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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花5 ~桜の彼方へ~
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第120章:残された時間

【SIDE:篠原唯羽】


 結局、私は無力だ。

 救いたい人を救うことができなかった。

 椿姫の復活を阻止することもできず。

 “柊元雪”を置いて必死に“ヒメ”と共に森をぬけだした。

 その後、外に待機していた妹の美羽におじさん達を呼んでもらい、彼の捜索をした。

 そして、元雪はご神木に寄り添う形で見つかったらしい。

 既に意識不明で、力なく倒れていた。

 ご神木の桜が咲いてる事にも、皆は当然のことながら驚いた。

 この森はとんでもないことが起きているのだと言うことを、分かってはもらえたはずだ。

 元雪は自らを犠牲にして私達を守ったんだ。

 病院のベッドの上に眠る柊元雪の姿。

 原因不明の意識不明状態。

 彼に抱きつくように泣き続けるヒメがいた。

 

「ヒメ。泣いても柊元雪は起きないよ」

 

「うっ、ひっく……私のせいなんです、私のせいで……」

 

 涙をこぼす彼女を私はなだめる。

 私も同じく泣きたい気持ちはあったけども、泣く事はなかった。

 悲しみを感じないでいられるように、私は人格を切り替えていた。

 今の私には余計な感情はいらない。

 どんな事をしても、椿姫の呪いを解決する。

 私はそれを彼から任されたのだから。

 

「お姉様の事もひどい真似を……私が全部悪いんです」

 

「私は気にしていないと言った。泣きたいのなら気が済むまで泣くといい。しばらくの間、柊元雪の傍にいてあげて。私が言うまでもないと思うけども」

 

 冷たいかもしれないが、今の私には時間が残されていない。

 椿姫に呪われた柊元雪を救うためには、それほどの猶予はないんだ。

 病室の部屋の扉を開けると、麻尋さんと誠也さんがいた。

 彼の両親は別室で医師の話を聞いてるらしい。

 

「ユキ君はなんで意識不明なんて……。これはどういうことなの?」

 

「私にできる限りの説明をします」

 

 誰もいない場所を求めて、病院の屋上に上がる。

 夕焼けの空、秋の冷たい風が傷に染みる。

 

「大丈夫?貴方もとても怪我をしているのに」

 

「痛みには耐えられますから心配しないでください」

 

 私はふたりに現在の状況を説明し始めた。

 椿姫の呪い、恐れていた事態になったこと。

 だけども、柊元雪は私達を救うために“呪われてしまった”。

 

「……彼の魂は今はここにはありません。それゆえに眠り続けています」

 

「魂とか意味がよく分からないんだけど?」

 

「心だと思ってください。彼の心は今もあの森にある。ご神木の桜、あの中に」

 

「どうして?それが椿姫の呪いと、どう関係するの?」

 

 私に質問をする麻尋さんを誠也さんが制した。

 

「麻尋。彼女も傷ついてる、落ち着いて話を聞いてあげてくれ」

 

「ご、ごめんなさい。そうだよね、一番辛いのは……唯羽ちゃんと和歌ちゃんだもん」

 

「……いえ。話を続けます。復活した椿姫の怨霊ですが、そちらも今は森の中に。今の彼の魂と共にいると思われます」

 

「ユキ君は呪い殺されちゃうの?」

 

 私は首を横に振って否定をする。

 

「そんな事はさせません。私達は彼を救います。そのために、お二人にも力になってもらいたいんです。残された時間はほとんどありません。持って2日、明日の夕方がタイムリミットだと思います」

 

「その根拠は?」

 

「明確な根拠があるわけではありません。でも、分かります。元凶の椿姫は私にとっても前々世という因縁の相手ですから」

 

 そのリミットを過ぎる前に、何とかしなくちゃいけない。

 今は夕方の5時、残りは24時間を切っている。

 私の説明を聞いていた誠也さんが口を開く。

 

「和歌さんの事は僕達に任せてくれ。だけど、唯羽さん。僕らはキミの事も心配だ。その身体で無理をしないで欲しい」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 今は彼らにヒメを任せて、私にはするべきことをする。

 柊元雪が与えてくれたこの時間、託された事をしなくてはいけない。

 そんな私に頼りになる味方が現れる。

 

「ここからは私も加わろう。これ以上の事態の悪化は防がないとな」

 

「お兄ちゃん……?」

 

 佐山お兄ちゃんが病院にきていたの。

 どうやら、誠也さんが彼に連絡をしてくれていたらしい。

 私達は彼の車で私の家に移動する。

 家族には心配をかけたくないので社務所の方で話をすることにした

 誰もいないのを確認してから私達は社務所の中へ入る。

 

「それにしても痛々しい姿だな。唯羽ちゃん、骨折もしてるのか?」

 

「一応、全身打撲と左腕とあばら骨、全治1ヵ月の重傷。こうして動いてるのも、正直に言えば辛いです。けれども、今は無理をする時だから……無理するなって言われても無理します」

 

 この程度の痛み、我慢する事ができる。

 元雪を助けるためには手段がないもの。

 私の言葉にお兄ちゃんは静かな口調で言う。

 

「……キミの元雪君への愛情はすごいな」

 

「愛情と言うよりも、責任です。10年前も今回も、私は大事な人を守れなかった」

 

 ただ、今回が10年前と違うのはまだ手遅れではないと言うこと。

 柊元雪が言っていたようにこの10年、成長したからこそできる事もある。

 

「椿姫の呪いの弓矢は以前不明。これを破壊しないと椿姫は消滅しないんですよね」

 

「あと、大切になってくるのはキミの想いだ」

 

「私の……?」

 

「怨霊も、生きている人間も、自分の想い次第ってことだ」

 

 自分の想いをしっかりと持ち、信じる。

 ……それが大切な事なんだ。

 彼は私にデジタルカメラを見せてくれる。

 その中には何枚もあのご神木の桜が咲く画像が写っていた。

 季節外れの桜が咲いている光景は何度も見ても不思議だ。

 

「椿姫の怨霊の復活。椎名神社には、先程見てきたばかりだ。あの森のご神木の桜が花を咲かせていたな。季節外れ、何の前触れもなく咲いた桜に神社の人々も驚いていたよ」

 

「……何か変わった様子は他になかったですか?」

 

「禍々しい嫌な雰囲気ではあったが、椿姫の姿は確認はできなかったよ」

 

 まったく、とんでもないものに取りつかれている。

 

「元雪君は何をしようと思い、あの場所に残ったんだ?」

 

「……椿姫に対して、影綱の真実を見せようとしたんだと思います」

 

「真実。人の魂に残る記憶か」

 

「椿姫にそれを見せてどうなるのか分りませんけどね」

 

 真実は残酷なものだ。

 影綱が最後に想った相手は誰だったのか。

 椿姫が自分の死の最後まで知りたいと思っていた真実。

 ……影綱の気持ちを知り、怨霊がどう感じるのかは私には分からない。

 

「私は決着をつけたい。自分自身の運命の鎖を解き放つために……」

 

 お兄ちゃんも協力してくれる。

 私は諦めない、絶対に柊元雪を取り戻すんだ。

 

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