第24章:好きになる理由
【SIDE:椎名和歌】
初めて元雪様のお母様にお会いした。
対面するのは緊張するけども、元雪様も私の母と対面したから今度は私の番だ。
おば様は本当に元雪様の事を大切に思っているのが言葉の節々に感じる。
そして、私はある質問に戸惑っていた。
「ふたりはまだ喧嘩もした事がないと思うけど、これから先……」
喧嘩なんてしたことがない。
それは交際して1週間ならば当然のことなのかもしれない。
普通なら短期間で喧嘩などしているようでは、長続きしないと思われてしまう。
結婚とはこれから先、一生かけて傍にい続けると言う意味だから。
私は昨夜の事を思い出しながら言った。
「昨夜、私は自分の身勝手な思い込みで元雪様と喧嘩をしてしまいました。勝手に嫉妬して、彼を傷つけるような暴言を言ってしまった事を悔いています」
「……喧嘩してるんだ、ふたりとも。まだ日が浅いのにね?」
少し驚かれた様子のおば様。
ないのが当然と思っていたからこそ、驚かれたのだ。
私は恋人失格なのかもしれない、それでも――。
「貴方達……恋愛初心者なのに、結婚なんて決めるのは早すぎるわね。そう思わない?」
おば様の一言が胸に突き刺さる。
それが現実だと言われている気がして。
私達はまだ学生、そんな事を考えるには早すぎる年齢。
それでも、元雪様と将来にわたって長いお付き合いをしたいと私は本気で考えている。
「……そうなのかもしれません。私達はあまりにもお互いを早くに好きになりすぎて、互いの事を知らなさすぎたのです。些細な不和が誤解を生み、私達は喧嘩してしまいました。ですが、それは……そういう現実を改めて知る機会になりました」
私はおば様に今の自分の想いを告げる。
「昨日の事です。元雪様が親しそうに女性と腕を組み歩いているところを目撃してしまいました。他の女性と交際してるのではないか。彼を信じずに疑惑を抱いてしまいました。そして、彼に確認する事もなく責めてしまったのです」
「えっと、元雪。とりあえず、アンタがバカなの?恋人がいるのに他の子ってどういうことよ?」
「俺が悪いけど勘違いだ。相手は麻尋さんだから。買い物に付き合ってる時にスキンシップがちょっと誤解を招いただけだ」
「……麻尋が?あっ……それはありえるかもしれない」
麻尋様と言うのは元雪様の兄嫁にあたる人のこと?
どうやら、おば様とも親しくしている様子。
昨日はその方がとても綺麗でスタイルもよくて……思わず嫉妬してしまった。
「元雪様から真相を聞かされるまで、私は疑ってしまいました」
「その件は仕方ないわ。麻尋の場合はホントに元雪を弟扱いしてるもの」
「……だとしても、です。本来ならば、私は彼を信じなくてはいけない立場なのに。信じ切れず、疑いをかけてしまいました」
「当然よ。和歌さん……貴方は嫉妬したのでしょ?焼きもち妬いたり、浮気だって思ってしまうのは女として不思議なことじゃない。そこを我慢しろって言うのは無理な話ね。むしろ、そう言う所は我慢しちゃダメだわ」
女性としての気持ちは理解してもらえたようだ。
それでも、相手を信じ切れずにいたのは私のせいだ。
今度からは何としても元雪様を強く信じると決めている。
「一応言っておきますが、俺は浮気してないぞ。そりゃ、麻尋さんにはドキッとさせられることも多々ありますが」
「分かってるわよ。喧嘩とはいっても事情があったのは分かったわ」
「……元雪様の事は本当にお慕いし、愛しているのです」
「和歌さんがうちの元雪をホントに愛してくれてるのも分かった。実際のところ、喧嘩したって話を聞くまで、初恋って気持ちに浮かれているだけだと思ったのよ。元雪も和歌さんも、互いが好きすぎて周りが見えてないってね」
初恋に浮かれていた。
それは確かにそうだった。
昨日の喧嘩になるまでは、ただ幸せすぎて恋愛の現実を見ようとしていなかったもの。
それでも、元雪様の本当の心を知った今は違う。
「今はどんなことがあっても私の気持ちは変わりません」
「可愛いわね、和歌さん。大和撫子って言葉は貴方にあるような言葉に思えるわ。元雪にはもったいない相手ね」
「余計なお世話だっての。母さん、俺は和歌が本気で好きだ。神職の事は母さんは反対かもしれないけど、俺なりに考えた事なんだよ。和歌の夢を叶えたい。一緒に生きていきたいって、俺がこの子を守りたいって思うんだ」
「元雪様……」
おば様の前で宣言してくれる彼の横顔を見つめる。
私は元雪様が好き。
彼に愛されている実感が私を幸せにしてくれるから。
「うわ、青臭いセリフ。どこかの海外産ドラマ並に青臭いセリフをよく言えるわね」
「うるせー。いい加減、母さんも認めてくれるか?」
「仕方ないわ。私もふたりの気持ちを確認したかっただけだもの。元雪が覚悟決めてるなら、好きにしなさい」
「母さん……ありがとう」
元雪様がそっと私の手の上に自分の手を重ねてくる。
私も認めてもらえた嬉しさにホッと安堵した。
「和歌さんがあまりにもいい子過ぎ。私が文句言う余地がないんだもの。認めるしかないないじゃない。和歌さん、元雪と良い恋人関係を続けてあげて」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
「近いうちに貴方のご両親ともお話をする機会を作ってもらわないとね」
本当によかった。
喧嘩してしまったという事実に負い目があったので、反対されても仕方なかったもの。
「喧嘩してもすぐに仲直りできる、それって本物の恋でしょ。認めるわ」
おば様はふと過去を懐かしむように言う。
「私も貴方達みたいに恋愛してた頃があったのが懐かしい。あの人は、私の友達のお兄さんだったのよ。既に出会った時は仕事をしていたけどね」
「母さんが親父に最初に出会った時っていくつ?」
「私が高校1年の時よ。年上の男の人なんて周りにいなくてね。でも、年上の魅力に引かれたのが間違いだった」
「間違いっていうなぁ。ワシの何が悪い!?」
おじ様が行きよくドアを開けてリビングに現れる。
先ほどからずっとこちらをこっそりと伺っていたので出る機会を待っていたみたい。
「あら、静かだと思っていたら覗き見してたの?」
「それはおいといて。母さんよ、説明をもとめるぞ」
「そうねぇ。私の誤算というべきか……私、貴方の髭面が苦手なの。そろそろ、寝てる間に剃ろうと計画してるわ」
「ガーン!?」
おば様の言葉にショックを受けたおじ様はうなだれている。
「親父がマジ凹みした。母さん、親父の髭は確かにうざいし剃りたいが、もっとオブラートに包んであげないとショック死する」
「……だって、ホントのことだもの。まさか、彼が髭を生やすなんてね。おじさん臭くて私は好きじゃないわ。本人が似合っていると思ってるのがさらにムカつく。髭さえなければ……私も愛してあげるわよ?」
「うぐぉおお……ワシを試しておるのか、母さん。ワシのプライドともいえる髭を剃れだと……誇りか、愛か、究極の2択だ」
元雪様とおば様に呆れられながら、悩みまくるおじ様。
それでも、おば様からはおじ様に対する確かな愛情がかい間見えたの。
元雪様の家族は楽しくて、とても家族愛に溢れている良い家族だと思う。
「無事に認めてもらえてよかった。和歌……これからもよろしくな」
「はい。こちらこそ、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
これからが本当の始まり、末永く続ける関係になれるように私は祈った――。