表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~
19/128

第18章:その名は……

【SIDE:柊元雪】


 どうやら、俺は危険な目に合う所だったらしい。

 突如、俺を襲った炎の幻覚。

 そんな俺を助けてくれたのは以前にもあった電波系美少女だった。

 その名も、“キャサリン”……漢字で書くと“貴夜沙凛”らしい。

 絶対に本名じゃないと思うけどな。

 どう呼べばいいのか分からないので、キャサリンと呼ぶしかないわけだが。

 俺はキャサリンに助けてもらって、社務所から出ようとしていた。

 

「……そうだ、キャサリンはここで作業をしてるってことは巫女さんなのか?」

 

「はぁ、柊元雪。お前の眼は節穴か。この服が巫女服に見えるとでも?」

 

 また鼻で笑われたよ、おい……。

 俺を小馬鹿にする生意気な態度はやめてもえらませんかねぇ。

 

「あー、そーですね。ただの和服だよな」

 

 和服が通常の服装って言う子も珍しいけどな。

 

「私は巫女ではない。ただ、ここでおみくじを作る作業はしているがな」

 

 社務所にはテーブルのようなものがいくつもあり、その中のひとつはおみくじを作ってるらしく、大量のおみくじが並んでいた。

 巫女さんのお手伝いか?

 

「おみくじって言うのは、ボロイ商売だよ。霊験あらたかなものと言う印象はあるが、所詮はただの紙に書かれた“結果”を引くだけのものだ。どうにでも解釈できる結果を見て、一喜一憂できるとは純粋なことだな」

 

「それを言っちゃお終いだろ。神社側の人間が言っちゃいけないセリフだ」

 

「ちなみに、私は前にすべてのおみくじを大凶にしてやったことがある」

 

「マジかよ!?」

 

 この子、ひどすぎるっ!?

 

「引いた女の子が『きゃー、大凶!』と驚きながらも、『逆に大凶の方が珍しいからいいんじゃないの?』とか喜んでいたな。まったく、こんな紙切れにご利益もないって言うのに馬鹿らしい。大凶のくじを結ぶ姿は笑えたぞ」

 

「俺はそんなキャサリンを笑えねえよ。ひどい奴だな」

 

 ちなみに当然のことながら、彼女は宮司のおじさんにひどく怒られたらしい。

 今は適当な配分でバランスよく、くじを作ってるから心配はいらないそうだ。

 

「余計な心配させるな。そこを疑うと、神社を信じられないだろう」

 

「所詮は神もおみくじも、占いも、全ては信じるか信じないかは本人次第だ」

 

「それを言われちゃ反論できない」

 

 結局のところ、くじ運だって良いか悪いかは信じるってこと次第だからな。

 

「そもそも神自体が信じるかどうか問題な存在だ。別に神を信じるな、とは言わないが。まぁ、私は八百万やおよろずの神の中で、ひとつくらいは信じてもいいと思っている。ひとつくらいなら実在してもよさそうだからな」

 

「おいおい、800万分の1ってどれだけ信じてないんだ」

 

「八百万は実際に800万という意味ではなく、数が多い事の例えなのだが。まぁいい。信じている神がゼロではない。無神論者ってわけではないからな。都合のいい時に神を信じて得をすることがあれば信じる。人間とはそういう生き物だ」

 

 キャサリンはそう言って、俺に手元の紙を放り投げてくる。

 俺は慌ててその紙を受け取った。

 

「とはいえ、柊元雪にはそれをあげよう。良い運勢が出ることを期待するといい」

 

 彼女が俺にくれたのはおみくじだった。

 これでも気休め程度にはなるか。

 

「とりあえず、今日はゆっくりと休んだ方がいい。また日を改めて出会う事があれば色々と教えてやる。もう引かれないように……気をつけてな」

 

「キャサリン……ありがとう」

 

 何だかんだで俺を心配してくれているんだな。

 ただの生意気な和服美人なだけじゃないようだ、見かけよりも良い奴かもしれない。

 ……あと、せめて本名を教えてくれたら嬉しいぞ。

 

「助かったよ。また今度な、キャサリン」

 

 俺はキャサリンに頭を下げて、社務所から出た。

 巫女もどきのキャサリンか。

 近いうちにまた会いに来る事にしよう。

 俺の身に起きていた事も知りたい。

 眩しい太陽の光、俺はこの世界にいることを実感する。

 

「……別に変な世界がある事を信じたわけじゃないけどな」

 

 不可思議な体験をしたのは事実で、それが夢か幻かは分からない。

 だが、あの炎の記憶は……俺の心に残り続けていた。

 

「あの炎の中にいた女の人は一体、何者なんだ?」

 

 そんな事を考えながら和歌を迎えに行く。

 お屋敷の呼び鈴を鳴らすと、すぐに和歌が出てきた。

 

「おはようございます、元雪様……あの、大丈夫ですか?」

 

 会うとすぐに、和歌は俺の心配をする。

 

「え?そんなに顔色が悪い?」

 

「……はい、そう見えますけど?」

 

「い、いや、実はちょっと寝不足でさ。昨日、夜遅くまでテレビを見てたんだ」

 

