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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第21章:君、恋しくて

【SIDE:柊元雪】


 不協和音は突然に、思わぬ展開が俺を待っていた。

 それは俺と和歌との関係の間にできた初めての亀裂――。

 涙ながらの和歌からの電話に俺は正直、焦った。

 

『元雪様。私は貴方を信じていいんですか。私は貴方の恋人なんですか、それとも――』

 

 彼女は涙ながらに電話越しに告げる。

 

「ま、待ってくれ?あ、あのさ、和歌?何があった?」

 

 当然、俺の方は状況が理解できずに戸惑うわけだ。

 和歌を泣かせたつもりもないし、そんな話になった記憶もない。

 神社で「恋月桜花」の話をしてくれて、昼飯を食べてから別れたのだ。

 そこから後は、俺は麻尋さんに会い、夕食の材料やらを買いに行った。

 分からん……なぜ、和歌が傷ついたのか。

 俺と会わない数時間に何が起きたのだ?

 

『――元雪様は私を裏切ったんですね……』

 

「へ?裏切ったって?」

 

『私はまだ子供ですし、女らしく魅力もないかもしれません。でも、私の知らない所であんな事をしていたなんて……そんなのひどいです。私が何も知らないからって……他の人と付き合っていたなんて……』

 

 俺を責める和歌の口調は意気消沈している。

 めっちゃ傷ついてる様子に俺はどうすることもできず。

 

「和歌……落ち着いてくれ。今は家にいるのか?俺、今から会いに行くから。だから、話をしよう。な?俺が悪いなら、何が悪いのか話を聞かせてくれ?いいか?」

 

『……ぅっ……』

 

 彼女は返事の代わりに、電話をぶちっと切ってしまった。

 思わず、血の気が引いてしまう。

 和歌は傷ついて怒っていた気がする。

 俺よ、何をしちゃったのだ?

 ほら、正直に吐けよ、思い出せ、何か思い当たることがあるだろ?

 何もないっす……分からないってば。

 

「はぁ。何だよ、どういうことなんだ?」

 

 俺はさっぱりと事情が掴めずに、とにかく和歌に会いに行く事にした。

 リビングでは兄貴と親父が酒盛りをしている。

 仕事が休みの土日は親父は酒を酔いつぶれるほど飲むからな。

 

「おー、我が息子よ。こんな時間にどこかに行くのか?」

 

「ちょっと急用で出てくる。家の鍵は閉めないでくれよ?」

 

「ふむ……こんな時間でも和歌ちゃんに会いに行くのか。良い良い。行って来い。ふと会いたくなるのも若さだのう」

 

「いってらっしゃい。元雪、夜道は気をつけてな」

 

 兄貴に心配される事に俺は苦笑いする。

 

「そこまで子供じゃないって。それじゃ……」

 

「待てい。元雪、これだけは覚えておけ。女と言うのはさびしがり屋なんじゃよ。他の女と一緒にいるだけでも傷つくこともある。想いが強ければ強いほどに、独占欲も強くなるのだ。些細なことかもしれんが、気をつけろよ」

 

「親父……」

 

 親父は酔いながらも、俺にアドバイスをする。

 和歌が何か傷つける事を無意識に俺がしてしまったのか。

 

「母さんも今こそアレだが、昔は独占欲バリバリで可愛くてなぁ。当時、女子高生ながら、ワシの職場によくきては猛アタックをしてきて……ぐはぁ!?ま、待て、母さん。照れるのは分かるが、それはマズイじゃろ……うぎゃー!?」

 

 親父は過去を暴露されて恥ずかしがる母さんの襲撃を受けてノックダウンする。

 ……所詮はただの酔っ払いの言葉だったらしい。

 まぁいい、ここは放っておいて急いで和歌に会いに行かないと。

 

 

 

 

 家を出て全力で自転車をこいで最速タイムで俺は椎名神社に到着する。

 ただいまの時刻は9時過ぎ。

 まずは屋敷の方へと向かうが、どうやら、和歌は留守のようだった。

 

「和歌ならさっき、神社の方に行くって出ていったわ。どうかしたの?」

 

 小百合さんからの情報に俺は焦りが強くなる。

 

「そうなんですか?」

 

「うん。2人とも喧嘩でもした?なんか様子がおかしかったけど?」

 

「いえ、そういうわけでは。夜分、すみませんでした」

 

 俺はそう言って和歌の家を後にし、神社の方へと向かった。

 

「どこだ、和歌はどこにいるんだ?」

 

 周囲を探すが、すでに神社には人気もなく、誰もいない。

 灯篭の灯だけを頼りに進むが、和歌は神社の敷地内には見当たらない。

 あと、探していない所は……ご神木の付近か。

 

『いいか。ご神木の付近には近づくな。今度、引かれても助けてやれないかもしれない』

 

 俺はキャサリンの言葉を思い出して、警戒はする。

 ……でも、和歌の事を無視なんてできない。

 俺は深呼吸をひとつだけして、暗い夜道を歩きだす。

 

「……和歌っ!!」

 

