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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花3 ~恋せよ乙女~
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第65章:夏のお祭り

【SIDE:柊元雪】


 実家で一日を過ごした後は、再び椎名家にお世話になる。

 俺の朝は早い、5時半おきだ。

 早朝から祝詞やら神社の様式やら覚える事が多い。

 

「そうだ、唯羽。麻尋さん、やっぱり妊娠していたって」

 

「……知っているよ。彼女から直接電話で連絡があったからな」

 

「いつのまに番号交換まで……そんなに仲良くなったんだ?」

 

「別に。ただ、偶然に出会い、話をするようになった。それだけさ」

 

 唯羽の視線はパソコンの画面に向けられている。

 よく飽きもせずにゲームばかりやっていられるな。

 

「それで気になったんだけど、何で唯羽は教えたんだ?」

 

「主語がない。私が教えたって何が?」

 

「子供の事だよ。魂の色が見えたっていう。唯羽は誰かに期待をさせる事を嫌うだろ?」

 

「……変な事にだけ気付くのな。私の性格をよく知っている」

 

 唯羽の行動パターンはお見通しだ。

 

「確かに、私は誰かに期待させる事を嫌う。だけど、麻尋さんにはその事を告げても良いと思った。失望させるかもしれない、怖さはあったけどね」

 

 だから、「本当に妊娠していてよかった」と唯羽は呟いた。

 善意というより、麻尋さんだから信じて話したって感じだな。

 信頼関係がいつのまにやらできているようだ。

 

「麻尋さんと唯羽は何を話したんだ?」

 

「大したことじゃないよ。そんな事を気にせず、祝詞を覚えろ。読み方が分からないなら教えてやる。今週末にテストをするからな。テストに合格できなかったら悪霊を呼ぶ」

 

「……はい、頑張ります!?」

 

 全力で頑張らないとひどい目に合いそうだ。

 ……なんて、明らかに話を誤魔化されてしまったな。

 麻尋さんとどんな話をしたのか気になるんだけどなぁ。

 でも、プライベートのことまで踏み込むのは悪いか。

 

 

 

 

「おや、元雪君。おはよう、調子はどうかな」

 

 眠気覚ましにもう一度、顔を洗いに行くと和歌のおじさんに出会う。

 宮司の仕事が忙しいので、夕食時にしか顔を合わさない。

 ……とはいえ、夜にはうちの親父や飲み仲間と共にお酒を飲んで騒いでる声は響くけどな。

 神社というお仕事がら、お酒が手に入りやすいそうだ。

 

「和歌とも仲良くしてくれているようだね。それに唯羽も……」

 

「楽しく付き合いをさせてもらっています」

 

 そうだよな。

 つい先日まで女の子に縁もなかった俺だ。

 それが今では部屋隣りは女の子だぜ。

 ……ネトゲばかりで色気がない唯羽だけども。

 逆を考えるんだ。

 もし、唯羽に色気やら何やらがあったら……俺はすごく困るかもしれない。

 うむ、変な空気にならないように友情を感じられる今のままでいてもらおう。

 和歌にしても、俺の大事な恋人と常に会える生活は幸せだ。

 今の生活はまるで夢見たいと言っても過言ではない。

 

「宮司の仕事の方はそう難しく考えなくても良い。焦らずになれてくれればいいから」

 

「はい……」

 

「それにしても、男手がいると助かるよ。我が家に男一人は肩身が狭くてね」

 

 おじさんは肩をすくめるように苦笑いを浮かべた。

 その気持ち、何となく分かります。

 

「それじゃ、僕は仕事があるからいくよ」

 

「いってらっしゃい。頑張ってください」

 

 俺は神社の方へと出かけるおじさんを見送った。

 宮司の仕事も楽なものではなさそうだ。

 廊下を歩いてると和歌とすれ違う。

 

「あら、元雪様?ここにいたんですか」

 

「和歌か。おはよう、これから朝食を食べようと思って。さっき、部屋にいってもいなかったけども、どこにいたんだい?」

 

「え、えっと……お風呂場です。寝汗をかいたのでシャワーを浴びてました」

 

 そう言われてみると、ほんのりと髪が濡れている。

 和歌、朝から色っぽくて可愛いぞ。

 

「着替えたら、私もすぐに行きますね」

 

「あぁ、唯羽にもそう伝えるよ」

 

 俺はリビングに入ると、そこには唯羽がひとりで朝食の準備と後片付けをしていた。

 

「……今、朝食の用意をする。待っていてくれ」

 

「唯羽ひとりか?」

 

 どうやら、小百合さんも出かけてしまったようだ。

 

「おじさんたち、出かけたんだ?最近、忙しいみたいだな」

 

「あぁ。ここ最近は祭りの準備もあるからな。そろそろ本番だから忙しくなる」

 

「お祭り?」

 

「そうか、お前は知らなかったか。毎年、椎名神社は8月の初旬にお祭りのスペースを提供しているんだ。地元の商店街の食べ物やが出店したり、夜店が出たりする。夏祭りと言えばイメージしやすいだろう」

 

 そういや、俺の近所の神社でも夏祭りくらいしてるよな。

 

