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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第5章:結婚宣言!?

【SIDE:柊元雪】


 一目惚れでも、人は人を好きになる。

 その思いに偽りはなく、俺は和歌を好きだと言う気持ちに溢れていた。

 

『自分の人生なんだから、よく考えなさい』

 

 俺の母さんが言いそうなセリフだ。

 よく考えた結果、俺は和歌と結婚を前提とした交際をすると決めた。

 一度っきりの人生、好きな相手と一生暮らしていければいい。

 人生で初恋が最初で最後の恋になるなんて幸せだと思う。

 

「元雪様、こちらが本殿と拝殿になります」

 

 和歌は俺を神社の案内をしてくれていた。

 人々でにぎわう拝殿、立派な建物だなぁ。

 

「おー、賽銭でも投げて挨拶しておこうか」

 

 これからお世話になるのだ、神様にも挨拶しておかねば。

 俺は賽銭箱に財布の中にある5円玉を取り出す。

 良いご縁(5円)がありますように、という願掛けでよく使われる。

 意図したわけでもなく、100円でも放り込んでちょっとはカッコつけたかったが、あいにくと財布の中には5円しか小銭がない。

 さすがに学生の身で千円札を放り込むわけにもいかない。

 

「くすっ……良いご縁がありますように、ですか?」

 

「いや、もう良いご縁には出会ってるけど。小銭がこれしかなくてね」

 

 和歌は「元雪様も面白い方ですね」と笑う。

 ……親父と同等扱いされるのはやめて欲しいなぁ。

 俺も将来、あんなふうなおっさんにはなりたくない。

 別に親父が嫌いなワケではないが。

 俺は賽銭をいれて拝むと、隣の和歌はそんな俺をジッと見つめていた。

 

「私も、お礼参りをしておいた方がいいかもしれませんね」

 

「お礼参り?」

 

「はい。私もいいご縁がありますように、と願ってましたから」

 

 そう言って彼女も参拝をする。

 

「元雪様という、良いご縁をくださった事を感謝します」

 

 和歌は手慣れた様子で二拝二拍手一礼をする。

 さすが、神社の巫女さんだな……すごく様になっている。

 拝殿から離れて、彼女はご神木に案内してくれると言う。

 本殿からは少し離れた道を歩く。

 

「人の想いとは不思議な物ですね、元雪様。これから話す事を変な事だと思わないでください。私、なぜだか元雪様とは初めて会った気がしないんです」

 

「それはさっきも言ってたけど、本当にそう思う?俺もなんだよなぁ」

 

 違和感というか親近感と言うか……。

 なんだか初めて会ったとは思えない。

 

「お父様から聞きました。私達は昔、一緒に遊んだ事があるそうです。でも、私は覚えていないんです。ごめんなさい」

 

「いや、俺もごめんな。俺も覚えてないんだよ。互いに小さかったし、仕方ないよ」

 

 和歌はホッとした顔を見せる。

 意外とその事を気にしていたのかもしれない。

 俺の方だけ覚えていた、とか逆の立場だと申し訳なさもあるからな。

 ……覚えてなかったのが俺だけじゃなくてよかった。

 

「元雪様もそうなんですか?」

 

「……そういうものだろ。でも、俺の兄貴は、俺は10年ほど前に俺に神社で女の子と遊んでたっていう話を聞いたことがあるって言っていた。多分だけど、それなりに楽しく遊んでいたんじゃないかな」

 

 だが、それとも違う感覚で俺たちには特別な何かあるように思う。

 

「けれど、そういう懐かしさともまた何か違う気がします」

 

「もしや、前世で一緒だったとか?前世では夫婦だったとか?」

 

「ふふっ。だとしたら、また一緒になれた事を嬉しく思います」

 

「そうだな。でも、実際にそうかもしれないぞ。こんなにも出会ってすぐに愛しあえる関係になれたんだからさ」

 

 俺は前世とか信じるタイプではない。

 でも、そんな特別な縁が俺たちの運命にあるような気がした。

 目に見えない特別な力。

 惹きあうものが何かあったからこそ、俺たちは出会い恋をしたんだ。

 

「こんな不思議な縁があってもいいんじゃないか?」

 

 和歌の手を俺はそっと握る。

 

「あっ……はい」

 

 純粋な彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめる。

 和歌って本当に可愛すぎる。

 恋人ができるってこういう感覚なんだな。

 初めての恋愛に俺は浮かれ気味になりながら、目的の木を探す。

 

「それで、ご神木ってどれなんだ?」

 

「こちらになります。あの大きな木がそうです」

 

 和歌の示す方には巨大な桜の木が立っていた。

 樹齢は数百年と言ったところか?

