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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第27章:子供と未来

【SIDE:椎名和歌】


 その夜、初めてのキスを元雪様としてしまった。

 ……心がとても、温かくなるような不思議な気持ち。

 心の奥底から全身を通じて愛情が満たされていく。

 初めて見た幻想的なホタルの光とファーストキス。

 私にとって忘れられない大事な思い出ができた。

 夜の9時過ぎになると、ホタル達は住みかに戻るように数が少なくなっていく。

 そろそろ時間なので、私たちは家に帰る事にした。

 ホタル観賞の帰りの車の中でも、元雪様は麻尋様にからかわれていた。

 

「ねぇねぇ、ユキ君。もしかして、ホタルの光に当てられたの?あれは“愛の光”だもの。そう、溢れるばかりの愛の光の前だからついしちゃっても、仕方ないのよ」

 

「うぐぐ……麻尋さん、どこから見てた!?これ以上、俺たちをからかわないでくれ」

 

「あははっ。だって、照れるユキ君が可愛いんだもんっ」

 

 お姉さんと弟、今なら元雪様と麻尋様の関係に嫉妬することはない。

 純粋な意味で本当に仲が良いんだって……傍にいれば仲のよさを感じられる。

 それは愛は愛でも、家族愛に近いものだった。

 

「なんだい、元雪?麻尋に何か弱みでも握られたのか?」

 

「聞いてよ、誠也さん。実はね……この子たちは……」

 

「ぎゃー!?な、何でもない!兄貴は車の運転に集中してくれ」

 

「ふふっ。ユキ君、残念ね。私たち、夫婦の間には約束ごととして隠し事をしないと結婚した時から決めているのよ」

 

「ナンデスト!?うちの兄嫁はマジでひどい……」

 

 嘆く元雪様はうなだれていた。

 

「あらら、少し意地悪しすぎたかしら」

 

「……麻尋様は元雪様をからかうのが好きなんですね」

 

「だって、反応が可愛いじゃない?」

 

「俺は兄嫁にいじめられていることに兄貴の抗議します」

 

 元雪様のお兄様である誠也様はとても穏やかな人だ。

 

「麻尋。その辺にしておいてあげて。それに、元雪もキスを見られたくらいで、おどおどしないように。男だろ?」

 

「それはそうなんだけどさ……って、何でキスしてた知ってるんだっ!?」

 

「いや、僕もお前たちの傍にいただろう」

 

「マジッすか。兄上様、この件はどうか両親には内密にしてください」

 

 そのようなやり取りをする彼らが私は面白かった。

 元雪様も、麻尋様や誠也様の前では年相応に見える。

 やがて、前の席にいるふたりは「親父の髭はいつ母さんに剃られる?」という話題で盛り上がっていた。

 ……おじ様も髭を狙われて何だかかわいそう。

 微笑ましそうに眺めてる麻尋様に私は尋ねた。

 

「麻尋様は誠也様と結婚されて何年目になりますか?」

 

「今年で2年目かな。本当に私はいい結婚を出来たと思っているの。誠也さんのおかげで私は新しい家族もできたもの。結婚のおかげで幸せになれた事を感謝している」

 

「家族ですか……?」

 

 何だかその家族と言う言葉に麻尋様は特別な何かを感じているみたい。

 麻尋様は私の疑問に言葉を選ぶように話し始める。

 

「私はね、いわゆる児童養護施設で育ったの。小さな頃に実親から虐待されていたらしくて、今は全然、連絡もつかないわ。こちらも会いたいとは思わないけど。まぁ、施設育ちだからって全くの不幸ってわけじゃなかったけどね」

 

「そんなことが……」

 

「今の時代は珍しくもないのよ。施設には私と同じ境遇の子なんていくらでもいたもの。でも、家族愛には憧れてたなぁ。いつか自分はちゃんとした家族を持ちたいって思っていたら……私は誠也さんに出会ったの」

 

 私にはちゃんとした良い家族がいる。

 けれども、世の中には彼女のような人たちもいるんだ。

 麻尋様は辛い過去があったのにもかかわらず、その性格はとても明るい。

 ポジティブな性格は彼女自身の強さだけでなく、支えてくれる人たちがいるらしい。

 

「お義母さん、あっ、誠也さんのお母さんね。あの方は、私にとって本当の母親みたいに接してくれているのよ。誠也さんと結婚してから、私の全ての事情を彼女は受け入れたの。そして、私の母になってくれた。とてもいい方なの。和歌ちゃんも愛を感じたでしょ?」

 

「……はい。慈愛に満ちた優しい方だと思います」

 

「今ではお義母さんも私を実娘のように思ってくれている。それにユキ君っていう可愛い弟もいるしね。お義父さんは……何とも言えないけども、面白い人だからOK。とにかく、私にとっては理想的な家族を誠也さんは与えてくれたのよ」

 

 誠也様と結婚することで麻尋様は理想的な家族を手に入れた。

 元雪様との関係を疑ってしまうほどに仲が良いと思えたのは、本当の姉弟のように見えるほどに家族として溶け込んでいるからなんだ。

 ゆっくりと車体が揺れる夜道。

 窓の外に視線を移しながら、麻尋様は語る。

 

「和歌ちゃんはユキ君と運命の恋をしたんでしょう」

 

「はい。この出会いは運命だと思っているんです。そうなる運命だったと……」

 

「そっか。いいね、運命の恋って……。それじゃ、将来もちゃんと考えたりしている?」

 

