第25章:ホタルの光
【SIDE:柊元雪】
母さんという最大の障害を乗り越えた今、俺と和歌の将来を邪魔するものはなくなった。
結局、そのあとは仲良く一緒に夕食を食べたのだが。
「和歌さんはいい子ね。私も気にいったわ」
と、大方の予想通りに母さんもすっかりと和歌を気にいってくれていた。
……相変わらず、可愛い女の子なら基本的に大好きな人なのだ。
「ただいま、元雪。今日はどうだったんだい?」
「あ、兄貴だ。おかえり。なんとかなったよ。兄貴たちは映画を見に行ってきたの?」
「あぁ。たまにはデートもしないとね。麻尋と2人になれる時間も作らないと」
「楽しかったわよ、誠也さん。あと……ユキ君、無事に終わってよかったね」
笑顔の麻尋さんに俺は言ってやる。
「誰かさんのフォローがなくて大変でしたが」
「その誰かさんって私?だとしたら心が痛むわ」
「ソフトクリームまでおごったのに。……そのおかげで喧嘩までしちゃったし」
あれがきっかけで和歌を不機嫌にさせてしまったわけで。
ホントにまったくもってついてない。
麻尋さんは状況が分からずに「ユキ君?」と不思議そうだ。
まぁ、悪いのは浮かれていた俺なんだけどな。
そして、あの喧嘩は起こるべくして起きた。
俺と和歌はまだ互いを知らなさすぎるから。
些細なことでも良い、お互いを理解して会って行こうと思っている。
「その和歌ちゃんはまだ家にいるの?」
「リビングで母さんとお話中。来週には向こうの家に挨拶もしにいくみたいだから、かなり良い方向に話は動いてる」
「ほぅ。よかったじゃないか。それならば、今からアレを見に行くか?」
「アレってなんだ、兄貴?」
兄貴達と一緒にリビングに行くと、和歌もすっかりと母さんと打ち解けていた。
和歌を初めて見た麻尋さんは驚いた顔をする。
「うわぁ、お人形さんみたい。綺麗な子だよね。この子がもユキ君の将来のお嫁さん?」
「和歌。紹介するよ、うちの兄貴と、その奥さんの麻尋さんだ」
「はじめまして。元雪の兄の誠也です」
「誠也さんの妻の麻尋よ。お話は聞いてるわ、和歌ちゃん。ホントに可愛い子ねー」
和歌は麻尋さんの方をみて、昨日の事を思い出したらしい。
「こちらこそよろしくお願いします。あ、あの、あまり元雪様に……スキンシップでベタベタしないでくださいね」
「え?あ、うん?」
あはは……麻尋さん、ごめん、あとで事情は話しておく。
「和歌さん。どうだろう、今日はこれから一緒にホタルを見に行かないか?実は麻尋と一緒に今からホタルを見に行こうって話をしていたんだ」
「ホタルですか?」
「あぁ、ホタルは今が見頃の時期なんだよ」
アレってホタルの事だったのか。
兄貴の誘いに和歌は俺の方を見てくる。
「和歌。時間が大丈夫なら兄貴達と一緒に行くか?」
「あ、はい。時間は家に連絡をすれば問題はありません。ホタルですか。私は実物を見たことがないんですよね」
「そうなんだ。ホタルの光は綺麗だよ」
小さい頃は年に一度はホタルの観賞につれていってもらったっけ。
その帰りは山奥の森へカブトムシを捕りに行ったりした思い出がある。
「俺もホタルを見に行くのは久々だな」
というわけで、俺たちはホタルを見に行く事にした。
兄貴が車を出してくれて、家からだと1時間ほど離れたホタルが見える場所に向かう。
車内では和歌のことを麻尋さんに話をして、主に昨日の触れ合いが誤解を招いた事を説明をした。
「あー、そうなんだ。ごめんね、和歌ちゃん。変に勘違いさせちゃって」
「いえ、私が悪いんです。麻尋様との仲の良さに嫉妬として、元雪様を信じ切れていませんでした。私が悪いんです」
「ユキ君は純情だからからかうと面白い反応をしてくれるの。ついしちゃうんだよね」
ドキッとしすぎる事もあるから、からかわないで欲しい。
このお年頃の男の子には刺激がたまらんこともあるのです。
「でも、すごいわよね。偶然の出会いってあるものなんだ。まさに運命の恋ってやつ?」
「はい。私も運命的だと思っています」
「運命か。いいなぁ、その響きの恋愛が私もしたかった」
「……麻尋、僕との結婚は運命的じゃなかったのかい?」
車の運転をしている兄貴が苦笑いをしながら麻尋さんに言う。
「そんなことないわよ。ただ、職場結婚だから運命の出会いっていうのとはまた違うじゃない。女の子は同じ恋愛でもシチュエーションが違うと憧れるものなの」
「シチュエーションか。麻尋の言う乙女心は分かりにくいね」
「私は分かります。大切ですよね。あの、麻尋様はお年はいくつなんですか?」
「私は今年で22歳よ。誠也さんとは4歳違いなの。高校を卒業して入社していた職場が誠也さんの会社でね……」
楽しそうに女の子同士会話するふたり。
