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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花3 ~恋せよ乙女~
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第66章:浴衣美人

【SIDE:柊元雪】


 夏祭りである。

 ……自分が手伝ったお祭りって、何だか気持ちがちょっと違うよな。

 明日の片づけの時にも手伝ってくれと、商店街のおじさん連中に頼まれた。

 和歌に恋人だと紹介された事もあって、すっかり打ち解けたけどな。

 

「まだなのだろうか」

 

 俺はリビングで和歌達が来るのを待っていた。

 外では楽しそうな声が聞こえてくる。

 この屋敷は神社からさほど離れていないので聞こえてくるのだ。

 お祭りも始り、人々が集まり始めているのだろう。

 

「……和歌も唯羽も浴衣を着てくると言っていたが、どんなのだろうな」

 

 唯羽は分かる。

 普段着と言っても良い、家の中でくつろぐ時は着物や浴衣など、和服姿だからだ。

 色気がないとは言わないが、既に慣れている事もあるからな。

 唯羽は素材は抜群なのに、着飾ろうとしないのがもったいない。

 まぁ、いつもの唯羽はおいといて、俺が期待しているのは和歌の方だ。

 

「和歌の場合は巫女服くらいだもんな。浴衣姿が気になるぜ」

 

 どんな服装でくるんだろう?

 俺は期待に胸を膨らませながら待っていると先にやってきたのは和歌だった。

 

「お待たせしました、元雪様」

 

 黒くて長い髪が浴衣にもよく似合う。

 まさに大和撫子、和が似合う美人だ。

 

「和歌。浴衣姿も可愛いぞ」

 

「ありがとうございます。今年は浴衣も新調したんですよ」

 

「そっか。色合いも和歌にしては珍しいな。赤い浴衣なんて」

 

 目にも鮮やかな赤色の生地、それに朝顔がデザインされている浴衣だ。

 大人しい和歌には少し赤は派手に思うが、実際にきてみるとこれがまたいい。

 

「お姉様はまだ来ていないんですね?」

 

「唯羽の場合は和服なんて着るのに慣れているだろ。普段着だし。そういや、前から気になっていたんだけどさ。唯羽はなんで和服好きなんだ?大和撫子を目指してるとか?」

 

「昔からの趣味ですね。唯羽お姉様は着物よりも浴衣を好んで普段着として着ていることが多いです。気軽に寝転べるからと言ってました。スカートだとしわになりますし」

 

「……今の唯羽は布団に寝転んでネトゲをするのが常だからな。浴衣なのは、それが理由か」

 

 実に唯羽らしい理由で納得した。

 単純に着慣れていて、楽だからという理由なんだろう。


「……待たせたな、ふたりとも」

 

 やがて、唯羽がリビングにやってくる。

 

「――え……?」

 

 俺は思わず息を飲んだ。

 そこにいたのは……いつものだらけた唯羽ではなかった。

 ブラウンに染めた髪を後ろで綺麗にまとめている。

 メイクをしているのか、いつもよりも華やかな印象を感じる。

 それに浴衣も普段着のものではなく、紺色に鮮やかな花模様が描かれている可愛い奴だ。

 

「どうした、柊元雪?」

 

 しっとりと艶やかな浴衣美人。

 その表現が唯羽に似合う時がくるなんて。

 雰囲気的にもいつもはない色気もあるし、やはり本気を出せば相当の美人でした。

 思わず、俺が見惚れてしまうくらいに。

 ……ハッ、いけない、俺には和歌と言う可愛い恋人がいるのに何やってるんだ。

 

「ふたりとも浴衣が似合ってるな」

 

「それはどうも。ヒメは今年は新調したのか?」

 

「はい。サイズも少し大きくなりましたし」

 

「ヒメは特に胸まわりが成長してるからな。またサイズアップか、羨ましい」

 

 唯羽の発言に和歌は恥ずかしがりながら、

 

「も、元雪様の前で変な事を言わないでください、お姉様」

 

「良い事じゃないか。私なんて、ここ数年、全然成長もしていないぞ」

 

 自分の胸元を押さえながら唯羽は悲しそうに言った。

 スレンダー体型というべきか。

 唯羽ってスタイルだけはちょっと寂しいからなぁ。

 それもまた魅力と言えば魅力なのかもしれないが。

 ……だが、本人が気にしているようなので下手なフォローはやめておこう。

 

 

 

 

 まずは商店街の皆さんに挨拶という流れになり、俺達は境内の中にある大型テントの方に向かうことになった。

 地元の祭りだから盛り上がり方も和やかでいい。

 

「おや、両手に花とは良い御身分だのう。我が息子よ」

 

「げっ!?親父がなぜここにいる」

 

 皆が集まっている場所には親父も自然に混ざって酒を飲んでいた。

 

「酒がワシを呼んでおるのだ。酒のあるとこにワシありとな。覚えておけ」

 

「……はいはい」

 

 考えるまでもなくいつものことだ。

 この酒好きはどこにでも現れる。

 

「おー、和歌ちゃんも唯羽ちゃんも浴衣がよく似合っておるの。美人揃いを両脇に抱えるとは、元雪め。けしらかんほどに羨ましいやつだ。喝だな、喝っ!かーっ、この恋愛ブルジョワめ!ハーレムきどりか」

