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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第29章:キャサリン、再び

【SIDE:柊元雪】


 例えば、街中を歩いてたりして「あっ、あの人に会うかも」とか、ふと思ったりする。

 そうしたら、ホントに出会ってしまうと言うことがたまにあったりしないだろうか。

 俺もそうだった。

 俺の過去を知りうると思われるキャサリンに会いたかった。

 だが、それは思わぬ形での再会になる。

 大雨のために和歌の家に立ち寄った。

 タオルを取るためにお風呂場の扉を開けたその先にいたのは――。

 

「柊元雪……?」

 

「きゃ、キャサリンっ!?」

 

 濡れた髪、頬を伝う水の滴……艶やかな魅力を持つ肢体。

 電波系美少女、キャサリンがなぜかそこにいた。

 

「驚くのは良いが、こちらを向かないでくれ。こうみえても、私も女でね。別に柊元雪に見られてもかまいはしないが、ある程度の羞恥心くらいはあるのだよ。事故だと分かっていてもね」

 

「す、すまない!?」

 

 俺は慌てて視線をそらす。

 つい見てしまった、お尻のラインは非常に良い身体つきをしておりました。

 それにしても、本当に色白すぎるくらいに色が白かった。

 

「あまり大声は出さない方がいいぞ。この事がヒメに知られたら大変なんだろう」

 

 動揺しまくる俺とは違い、裸を見られても冷静なキャサリン。

 大声出すのは女の子であるキミの方のはずだろうが……どんな状況でも冷静すぎてびっくりだ。

 ……っていうか、ヒメって誰?

 

「柊元雪……髪が濡れているな。この大雨に濡れたのか?風邪をひくぞ」

 

 彼女は俺にタオルを手渡すので受け取ると、「すまん」と脱衣所から急いで出た。

 扉を閉めて俺は大きくため息をつく。

 とんでもない場面に出くわしてしまった。

 まさか、誰かがお風呂に入ってるとは思わなかったのだ。

 

「それにしても、どうして……あの子が?」

 

 俺は髪をタオルで拭きながら、考えていた。

 ここは和歌の家で、そこにキャサリンがいる理由。

 

「もしかして、和歌のお姉ちゃん?」

 

 でも、和歌自身が姉妹がいる事を否定している。

 ということは何かしらの事情があって同居しているとか?

 考え事をしていると、和歌が俺を探しに来た。

 

「元雪様?まだここにいらしたんですか?」

 

「わ、和歌!?ち、違うんだ、これはね?」

 

「……はい?どうかしました?」

 

 きょとんとする和歌、俺は気まずくなりながら戸惑う。

 そこへタイミングが悪く、俺の後ろの扉が開く。

 

「あっ、お、お姉様?いらしたのですか」

 

「やぁ、ヒメ。別に大したことはないさ。お風呂に入って着替えていた私と柊元雪が鉢合わせをしてしまっただけだよ」

 

「鉢合わせって……え?え?」

 

 軽く頬を赤らめる和歌、想像しないで!?

 このままでは嫉妬しやすい和歌と、再び修羅場が……!

 

「そんなに心配しなくても、私も裸をさらしたわけじゃない。幸いにも着替え終わったあとだったからね」

 

 そう言った彼女は淡い桃色の浴衣を着ていた。

 どこまでも和服好きなのね。

 

「そ、そうなんですか?よかった……」

 

 俺もホントによかったよ。

 修羅場回避とばかりに、キャサリンがフォローしてくれた。

 うん、この子は意外と良い奴だな。

 

「柊元雪、奇妙な因縁だ。こんな場所で会う事になるとは……」

 

「俺もだよ。キャサリンと会うとは思ってもいなかった。探していたんだぞ」

 

 俺の台詞が気になったのか、「きゃさりん?」と和歌が尋ねる。

 

「……ふむ。こんな場所ではなんだ、場所を変えて話をする必要がありそうだ」

 

 電波系美少女ながら雰囲気を読む事はできるらしい。

 俺たちはリビングの方へと案内される。

 

「……私は昼食をとるから適当に紹介してくれ」

 

 そう言ってカップラーメンを作り出す、キャサリン。

 今の時間、お昼の4時過ぎに昼飯って遅いだろ。

 ていうか、マイペースなのは相変わらずか。

 

「元雪様、紹介します。彼女は私の従姉なんです。1年ほど前からからこの家で同居しています」

 

「そうだったのか。で、キャサリン。そろそろ本名を教えてくれ」

 

「……だから、私は貴夜沙凛だと名乗ったはずだ」

 

「どこが本名だよ!?和歌がワケも分からないって顔をしてるじゃないか。和歌、彼女の本当の名前を教えてくれ。キャサリンではないんだろ?ちゃんとした名前があるはずだ」

 

 和歌はどういう事情か分からないようで、素直に答えてくれる。

 

「きゃさりん?えっと、お姉様のお名前は篠原唯羽(しのはら ゆいは)と言います」

 

「唯羽?なんだよ、ちゃんと可愛い名前があるじゃないか」

 

 キャサリン、改めて、篠原唯羽が本名らしい。

 少なくとも貴夜沙凛と言う名前よりは良いと思う。

 

「やれやれ、隠していたのに本名を知られたか」

 

「え?隠していたんですか?」

 

 彼女はカップラーメンにお湯を注ぎこみながら嘆く。

 

