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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花4 ~恋は戦い~
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第82章:真実に揺れて

【SIDE:椎名和歌】


 私はこれまで疑う事もなく、恋月桜花の伝承を信じてきた。

 紫姫様と影綱様の悲恋の物語。

 私が紫姫様の魂を受け継いでると知り、今はすごく落ち着いて受け止めていた。

 子供の頃から聞かされていた伝承のお姫様が自分の前世なんて驚くしかない。

 そして、運命とも言える前世からの繋がりあう存在。

 影綱様の魂を受け継ぐ元雪様との交際は幸せと言う言葉に満たされている。

 ある日の夜、私は彼の部屋を訪れようとしていた。

 特に大した用事があったわけでもない。

 それでも、恋人が同じ家に住んで暮らしているのだから、寝る前に話をしたい。

 そんな軽い気持ちで、私は部屋のふすまをノックした。

 

「元雪様、和歌です。部屋にいらっしゃいますか?」

 

 だけど、そんな私を待ち受けていたのは……。

 

「いいよ、入って。ヒメちゃん」

 

 明るい女の人の声。

 思わず、「え?」と固まってしまう。

 その声色は唯羽お姉様のものだけども、彼女はこんなに明るい口調なのは珍しい。

 それに私をヒメちゃんなんて呼んだりはしない。

 

「お姉様?元雪様……?」

 

 私は不安に感じながらふすまをあけて愕然とした。

 そこにいたのは元雪様に抱きつく唯羽お姉様の姿だったから。

 脳裏によぎるのは「浮気」と「裏切り」と言う言葉。

 

「な、何をしているんですか!?唯羽お姉様と浮気してたんですか?」

 

 驚く私にお姉様はしれっとした態度で言うんだ。

 

「違うよ、ヒメちゃん。浮気じゃないよ、本気だよ」

 

「ほ、本気……!?」

 

 意味が分からない。

 お姉様はどういうつもりなの?

 それに雰囲気がはっきりと分かるほどに違うもの。

 私は彼らから事情を問い詰める事にした。

 すると、思いもよらない事が2人に起きていた事を知る。

 事の発端は10年前、椿姫という女性の呪いから始まった。

 椿姫様……聞いた事のないお姫様だけど、影綱様や紫姫様と関わりがあったらしい。

 唯羽お姉様の前々世であり、何かしらの恨みを持ち、とても大きな呪いをかけていた。

 お姉様から感情を奪い続けていた、恐ろしい呪い。

 そんな風に呪われるほどの出来事は恋月桜花では語られていない。

 だけど、それよりも私を驚かせて戸惑わせたのはお姉様の態度だ。

 私の恋人である元雪様に抱きつたり、大好きだっていう告白までしたり。

 お姉様が元雪様を好きなんて、薄々感じてはいたけども、現実となると恐怖でもある。

 やめて、私の大好きな人に触れないで!

 信頼していた彼女の裏切り。

 私は大切な人を奪われる事に対する恐怖と怒りが湧き上がる。

 

「いいの?ヒメちゃん。恋月桜花の真実を告げれば、同じセリフは言えないよ?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「教えてあげようか?恋月桜花の本当の真実って何だったのか」

 

 私に対してお姉様は不敵な微笑を見せた。

 恋月桜花に真実なんてあるの?

 影綱様を想い慕い、それでも報われる事がなく前世に想いを馳せた恋心。

 それが全てだと思っていたのに……。

 

「まずは例えばの話をしようか?ヒメちゃんは浮気ってどう思う?」

 

「最低だと思います。人の気持ちを裏切り、偽るのは最低です」

 

 私は元雪様に向けて言葉を放つと彼はシュンッとうなだれてしまう。

 お姉様の件に関しては元雪様も戸惑ってるように見える。

 

「そうだよね。最低だよね?」

 

「えぇ。それが恋月桜花とどういう繋がりがあるんです?」

 

「話を急かないで。物事には順序があるんだから」

 

 くすっと笑う彼女、本当に目の前の女性はお姉様なの?

 今までと全く違う素振りに態度、性格……人格が変わるとこうも違う人に見えるなんて。

 

「ヒメちゃんの言う最低な裏切り行為。浮気。それじゃ、これならどう?男の人には交際してる恋人がいました。でも、そうとは知らずに他の女の子が男の人を好きになり、ふたりは深い仲になってしまう。この場合は?」

 

「それは……男の人が悪いですよね。隠していたんでしょ?」

 

「うん。男が悪い。けれど、恋人がいる事実を知らずに恋をした女の子はどう?」

 

「同罪ですよ。知らないで済む問題ではないです。例え、知らずとも、相手に既に恋人がいるのならば、それは浮気です。女の人も悪いと思います」

 

 私の言葉に待ってましたと言うばかりにお姉様は詰め寄ってくる。

 

「あははっ。ヒメちゃん。分かってるじゃない。そう、妻や恋人がいたのを知らなかったから、なんてのは浮気の常套句だけどさ。それでも浮気に違いないのよ。知らないからで許されるわけじゃない」

 

 彼女の言葉にどんな意味があるんだろう?