 

「そこの酔っ払い。意味がわかんねぇよ」

 

 俺は酔っ払いの親父を放って、和歌と一緒に皆に挨拶をする。

 

「元雪君は柊さんのところの息子だったとはなぁ」

 

「ワシに似ておるだろう。特に顔が」

 

「いやぁ、アンタのところの美人な奥さん似だろ。あいにくと、柊さんにはまったく似ておらんな」

 

「ぐはっ。いつも言われるが、そんなに似てないか」

 

 周囲の声になぜか傷つく親父。

 俺も親父にだけは似たくはないからな。

 おじさん連中と適当に会話しながら、俺は和歌の方に視線を向ける。

 

「和歌ちゃんも恋人ができる歳になったんだなぁ。昔はこんなに小さかったのに」

 

「はい。元雪様は良い人ですし、良縁にめぐまれました」

 

「あははっ。和歌ちゃんの婿さん候補かい。これで、椎名さんの所も後継者ができて、将来も安泰じゃないか」

 

 ……和歌も和歌で何やら言われている様子だ。

 その横で親父は「初孫ができるのだ」と皆に自慢していた。

 親父にとっても、嬉しいものなんだろうな。

 

「和歌、唯羽。俺達もそろそろ行かないか」

 

「あ、はい。そうですね。それではおじ様。私たちは失礼します」

 

「おー、和歌ちゃん。息子に変な所に連れ込まれないようにな。暗がりは危険だぞい」

 

「誤解を招く変な事を言うな。この酔っ払いめ」

 

 俺は酒を飲む親父に文句を言いながら俺達はテントを去る。

 

「そういや、唯羽はおばさん達と話をしていたが何の話をしてたんだ?」

 

「近所のおばさん達とこれからが旬の野菜を使った料理の話をしていた。皆、料理好きが多いので話をすると参考になるよ」

 

 唯羽さん、まるで主婦の会話なんですけど。

 将来、本当に小料理屋の女将とかしてそうだ。

 

 

 

 

 お祭りと言う事もあり、子供やカップル連れがよく目立つ。

 夜店も色々と並んでおり、目移りしそうだ。

 

「元雪様はこういうお祭りだと最初に何を食べますか?」

 

「たこ焼きとか、お好み焼きとか。食べられるうちに重いものから攻める」

 

「男の子らしいですね。私はかき氷が好きです。味はレモン味が好きです」

 

 俺はかき氷だとブルーハワイ味が好きだ。

 実際、何味か分からないけど、青い色の食べ物って基本的に少ないから惹かれる。

 なお、唯羽の好みは抹茶金時味だそうだ……渋いな。

 

「和歌のチョイスも可愛くて良いな。唯羽は何から食べる派だ?」

 

「私か?私は……リンゴ飴だな。この甘さがちょうどいい」

 

 ……って、もうすでに唯羽の手にはリンゴ飴が。

 彼女は美味しそう似リンゴ飴を食べる。

 

「いつのまに……」

 

「いかにも染めましたっていう着色料の赤い色合いと、かじっても甘くなく不味いリンゴをコーティングした飴の組み合わせが実にいい。りんご飴を見るとわくわくするだろう?」

 

「今の台詞では全く美味しさの欠片も伝わらないけどな」

 

 まぁ、リンゴ飴のあのパリッとした感じは俺も好きだ。

 俺達はそれぞれ、最初に食べたい物を買うことにした。

 俺はたこ焼きを、和歌はかき氷のレモン味を購入する。

 ちまちまとかき氷を食べる和歌が愛くるしい。

 可愛すぎる恋人を持つと見てるだけで幸せです。

 

「ほら、和歌。あーん」

 

「んっ。熱いけども美味しいです」

 

 俺はたこ焼きを和歌にあげる。

 小さな口をあける彼女、何だか餌付けをしてる気分になる。

 

「ここのタコ焼きは美味しいな」

 

「商店街にあるたこ焼きのお店の人の手作りだからですよ」

 

「本職と言うわけか。なるほどな。また今度、そちらにも行こう。唯羽もいるか?」

 

「私はタコが苦手なのだ。タコ抜きを希望する」

 

「たこ焼きのタコなし……ただの小麦粉の固まりだろう」

 

 俺はわざわざタコを抜いて、唯羽に食べさせた。

 彼女は美味しそうにタコ抜きたこ焼きを食べる。

 

「分かっていないな。この味は好きなんだよ。ただ、タコが邪魔なんだ」

 

「……タコ焼きなのに、主役のタコを邪魔扱いするのは可哀そう過ぎるぜ」

 

「世の中、たこ焼きのたこなしはきっと需要があるぞ。中身を肉や他の何かに変えるだけでも、きっと売れると思う。私以外にもその意見に賛成する人はいるはずだ」

 

 ごく少数の意見だと思いますけどね。

 お祭りの楽しみ方は人それぞれということだ。

 3人が集まれば、3通りの楽しみ方があるというわけで。

 俺達はいつもと違う祭りの楽しみ方をしていた。

 

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