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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第3章:再会と結婚条件

【SIDE:柊元雪】


 偶然の再会。

 いや、これは偶然ではなかったのかもしれない。

 まさに縁結びの神様の力!と、思わず叫びたくなる。

 偶然が重なれば必然と呼ぶくらいだからな。

 俺の縁談の相手は満員電車で俺が助けた女の子にして、一目惚れの少女。

 超絶美人な大和撫子が今、目の前にいる。

 

「……マジかよ」

 

 椎名和歌さんという名前。

 あの子との再会を望んでたが、こうなるとは予想外だ。

 それは彼女もそうらしく、軽く視線をうつむかせている。

 俺と向き合うように前に座る和歌さん。

 

「ふぅ……」

 

 俺は緊張しながら正座をする事に。

 親父は様子を見ているだけで、話はおじさんが進めていく。

 

「元雪君。今日は来てくれてありがとう。話だけでも聞いてもらいたい事があるんだ」

 

「この神社の後継者の事ですよね?」

 

「そうだ、今の時代、どこの神社も後継者は少なくて。特に男子の跡取りのいない神社はどこも困ったことになっている。神職なんて言うのは辛い事もあるし、大変な仕事な上に、少し事情も特別な職種だからね」

 

 俺も軽くネットで調べてみたが、まず、神職になるには資格を取るために大学に行かなくてはいけないらしい。

 実家が神社で、その息子っていう場合は大学まで行かなくてもいいようだが。

 大抵は神社とはその親族が引き継ぐものだそうだ。

 椎名さんのように娘しかいない場合は婿探しをするっていうのもよくある話らしい。

 

「キミくらいの年齢でいきなり婿だ、結婚だ、神職になれ、なんて言うのは難しい話かもしれない。だが、こちらも色々と事情が大変でね。急かもしれないけれど、元雪君にも考えてもらいたい事なんだ」

 

 大体の事情は分かった。

 だが、それ以前に俺には腑に落ちない点がひとつあるのだ。

 

「あの、事情は分かったんですけど、ひとついいですか?」

 

「なんだい?」

 

「……和歌さんの気持ちというか、その、意思はどうなんでしょうか?」

 

「2人は初対面ではなかったが、まぁ似たようなものだしね。元雪君としてはいきなり結婚って言うのもどうかとも思うかい?」

 

「いえ、そう言う事ではなくて」

 

 それもあるが、俺が言いたいのは彼女の意思なのだ。

 親の神社を継ぐ相手の婿を探す。

 その行為は理解できるが、彼女の意思なのかどうか。

 俺みたいな男がいきなり婿だ、どうのとか話になって嫌がってはいないのか。

 それが気になってた。

 

「椎名よ。とりあえず、ふたりで話をさせてみればどうだ?元雪もまだちゃんと彼女と話をしておらぬ。あとは若い二人に任せてっと言う展開がいいのではないか?この元雪も何やら混乱しておるようだしの」

 

「なるほど、当事者同士の問題にもなる、か。どうだい、和歌?」

 

「……私も、彼とお話がしたいです」

 

 和歌さん……。

 そんなわけで、俺と和歌さんとは部屋を出てふたりっきりで話をすることになった。

 彼女とふたりっきりって、緊張するな。

 

 

 

 

 部屋を出た和歌さんは案内したい場所があると俺を誘う。

 

「こちらです」

 

 再び、屋敷の外に出て、彼女は神社が見える所まできた。

 

「元雪様には、この神社を見てもらいたかったんです」

 

「うん。いい感じの神社だよね。人の数もそれなりにいるし」

 

 寂れ切った神社はパワースポットではなく、ホラースポットだからな。

 古い歴史もある神社の家に生まれてきた和歌さん、この縁談も、その家の宿命みたいなものなんだろうか。

 俺は軽く深呼吸してから彼女に本題を切り出す事にした。

 

「それにしても、まさか、キミが今回の話の相手だなんて」

  

「私も驚きました。縁談の話も、そうですけど、元雪様も驚いたでしょう?」

 

「あ、うん。あと、別に様づけはいらないんだけど?」

 

「ダメ、ですか?」

 

 他人に様付けが口癖なのだろうか。

 和歌さんがそれでいいのなら、俺が反対する気はないが。

 こんな風に様づけされるのなんて、慣れていないけどな。

 

「ううん、それでいいや。えっと、聞きたいのはさ、和歌さんの気持ちなんだよね。こんな風に神社の後を継ぐ相手と結婚しろとか言われて、それでいいの?」

 

「……はい?あ、違います。少し勘違いされてるみたいですけど、このお話は私がお父様に頼んだ事なんです。無理やり婚姻させられるわけではありません」

 

 おや、俺が思ってる事と違うのか?

