表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
37/128

第36章:過去の記憶

【SIDE:柊元雪】


 唯羽の手作り料理がまさか和歌以上だったとは……。

 お昼ご飯をつくってもらったが、想像以上の美味しさに驚愕した。

 ……自分のためには作らないってもったいない腕前だ。

 その後、唯羽を連れて俺は椎名神社に戻っていた。

 俺達は街を歩こうとしたのだが、途中で偶然にも唯羽の妹達に出会ってしまったのだ。

 遊びに出ていたらしく、2人とも歳はまだ子供なのに将来が楽しみな超絶美人だった。

 

『唯羽姉さんが昼間から外に出てる……そんなのありえないわ』

 

『えーっ。お姉ちゃんが!?これから雨が降るの?私、傘を持ってきてないよ』

 

 平気で妹達にそんな事を言われる唯羽がちょっとかわいそうだった。

 そのあとも、『あの唯羽姉さんが男を連れてる!?冗談でしょ?』など、と騒がれたため、恥ずかしさに負けた唯羽が敵前逃亡の如く、神社まで逃げてきたのだ。

 

「くっ、妹達め。この私を何だと思っているんだ。恥ずかしい」

 

「お前でも恥ずかしがるんだな。それにあの子達も可愛い妹たちじゃないか」

 

「どこがだ。見た目はアレだが、私の妹だぞ。性格は悪いんだ」

 

「んー、俺には挨拶もきっちりしてくれたし、良い子たちだと思うぞ」

 

 真ん中の妹、中学2年の美羽(みわ)ちゃんは礼儀正しく「うちの姉がお世話になってます。自堕落な人ですけど、見捨てずに仲良くしてあげてください」と挨拶された。

 末妹の日羽(ひわ)ちゃんは小学生らしく可愛らしい笑顔で「お姉ちゃん、ネトゲは卒業できたの?早く卒業して帰ってきて」と姉の心配をちゃんとしていた。

 二言目には「ネトゲがしたい」、「私の人生の邪魔をするな」と文句ばかり言う姉の唯羽よりも全然、いい子達でした。

 

「それにしても、妹達も名前に羽がついてるんだな?」

 

「空も飛べないのに、名前に羽なんて共通点を持たすなど、我が親の名前センスを疑う」

 

「可愛いからいいじゃないか。女の子らしい名前だな」

 

「どこがだ。私の真名、貴夜沙凛キャサリンの方が可愛いだろ」

 

「――それだけはないと全力で否定しておこう」

 

 もう外には出たくないと唯羽がごねるので、俺たちは椎名神社を散策する。

 今日も神社は縁を求める人々でにぎわっている。

 

「さすがに土日だと人も多いな。しかも、女の人ばかりだ」

 

「縁結びの神に祈る奴らの多いこと。神に祈るより、地道に合コンでもしろ」

 

「はぁ……唯羽さんよ、それは禁句だ」

 

 ホントに唯羽って根もふたもない事を言うよな。

 神社の娘なのに少しはらしくしろ。

 

「唯羽は人の魂の色が見えるんだよな?」

 

「それがどうした?探ろうと思えば人の魂で何となく、相手の事も分かる」

 

「例えば、あの子とかどうなんだ?」

 

「あまり人のプライバシーを覗くのは嫌いなんだがな」

 

 神社を参拝しているのは女子高生っぽい女の子のグループだ。

 3人組の子達を唯羽はジッと見つめる。

 やがて、分かったのかそれぞれの子について話しだす。

 

「右端の子は最近、彼氏と別れた。真ん中の子は幼馴染に恋をしている。左端の子は……いわゆる、百合って言うのか、同性である女の子が好きらしい。右端の子が失恋しているのを機に狙おうとしている。こういう恋愛の形もありか」

 

「ナンデスト!?そこまで分かるのか?」

 

「問題はここからだ。3人とも後ろに人ならざるものが憑いてる。最近にでも心霊スポットに行ったのか?あんな場所に興味本位で行くとはバカだな。憑かれている状態では恋愛どころではないぞ」

 

「――お、お祓いして~っ!?」

 

 その後は責任を持って宮司のおじさんに相談するように彼女達に言いました。

 唯羽はホントにそう言う力があるのだろうか。

 

 

 

 

 その後は唯羽と共にご神木のある方向へと歩き出す。

 そこは俺は近付かない方がいいと警告されている場所だ。

 どうしても、そこに行って話がしたいのだと言う。

 

「唯羽。本当にいいのか?」

 

「別に私がいれば大丈夫だ。いざという時は引っ張ってやる」

 

「お前の場合、その手を離しそうで怖い」

 

「そうかもな。いざという時のためにも、私に媚を売っておいて損はないぞ?」

 

 自分で言うなよ。

 今度、お菓子の差し入れでもしておこう。

 人間、何事も、相手の袖の下に……が大事だと思います。

 

「……唯羽、まだ俺はここに近付いちゃいけないのか?」

 

「今はまだ、何も解決していない。死にたければどうぞお好きに」

 

「縁起でもない事を。まだ……どういうことだ?」

 

 唯羽と共に訪れた石碑の前で立ち止まる。

 今日は何人かの参拝客らしき人も見える。

 普通にしていれば、ちょっとしたパワースポットなのだ。

 

「古い木だねー、樹齢は何年くらいかなぁ?」

 

 前にいる女の人達が楽しそうに笑う。

 数日前に俺が引き込まれた場所だとは思えない。

 

「そういや、和歌がこの場所がお気に入りだって言っていたよ」

 

「あの子にとってはこの場所は安心できる場所なんだ。ヒメの魂、つまりは紫姫に縁のある場所ゆえな」

 

 唯羽は誰もいなくなったのを見計らってさらに奥へと進む。

 石碑の裏にはさらに森へと続く道があった。

 

「こんな道があったのか?知らなかった」

 

「ここから先は絶対に普段は近付くな。……柊元雪、手を差し出せ」

 

「へ?あ、あぁ?」

 

 俺は手を差し出すと、その手を唯羽は握り締める。

 

「こうしておけば引き込まれない」

 

「確信を持って言えるのか?」

 

「……」

 

 お願いだから、黙り込まないで!?

