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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花3 ~恋せよ乙女~
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第68章:異変

【SIDE:柊元雪】


 俺達は少し離れた所から祭りを眺めていた。

 境内の賑わいは外から見ていても楽しいものだ。

 

「……柊元雪は子供の頃に一番何が好きだった?」

 

「金魚すくいとか得意だったぞ。今でもうちの水槽にいる。当時の金魚がかなりの大きさになっていてさ。長生きしてるよ」

 

「金魚はうまく育てれば10年くらい生きて、20センチ越えはするだろう」

 

 うちにいるのは5年くらいだし、まだ大きくなるのか。

 

「唯羽は何が好きだった?」

 

「リンゴ飴だよ。今も変わらない。逆に子供時代に嫌いだったのはあれだ」

 

 彼女は指を刺したのは、わた飴の屋台だった。

 あれを嫌う子供がいるのも珍しい。

 

「……わた飴が嫌い?」

 

「苦手というか、嫌な記憶がある」

 

 彼女は昔を思い出しながら語る。

 

「私の末妹と以前に祭りに行った時に、あろうことか、私の髪に白いわたあめをつけられた。ベタベタするし、髪を洗っても中々落ちない。もう、あれ以来、私はわたあめに近付くのも嫌になった」

 

 ……白いのでベタベタ。

 唯羽にもトラウマがあるらしい。

 

「今はどうなんだ?」

 

「今も苦手だ。あれを食べてる子供には絶対に近付きたくない」

 

「あはは……相当な苦手意識があるんだな」

 

 そんな唯羽が今、食べているのはイカ焼きだった。

 

「それと気になっていたんだけど、唯羽。お前はタコは苦手だったのでは?」

 

「柊元雪、お前の目は節穴か。タコとイカの区別もつかないとは嘆かわしい。私はタコの味が苦手であって、イカは好きだぞ。タコとイカを一緒にしないで」

 

「……唯羽は何が苦手なのか俺には分からない」

 

 タコとイカの触感やら味に違いなんてあってないようなものだろう。

 普通はどちらかがダメなら、どっちもダメなのでは?

 唯羽はイカ焼きを食べ終わり、ペットボトルのお茶を飲む。

 

「……せっかくの祭りなのに、ヒメと一緒にいられないから寂しいか?」

 

「仕方ないんだろ?和歌って人気者みたいだし」

 

 和歌は今、地元の人達と仲良くお話中だ。

 いろんな人達から声をかけられて楽しそうにしている。

 

「この椎名神社は地元からも愛されている神社だからな。小さな頃から和歌も皆に可愛がられてきている。それにあの容姿と穏やかな性格だ。嫌うものなどいない。誰にも好かれる存在なのは必然のことだ」

 

「……そうかもな」

 

 唯羽はそっと俺に寄り添う。

 

「唯羽?」

 

「……私がヒメの代わりをしてやる。これで寂しくはないだろ」

 

 俺はドキッとさせられてしまう。

 今の唯羽はいつもと違う雰囲気がある。

 薄くが塗られた唇が俺の間近に迫る。

 

「唯羽も、綺麗に着飾る事もあるんだな」

 

「たまにはそういう気分の時もあるさ。私も女だからな」

 

 どういう心境が唯羽を変えているのか分からない。

 これで微笑まれでもしたら、俺もアウトだ。

 うっかりと、何かしでかすかも知れない。

 美少女っぷりを発揮した唯羽は危険だ。

 本当に油断すれば惹かれそうになる。

 

「……その、浴衣も普段と違って似あってるぞ」

 

「ありがとう。褒められると嬉しいよ」

 

「普段からもっと色気も出せばいいのに」

 

「自分を着飾り、人によく見せようとするのは面倒なんだ。でも、今日くらいは……してみても良いと思ったんだ」

 

 唯羽は俺を見て、そんな事を言った。

 ……えっ、それって俺のために?

