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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第4章:決意と告白

【SIDE:柊元雪】


 自分の夢なんて、これまでまともに考えた事がなかった。

 漠然とした未来、適当な人生、普通の日常。

 可愛い恋人でもできて、楽しく暮らせればいい。

 そんな男の願望くらいは抱いていたが、実現する気配もなし。

 何の目標も目的もなく、ただ生きてきた。

 これからもそれが続くはずだった。

 運命の相手である、椎名和歌と出会うまでは……。

 

「大好きなこの神社で、大切な人と一緒に生きていきたいんです」

 

 彼女は真っすぐな目をして、そう言ったんだ。

 その言葉に俺は、思わず口走っていた。

 

「……それは俺でもいいのかな」

 

「元雪様……?」

 

「そのキミの夢を叶える相手は俺でもいいのかな」

 

 大した夢もなく、なりたいものさえもない。

 だけど、今、目の前にいる和歌さんと一緒に生きていきたい。

 たった16年ちょっとしか生きてない子供が何をと思うかもしれない。

 この子と一緒に生きてきたい。

 俺の人生で初めて、強い想いが芽生えたんだ。

 

「……も、元雪様?」

 

「俺ってさ、神様なんてあんまりよく分からなくて、知識もない。けれど、それはこれから勉強して覚えていけばいいのかな?それでも大丈夫?あ、俺ももちろん頑張るからさ。ただ、俺……霊感とか特殊能力もないからお祓いとかちゃんとできるのか心配だけどね」

 

「だ、大丈夫です。今からでも問題はありません。それにお祓いに霊感とかは要りませんから!?」

 

 これは俺の人生で初めてかもしれない決意。

 俺に夢を語る和歌さんが、自分の中で特別に思えた。

 いや、違う。

 もっと前からだ……あの時、初めて出会ってから俺は彼女に惹かれていた。

 “一目惚れ”っていうのは、本当にあるのか。

 たった一度会っただけの相手を好きになる事なんて……自信がなかった。

 でも、今なら言える……自覚してた気持ちを認めよう。

 一目惚れだが、俺は和歌さんが好きなんだ。

 

「あ、あの、元雪様っ。お願いがあります……」

 

 彼女はそう言うと、俺の顔を綺麗な瞳で捉える。

 緊張しているのか、顔を赤らめて恥ずかしそうな表情を浮かべる。

 やがて、彼女は消え入りそうな小さな声で言った。

 

「――お願いです。元雪様、私の傍にいて欲しいんです」

 

「――いいよ。それがキミの願いなら」

 

 俺は、彼女にはっきりと頷く。

 それが俺の意思だった。

 

「え?あ、あの、これからもずっとって意味ですよ?いいんですか?」

  

 彼女は思わず俺に詰め寄る。

 うわぁ、びっくりした顔も可愛いな。

 

「和歌さんは眩しいな。ちゃんとした夢があって。俺にはそう言うの、全然なかったから。だから、はっきりと夢を語れるのが羨ましく思えた」

 

 夢を抱けるって言うのはいいことだ。

 ちゃんとした明確な目標がある、それだけでも生きる意味が違う。

 

「この神社、多くの人が来ている。縁を結びたいと願う人達、結ばれて感謝する人達。和歌さんが好きなのは、この人達の見せてくれる笑顔なんだよね?」

 

「はい。縁結びが成就した、そう言ってくれる人の笑顔が好きなんです」

 

「俺も縁ってのを感じたんだ。昨日の事から始まって、こんな形で再会して……」

 

「私もそうです。だって、一目惚れしていた人がいきなり目の前に現れて驚いたんです」

 

 彼女はハッと気づいて口を押さえる。

 その言葉を俺は逃さなかった。

 

「今、一目惚れって言った?」

 

「う、うぅ……それは、その……」

 

「本当にそうなんだ?」

 

 和歌さんは顔を真っ赤にさせて「はい」と頷いた。

 俺なんかに彼女が好かれるなんて、冗談じゃないか?

 

「電車の中で助けてもらった時に、見つめ合ってしまいましたよね。あの時、私は感じたんです。まるで初めて会った気がしない。この人の傍にいたいって。私は恋なんてした事がありませんでしたけど、それが恋だと思いました」

 

 初めてあったきがしないか、一応、幼い頃に会ったことがあるらしいけどな。

 でも、そう言うのとも違う、何か特別な物を俺も彼女も感じていたのだ。

 

「名前も性格も何も知らないのに、好きだって思えたんです。魂が惹かれたんです」

 

「魂が惹かれたか。面白い表現を使うね」

 

 一目惚れって言うのは言葉で説明できないけども、不思議な感情だよな。

 あの電車で見つめ合っていた、あの瞬間。

 俺たちは互いに一目惚れしていたのか。

 名前も全く知らない相手なのにさ。

 

「……変でしょうか、元雪様?」

 