 さすがはご神木、威厳がありそうな大木にはしめ縄のようなものが巻かれている。

 

「この神社が建てられた頃から、ご神木としてここにあるそうです」

 

「立派な木だな。今は夏場だからただの葉っぱの木だけどさ。春になったらすごい桜が咲いたりするんじゃないのか?これだけの木だと良い桜が咲きそうだ」

 

「はいっ。とても綺麗な桜ですよ。桜の季節には巫女舞をしたりするんです」

 

 和歌は軽く舞を踊る真似をする。

 

「……巫女舞?」

 

「神事の際には巫女が舞を踊ったりするんです。うちの神社では年に数回くらいありますね。巫女舞を綺麗に踊れるようになるのに苦労しました」

 

「ぜひ、その時には見てみたいな」

 

 きっとそれはとても素敵な舞なのだろう。

 

「その機会にはぜひ、元雪様に見せますね」 

 

 その時、俺の視線に入ってきたのは大木の横にある石碑だった。

 古びたその石碑に俺は何となしに近付く。

 

「この石碑は?」

 

「それはこの神社に伝わる、とある悲恋と言うか、縁のお話があるんです。そのお話のもとになった方々の供養のための石碑で……あの、元雪様?」

 

 俺は特に気にすることなく、その石碑に触れる。

 だが、しかし――。

 

「……ぅっ……!?」

 

 身体がビクッと震える感覚が全身を突き抜けた。

 舞い散る桜の大木……神社……満月……そして、燃え盛る炎……。

 脳裏に一瞬、よく分からない光景が過ぎ去る。

 

「……俺は……前に、ここに来た事が……ある?」

 

 今の感覚は、一体、何だ……?

 幼い頃にも似たようなことがあった記憶が……あれは確か……。

 

「元雪様?どうかなさいました?」

 

「い、いや……うっかり、石碑に触ったらコケが手について気持ち悪かった」

 

「もうっ。元雪様、これはそんなに触っていいものではありませんよ?」

 

 和歌にまた笑われてしまう。

 俺も苦笑いを浮かべながら「手を洗いに行こう」とこの場を去るように促す。

 何だろうなぁ、この変な感覚は……?

 ハッ、まさか……俺、石碑に呪われた!?

 うっかり触ってごめんなさい!?

 心の中で謝りながら俺たちは一度、親父たちの所に戻る事にした。

 

 

 

 屋敷では、親父とおじさんは昼間からだと言うのにお酒を飲んでる。

 透明な液体の入ったコップが親父の前に置かれていた。

 

「親父、車で来てるのにお酒を飲んだのか!?」

 

「はっ、なめるなよ、元雪。ワシもさすがにそんな真似はせぬわ。これはただの水だ、良い天然水があると椎名に勧められての。お前も飲むか、美味いぞ」

 

「なんだ、ただの水かよ。紛らわしい。良い水はお茶にして飲むならいいけどね」

 

 俺たちは2人の前に座ると改めて話をすることにした。

 

「元雪様に神社を案内してきました」

 

「ふたりともおかえり。元雪君、どうだい、うちの和歌は?」

 

「少しは話をしたか?元雪は奥手だからな。結婚とはいかなくても、これから何度か会う程度には仲良くやるがよいわ」

 

「そのことなんだけど。あのさ、親父、おじさん。話があるんだけど……?」

 

 俺は深呼吸をひとつしてから和歌の方を向く。

 俺の隣に座る和歌はゆっくりと頷いた。

 

「なんだ、まだ和歌ちゃんと、話もできておらぬのか?いかんのう、そんな消極的な態度では……あれだぞ、草食系男子とか呼ばれる男子には我が息子としてなってくれるなよ?男は常に肉食系、積極的に攻めてだなぁ」

 

「親父、まともな話だ。ちゃんと聞いてくれ」

 

 誰が草食系男子だ、俺だってやる時はやるっての。

 ここはちゃんと宣言しておかないとな。

 俺と和歌の意思を2人に伝える。

 

「……親父、おじさん。俺と和歌は結婚を前提に付き合いたいと考えている」

 

 ふたりとも驚いて開いた口がふさがらないと言う感じだ。

 特に親父は唖然として金魚みたいにパクパクとしている。

 

「和歌と話して決めたんだ。俺は和歌が好きだ、その夢を叶えたい」

 

 この縁談話を組んだ、彼らが反対するとは思えないが、わずかな沈黙に俺は緊張していると和歌が俺の手に触れる。

 

「元雪様、ご心配なさらないでください」

 

 それだけで気持ちが落ち着いてくる。

 俺はこの子が好きなんだ。

 和歌を大事に想う気持ち。

 互いの想い、その意思は変わらない。

 一目惚れだろうが、俺は和歌を好きになってしまった。

 そして、俺と和歌は添い遂げる約束を交わしたのだから――。

 

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