 

「回りくどい言い方は良いです。早く真実っていうのを話してください」

 

「辛い事を早く知りたい?まぁ、いいや。そこまで言うなら、望み通りに教えてあげる」

 

 唯羽お姉様は口元に笑みを浮かべて見せた。

 悪魔の微笑み。

 まるで私にはそう見えたの。

 

「恋月桜花の伝承に出てくる影綱はすでに結婚して妻がいたの」

 

「え、何を言って……?」

 

「嘘じゃないよ?調べてみれば分かる。影綱の妻、それが椿姫というお姫様だった。当然のことながら、紫姫は影綱に妻がいる事実を知らずに恋をしたんだ。だから、伝承には残らない。だって、本人は何も知らなかったのだから」

 

 影綱様に妻がいた……?

 それを紫姫様は知らずに恋をしていた?

 お姉様の口から語られる事を私は信じられずにいる。

 

「何の冗談ですか?」

 

「冗談じゃないって。本当のお話。さっきも、ヒメちゃんは自分でも言ったじゃない。知らなかったからって浮気の罪は許されるわけじゃない。紫姫は知らずに影綱に恋をした。それが恋月桜花の真実なの」

 

「そ、それはそうかもしれませんけど……紫姫様が……」

 

 あまりにも衝撃的な事に私は胸が痛む。

 紫姫様と影綱様の関係の裏側。

 そんなはずがない。

 頭で否定しても、どうしようもなくて混乱してしまう。

 

「紫姫はいわゆる“泥棒猫”ってやつだったんだよね」

 

「……どろぼう猫?」

 

「にゃー。影綱もひどいよねぇ。妻がいるくせに黙って他の可愛い女の子に恋をして。恋月桜花なんて悲恋の物語に伝承は残されてるけど、真実は泥沼の三角関係だもん」

 

 嘘だ、そんな事があるはずがない。

 私は自分の前世、紫姫の想いを彼女の墓前で知った。

 恋しくて、愛しくて、大切に影綱様を想う気持ち。

 あれほど純粋なほどに強い想いを抱いてるのに。

 

「椿姫の末路なんて可哀想なものだよ?夫である影綱の浮気に怒り狂い、嫉妬に燃えて紫姫を暗殺しようとして、逆に粛清されて殺されちゃうんだから。そりゃ、相手を呪いたくもなる」

 

 嘘だと思いたい、こんなことはありえないって。

 そうじゃなければ、私が信じてきたものは……。

 私はあまりにも現実を受け止められずに黙り込んでしまう。

 

「ヒメちゃん。これが真実だよ。貴方の信じていた恋月桜花という幻想の正体」

 

「お、お姉様……。本当なのですか?」

 

「本当だよ。ヒメちゃんは言ったよね。浮気は最低で許せないって」

 

 私が自ら言った言葉通り、浮気は認められるものではない。

 

「例え、相手に妻がいるという事実を自分が知らずにいて恋をしても、罪になる。ヒメちゃんの言う通りなら、私が元雪を好きになっても良いよね?」

 

「なっ!?どうして、そうなるんですか?」

 

「だって、泥棒にゃんこの紫姫はヒメちゃんの前世だよ?前世での不始末の責任は取るって元雪も言ってくれてるわけだし」

 

「え?ここで俺!?責任を取るっていい方も違うような気が……」

 

 焦った顔をしている元雪様。

 大好きな彼をお姉様に取られてしまうんじゃないか。

 そのような危機感に怯えてしまう。

 

「というわけで、私は元雪に恋をする権利はあるよね?」

 

「……お姉様は本気で元雪様のことを?」

 

「ずっと昔から好きだよ。でも、私はヒメちゃんから元雪を奪うつもりはない。元雪を彼氏として共有したいって感じ?」

 

 ……はい?

 何を言ってるのか理解できない。

 思わず口をあけたまま、あ然として「え?」と尋ね返してしまった。

 

「言うならば、シェア彼氏ってところかな」

 

「しぇあ?ってなんでしょう?」

 

「シェアリング。ひとつのものを共有しましょ」

 

「はぁ、彼氏をシェアする……って、ちょっと待って下さい!?」

 

 意味をようやく理解して、私はお姉様に詰め寄る。

 そんな提案を受け入れられるはずがない。

 

「しません!絶対にそんなことはしませんから!!」

 

「えー。ヒメちゃんの前世がした事に比べたら、可愛いものじゃない」

 

 紫姫様の名前を出せると辛い。

 浮気が悪い事だと思いながらも、彼女の想いを知る私は責める事もできず。

 

「紫姫がした事は許されない。その罪をつぐなえるのは現世だけだよ、ヒメちゃん」

 

 前世と現世、恋月桜花の真実は思いもよらない展開を巻き起こす。

 お姉様という強力すぎるライバル。

 私は元雪様との関係に大いなる不安を感じてしまう。

 

「……あの、俺の意見は全く無視されてるんだが?ていうか、シェアされるのか、俺?」

 

 元雪様も同じようにため息をついて嘆いていた。

 どうして、こうなってしまったの~っ!?

 

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