「別に今回は普通の地元の夏祭りだ。皆で集まれるようなスペースを提供しているだけ。この椎名神社で一番大きくて、神社主催の大きな祭りは秋にある。そこではヒメも毎年、巫女舞を舞う。柊元雪、その祭りを楽しみにしておくといい」

 

「本番は秋祭りか。ここのところ、和歌も巫女舞の練習をしてるみたいだからな」

 

 神社って言うのはイベントがいろいろとあって大変だ。

 そして、俺は何かと大変だと言う事ばかりしか言えていない。

 俺が何かすることってないからな。

 

「何だか仲間外れにされてる感じがしているみたいだな」

 

「仲間外れって言うか、俺には関係のない事でもあるし。ただ、何かできる事があれば、と思うよ。俺もただ椎名家にお世話になるのもアレだしな。何か役に立ちたいんだ」

 

「ふむ、良い心がけだ。ならば、祭りの手伝いくらいしてみるか?」

 

 唯羽はそう呟きながら俺の前に味噌汁を置いた。

 

「はい?お手伝い?」

 

  

 

 

「おー、兄ちゃん。頑張るな。さすが高校生。若さが違うな。今度はこの荷物をそっちに運んでくれ」

 

「はい、分かりました」

 

 数時間後、俺は商店街のお兄さん達と共に神社に荷物を運んでいた。

 神社の参拝客の邪魔をしないように神社の裏側の空いたスペースに集めている。

 俺の仕事と言うのはトラックに乗っているテントやら椅子やら運ぶ仕事だ。

 夏祭りの設営のお手伝い。

 元々、唯羽も手伝いをすることになっていたらしく、俺も手伝いに駆り出された。

 つまり力の仕事のお手伝い要員として、最初から人手を探していたらしい。

 

「唯羽は何をしてるんだ?」

 

 俺は大人たちと打ち合わせをする彼女に声をかける。

 

「見て分からないか?私の役目はパソコンを使う仕事だ。商店街のおじさん連中はまともにパソコンを使えないからな」

 

「はははっ。唯羽の嬢ちゃんにはいつも世話になってるよ。パソコンの扱い方はいまいちでな。若い子に任せる」

 

 打ち合わせをするおじさんは大きな声で笑う。

 地元の祭りと言うだけあって、和やかな雰囲気だ。

 そして、唯羽も何気に信頼があるのな。

 

「というわけだ、私はこれから部屋でパソコンに打ち合わせた事を入力してくる。何かあれば私を呼べ。それじゃ、柊元雪は引き続き、力仕事を頑張ってくれ」

 

「おぅ。何気に唯羽も手伝いをしてるんだな……っと、俺も仕事しなきゃ」

 

 俺はお兄さん達に呼ばれたのでまた忙しく身体を動かす。

 お祭りの設営ってのは大変ではあるけども、お祭りの準備をする手伝いをしてる実感は何だかどこか楽しく思えた。

 お祭りの本番は明後日らしい。

 

「これが最後だ、兄ちゃん。次のトラックがくるまで、しばらく休憩してくれや」

 

「分かりました。これはあちらに持っていけばいいんですね」

 

 俺は重い箱を持ちながらテントが張られた場所に持っていく。

 すると、そこには和歌が飲み物を持って待ってくれていた。

 

「お疲れ様です、元雪様。お姉様からここでお手伝いをしてると聞きました」

 

 和歌はお茶のペットボトルを俺に手渡す。

 

「ありがとう、和歌」

 

「いえ。元雪様、お手伝いしていたんですね」

 

「まぁな。俺にできることがあればって思ってさ」

 

 俺はお茶を飲みながら喉をうるおす。

 若さが求められる力仕事は結構大変だった。

 

「皆さんも元雪様が頑張っているのを褒めていました。ちゃんと、私の恋人なんですって紹介しておきましたよ。商店街の人達は明るくて楽しい人達でしょう?」

 

「そうだったのか。何だか照れるな。そういや、和歌は何をしていたんだ?」

 

「私は朝は基本的に巫女舞の練習です。毎年の事なんですけどね」

 

「巫女舞か。今度、練習している所を見ても良いかな?」

 

 俺がそう言うと彼女は恥ずかしそうに、

 

「元雪様の前で練習するのは恥ずかしいですけど、ぜひ見てもらいたいです」

 

「今度、見させてもらうよ。秋のお祭りが本番なんだろ?」

 

「はいっ。その時までに今の舞をしっかり舞えるように練習しないといけません」

 

 巫女舞を踊る巫女として、和歌も一生懸命なんだな。

 

「この夏祭りは和歌も普通に遊べるのか?」

 

「もちろんです。神事ではない普通のお祭りですから。元雪様と一緒にお祭りを楽しみたいです」

 

「そうだな」

 

 俺は休憩時間が終わるまで和歌と雑談しながら過ごした。

 そのあとは再び力のいる作業が続く。

 大変ではあるが、どこか充実感がある時間だった。

 俺も少しくらいは誰かの役に立ちたかったのかもしれない。

 そして、3日後、少しの波乱が待つ夏祭りがやってくる……――。

 

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