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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花2 ~月と桜と花の記憶~
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第40章:唯羽、復活!

【SIDE:柊元雪】


 新たなる日常。

 唯羽の学園生活の復帰。

 ついにネトゲ廃人をやめ、彼女は再び学校に登校する事になった。

 

「それにしても、髪まで染めてくるとはな」

 

「気になるものか?私は気にいってるけどね」

 

 唯羽は黒髪のイメージが強かったからな。

 今のように茶髪になると、イメージが変わる。

 もちろん、美少女であると言う事実が変わることはない。

 

「……髪や見た目なんて、ゲームのアバターと一緒で気分次第で変えられる」

 

「ゲームと一緒にするな」

 

 やはり、ネトゲ依存の一面はまだ変わっていないかもしれない。

 まぁ、こうして学校に出てこようとする気持ちになってくれただけマシだ。

 プロジェクトD、無事に達成をした事を喜ぼう。

 教室に入ると、唯羽の存在に大きくざわめく。

 

「綺麗~、あの子、誰だ?」

 

「え?もしかして、篠原さん?」

 

「嘘!?すごくイメージが変わったかも」

 

 かつて、同じクラスだったのか、唯羽の事を知ってるクラスメイトは何人かいた。

 彼女たちは唯羽に近付いて挨拶をしてくる。

 

「久しぶりだね、篠原さん。イメージ、全然違うからびっくりしたわ」

 

「……せっかく、学校に出てこれるようになったからな。少し変えてみた」

 

「身体の方はもう大丈夫?病気でずっと休んでいたんでしょ」

 

「大丈夫だ。辛かったが、闘病生活も終えた。もう、普通の生活ができるよ」

 

 闘病生活してる人に謝りなさい。

 全然違います、昼夜逆転生活でネトゲをずっとしてただけです。

 

「本当?よかったぁ。留年しちゃう噂もあって心配してたのよ」

 

「ありがとう。心配をかけたが、これからは普通に通える。ただ、病院に長くいたせいでこんなに痩せてしまったけどね」

 

「うわぁ、腕細い……。本当に大変だったんだね、篠原さん」

 

 だから、ネトゲしてただけだっての。

 その痩せ細った身体は病院生活ではなく、自堕落なネトゲ廃人生活の代償だ。

 真実を声に出して言いたかったが、ここは我慢しておこう。

 心配してくれるクラスメイト達に囲まれる唯羽。

 ……俺が思っているよりも、唯羽は皆から慕われていたらしい。

 

「篠原さん、ようやく来たのか」

 

 黒沢が隣の席に唯羽を見ながらそう言った。

 

「……唯羽を学校に連れてくるのに苦労したが」

 

「唯羽?なんだよ、名前で呼んでる仲か?どこで知り合った?」

 

「俺の恋人の家に同居してる従姉なんだよ。まさか、病弱クラスメイトの篠原さんと同一人物とは思っていなかったが」

 

 そもそも、唯羽は病弱じゃないからな。

 肩をすくめて答える俺に黒沢は笑う。

 

「そうだったのか。でも、よかったじゃないか。こうして、また学校に来れて。篠原さんの事を柊も心配していたんだろ」

 

「まぁな。……結果オーライか。それにしても、唯羽は何気に人望があるのか?」

 

「女の子にはそれなりに。面倒見のいい性格だし、姉御肌っていうのか、女の子としては頼りにしたくなる存在だそうだ。今でこそ病気がちだが、中学時代はテニスをしていて、全国区のプレイヤーだったそうだぞ」

 

「知ってる。唯羽は器用で頭もいいし、要領もいい。やる気になればなんでもできる、天才タイプなんだよな。……それがネトゲ三昧だとは才能の無駄使いだ」

 

 そして、何より料理がうまい。

 ……唯羽の手作りの料理はまた食べてみたいです。

 

「そうだ、黒沢。お前がやってたネトゲ、嵐の魔女とか呼ばれたプレイヤーがいただろ」

 

「嵐の魔女、キャサリンか?あぁ、生きる伝説だな。それがどうした?」

 

「その生きる伝説、キャサリンは唯羽だぞ?」

 

「ま、マジッすか!?」

 

 黒沢の驚きっぷりが半端ない。

 そこまで驚く事なのだろうか。

 

「本人が認めたから間違いない。暇つぶしにネトゲをしてたんだとさ」

 

「そっかぁ。身体が悪いと外にも出られないからな」

 

 ホントは身体はどこも悪くないけどな。

 ただ、ネトゲにどっぷりはまっていただけで不健康な生活をして、ああ見えるだけだ。

 唯羽はハマれば何でもすごいんだよな。

 

「でも、篠原さんが本当に嵐の魔女なのか?」

 

「気になるなら本人に聞いてみろ」

 

「お、おぅ。そうする……篠原さん、ちょっといいか?」

 

 黒沢が緊張した面持ちで唯羽に話しかける。

 

「篠原さんってネトゲで嵐の魔女、キャサリンって呼ばれてるプレイヤーなのか?」

 

