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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花2 ~月と桜と花の記憶~
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第55章:めぐりあわせ

【SIDE:篠原唯羽】


 私の目の前にいるのは柊元雪の兄、誠也と名乗った男。

 穏やかな雰囲気の彼は柊元雪とは歳が離れているようだ。

 

「こうして突然、会いに来た事を不思議に思うかもしれない。だが、僕は唯羽さんの名前を聞いた時から気になっていた」

 

「いえ。でも、なぜ私に?貴方は柊元雪のお兄さんで、私には……」

 

「……直接的な繋がりはない。個人的な事を聞きに来ただけさ。だけども、キミは僕に何かを感じているようだ」

 

 彼はお茶を飲みながら静かに呟く。

 最初、一目見た時から私は彼に特別な何かを感じた。

 こうして真正面から向き合えば嫌でも見えてしまう。

 魂の色。

 それは万能でもないけども、ある程度は人物の内面を見通す事ができる。

 私には見えている、彼の前世が――。

 

「……“赤木高久”という名をご存知ですか?」

 

「知っているよ。ほぅ、本当にキミは魂の色が見えるのかな」

 

「自分の前世を知っているんですか?」

 

 私は意外だった。

 自分の前世が誰なのか、知っている人間はそもそも珍しい。

 しかも、赤木高久など歴史に名が残る人物でもないのに。

 

「以前にある人から言われた事があるんだ。僕は赤木高久という戦国時代の男の生まれ変わりだって。高校時代、郷土史研究会っていうマニアックな部活に入っていた時に彼の事も調べたんだよ。自らの過去の事を聞けば気になるだろう?」

 

「なるほど。その人も私と同じように?」

 

「……魂の色が見えるのだと言っていた。彼は高校時代の先輩で、今はもう何も見えなくなってしまったそうだけどね。年齢と共に見えなくなる事もあるそうだ」

 

 私のような力を持つ者は少なからずいる。

 間違いない、彼は赤木高久の魂を受け継いでいる。

 彼はずいぶん昔に自分の前世を知り、調べたのか。

 そして、ある程度の事情も知っているようだ。

 

「赤木高久。隣の県のある地方を治めていた大名に仕えていた武将だ。智将と呼ばれ、戦国乱世の時代に活躍していたそうだよ。彼は赤木影綱と呼ばれた男の弟だ。その赤木影綱と恋をしたのが紫姫、この神社に伝わる“恋月桜花”の伝承だろう。ちなみに赤木と名乗るのは、影綱の死後。彼とは母親違いの兄弟だったらしい」

 

「本当によく調べていて驚きました。誠也さん。でも、あの時代にはよくあることです。高久は兄の死後に赤木家を継ぎ、表舞台に出たことまで調べるとは意外でした」

 

「郷土史研究会って名前がついてるから調べる事が部活なんだよ」

 

 私が調べるのも苦労したのに。

 郷土史なんてものは素人が調べて簡単に出てくる物でもない。

 私も中学時代に調べたが、中々詳しいことまでは出て来なかった。

 

「地味な部活だけど、僕は郷土史が好きで、この神社にも何度か足を運んだ事がある。恋月桜花なんて調べるネタとしては身近で面白いものだったからね。特に一時期は弟の元雪も、ここに遊びに来ていたからさ」

 

「……10年前の事も?」

 

「覚えているよ。可愛らしい女の子の友達が“ふたり”もできたと喜んでいた。けれども、ある日を境にいきなり会うのをやめた。なぜだろう?」

 

 誠也さんは不思議そうに語る。

 彼が聞きたいのはそれか。

 

「子供時代だ。友達なんてものは簡単に作るし、簡単になくなってしまう。けども、その場合は普通だとは思えなかったんだよ。彼の口からよく聞いた名前はふたり。“和歌”さんと“唯羽”さん。キミはあの頃を覚えているのかな」

 

「はい、覚えてますよ。貴方は弟想いのいいお兄さんなんですね」

 

 彼は首を横に振り「そう言うわけでもないんだ」と苦笑いをする。

 

「アイツのため、ではなく自分が気になるとどうしても解決したくなる性分なんだ。当時の事を考えても何かあったとしか思えない。それでも、調べきれずに何もなかった、で10年も過ぎてしまった」

 

「幼い頃の記憶ゆえに、不確かな記憶もあります」

 

「そうだね。今になって再びめぐりあった。それに意味があるのではないか?」

 

 それで、わざわざ私を訪ねてきたわけか。

 誠也さんと言う男はどこまで事情を知っているのか。

 私はそこを考えながら言葉を選んで会話をする。

 

「10年前、私とヒメ、和歌の事ですが、3人でよく遊んでいました。私とヒメには男の兄弟がいなかったし、男の友達と言うのも初めてですごく新鮮な日常だったんです」

 

 懐かしい過去。

 当時は私の母の出産が近づき、この神社に私も預けられていた。

 そんな時に私たちは柊元雪と出会ったんだ。

 今でもあの楽しかった日々を私は思い出せる。

 

「それなのに、なぜ元雪は2人から離れたんだい?それも忘れてしまったように」

 

「……10年前に椎名神社で火災が起きたのは?」

 

「覚えているよ。確か築数百年とか言われていた古い社が燃えたんだったね」

 

「えぇ。この椎名神社に建っていた本来の社です。そこで柊元雪は何かに巻き込まれたようですが、私も、調べていたんですけど、詳しいことは分かりません」

 

