第28章:思わぬ展開
【SIDE:柊元雪】
ファーストキスから一夜明け、俺たちは互いを意識し合う存在になっていた。
以前よりも強く結び付きを求めるように。
本当の意味での愛ってやつを心に自覚した俺と和歌。
好きな子とはずっと一緒にいたい。
キスはきっかけだったんだ。
俺と和歌が互いの気持ちに向き合うためのきっかけ。
今では誰から見ても恋人に見えるように甘い関係になれた。
たったひとつのキスで堅苦しさがなくなった。
それまでとは違い、もっと深い心の奥底から俺たちは気持ちを抱き合う。
だが、そんな俺たちに思わぬ展開が待ち受けていた。
そう、あの“美少女”との出会いが――。
教室で俺は気になる事があった。
それは自分の席の隣にいるはずの女の子のことだ。
篠原さんという子は病弱で、学校に登校できていないらしい。
「篠原さんは今日も来ず、か」
「んー。なんだ、柊。彼女が気になるのか?」
俺の前の席にいる黒沢が俺の独り言を拾う。
「そりゃ、お隣さんだからな。そろそろ、出席日数もやばいんだろ?」
「来週までに来ないとダメっぽいぞ。身体が悪いとは言え、留年はキツイよな」
「でも、無理はできないだろ。1学期中に会えたらいいんだが」
お隣さんが気になりながら、俺は窓の外を眺める。
今日は雨が降りそうなお天気だ。
「どんよりとした雲だな。雨がふりそうだ」
「今日の雨はちょいと厳しいらしいぞ。豪雨に注意せよって天気予報で言っていたからな。傘は持ってきているのか?」
「一応はな。でも、自転車じゃあまり変わらない。強い雨だと前が見にくいんだよ」
雨の日はバスを使ったりすることもあるが、今は和歌と一緒に登校しているので、バス停の道を使わないために、気軽にバス通学をできないでもいる……和歌を誘えばできない事もないだろうが。
「黒沢は電車通学だっけ。雨も関係ないだろ」
「いや、雨は嫌だな。ダイヤが乱れるし、人は多くなるし、雷なんて落ちたら電車自体がストップするからな。台風とか、ああいう時は電車通学はある意味、最悪だよ。行きならまだいい、帰りにそうなったら終わりだな」
確かに、それが帰りとかだったら絶望的だよな。
「話は変わるが、柊は最近、恋人の子とはどうなんだ?」
「ふふふっ。絶好調さ。もう、最大の障害もなくなり、あとはハッピーエンドを迎えるくらいな感じ?もはや敵なし、あとは関係を深めるだけさ。いい感じに恋愛できてるよ」
「そうか。よかったじゃないか。でも、障害ってなんだよ?」
「うちの母親。俺と和歌の交際を認めってくれていなくてね。今はようやく認めてもらえたけど、先週の土日は本当に大変だったのだ。前日に些細な誤解で喧嘩もしちゃうし。すぐに仲直りできたけどな」
土曜日は恋月桜花の話を和歌から聞いて、その夜には和歌と大喧嘩。
翌日の日曜日は母さんとの決戦を無事に乗り切り、ホタル観賞と共にファーストキス。
たった2日ながら、かなり大変な目にあったのだ。
だが、すべてをクリアした俺たちに待っていたのは幸せな日常だ。
……まぁ、何もかも問題がなくなったってわけじゃないんだが。
俺には気になる事がひとつだけある。
それは椎名神社に俺が“引かれている”ということだ。
不思議な現象が起きたあの時以来、特に何も起きていない。
けれども、俺と椎名神社には何かしらの因果関係があるのではないか。
例えば、これは俺の仮定だが子供の頃にあの石碑に悪戯をして呪われた。
俺の子供時代の悪事を思い出せば、それもありうる。
キャサリンに会えば、それも判明するかもしれないのだが、毎朝のように社務所をのぞいても会う事がない。
あの子は今、どこにいるんだろう?
「あー、やっぱり、大雨になってきたな」
学校帰りの帰り道、俺と和歌は自転車に乗りながら雨に耐える。
傘が風でしなり、制服が濡れ始めてきた。
「もうすぐ、私の家に着きます。元雪様、よっていきませんか?」
「悪い、そうさせてもらう。これが噂のゲリラ豪雨か」
どしゃ降りの雨を前にすると、人は何とも無力だ。
何とか本格的に濡れる前に俺は和歌のお屋敷にたどり着けた。
「和歌、制服は濡れなかったのか?」
「私は大丈夫ですよ。元雪様は少し髪の毛も濡れていますね」
「まぁ、制服も軽く濡れた程度だし、放っておけば乾くだろ」
「そう言うわけにもいきません。タオルで拭いた方がいいです」
家に上がると、お屋敷の中は今日は静まり返っている。
気になった俺は和歌に尋ねる。
「おじさんたちはいないのか?」
「今日は両親共に出かけているんです。遠縁の親戚の結婚式だそうですよ」
「そうか。雨の影響がないと良いな。それにしても大きな屋敷だよな」
和風建築のお屋敷は広さもかなりある。
「古いだけの家ですけどね。元雪様の家のような洋風な家も私は良いと思います」
「うーん。俺はこういう和風な屋敷の方がすごいと思うけど」
結局は“ないものねだり”という奴だろう。
互いに新鮮味がないから大切には思えないだけだ。
「タオルはお風呂場にあります。好きな物を使ってください」
「あぁ、そうさせてもらうよ。和歌も早く制服から着替えてくるといい」
「はい。では、リビングの方で待っていてくださいね」
和歌が部屋に行ってしまうのを見送って、俺はお風呂場に向かう。
廊下を突き当たればお風呂場らしい。
恋人の家っていうだけで緊張するよな。
「……いずれ和歌と結婚するならここに暮らす事になるんだろうか」
ついそんな事を考えしまう。
俺は和歌を愛してるし、彼女の夢を叶えたい。
つまり、それは結婚を意味している。
「結婚か。する気はあるけども、まだまだ実感がわかないな」
覚悟は決めていても、子供である俺には実感がまだない。
そういう実感がわき始めた時、俺は大人になれるのかもしれない。
俺は考え事をしながら、お風呂場らしき扉をあける。
油断してたと言えば、そうだ。
俺は完全に油断していた。
「――え?」
お風呂場にはいるや、綺麗な白い肌とお尻が見えた。
いやいや、お尻……って、はいっ!?
「……ぁっ……!?」
俺は慌てて顔をあげると、そこにいたのは――。
「――柊元雪……?」
「――きゃ、キャサリンっ!?」
ありえない展開、思わぬ女の子がそこにいたのだ。
いつぞやの電波系美少女、キャサリンが肢体をあらわにしていた。
「え?え?えーっ?!」
動揺しまくる俺は思考が停止しそうになる。
目の前にいるのはタオル姿のキャサリン。
ここは和歌の家なのに、どうしてキャサリンがいるんだ――!?