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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
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第1章:突然の縁談

【SIDE:柊元雪】


 夕方の満員電車で可憐な大和撫子と出会った。

 滅多にない美少女との心の触れ合い。

 俺はかなりいい気分で家に帰った。

 

「ただいま~」

 

 リビングにいたのはソファーで新聞を読む親父だった。

 長い口髭が特徴の親父はゆっくりとこちらを向いた。

 

「おぅ、元雪(もとゆき)か、おかえり。どこかに行ってたのか?」

 

「ちょっと友達と遊んでた。あれ、親父だけ?母さんは?」

 

「母さんなら、今日から2日ほど麻尋ちゃんと旅行に行くと言っておっただろう」

 

「そうだっけ?また旅行か。楽しそうでいいよなぁ」

 

 母さんは旅行好きなので出かける事がある。

 うちの親父は従業員80名ほどの町工場の社長だ。

 主に自動車の精密部品を作ってるらしい。

 会社の技術力は高いようで、日本はもとより世界各国からも注文がくる精密部品だそうで、この不景気でも潰れずに、それなりに儲かっているらしい。

 

「今、誠也が弁当を買いに行っている。お前はいつものから揚げ弁当でいいのだな?」

 

「うん。それでいいよ。から揚げ弁当は量が多いからね」

 

 買い出しに出てる誠也(せいや)というのは俺の兄だ。

 そして、母さんと旅行に出かけたのは兄嫁の麻尋(まひろ)さん。

 兄貴が結婚して数年、一緒にこの家で暮らしている

 嫁と姑ってのは仲が悪いものが定説だが、うちの場合はめっちゃ仲が良い。

 男2人の兄弟なので、母さんは娘が欲しかったらしく、すごく麻尋さんを可愛がっていて、麻尋さんも母を慕い、今のところ良い関係を築けているようだ。

 たまにふたりで旅行なんて言うのもあるくらい。

 残された男3人で弁当生活ってのも何度目かのことだ。

 

「たまには親父と母さんのふたりで旅行とかないわけ?」

 

「母さんと旅行に行きたいが、最近は麻尋さんとの方が仲がいいからな。嫁と姑の仲がいいのは悪い事ではあるまいて」

 

 その兄貴は親父の後を継ぐために工場で働いてる。

 ちなみに、俺は将来、その工場で働く事は考えてない。

 うちの親父も兄貴さえ工場を継いでくれればいいようで、俺には強制していない。

 大学も職業も、自分の好きなように将来を決めるつもりだった。

 

「そうだ、元雪。お前、自分の将来を考えておるか?」

 

「な、なんだよ。急に真面目な話か?別に特に今は考えてないけど?」

 

「なりたい夢とかないのか?その年で夢も希望もないとは……」

 

「これと言って、なりたいってのはないかも。あと、希望くらいあるっての!?」

 

 親父に言われるまでもなく、自分の将来を考える事はある。

 でも、これと言った夢があるわけでもない。

 可愛いお嫁さんがいて、子供がいて、その家族を養うために適度に稼ぐ。

 そんな普通の日常を望んでいるだけなのだ。

 

「ふむ……元雪、お前、恋人はいなかったな?」

 

「うるさいよ。どうせ、俺はモテないよ、悪かったな」

 

「我が息子として顔は悪くないぞ。昔のワシにそっくりなのになぜにモテない」

 

「きもっ!?親父に容姿を褒められるとなんか嫌だ。精神的に気持ち悪い」

 

 親父は「お前は女子高生の娘か」と嘆かれる。

 誰が娘だ、ていうか、俺の容姿は間違いなく親父ではなく母似だ。

 

「なるほど、性格が問題か。はぁ、それじゃモテんわな」

 

「親父から言われると何か嫌な気持ちになる。俺に彼女がいないのが悪いか。余計な御世話だ、放っておいてくれ」

 

「いや、今回はそこが重要なんだがな」

 

「ん?何だよ、親父。俺に恋人がいないのが何か問題があるのか?」

 

「ちょっと良い話があってな。息子よ、お前に……」

 

 親父は何かを話そうとした時、玄関の扉の開く音がする。

 リビングに帰ってきたのは弁当の入った袋を抱える兄貴だった。

 

「ただいま、父さん。弁当を買ってきたよ。おや、元雪か。おかえり」

 

「うぃっす。兄貴もおかえり」

 

 タイミング良く帰ってきたのは兄貴だった。

 俺の兄貴は26歳、俺とは歳の差もあるが頼れる兄貴だ。

 

「麻尋さん、また母さんと旅行だって?大事な嫁さん、母さんに取られてるよ、兄貴」

 

「仕方ないさ。麻尋もずいぶんと母さんを気にいってるからね。無駄な嫁姑問題に泣かされずにすんでいるだけマシさ」

 

「ふーん。そういうものなのか?」

 

「結婚して一番問題なのは互いの相性、2番目の問題が嫁姑問題だと父さんも言ってたしな。なぁ、父さん?」

 

「……うむ、そうだな。母さんにもそれで少しばかり苦労させたからなぁ。余計に麻尋さんを可愛がりたくなるんだろうて。良い嫁さんをもらったな、誠也」

 

 どこか遠くを見る目をする親父。

 うちでも今は亡き祖母と母さんの間で、かつてはバトルがあった様子だ。

 他人同士が結婚すると言う事は、それも仕方のない事なんだろうか。

 

「まぁ、仲良き事はいいってことだ。それより夕御飯にしよう。元雪、これでいいか」

 

 美味しそうなから揚げ弁当。

 兄貴は買ってきた弁当をテーブルに並べていく。

 

「あ、そうだ。親父、話って?」

 

 親父は「話は夕食後にしよう」とソファーを立つ。

 一体、何を話すつもりなのやら?