 神社を継ぐ相手と結婚というのは家柄的に有無を言わさずとか考えてたのだが。

 彼女は長い髪をそよ風に揺らす。

 

「私はこの神社が小さな頃から大好きなんです。縁結び、人と人の絆を繋げる神様の祭られている神社です。皆さんが笑顔でここを訪れる、この場所が好きなんです」

 

「人気らしいね。パワースポットとか、呼ばれてるらしいじゃないか」

 

「そうみたいですね。私は大好きなこの神社をこれからもずっと続けていきたいんです。でも、お父様がいなくなれば、この神社もそれまで。後を継いでくれる人がいなければ終わりです。私自身が宮司になるのも考えていました」

 

 女性の宮司ってのは珍しいが、いることはいるようだ。

 だが、狭き門には変わりなく、大抵は婿を取るものだそうだ。

 

「それで、結婚って話になるわけか」

 

「はい。お父様も気にしてくれていて、こういう形で元雪様に話を聞いてもらう事になりました。元雪様にしてみれば、いきなり結婚や神職を継げと言われても戸惑うだけですよね」

 

「まぁ、驚きはしたけど。ねぇ、和歌さん。それはキミの意思なんだ?」

 

「私の意思です。この神社を継いでくれる相手と結婚したい、それが私の願望なんです」

 

 手段のための方法、それが結婚という行為。

 古くから、お家のためだとか、会社のためだとか、様々な形で結婚って言うのは繋がりの“意味”を持っているものだ。

 大変だろうけど、そもまたその家に生まれてきた宿命みたいなものだ。

 綺麗事ではなく、現実として仕方のない事でもあるんだろう。

 

「縁結びの神様だっけ?ここって御利益とかあるの?」

 

「はい。古くから参拝される方のたくさんの縁を結んでこられたようですよ。今でも、ここに参拝して良いご縁に出会えたと言う方がお礼に参られますから」

 

 俺も高校入試の時は学業の神様の神社に親父と一緒に参拝したっけ。

 信じる者は救われる、というわけじゃないが、神に祈りたいこともあるわな。

 

「でも、その夢を相手に背負わせるのは辛く思います。神社の神主はやりたいと言う方は本当に少ない職業ですから」

 

「やりたいと言って出来る仕事でもなさそうだしね。そう言う人、おじさんに知り合いとかいなかったのかい?」

 

 同じ職種というか、神職をしているのならツテや知り合いくらい、いないのだろうか?

 

「お父様の神社関係の知り合いでは既婚者だったり、後継が決まっていたんです。交友関係が広い方ではないので」

 

 なるほど、そこで身近な知り合いを頼りに誰か婿候補を探すことになったわけだ。

 結婚条件が“神職を継ぐ”というだけなのはそれが理由か。

 

「もちろん、信頼に足りうる方である事は当然の事。その話を聞いた柊のおじ様が息子を紹介してくれると言ってくれました」

 

 よくそこで俺を紹介する気になれたな、親父。

 どうせ酔っ払っていて、適当に返事したのではないだろうか。

 うん……その可能性の方が高いぞ。

 

「酔った勢いだろうなぁ。あのさ、うちの親父はよくここに来るのか?」

 

「はい。お父様の飲み友達で、よくいらっしゃいますよ。おじ様は面白い方ですよね」

 

 あれは面白いと言うか……うーむ。

 人を驚かせたり、他人で楽しむことが好きなのは認めよう。

 それが面白いかどうかは、当事者としては迷惑でしかないのだが。

 小さい頃からあの親父に色々とされて、良い記憶も悪い記憶もあるので微妙だ。

 

「でも、おじ様のおかげでまた貴方に会えました」

 

「和歌さん……」

 

「お礼を言いたかったんです」

 

 そんなに大したことをしたつもりもないんだけどなぁ。

 

「私は男の人は苦手な方でした。今回の縁談も、お父様からおじ様の息子さんと会う予定を聞かされて正直戸惑っていたんです。婿になってくれる人は必要でも、男の方が苦手なのは仕方ありませんから」

 

「……そうなのか」

 

「でも、貴方に会い、考えは変わりました。どんな方であれ、実際に会ってみて、お話をしてから判断するべきことなんだって」

 

 俺が聞かされたのは昨日の夜なんだが……既にもう朝から決まっていた話なのか。

 親父め、大事な話なんだからもっと早く話しておけっての。

 

「ふふっ。でも、実際に会って驚きました。まさか、その相手こそ、本当に元雪様だったなんて。……私は大好きなこの神社で、大切な人と一緒に生きて生きていきたいんです。それが私の幼き頃からの夢でもありましたから」

 

 和歌さんは静かに想いを言葉にする。

 とても素敵な笑顔を浮かべる彼女に俺は魅入られてしまう。

 

「それがキミの夢なんだ?」

 

「はいっ」

 

 大好きな人と、好き場所で生きていきたい、か。

 それこそが、彼女の夢であり希望でもあるようだ。

 俺でもいいのだろうか、その夢を共に歩むのは……――。

 

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