「ん?……あぁ、キャサリンは私の使っているハンドルネームだが?確か……前に同じクラスだった黒沢君だったな。あのゲームをしているのか?」

 

 唯羽が認めた瞬間、クラスのざわめきはMAXになる。

 

「なんてことだ……伝説のプレイヤーが俺の目の前に」

 

「嵐の魔女!?ウソでしょ?」

 

「えー?ホントに?篠原さん、あのキャサリンなの!?すごーい」

 

 女の子からも驚嘆の声。

 どうやら女の子にも人気のゲームだと言うのは本当らしい。

 その後は、唯羽はネトゲをしてるクラスメイト達から尊敬のまなざしで見られながら、クラスにあっという間に馴染んでいた。

 ゲームがきっかけと言うのもなんだが、唯羽の性格ゆえのところもあるだろう。

 最初は冷たい印象を受けるかもしれないが、接してみれば優しさや温かさが分かる。

 唯羽って女の子はあらゆる意味で、すごい子だと思う。

 

 

 

 

 電撃的に学園生活復帰をはたした唯羽。

 昼休憩になる頃には唯羽の周囲にはネトゲをする生徒から尊敬と憧れから、取り巻きができていた。

 まったくもって、俺が心配するまでもなかったようである。

 唯羽自身も人と接するのは苦手と言っていたようだが、ゲームという共通話題があるためか比較的彼らとは話しもはずんでいるように見える。

 ネトゲも全てが悪ではなかったという事か……何事も限度が大事だと言う事だな。

 昼休憩に、俺は屋上で和歌と食事をしていた。

 

「お姉様、そんなに人気なんですか?」

 

「クラスメイトの大半とはすっかり打ち解けてるぞ。なにはともあれ、無事に皆と仲良くやれていてよかったよ。また不登校になったらだどうしようって思っていた」

 

「はい。でも、元雪様はお姉様に優しすぎる気がします」

 

「そ、そうか?」

 

「お姉様が学校に来れるようになったのは良いことですけど、何だか複雑です」

 

 どこか拗ねた口調の和歌。

 今朝の件でどうやら唯羽に警戒してるらしい。

 

「心配しなくても俺は和歌一筋だから……」

 

「本当ですか?浮気とか、しないでくださいね」

 

 今にも捨てられそうな子犬が浮かべる表情をする和歌。

 あまりにも可愛かったのでつい抱きしめてしまう。

 

「あっ……元雪様。人に見られてしまいます」

 

「俺が和歌を大事に思ってるのはホントなんだから。こうでもしないと和歌は信じてくれないだろう?」

 

 和歌は照れ屋で、すぐ赤くなるのが可愛くて。

 俺達が2人っきりの世界を満喫していると、背後から声がする。

 

「――そこ、私が入りにくい雰囲気を作らないでくれ。あまり見せつけると呪うよ?」

 

「調子に乗ってすみませんでした。ちょっと恋人っぽい雰囲気にひたりたかっただけなんだよ。……それで、唯羽。目的のパンは買えたのか?」

 

「人が多かったが、なんとかな」

 

 唯羽は昼食を買いに出かけていたのだ。

 この時間の購買は人が多いから大変だっただろう。

 

「明日から面倒だが自分でお弁当でも作るとしよう」

 

「唯羽の手作りか……アレはよい味でした」

 

「元雪様?」

 

「ん?あ、いや。何でもないよ。あはは……」

 

 思わず苦笑いで誤魔化す。

 和歌の前ではこういう話題はやめた方がよさそうだ。

 女の子に立場が弱いのは我が家の家系か。

 

「唯羽の昼飯はメロンパンか?」

 

「これが好きなんだ。ボロボロとこぼれるのだけは嫌いだが」

 

「……湿気てるというか、しっとりしたメロンパンは蛇道だろう」

 

「確かに。それは言えている」

 

 唯羽はメロンパンを食べながら頷いた。

 

「お姉様。久しぶりの学校はどうでしたか?」

 

「まぁまぁだな。思っていた以上に受け入れられている」

 

「……ネトゲのおかげだと言うのが何とも言えん」

 

「ふっ。話題が合うという意味では私は気が楽だよ。それに、魂の色も意識せずに済んでいるからな。こんな状況が続くのなら、また学校にも通えそうだ」

 

 唯羽からの前向きな言葉にホッとする。

 最悪のシナリオは『やっぱり学校に行かず、ネトゲする』と言いだす事だ。

 それだけは何としても避けてもらいたい。

 

「授業の方はどうなんだ?はたから見ている限り、ついていけてるように見えたが」

 

「学力は当然下がっているよ。まぁ、適当に頑張れば適当にどうとでもなるさ」

 

「適当じゃなくて真剣にすれば、天下も狙えるのに……」

 

 もしも、唯羽が本気になったら何でもできるのにもったいない。

 

「……どうかしたか、柊元雪?」

 

 不思議そうにメロンパンを食べながらこちらを見つめる唯羽。

 俺は「何でもないよ」と苦笑いをしながら答えたんだ。

 

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