 彼の身に何かが起きている、それだけははっきりと分かった。

 そして、私は燃え盛る社から柊元雪を救いだした。

 けれども、なぜ彼があの場にいて、どうして火災が起きたのかは知らない。

 それを思い出してもらうために何度かあの場に彼を連れて行ったのだけども、逆にあの場所は私にとっても影響があるので容易に近づけない。

 

「……キミも知らず、か?」

 

「あの日、何が起きたのか。それを知るのは柊元雪のみ。彼は炎の中に女性が見えたと言っていましたが、それも本当かどうか分かりません。事実なのは、彼はあれ以来、私たちの事を忘れてしまったように会いに来る事はありませんでした」

 

 私はそれを何となく察していた。

 彼が私のもとから去ろうとした時に、全てを忘れてしまうんだって。

 

「今も当時の記憶はあやふやに近いみたいです」

 

「……忘れてしまった、か。本当に忘れてしまったのかもしれないな。そうなれば前後の行動にも納得がいく。元雪に何かが起き、全てを忘れた」

 

 大事な友達を失った事に当時は寂しさを覚えたものだ。

 

「その“何か”はきっと元雪にとっては思い出さない方がいいことなんだろう。人の記憶とは“危機”や“不安”という感情に左右されて、忘れてしまう場合もある。辛い記憶ならなおさらだ。全ての記憶を失わせても、自分を守ろうとする」

 

 誠也さんの言う通りなのかもしれない。

 記憶を失うのは自己防衛の場合もある。

 

「なるほどなぁ。僕はただの興味本位だったんだけども、複雑な事情があったようだ。想像以上だったよ。唯羽さんはずっと元雪の心配をしてくれていたのかい?」

 

「私たちの再会がきっかけで、また……と言うのは避けたかったので」

 

「優しい子だね。これからも彼の友達でいてあげてくれ」

 

 誠也さんは納得した様子を見せる。

 

「これ以上は僕の興味だけで踏み込むべき内容ではないか。だが、唯羽さん。僕にできることがある時は相談には乗るよ。キミ達だけで解決できない事もあるだろう」

 

 彼は私に電話番号の書かれた名刺を手渡す。

 

「何かあればそこに連絡を。キミ一人で抱えてきた問題だろう。弟の問題でもある、キミの相談相手くらいにはなれるはずだ」

 

「……はい。その時はお力を借りるかもしれません。あの、話は戻りますけど、誠也さんは知っているんですか?元雪の前世を?」

 

「いや、知らない。だが、確信はないけども、心当たりはある」

 

 彼はゆっくりとその名前を口にする。

 

「赤木高久の兄、赤木影綱……じゃないのか?」

 

「――!?」

 

「やはり、そうだったのか。確証があったわけじゃないんだ。ただ、そうだと思っている自分がいる。前世や来世、目には見えなくても世の中には不思議な縁があるものだ。今世でも兄と弟の立場は違ったが同じ兄弟になるとはな」

 

「……人の縁とは不思議な物なんです」

 

 前世との繋がりが深ければ深いほどに、来世でもまた繋がりあう定めにある。

 人と人の出会い。

 縁というのは出会うべくして出会うように出来ている。

 

「影綱の魂を継いでいるのが、元雪だとしたら……その他にも縁があるのかもしれない。紫姫は……和歌さんかい?」

 

「……はい。彼女も同じ宿命によって結ばれています」

 

「なるほど。前世で叶わなかった恋をもう一度。そういうことか。あのふたりが運命的すぎる出会いをしているのも……。まったく、前世論とは面白いよ」

 

 人と言うのは、絆で繋がっている。

 それゆえに、来世にもまた影響を与える。

 想いの力が強ければ強いほどに。

 

「本当に縁とはよく出来ているものだな」

 

 誠也さんは興味深くそう呟くと、

 

「だとしたら、もうひとり、影綱に関係する子がいるはずだ」

 

「……」

 

「唯羽さんなら知っているかもしれない。“椿姫”と言う名前に聞き覚えは?」

 

 椿姫。

 恋月桜花には出てこない、影綱の真実。

 彼女の名前を知っているとは、この人は本当に影綱の事を調べている。

 

「はい、知っています。影綱に深くかかわっていた女の人の名前ですね」

 

「そう。椿姫の魂を今世に魂を受け継ぐ人に心当たりは?」

 

「……あります」

 

 私は嫌な笑みを浮かべるあの女を思い出す。

 

『可哀そうな唯羽、寂しい唯羽。初恋を抱きながらも、気持ちを表に出せないなんて』

 

 私にとっての因縁の相手、椿。

 彼女は危険だ、柊元雪と会うことだけは避けなくてはいけない。

 

「ですが、心配はありません。彼女は近づけない。柊元雪にだけは会わせません」

 

「今の彼らの幸せを守る、と?」

 

「はい。私はそうすると決めていますから……」

 

 私はヒメも柊元雪も守りたいから――。

 

「キミも無理はしない方がいい」

 

「できる範囲で頑張るだけですよ」

 

「今日の話は元雪にはしない方がいいようだ。唯羽さん、さっきも言ったが、何かあれば力になるよ」

 

 誠也さんは私に協力的な姿勢をみせてくれた。

 事情を知ってくれている人がいる事は心強い。

 

「それじゃ、この後は元雪達と合流でもするかい?外で夕食でも一緒に食べようじゃないか。キミも、彼らに伝えるべき事があるんだろう?車で来ているから送るよ」

 

 誠也さんは大人で人間ができているし、気さくな感じもいい。

 それにしても、年上を相手にすると敬語口調になるから疲れるな。

 

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