「いや、変じゃないよ。俺も同じなんだ。俺たちは同じ事を同じ時に感じていたんだよ。和歌さん、俺も一目惚れだったんだ」

 

「え……?そ、そんなの……本当ですか?」

 

「嘘なんて付かないさ。こうして、再会したのも何か特別な物を感じるよ」

 

 俺の言葉に彼女は「互いに惹かれていたんですね」と嬉しそうに笑う。

 あの日、あの時、あの瞬間。

 俺たちは出会い、たった一目で互いに恋をして……再び巡り合った。

 映画やドラマの世界のように、ひとつの流れとして、今の俺たちはここにいる。

 

「改めて言うよ。俺は和歌さんが好きだ」

 

「は、はい。……私も、元雪様が好きです」

 

 彼女の告白に俺はドキッとしてしまう。

 女の子にコクられるってこんな気持ちだったのか。

 

「……好きです」

 

 白い肌、頬を薄桃色に染める和歌さん。

 互いにまだ出会って少しの時間しか経っていないのにな。

 こんなにも強く惹かれあうなんて不思議としか言えない。

 それでも、“想い”って言うのはそういうものなんだ。

 人が人を好きになるのに時間なんて必要ないんだって。

 目と目が合わさった、それだけでも人は好きになれる。

 

「元雪様、私の事は和歌って呼んでください」

 

「和歌……本当に良い名前だよね」

 

 俺は和歌を自分の腕の中に抱きしめていた。

 華奢な体を優しく抱きよせる。

 女の子をこんな風に抱きしめる事ができるなんて思わなかった。

 

「これが男性の身体……元雪様の身体は温かいですね」

 

「和歌はとても良い香りがするな」

 

「元雪様は香水の香りは嫌ですか?」

 

「ううん。女の子って感じがして俺は好きだな」

 

 あまり強すぎる香水は嫌いだけどな。

 たまに電車とかに乗ってると度が過ぎたキツイ香水をつけてるおばさんがいる。

 ああいうのではなく、ほんのりと香る程度なのがいいのだ。

 それにしても、女の子はこんなにも抱き心地がいいものなのか。

 

「……可愛いよ、和歌」

 

「は、恥ずかしいです、元雪様」

 

 照れる和歌は俺をどうにかしそうな可愛さだ。

 

「俺、女の子を抱きしめるの初めてだからさ。初めての相手がこんなに可愛い女の子で本当に嬉しいよ。一目惚れ同士で、運命で結ばれている気がする」

 

「運命はあるんですね。そのような不思議な縁が……」

 

 ここは縁むすびの神社だからな。

 まさに縁を結びし、神の居る場所。

 そんな不思議があっても、全然、不思議じゃない。

 

「あらぁ、初々しいわねぇ。高校生くらいかしら」

 

「私もあんな風に良い縁にめぐりあいたいわ」

 

 ちらっと周りの人達の視線が気になるが関係ない。

 今の俺たちの幸せはかけがえのないものだ。

 

「ですが、元雪様。よろしいのですか?」

 

「何がだい?」

 

「この神社を継ぐということです。私と結婚すると言う事は、この神社を継ぐという事になります。無理に夢を背負わせたくはないんです」

 

「いいよ。大変だとは思うけどね。これから慣れていけばいいんだろうし。どんなに大変でも、それは和歌の夢なんだろう?俺は和歌の隣でその夢を実現させたい。俺が和歌の夢を叶えてあげたいんだ」

 

 この先、苦労するかもしれない。

 一時の想いに人生をかけるのはどうかと思うかもしれない。

 そんな事は関係ないんだ。

 どんなものを天秤にかけても、俺は今のこの想いを大切にしたい。

 だって、俺が断れば、和歌を他の誰かに取られるかもしれないのだから。

 そんな事はさせない、彼女を俺だけのものにしたいんだ。

 

「俺は和歌の望む未来を一緒に生きたいんだ」

 

「元雪様……嬉しいです。そんな風に言ってもらえるなんて……ぅっ……」

 

 小さな嗚咽、和歌の瞳には涙がこみ上げていた。

 

「わ、和歌?ど、どうした?俺、変な事でも言ったか?」

 

「……ぐすっ、ご、ごめんなさい。嬉しくて、つい……私、今、自分の想いが間違いではなかったと確信しました。一目で惹かれあった想い。私は元雪様と出会うために、生まれてきたんだって」

 

「それ少し大げさだな。でも、人の縁ってそういうものかな。俺もそう思いたい」

 

 俺は和歌の瞳に溜まる涙を指先でぬぐう。

 

「泣かないでくれよ、和歌。俺は和歌の涙より、笑みを見せて欲しい。可愛い笑顔をさ」

 

「も、もうっ。元雪様って……お言葉が上手ですね。私を喜ばせすぎです」

 

 お互いに強く抱きしめ会いながら、互いの存在を実感しあう。

 一目惚れから始まる恋愛、かけがえのない存在なのだと想いあう。

 俺たちはこの時、自分達の“運命”に出会った――。

 

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