 そして、案の定、和歌はご神木の近くにいた。

 古い桜の木を見上げるようにして立ちつくしていた

 月明かりが綺麗に俺達を照らす。

 

「和歌、来たよ。どうしたんだ?」

 

「……元雪様」

 

 和歌の表情を見て愕然とした。

 涙が瞳からあふれ出して頬を伝う。

 彼女は泣いていたのだ。

 

「俺はキミに何をしてしまったんだ?」

 

「元雪様……私じゃダメですか?魅力が足りてませんか?」

 

「そんなことないよ。俺にとっては和歌だけが……」

 

「それならば、どうして他の女性と楽しそうにいるんですか。元雪様を信じてたのに浮気されるなんて……」

 

 信頼の破綻、裏切ったのは俺の行動が原因らしい。

 待ってくれ、和歌は一体、何の話をしているのだ?

 和歌は俺を責める口調を続けた。

 

「ひどいです。私がいるのに、それなのに……」

 

「わ、和歌?事情がよく分からない。最初から説明してくれないか?」

 

「言い訳ですか。……今日の夕方の事です。私はお母様に頼まれて駅前の大型スーパーに行ったんです。そうしたら、楽しそうに綺麗な女の人が元雪様と腕を組んで歩いてました。私と別れてからそんな時間も経っていないのに、別の女性となんて……ひどい……」

 

 泣き崩れそうになる和歌。

 俺はハラハラとしながら、その状況を考える。

 ……まさか、アレか?

 

「えっと、和歌。良く聞いてくれ。その相手は俺の恋人でも、何でもない」

 

「嘘ですっ。とっても仲がよさそうに見えました。それにソフトクリームも一緒に食べてました。あーんってしてました!私は元雪様とした事がないのに……羨ましかったです」

 

 拗ねる和歌の言葉に俺は状況を理解した。

 つまりは俺に過剰なスキンシップをする麻尋さんが原因なのだ。

 確かにあの時、一口だけ、ソフトクリームを食べさせてもらった。

 ……二つの意味で美味しい思いをしたな、と心の中で思ってました、ごめんなさい。

 

「違うんだ。和歌、あの人は……」

 

「聞きたくないですっ。私は元雪様だけしかいないのに。元雪様には他に女性がいるなんて信じられなくて。でも、考えれば考えるほどに……辛くて、苦しくて……私が以外の人と楽しく過ごすなんて……」

 

 それは嫉妬という感情。

 和歌が泣いている……泣かせたのは状況がどうであれ俺の責任だ。

 勘違いをしているとはいえ、誤解するような状況を安易に作ったせいだ。

 

「ごめん。和歌……傷つけるつもりはなかったんだ。ただ、いつも通りで気にしていなかった」

 

 俺は和歌に近付くが、警戒されてしまう。

 こんなに和歌が傷ついてるとは想像以上だった。

 ……そりゃ、そうだよな。

 俺も逆の立場なら気が気でいられるはずがない。

 見知らぬ異性と仲良くしていたら気にいらないのは当然だ。

 浮気を疑われても仕方ない。

 

「……和歌。俺はキミが好きだ。その気持ちに偽りはない」

 

「あの人は遊び相手ってことですか?元雪様はそんな人なんですか?」

 

 和歌の中で麻尋さんは完全に浮気相手として確定してる模様。

 俺は小百合さんの台詞をふと今頃になって思いだす。

 

『あの子って純粋だから、思い込みも激しいの。こうって思いこんでしまうと周りが見えなくなるくらいにね。だからこそ、そこがたまに大変な場合もあるのよ。普段は素直な分、すっごく感情が溢れることがあるの』

 

 ……純粋ゆえ、か。

 和歌の魅力とは言え、こんな形でその純真さがあだになるとは。

 いろいろと考えたんだろうな。

 俺と彼女がどういう関係なのか、とか。

 きっと逆なら俺も不安で仕方がない状況だろう。

 

「遊び相手でも何でもない。本当に関係自体はやましい事はない」

 

「だったら、どうして、あんなことを?私じゃ不満なんですか?」

 

「違う。聞いてくれ。和歌。俺はキミを裏切っていない」

 

「……え?」

 

 傷つけてしまった。

 大事で、可愛くて、守ろうと決めた子を……。

 そんな現実が、俺はショックで……自分の軽はずみな行動を悔いた。

 俺はそっと彼女を抱きしめながら耳元で囁く。

 

「よく聞いて欲しい。悪ふざけが過ぎた所もあるけども、仲が良すぎるように見えたかもしれないけども、あの人は俺にとって兄嫁に当たる人なんだ」

 

「兄嫁?元雪様のお兄様のお嫁さんってことですか?」

 

 思わぬ相手の正体に唖然としている和歌に俺は頷いて答える。

 

「そうだ。あの人とは何もないんだよ。誤解させるような光景は見せたかもしれない。けれど、ただの仲の良い関係であって、変な関係じゃない。俺を信じて欲しい」

 

 女の子はさびしがり屋で、些細なことで誤解してしまう。

 だから、男の俺が誤解させないようにしっかりとしないといけないんだ。

 初夏の夜の風は、少しだけひんやりとして冷たく感じた――。

 

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