか。心配する事もなかったか」

 

 俺が安心した矢先、唯羽は泳ぐ途中で動きを止める。

 そのまま軽く波に揺られて……う、浮いてるぞ、おい。

 

「……ゆ、唯羽?お、おい?しっかりしろ、すぐに助けに行くぞ」

 

 溺れたのかと思い、慌てて彼女を助けようとする。

 海の中をもぐり、彼女の身体をこちら側へと引き寄せた。

 

「元雪~、たすけて~」

 

 すぐに俺にしがみついてきた彼女は疲れた顔をしている。

 このわずかな距離を泳いだだけなのだが、それでもあっけなくダウンの様子だ。

 

「うぅ、ありがと。身体が動かない。ダメだなぁ……自分の体力が思ってる以上にない事にショックです」

 

「お前がこの数年、ネトゲ生活にのめりこみ、いろいろとだらけた生活を続けた結果だな」

 

「はぁ、そうだね。自業自得、反省してるよ。こんなに体力がなくなってるなんて驚きだもん。朝マラソンでもしようかな」

 

 思わぬところで引きこもり生活の代償を払う事になったようだ。

 

「でも、泳げなくても、元雪とこうしてるだけでも楽しい♪」

 

 俺にピタッとくっついてくる唯羽。

 こちらに触れてくれる肌の感触。

 当然、ドキッとさせられるのだが、何か物足りない。

 

「……唯羽、非常に言いにくいのだが」

 

「ん?なぁに?」

 

「お前って胸は思った通りにあんまりない」

 

「ガーン!?当ててるつもりなのに、なんてひどい。あと、女の子にはっきり言いすぎ」

 

 うなだれる唯羽は拗ねて俺に水をかけてくる。

 

「ふんっ。どうせ、私は胸が小さいから。身体付きも貧相だもん。貧乳ステータスで悪い?悪い?悪いの?」

 

「す、すまん。傷つけたなら謝ります。正直に言いすぎた」

 

 唯羽にはつい心を許し過ぎて、本音が出るのだ。

 女の子相手だと言うのに、そういう発言をしてしまう事はどうかと思うが。

 

「ひどいなぁ。男の子ってヒメちゃんみたいに立派なスタイルがそんなにいいの?」

 

 スタイル抜群の和歌はこれからもグッと成長するよ、間違いなく。

 彼女の場合はなにひとつ心配する必要はない。

 まことに順調に成長しております。

 別に唯羽と和歌を比べるつもりはないのだが、どうしても視線がそこに向かってしまう。

 

「まぁ、いいや。元雪の意地悪発言を許してあげる。今は小さくても、元雪がこれから大きくしてくれるワケだし」

 

「は?そ、それはいわゆる、も、揉めば……とかそういう危ない流れですか?」

 

「ううん。違うよ。これから先に、元雪との間に子供ができれば自然に“胸”も大きくなるよね?可愛い子供が欲しいな」

 

「……ごめんなさい。俺が悪かったからこれ以上、危ない発言はやめてください」

 

 俺は自らの発言を悔いた。

 唯羽の愛をなめちゃいけない、彼女は……本気だ、あらゆる意味で!?

 ていうか、夏の海のど真ん中で俺達は何て生々しい会話をしてるんだ、と。

 俺は会話を断ち切るように、唯羽の腕を引いて海を軽く泳ぎ始める。

 いくら唯羽に体力がなくてもこれなら一緒に遊べるからな。

 

「なんかさ、こうやって浮いてるだけでも海に来たって感じがするよな」

 

「そうだねぇ」

 

「海っていいよなぁ。潮風が運ぶ海の匂いとか、波の揺らめきとか、海中の綺麗な光景とかさ」

 

「浜辺の周りにいる美人なお姉さんの水着姿とか?」

 

「そうそう、それも非常に良い……って、そ、それはまぁ、海の風景みたいなものだから」

 

 いやらしい意味での期待でもなく、あれは海特有の風景の一部なのだから仕方ないのだ、うん。

 

「元雪ってさ、前世に違わず浮気性ありな人だよね。絶対にそうに違いない」

 

「悲しそうな顔をしないで。俺も傷つくから!?」

 

「――でも、そんな浮ついた心は……今は私に見せないで?私だけを見て」

 

 グイッと唯羽が俺の顔に自らの手を触れさせる。

 彼女の可愛らしい瞳が真っすぐに俺だけを見つめていた。

 そこから伝わる想いは溢れる愛情と、わずかな嫉妬。

 

「……はい」

 

「よろしい。せっかく海に来たんだから、海を楽しもうよ、元雪」

 

 優しく微笑む彼女はずるいと思う。

 ふいに見せる笑顔がマジで可愛いんだよ。

 その辺にいるどの女の子達よりも唯羽は可愛らしい女の子だと認めざるをえない。

 夏の空と蒼い海と美少女。

 俺達は水と戯れながら、思う存分に海を満喫することにしたのだった。

 

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