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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花4 ~恋は戦い~
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第83章:ふたりの恋人

【SIDE:柊元雪】


 この世の中で正当化された二股をしている奴はどれだけいるのだろうか?

 ……ホントにまずい状況に追い込まれている。

 唯羽の恋人宣言。

 俺を好きだと言ってくれるのは嬉しい。

 だが、俺には愛すべき恋人の和歌がいるわけで。

 二股なんてできるはずがない。

 それなのにこんな状況になっているのは、俺も悪いんだよな。

 唯羽相手にはっきりと断る勇気と気持ちを持ってない。

 あの子が俺を守ってくれた一途な思いに惹かれているのも事実。

 俺は気持ちの中で唯羽に惹かれている。

 これって心の浮気だと責められても仕方ない。

 和歌相手に申し訳ない気持ちでいっぱいなのだ。

 そして、その和歌も唯羽によって追い込まれている。

 唯羽に前世での罪を指摘され、かなりのショックを受けていた。

 自分が信じ続けていた恋月桜花の幻想が崩れ去ったのだ。

 俺はできる限り、フォローしたが効果は薄かったようで、ショックを受けた顔をした恋人の顔は寂しいままだった。

 俺達の関係は、NEW唯羽と言う存在によって大きく変わろうとしていた。

 

 

 

 

 昨夜の争い(?)から一夜明け、俺はリビングにて朝ごはんの準備をする唯羽を見ていた。

 

「ふふっ。なぁに、どうしたの?私の方をジッと見て?」

 

「え……あ、いや、気にするな」

 

「気になるよ。好きな男の子から見つめられると照れるじゃない」

 

 こちらをドキッとさせるほどに可愛く笑う唯羽。

 エプロン姿の彼女に見惚れていた、のもそうなのだが俺が彼女を見てたのには理由がある。

 

「あのな、唯羽。昨日の事なんだけど……」

 

 俺は料理をする唯羽にどう話しかければいいか悩む。

 この子を傷つけたくはない。

 けれども、和歌を傷つける真似もしたくない。

 あー、どうすりゃいいんだよ、俺は……。

 

「昨日の事?」

 

「そ、そうだ。俺の恋人になりたいとか、言ってたよな」

 

「うん。なりたいよ?ていうか、もうなってるけど」

 

「……」

 

 いつのまに、恋人扱いになってるんだろうか?

 

「唯羽、俺は……」

 

「……元雪は私が恋人じゃ嫌なの?」

 

 少し瞳を潤ませて呟く唯羽。

 くっ、女の子っぽい表情をするのはずるい。

 

「そうじゃなくて、唯羽の事じゃなくてな。言い辛いけど、俺が一番に好きなのは……和歌なんだよ」

 

「ヒメちゃん?」

 

「そうだ。だから、唯羽の事を愛するわけにはいかないんだよ」

 

 人の想いを拒むのは辛い。

 それでも、和歌のためにも俺は流されて認めるわけにはいかないんだ。

 

「……私じゃダメ、なんだ?」

 

 彼女は残念そうに呟くと、俺の手に触れてくる。

 

「唯羽?」

 

 ひんやりとした手の感触、彼女はその手を握りながら、

 

「私の事が本当に嫌いならこの手を離して。嫌いだって言ってよ。諦めさせるように、拒絶して」

 

「い、言えるわけがないだろう!?」

 

 好きだ。

 一番に想う和歌がいなければ、唯羽の事も好きなんだ。

 これが俺の悪い所だと分かってる。

 本当ならどんな辛い想いをしてでも、拒まなければいけないのに。

 俺の心には唯羽を想う気持ちが確実に存在していた。

 

「二番目でもいいって私は言った。嫌いじゃないなら、私も恋人でいいじゃない」

 

「……あのですね、だから、そういうのはまずいんだってば」

 

「元雪は細かい事を気にしすぎ。世の中、愛に溢れてるんだよ?二股くらい別に珍しい事じゃない。私は自分から元雪を諦めるつもりなんてないから。ヒメちゃんが一番好きでもかまわない。二番目だっていいから……傍にいさせてよ」

 

 彼女は寂しそうな表情を浮かべながらそう言って、俺の手を自ら手離す。

 ……そんな顔をするな、俺が抱きしめたくなる。

 

「でも、私の手をすぐに離さなくてホッとした。ちゃんと私も元雪に想われてるんだ」

 

「……唯羽」

 

「くすっ。元雪、顔が赤いよ。照れてる?」

 

「て、照れてないっての」

 

 それだけ愛されてる想いを実感して照れてるだけだ。

 ……人から愛されるって自覚するのは恥ずかしい。

 

「さぁて、料理の続き。元雪、今日は味付けを少し変えてた見たの。食べてみて」

 

 煮物を箸で掴んで俺の口元につきだす。

 

「はい、あーん」

 

「むぐっ。ん、美味しい。煮物の味がよくしみてるな……ハッ」

 

 つい恋人みたいな定番の行為の王道をしてしまった。

 自然と口をあけて食べてしまったのだ。

 嬉しそうに唯羽は「美味しい?」と尋ねてくる。

 ここは素直に答えておかねばならない。

 