 最近の唯羽は少しずつだが出会った頃より変わってるように感じる。

 表情が柔らかくなった感じ。

 

「――なぁ、唯羽……ぁ……!?」

 

 だけど、俺が追求する前に場の雰囲気が一転する。

 先程までの喧騒が静まり返っていた。

 人の気配もしなくなる、俺達は辺りを見渡して驚く。

 

「……これはまさか!?二度あることは三度あるってか。くっ、また引きこまれたのか」

 

「そのようだな。けれども、私だけならともかく、柊元雪と共に惹きこまれるとは……」

 

 怪奇現象もこれが三度目だ、俺はもう慣れたぜ。

 本当に世の中、不思議なことはあるものだな。

 

「柊元雪、びびってるのか?」

 

「びびってなんかないし」

 

「……だったら、私の浴衣のすそを掴まないでくれ」

 

 ごめんなさい。

 俺達は誘われるようにご神木の方へと歩き出す。

 勘というべきか、誰かがそこにいる予感があった。

 そして、以前に俺の前に現れた少女、椿がご神木にもたれかけていた。

 

「――はぁい。仲良くしてた所、邪魔してごめんね。私も仲間にいれてもらおうかな」

 

「……椿?またキミか」

 

 俺が椿の名を口にすると隣の唯羽が表情を変える。

 

「どういうことだ、柊元雪!なぜ、お前が彼女を知っている」

 

「え?あ、いや……」

 

 そうだった、俺は椿に出会った事を隠していたのだ。

 

「前に会った。夢だと思っていたんだがな」

 

「……怖い顔をしないでよ、唯羽ぁ。私は元雪に何もしてないよ?」

 

「黙れ、椿。お前の言う事など信用できるか」

 

 俺を守るように唯羽は間に入る。

 彼女にそこまでの事をさせる相手だというのか。

 椿は口元に笑みを浮かべながら、

 

「元雪を守りたい?それは愛情?」

 

「友情だっ。椿、どうして私達をここに誘った」

 

「仲間はずれは嫌よ?せっかくの祭りだもの。私も楽しみたいわ」

 

「ふざけてるのか。お前が祭りを楽しむなんて……」

 

 唯羽の怒り、俺は戸惑いながらも彼女達を見ていることしかできない。

 

「…そろそろ、唯羽の心も変わったかなぁって」

 

「私の心?」

 

「恋をして、本当の自分を取り戻さないの?」

 

 本当の自分?

 唯羽のことか?

 

「私は今のままでいい」

 

「10年前の記憶も、感情も、何もいらないの?」

 

「いらない。それを求めたら、私は……怖い……」

 

「あははっ。怖いか。うん、よく分かってる。感情を取り戻す事がどういう意味か分かっていない癖に、危機感だけはあるんだね。正解。その通り。でもさぁ、それじゃ、私が困るのよ。唯羽……」

 

 椿は唯羽に襲いかかるように距離を詰める。

 

「……唯羽と私、切っても切れない関係。でも、そろそろ、ひとつになろうよ。私を消したいと思うのなら、私の望みを叶えてくれる?唯羽、楽になりたいんでしょう?」

 

「く、来るな!」

 

「私が消えれば貴方は本物になれる。不完全でなくなれば、恋だってできるの。ひとりで苦しみ続けるのは嫌でしょ?」

 

 椿の存在が唯羽を苦しめているようだ。

 どういうことなんだ?

 この二人の関係って……。

 

「や、やめろ、椿!」

 

 俺は怯える唯羽を抱きよせて守る。

 彼女を守ることしか俺にはできない。

 

「元雪……その子を守りたい?」

 

「あぁ、唯羽は俺の恩人で友人だからな」

 

「そっか。それじゃ、元雪。唯羽を助けてあげてよ」

 

 椿が俺の頬に触れる。

 冷たさも何も感じない、彼女は本当に生きているのか――?

 

「柊元雪に何もするな」

 

「唯羽は黙って見てればいいの」

 

 次の瞬間、まばゆい光が俺を包みこむ。

 

「元雪、唯羽を救いたいなら……彼女に恋をさせればいいのよ」

 

 最後に椿のそんな声だけが響いていた。

 

 

 

 

 俺達が目を覚ますと、辺りはまた喧騒が戻る。

 

「どうやら、こっちに戻れたようだな」

 

 ホッとする俺は隣の唯羽に視線を向ける。

 彼女も頷くと、ゆっくりと立ち上がる。

 

「……椿には近づくなと言ったはずだ。もう二度と近付かないでくれ」

 

「あぁ。でも、お前と椿の関係って何なんだよ」

 

「それは……また機会が来れば話すよ。今は……言えない」

 

 一人で悩みを抱えているのか。

 お前はいつも、どうして……。

 

「あっ、お姉様!元雪様。こちらにいたんですね。探しましたよ」

 

 和歌が俺達を探してこちらにやってくる。

 

「……和歌が来たようだ。行こうか、柊元雪」

 

 俺は椿と唯羽の関係が気になっていた。

 だけど、俺の身体に異変が起きている事にまだ気づいていなかったんだ。

 

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