和歌も同じ女性と恋愛話をするのは楽しそうだ。
俺と兄貴は男同士の会話をする事にした。
「……可愛い子じゃないか。噂通りに良い子だな」
「でも、俺も和歌もまだまだお互いに知らない事だらけでさ。勘違いや思いこみで昨日は喧嘩しちゃって焦ったよ」
「それは誰にでもあることだ。最初から理解しあえる相手なんていない。これから時間を積み重ねていけばいいだけだ。元雪と和歌さんは相性がよさそうだし、これからも良い付き合いをしていけるはずだろ」
「うん……頑張ってみる」
まだまだこれからだよな。
時間の積み重ねってのはホントに大事なものだと思える。
「……なぁ、兄貴。前に俺は恋愛を知らないだけって言っただろ。その通りなんだって思い知らされたよ。喧嘩して、すれ違って初めて分かる。俺は相手の事を考え過ぎていたってこともな。バランスが難しいよ」
「そう言うところを楽しむのも恋愛だよ。元雪、経験を積んでいけばいい」
「そうだな。母さんもようやく認めてくれたから、少しは気が楽にもなったし」
俺自身も覚悟を改めてした。
和歌との将来のために、頑張って神職を継がないといけない。
「……ねぇねぇ、ユキ君。ちょっといい?」
「ん?なんだ、麻尋さん?」
後ろの席から麻尋さんに呼ばれたので振り向いた。
「和歌ちゃんともうチューはしたの?」
「――ぶはぁっ!?」
思わず噴き出してしまう。
な、何を言ってくれてますか、このお姉さんは!?
和歌とキスだと……そんなのまだしてないよ!
……そりゃ、俺も男ですし、したい気持ちはあるんだが。
まだそういう雰囲気にもなってないし。
物事には順序と心構えが必要なんですよ。
「ありゃ……まだしてないんだ?」
「わ、和歌とはまだそう言う関係じゃないだけだ」
「でも、和歌ちゃんはしたいんだよね?」
和歌に話を振られると、和歌は照れくさそうに小さな声で言う。
「そ、それは……私は元雪様を愛していますから」
「ほら、みなさい。女の子にキスしたいって言わせるの?そういうところ、ユキ君は鈍感だから。しっかりとしないと、和歌ちゃんに愛想つかされちゃうわよ。初恋だからってのんびりしていいわけじゃないんだからね?」
麻尋さん、そういう言い方されると俺がヘタレに思われてしまう。
俺だってしたいけど、ここでしてもいいのかなって思っちゃうんだよ。
「麻尋。あまりふたりをけしかけない。2人には2人の距離感と付き合い方があるんだ」
「えーっ。だって、もう付き合い始めて一週間でしょ?お互いに手をつなぐだけなんて、中学生の恋愛じゃない。ここはもう一歩くらい踏み込んで……雰囲気にまかせて、ね?」
「も、元雪様。私の覚悟はできてますからっ」
「へっ!?あ、あはは……」
和歌が勢いで口走ってしまうので俺は苦笑いするしかなかった。
ファーストキス、か。
考えてみれば、俺たちもそろそろ次のステップに進む頃あいではある。
「ちなみに、私と誠也さんの初めてのキスは……ある日の夜、仕事場に残っていたら、いきなり誠也さんから強引にキスされたんだよね。普段とのギャップもあって、あれは乙女心をドキッとさせられてしまったわ」
「麻尋。その当時は既に付き合っていたから強引でも問題はないだろ?」
「まぁね。でも、いきなりだったから。誠也さんもやるなぁって」
確かに、兄貴も意外と大胆なことをする。
見た目と違って、兄貴はやる時はやる男なのですか。
そんな兄貴に憧れます、俺も頑張らないとなぁ。
雑談をしていたら、時間も早く流れて気がつけば山奥の方へと来ていた。
「そろそろだな。麻尋、懐中電灯は持ってきてるな?」
「ちゃんと用意してるわよ。昨日、買ってきたし」
「あ、100ショップで買い物してたのはそういうことか」
「うん。はい、どうぞ。ちゃんとユキ君達の分もあるからね」
あの時の買い物の謎が解け、俺は懐中電灯を手渡される。
「兄貴、ホタルって見頃は今の時期だっけ」
「6月後半が見頃だな。7月に入ると厳しくなるから時期的にはちょうどいいんだよ」
やがて、車は駐車場に止まる。
この付近は観光スポットとして、ホタルがよく見える場所があるのだ。
「さぁ、ついたよ。ここから少し歩くけど、和歌さんは大丈夫かい?」
「はい、私は大丈夫です」
「私もOKよ。そうだ。ユキ君、夜道を歩くんだからサンダルで来てないよね?」
「ははっ、何を言うんだよ、麻尋さん。ホタル観賞に行くって言ってる人間がそんな初歩的なミスなんてするはずがない。……兄貴、ここにある予備の運動靴を借りても良い?」
「……いいよ。まったく、そう言うちょっと抜けている所は父さんにそっくりだな」
やめてくれ、あの親父にそっくりとか言われたマジで泣きそうだ。
俺はサンダルから運動靴に履き替えて嘆くのだった。