 

 

 

  

 そして、男3人、弁当を囲みどこか寂しい夕食を終える。

 兄貴は飼い犬の散歩をするために再び外へと出かけしまう。

 俺と親父は食後のんびりとした雰囲気で、改めて先ほどの話をするこにした。

 

「ん……茶が美味しい」

 

 おっさんくさいが、食後は緑茶を飲むのが落ち着く。

 親父の真似をしたのが始まりで、最近では自分の好みの緑茶もある。

 湯のみに入れたお茶をすすりながら俺は親父に尋ねる。

 

「それで、俺に何の話があるんだ、親父?」

 

「いきなりだが、元雪……結婚する気があるか?」

 

「――ぶはっ!?」

 

 思わず、お茶を噴き出してしまう。

 け、結婚……誰と誰が!?

 

「お、親父、今、何と言いました!?」

 

「ぐあぁ、汚いぞ。結婚だ、結婚。いきなりだが、と前置きしたはずだ」

 

「いきなりすぎるわ!?」

 

 突然の事に驚くしかない。

 親父は冗談を言う口調でもなく、茶をすする。

 

「そう、驚くな。彼女のいないお前には良い話だと言っただろう?」

 

「うぐっ。で、なんで結婚の話?」

 

「ワシの旧友、もとい飲み友達に一人娘がいてな。奴はその子の婿にふさわしい男を探しておるそうだ。そこで、我が息子にして彼女いない歴=人生の元雪に話をしてみようかと思ってな」

 

「くっ、恋人居ない歴=人生って言うな。まだ16年しか生きてないっ」

 

 うーん、親父の友人って……誰だろう。

 無駄に交友が広い親父だ、俺の知らない人なんだろう。

 

「結婚って、俺はまだ学生なんだが?早すぎない?」

 

「分かっておる。心配せずとも、相手も学生だ。まだずっと先の未来のことだが、将来的に関わる話でもあるのでな。まだ学生の方が話の都合がいい」

 

「は?どういうこと?」

 

 意味が分からずに尋ね返すと親父は説明をしてくれる。

 俺はお茶を飲みながら落ち着いて話を聞く事にした。

 

「友人は神職をしておるのだがな。街の東の方にある大きな神社の神主で、いわゆる跡継ぎを探しているわけだ」

 

「あー、あのでかい神社か。縁結びで有名なところだろ。知ってるよ」

 

 ちなみに俺は七五三で行って以来、滅多に行くこともない神社だ。

 場所がちょっと遠い上に、初詣くらいなら別の近い方の神社で済ませるからだ。

 

「神職っていうのは大学を出て、資格を取らなくてはいけないそうだ。それに、一人娘との結婚の条件は神社の神主として継いでくれる事らしい。まぁ、それ以外に条件らしい条件もないそうだがの」

 

「へぇ、跡継ぎってのはどこでも問題になるものなんだな」

 

 ほぼ、神社に縁のない俺にとっては神職に資格が必要な事も知らなかった。

 神社に行くのは大みそかと初詣、あとはお祭りの時くらいだもんな。

 

「一人娘と結婚する相手は神社の跡を継ぐのが条件ってわけか」

 

「うむ。だから、元雪にも最初に聞いただろ。なりたい夢はないかって」

 

「なるほどね。ちなみに聞くけど、相手の子は可愛いのか?」

 

 そこ重要、話の内容次第ではちょっと考えてみてもいい。

 

「とても可愛いぞ。気配りもできて、優しい子だからな。それにスタイルもいい。お前の好きそうなタイプだ。彼女の年齢は元雪のひとつ下くらいか」

 

「おおっ……マジですか」

 

「神社の神主なんて仕事は楽ではないからな。中々、奴も婿候補が見つからないらしい。どうだ、息子よ。少しは興味を持ったか」

 

 親父の言葉に俺はちょっと悩んでみる。

 

「どうだろ。あんまり結婚とか考えた事もないし」

 

「当然、相手もいないお前には関係ない話だからな。我が息子ながら何と嘆かわしい」

 

「うるさいよ!?余計な事はいいんだってば」

 

「うちの会社は誠也が継いでくれるので安心だが、どこでも跡継ぎに悩むものだ。とはいえ、あった事のない相手で話を考えろって言うのも無理だろう。どうだ、お前さえ興味があるのなら、一度会いに行くか?」

 

 親父の提案は“彼女いない歴”=“自分の人生”=“16年”の俺には魅力的に思えた。

 話を聞いて、相手と会ってみるのは悪い事ではない。

 

「実際に話を聞いて考えてみるだけ、なら」

 

「そうか。そう言ってくれると思って、既に明日、会う予定にしておる」

 

「ナンデスト!?早すぎだろう!あと俺の意見は無視か!?」

 

「どうせ、お前のことだ。可愛い子と言えば、条件はともかく会いたがるだろ?」

 

 さすが俺の親父だ、子供の考えなどあっさりと見抜いていたらしい。

 

「まぁ、お前の将来だ。よく考えてくれ。明日、会う事でいいんだな?」

 

 親父に改めて問われ、俺は「いいよ」と頷いて答えた。

 俺の人生、女に全く縁がないのだ。

 ちょっとくらい縁ってのに触れてみたかった。

 

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