「唯羽の料理は何でも美味しいよ。それは認めてる」

 

「ありがとう。元雪に褒められると嬉しい。味付けは濃い目が良い?」

 

「これはこれでありかな。好みの問題だけど、俺はこっちの方が好きかも」

 

「元雪は和食好きだから、私も作りがいがあるよ。和食は私の得意料理だもの。好きな人のために料理するのは楽しいから好き。大好きな元雪に食べてもらうのは幸せだよ」

 

 唯羽は本当に一途な女の子なんだと思う。

 俺みたいな奴を愛してくれる、その気持ちがこちらにも伝わる。

 それゆえに、俺も悩んでしまうのだ。

 

「そろそろ、和歌を起こしてくるよ」

 

「ヒメちゃん?その必要はないんじゃない?」

 

「え?どういう意味だ?」

 

 和歌は寝起きが悪いために、夏休み中は俺が起こすのが役目になっている。

 可愛らしい恋人のほぼ無防備な姿を見られる俺にとっては役得でもある。

 

「だって、さっきからずっと後ろで私達を見てるし」

 

「は、はい!?」

 

 俺は驚きのあまり転びそうになりながら後ろを振り向く。

 そこにいたのは唇をかみしめて、何とも言えない顔をする和歌の姿がある。

 その表情は怒りか、悲しみか、俺には判断がつかない。

 

「わ、和歌!?いつからそこに!?」

 

「……おはようございます、元雪様」

 

「――お、おはようございました!?」

 

 ビクッとしてしまう俺に和歌は視線をそむけながら、

 

「朝からずいぶんとお姉様と楽しそうですね」

 

「いや、これは……その、あの、えっと……いつからそこに?」

 

「元雪様がお姉様と恋人になる、うんぬんのお話をしてた所からです」

 

「最初からじゃん!?」

 

 なぜに気付かなかった、俺。

 理由はすごく単純だ、俺が唯羽のエプロン姿に見とれてたから。

 朝食作りをする唯羽に視線が向いてたために気付かなかったのだろう。

 

「声をかけてくれればよかったのに。唯羽も気づいてたのか?」

 

「何を今さら?最初から気づいてたよ?ヒメちゃんも黙ってるから放っておいただけ」

 

 なんてことだ。

 人ってのは意識がひとつの事に向いてると、本当に周囲に気付かないのか。

 

「はぁ、お姉様と元雪様って本当に仲がいいんですよね」

 

「当たり前だよ。私と元雪は恋人同士だもん」

 

「……ぅっ……」

 

 和歌の口元がピクッと震える。

 昨日の流れなら、再び修羅場が……朝から怖い想いをすることになる。

 そう焦る俺の予想を裏切り、和歌は何も言い返さずに、

 

「……お姉様。お鍋が噴きこぼれそうになっています」

 

「あっ。ホントだ、危ないっ」

 

 慌てて鍋の火を弱める唯羽。

 

「……ふぅ」

 

 小さくため息をつく和歌はそれ以上、深く反論はしなかった。

 なぜだ?

 昨日なら「恋人は私ひとりですっ」と言いそうな雰囲気だったのに。

 一夜明けて、和歌の心境に何か変化があったというのか。

 てっきり、朝から大喧嘩になるのではないかと冷や汗をかいていた。

 しばらくすると和歌は俺の顔色をうかがいながら、

 

「元雪様。今日、お暇なら一緒に出かけてもいいですか?」

 

「お、おぅ。いいぞ」

 

「一緒に行きたいところがあるんです。……というわけで、唯羽お姉様。私と元雪様は今日は仲良く“デート”してきますね」

 

 静かな口調で、微笑みながら言い放つ和歌。

 前言撤回、やっぱり、バチバチと火花が水面下で散ってます。

 怖いよ、和歌の静かな怒りはどこで爆発するか分からないから怖い。

 

「いいよ。いってらっしゃい」

 

「……え?いいんですか?」

 

「ん?どうして、私が止めるの?ヒメちゃんも、元雪の恋人なんだからデートするのは普通でしょ?楽しんでくればいいじゃない。あっ、でも、帰りは遅くなっちゃ嫌だよ。ちゃんと夕方には帰ってくるように」

 

 そして、俺もまた唯羽の態度に驚く。

 こちらもこちらで、あっさりとそれを認めてしまう。

 俺が言うのもなんだが、反対のひとつもしないとは……?

 二番目の恋人でいい、その言葉はもしや本気なのか?

 

「「……?」」

 

 俺も和歌も思わず互いの顔を見合わせてしてしまった。

 女の子の気持ちはよく分からない。

 

「朝ごはんの準備終了だよ。ほら、ふたりとも食べて」

 

 そんな俺達を気にすることなく、唯羽は料理を終え、テーブルに料理を並べていく。

 

「あ、あぁ……いただこうか」

 

「いただきます」

 

 テーブルに用意された出来たての朝食を食べる事にする。

 ふたりの恋人。

 気まずい雰囲気のまま俺達の新しい日常は始まろうとしていた。

 

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