 俺はとっさに誤魔化してしまう。

 和歌に余計な心配はさせられない。

 それに椎名神社が関係しているのを知られると、彼女を傷つけてしまうのが怖い。

 

「元雪様、それは?」

 

「あっ。これはおみくじらしい。……そこを歩いていた巫女さんにもらった」

 

「そうなんですか?顔色が悪かったからでしょうか?」

 

「さぁ……どうなんだろうな」

 

 俺はキャサリンの事を和歌に尋ねてみる事にした。

 

「なぁ、和歌。巫女の中に、キャサリンって子はいるか?」

 

「きゃさりん?えっと……巫女には外国人の方はいませんけど?」

 

「ですよねー」

 

 分かっていたよ、キャサリンが偽名で適当につけた名前だってことはな。

 それを真面目にキャサリンと呼んでた俺も俺なのだが。

 からかわれてただけか……はぁ、本名が分かるまでは使うとしよう。

 

「でも、私の知らない方かもしれません。巫女さんは何人もいますし。時折、新しい人に入れ替わったりするので、私も全ての人を知っているわけでもないありません。もちろん、お父様なら知っていると思いますけどね」

 

 和歌も全ての巫女と知り合いというわけではないみたいだ。

 

「それで、そのおみくじはどうだったんです?」

 

「そうだ。中身だ、今日の運勢は……」

 

 俺は期待を込めておみくじを開いてみる……その結果は……。

 

『大凶』

 

「―― キャサリーンッ!?」

 

 あの女、わざと俺に大凶のおみくじを渡しやがった!

 くっ、大凶かよ……ちくしょぅ……地味にショックだよ。

 

「あららっ……。でも、大凶でも、悪いことばかりではありませんから」

 

 彼女は神社内にある“みくじ掛”に案内する。

 木に結び付ける所もあるが、この神社はこういうものがあるんだな。

 

「こちらに利き手と逆の手で結ぶと、凶も吉となるんです。災い転じて福となすって、言うでしょう?元雪様、落ち込まないでくださいね?」

 

「……うん。和歌に励まされてちょっとは元気が出た」

 

 大凶に書かれてたおみくじは恋愛運、好機を逃すって書かれているけどな。

 信じる信じないは自分次第か。

 

 

 

 

 俺は何だか朝からぐったりと疲れていた。

 教室につくと、すぐに机の上に伏せる。

 隣の席を見ると今日も篠原さんはお休みのようだ。

 友人の黒沢が俺に気付くと不思議そうな顔をする。

 

「ん?柊、何か疲れてるな?」

 

「憑かれてたのかもな」

 

「は?……よく分からんが、朝から大変だったようだな」

 

 さらにキャサリンとの遭遇で余計に疲れたわ。

 黒沢も黒沢で目をこすり、眠たそう顔をしている。

 

「そういう黒沢は眠そうだな?」

 

「昨日はネットゲームで戦っていたんだ。そして、ついに生きる伝説と出会ってなぁ。もう、あの人はマジで神だよ。強すぎる」

 

「生きる伝説、ネトゲの神ねぇ。よく分からないけど、やりこんでるプレイヤーのことか」

 

「そのネットゲームじゃ、生きる伝説って言われる名の知れた有名プレイヤーでさぁ。昨日、偶然にも同じクエストで一緒に戦わせてもらったんだ。いや、マジで強すぎ。あれだけやりこむのは何時間やればいいのやら。良いアイテムもくれたけどな」

 

 ネトゲの話など、今の俺にはどうでもいいのだが。

 それでも、現実の話を聞いてるとどこか安心できる俺がいる。

 あんな非現実なことを体験すればちょっと気分もおかしくなる。

 

「……お前もパソコン持ってただろ?ネトゲとかしないのか?」

 

「今は現実が忙しいからな。可愛い恋人と仲良くなる方が最優先だ」

 

「言うねぇ。そんなに可愛い子なのか?恋愛に柊がのめり込むとはな」

 

 和歌の事は俺にとっての癒しだ。

 彼女の笑みはどんな疲れも消してしまう。

 

「誰もが見惚れる容姿端麗に性格はまさに現代の大和撫子。さらに俺の好物を作ってくれる料理の腕前も抜群。のめり込むなっていうのが無理だな。俺の嫁が可愛すぎる」

 

「……それ、現実の女の子の話だよな?それとも実は二次元の嫁?」

 

「違うわっ。失礼な。この子だよ、この子!」

 

 俺は黒沢に携帯電話で撮った写真を見せてやる。

 その写真は、写ることを恥ずかしがる和歌の顔が可愛くて仕方ない。

 

「……確かにレベル高いなぁ。お前、羨ましすぎ。これ、後輩の子か?」

 

「そうだぞ。しかも、俺の将来の嫁になる子だ。親も認めてくれている関係なのさ」

 

「それ、なんていう漫画の展開?」

 

「実際、漫画のような展開だけどな。出会いからすべてが運命的すぎるんだ」

 

 俺と和歌の出会い、そして、これから……。

 いろいろな意味でこれからには期待もある。

 だが、運命的すぎるがゆえに、俺はどこか不安もあったのは事実だった――。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