「将来ですか?ある程度は考えています」

 

 元雪様が神社を継いでくれる、それは私の夢を叶えてくれると言う事。

 彼のおかげでこれからも大好きなあの場所を守り続けていける。

 それは私の小さな頃からの夢、元雪様がいなければ叶うことはできなかった。

 

「結婚を前提にお付き合いってすごい覚悟がいるじゃない?」

 

「いえ、私は……元雪様となら覚悟は既にできています」

 

「ふふっ。幸せそうでいいわね。それじゃ、赤ちゃんとかは考えたりする?」

 

「え?こ、子供ですか?あ、いえ、それはまだ……」

 

 私は軽く照れながら答える。

 いずれ結婚すれば元雪様との子供が欲しいと思うだろうけども、さすがに今はそこまではまだ考えていない。

 それに、元雪様との関係もまだそんなに深いわけでもない。

 ファーストキスをしただけで精一杯だ。

 

「まぁ、和歌ちゃんは学生だし、当然か。でもね、結婚したら2人っきりって言うのも良いけど、赤ちゃんも欲しくなるのよ。可愛い自分の子供が欲しいわ」

 

「麻尋様は子供が好きなんですか?」

 

「大好き。私は自分の親みたいな事は絶対にしない。子供を愛せる自信がないなら、最初から子供なんて産んじゃダメよ」

 

「……そうですね。私もそう思います」

 

 悲しい過去を持つ麻尋様は自分のような想いを子供にはさせたくない。

 その強い気持ちが伝わってくる。

 

「――そろそろ、ホントに赤ちゃんが欲しいなぁ」

 

 車の運転をしている誠也様を見つめながら呟く。

 狭い車内だと当然、お話も聞こえてるわけで。

 

「なぁ、兄貴。後ろのお姉さんが妙に生々しいお話をしてるけど?」

 

「そうかい?僕には聞こえないなぁ。それよりも父さんの髭の心配をしてあげよう。そろそろ、本当に母さんに剃られてしまうのではないかと心配だ。もし、剃られたら、きっと多大なるショックを受けるだろう」

 

「いや、親父の髭の心配なんてどうでもいいから、兄貴は自分の心配をした方が良いと思う」

 

 わざとはぐらかすあたり、誠也様も麻尋様の事をいろいろと考えてはいるみたい。

 夫婦って素敵だけど、大変でもあるんだよね……。

 そんな彼の態度に麻尋様は少し不満そうに言う。

 

「……もうっ、誠也さんも真面目に考えて欲しいわ」

 

「でも、子供を望む気持ちは普通は女性の方が強いものですから」

 

「んー、そうかもしれないわね……私はできるだけ早く子供が欲しいんだけどなぁ。娘だったら、なお嬉しい♪」

 

 麻尋様のように歳が近い大人の女性とお話するのは楽しかった。

 

 

 

 

 元雪様たちと別れてから私は自分の家に帰る。

 今日は元雪様のお母様とお話をして認めてもらい、夜のホタル観賞では麻尋様とも仲良くなれた。

 ……本当に長い一日が終わろうとしている。

 ふと、家の前にさしかかったところで私は気付いた。

 ほのかな月明かりに照らされて、家の前には人影がいたの。

 

「あれは……お姉様?」

 

 普段はあまり外には出たりしないお姉様がそこで夜空を眺めていた。

 

「こんばんは。こんな場所でお姉様は何をしているんですか?」

 

「いや、特に意味はないよ。嫌な月が出ているから、気になってみていただけさ」

 

「嫌な月?あっ、今日は赤い月ですね」

 

 夜空にのぼる月は薄く赤い色に見える。

 時々、月が赤く見えることがあるけれどもどこか不気味に思える。

 

「それよりも、こんな時間までどこにいたんだ?」

 

「あっ、はい。恋人と。そのご家族共にホタルを見に行ってきたんです。私に恋人ができた話はしましたよね?」

 

「あぁ。あの“柊元雪”と恋人になったんだろう。話は聞いているよ」

 

 お姉様は元雪様の名を口にする。

 私は名前までは言った覚えがないので尋ね返した。

 

「あれ?私、元雪様の名前を言いましたっけ」

 

「別に不思議なことはあるまい。柊元雪とは因縁があって、知っているだけさ」

 

「え?い、因縁ですか?」

 

 因縁って……つまりは元雪様もお姉様の事を知っているのかな?

 でも、そんな素振りを見せていないので、多分知らないはず。

 大体、普段から外に出ないお姉様と元雪様の接点が分からない。

 

「そんなに不思議そうな顔で見ないでくれ。心配はない。因縁という言葉は使ったが、難しい意味はないよ」

 

「そうなんですか。私……お姉様が元雪様を知っているとは思いませんでした」

 

「柊元雪……私は以前から彼を知っていたよ」

 

 お姉様は赤い月を見上げて静かに呟く。

 

「―― そう、ずっと昔からね……」

 

 お姉様が見せたのは寂しそうな微笑みだった。

 今まで彼女が見せた事のないような表情だったのでびっくりする。

 

「今日はもう遅い。明日も早いんだろう?私も部屋に戻るとしよう」

 

「あ、はい……」

 

 私は気になりながらも家の中に入ることにする。

 初夏の夜空は赤い月に照らされて、どこか不気味なほどに暗く広がっていた。

 お姉様と元雪様、2人の因縁って一体何なんだろう……?

 

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