 不思議な雰囲気のする森。

 ジメっとした空気が肌にまとわりつく。

 唯羽と共に奥へと足を踏み出す。

 

「奥には何があるんだ?」

 

「ついてくれば分かる」

 

 あまり何も語ろうとしない唯羽。

 会話も少ないので不安だけが倍増していくぞ。

 

「前に唯羽が俺を助けてくれた時があるじゃないか。その時に鈴の音がしたんだが、アレって何だろう?俺の空耳?」

 

「いや、これの事だろう?」

 

 唯羽が取り出したのは以前に部屋で見た鈴だった。

 

「それだよ、それ。なんだ、それは?」

 

「人が引き込まれるときに、どうすればいいか。意識を目覚めさせればいい。例えば、寝ている時に目覚まし時計の音があれば人は起きるだろう?それと同じだ。この鈴の音色がお前の意識をこちらに引き戻した」

 

 目覚まし時計と一緒って……そんな単純な原理だったのか。

 確かに抗えないものに支配されている時はそう言うのも有効かもしれないが。

 

「それって、やっぱり特別なものだったりするのか?」

 

「いや、霊験あらたかな“魔よけの鈴”と言う風に見えてただの鈴だ。お値段500円(税込)。椎名神社の売店で販売してる。月に数十個は売れているようだぞ」

 

「マジッすか!?」

 

「ただの鈴に祈願をしただけなのに、『出会いを招く鈴』という肩がきをつけられている。神社とはホントにぼったくり商売だよ。私はそういうセコイ所が嫌いだ」

 

「だから、唯羽はもっと神社側に立って発言してくれ」

 

 この子は本当に神社側の自覚がないのが怖い。

 そんな雑談をしながら歩くと、道の行き止まりまでくる。

 

「ここだ。連れてきたかったのは……」

 

「なんだ?ただの開けた場所でしかないぞ?」

 

「……地面を見てみれば分かる。何かが焦げたあとが見えないか?」

 

 言われてみれば風化はしているが、地面には消し炭のような感じが残っている。

 

「今から10年前だ。ここには大きな社があった。だが、火災により焼失している」

 

「和歌から聞いていたが、ここにあったんだな」

 

「……10年前の不審火。怪しいとは思わなかったか?火の気もないこの場所で、なぜ火災が起きたのか。その理由は……お前の記憶だけが知っている」

 

 唯羽が俺の方を見上げて、真顔で呟く。

 綺麗な顔つきに思わず見とれる。

 

「……俺の記憶?」

 

「そうだ。思い出せないだろうが、お前は10年前にもここにきている。まだ社があった頃にな。そして、火災のあった日、私は柊元雪をここで発見した」

 

「え……?ど、どういうことだよ?俺が放火したとでも?」

 

「そんなことは言ってない。子供だったお前は、ここで何かを見たはずだ」

 

 何かを見たって……?

 俺は数日前の幻覚を思い出す。

 

「炎の記憶と、睨みつける女の人――?」

 

「幻覚を見たと言ったな。私はお前の幻覚がどういうものかは分からないんだ。魂の色を見ても、何も分からない。お前の過去に、何があったのかは知らない」

 

 唯羽にも分からない事があるのか……そりゃ、そうだよな。

 

「だが、私が知っている事はひとつある。それは10年前、燃え盛る社の中で私はお前の叫ぶ声を聞いた。なんとか中に入った時にはお前は意識を失う寸前で倒れていた。そのまま、炎の中から救出したのは私だ」

 

「お、おい、ちょっと待ってくれ?俺が炎の中にいたのか?」

 

「そうだ、お前はここにいたんだ。どうしてかは分からない。それから先、お前は記憶を失い、この神社にも無意識に近づくのをやめたからな。それなのに、今になって呼ばれるようにこの神社にお前は縁を作った。それに私は興味がある」

 

 唯羽が助けてくれなければ俺は死んでいた?

 この今は何もない焦げ跡がかすかに残るこの場所で――。

 

「火災理由も分かっていない不審火。そこでお前は何を見たんだ?」

 

「わ、分からない……俺は何も覚えていない」

 

「何か思い出せないか?それが思い出せれば、私にも対処ができる」

 

「……すまん。何一つ、思い出せないんだ」

 

 この場所の記憶すらもないのだ、社があった記憶さえも。

 

「なるほどな。記憶障害……これも、やはり“呪い”なのか」

 

 彼女はポツリと小さく呟く。

 

「は?呪い?呪いってなんだよ?」

 

 俺が思わず唯羽の肩を押さえて尋ねた時だった。

 

「あっ……!?」

 

 唯羽がいきなりバランスを崩すように俺にもたれかかってくる。

 はじめは何かの冗談かと思いきや、何か様子がおかしい。

 

「お、おい、唯羽!?」

 

「……違う、私は……私はっ……」

 

 頭を押さえ込むように苦しむ彼女はそのまま、力なく足から崩れた。

 

「うぅっ……ぁっ……!」

 

「ゆ、唯羽!?お、おいっ!?しっかりしろ、唯羽っ――!?」

 

 かつて社があったその場所で、顔色を青ざめさせて唯羽が倒れた。

 俺の過去、その10年前に何があり、俺は何を見たのか。

 体調を崩し倒れた唯羽がここが尋常ではない事を証明している。

 ここで一体、何があったっていうんだよ!?

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