「ヒメ、私の本名をうかつに柊元雪に教えてはいけない。もしも、彼が私のストーカーだったらどうしてくれる。名前ひとつで、ひどい目に合わされるかも知れないんだぞ」

 

「も、元雪様はそんなことしませんっ!」

 

「いや、安心するな。現にこの男は私のはだ……」

 

 裸を見た、と言われそうになり俺は慌てて言葉を放つ。

 アレは事故だ、フォローしてくれたんだから蒸し返さないでくれ。

 

「俺は変態じゃないから。そんなことしないし。ていうか、和歌の従姉だったんだな。姉妹はいないって言ってたし」

 

「はい。……元雪様は唯羽お姉様をご存じだったんですよね?」

 

「あ、うん。ちょっと前に神社であった。ほら、おみくじをもらった事があるだろ」

 

 軽く和歌には事情をはぐらかしながらも俺は答える。

 

「なるほど。そう言う事ですか。お姉様はお手伝いをしていますから」

 

 俺もこれで納得がいった。

 和歌の親戚だったから、この椎名神社に出入りが自由だったわけだ。

 

「唯羽はここに住んでいたのか」

 

「そうだ。……柊元雪とヒメが交際してると言うは知っていたが」

 

 唯羽はラーメンを食べ始めながら俺に言う。

 

「ヒメが最近、可愛く着飾ったり、メイクをしたりするのも彼の影響か?人は変われば変わるものだよ」

 

「は、はい。唯羽お姉様」

 

 ふと、俺は“和歌”を“ヒメ”と呼ぶ唯羽の事が気になった。

 

「なんでヒメなんだ?」

 

「……?ヒメはヒメだから、ヒメなんだろう?何を言ってる」

 

 素で返されたよ、電波系め。

 

「お姉様には小さな頃からヒメと呼ばれているんです」

 

「お姫様ってこと?唯羽、その理由は?」

 

「ん……ヒメはヒメだからヒメだと何度言わせる」

 

「……深くは追求するなということか」

 

 唯羽にしては歯切れが悪い感じがしたので、それ以上は聞かない。

 

「あと、唯羽に関して気になる事があるんだが、これを言っていいのかどうか」

 

 どうして、唯羽はこの時間帯に既に家にいたのか。

 同い年くらいなのに、学校から直帰の俺たちよりも早い理由。

 それと遅い昼食の事を考えて導かれる結論はひとつ。

 

 唯羽は学校に通っていない――。

 

「柊元雪。別に空気を読まなくて良い。聞きたい事があるなら答えよう」

 

 食事を終えた唯羽は静かに呟いた。

 

「ストレートに聞くぞ。その……学校には行っていないのか?」

 

「いわゆる、不登校と言うやつでね。たびたび、学校を休んでいるんだ」

 

「……その理由を聞いても良いか?」

 

「前にも言っただろう。私は魂の色が見える、と――」

 

 彼女が以前に俺の魂の色は灰色だって言っていた。

 半信半疑だったが、神社の家系なら絵空事ではないように思える。

 

「生まれつきの異能と言うべきか。私はそう言うものが見えるのだよ。そして、この魂の色が見える力は万能ではない。見ないと思って見えなくなるものじゃない」

 

 常に彼女には他人の魂の色、オーラが見えるそうだ。

 他の人には見えないものだと自覚した時から、彼女は自分が人と違うと思った。

 

「嫌でも、私は人の多い場所ではそれを感じてしまう。人酔いするというのかな、あまり好ましくない状況にも陥る事があるんだ。魂の色が見える、これはただ色が見えるだけじゃなく、その色によって相手の事がなんとなく分かると言う事でもある」

 

「つまり、見ず知らずの人の事でも、なんとなく、その人の事が分かるのか?」

 

「すべてではないけども、分かるよ。例えば、柊元雪……今、思い悩んでいる事がある。それは、最近、自分が他人から父親に似てると言われる事を気にしているだろう?」

 

「……ま、待て!?何も言わないで!?あと、俺は母さん似だからっ!!」

 

 親父に似ているなんて、全力で否定させてもらう。

 最近は親父に似てる、と他人に指摘されることを嫌がるのをなぜわかった?

 

「他人の全てが分かるわけじゃないが、こうして人の“悩み”はよく分かる。負の感情は表にでやすいから。私はそんなに強くない。他人の悩みや感情、それらを受け止め続けるほどにはな。無視できないからこそ、人の多い場所にはいけない」

 

 唯羽はいつもは感情を見せないが、今はどこか寂しさを表情に見せる。

 

「こういう力を持っていると、他人からは電波系だ、変だと思われる事が多い。人は自分の持っていない事は知らない。魂の色が見えるなど信じられないものだろう。私の親もそうだ、気味悪がり、傍に置きたいとは思わないのを感じていた」

 

「それって……唯羽がここに暮らしているのは追い出されたってことか?」

 

「似たようなものだ。ありていに言えば私は持って生まれた力のせいで、親や姉妹からも気味悪がられているのだよ」

 

 静かにうなずいた彼女。

 ……ごめん、俺も電波系だって思ってた。

 この子も思い悩むそんな事情があるのだとは全然知らなかった。

 

「そんな顔をするな。こうしてヒメの家族と楽しく暮らせている現状に不満はないからね」

 

 篠原唯羽、生まれ持つ力ゆえに、孤独に生きる少女か――。

 

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