第11章:もう一つの再会
【SIDE:柊元雪】
和歌を迎えに朝早くから椎名神社にやってきた。
そして、鎮守の森に置かれている石碑の前で俺は謎の美少女と出会う。
「久しいな、柊元雪。まさか、またここに来るとは思わなかったが」
彼女は俺の名前をなぜ知っているのだろう?
「キミは一体……?どうして、俺の名前を?」
凛とした強い瞳、肩までの長さに整えられた髪。
どこか和歌と似ているような、不思議な印象を受ける美少女。
「お前が昔、自分で名乗ったではないか。さすがに名前くらい覚えている」
「へ?俺とキミは初対面だろ?俺たち、会ったことがあったっけ」
俺には目の前の少女が誰なのか分からない。
初対面のはずだが、どうやらそうではないのか?
「……あの時の記憶がないのか。ただ、忘れているだけか。どちらにせよ、柊元雪は私を覚えていないということだな」
「毎回、フルネームで呼ばないで。元雪で良いから」
「……柊元雪。まさか、お前とこのような場所で再会するとはな」
うわぁ、無視ですか……マイペースな性格なんだろうな。
ていうか、俺の方には全く覚えがないんですが。
こんな美少女に会ったことは……和歌以外にあるのだろうか?
「こんな場所で、ね?」
「あれだけの事があって、もう2度とここに来る事もないと思っていた。また来るとはただの学習能力のない馬鹿か、それとも……引かれてしまったのか。どちらにしても、よくないな。柊元雪はここに来るべきではなかった」
少女は警告する口調で俺に言う。
ここは自然豊かで、静かで良い場所だと思うけどな。
「キミは過去に俺と会ったことがあるのか?」
彼女は呆れたような顔を見せるとため息をつく。
「ある。だが、お前が忘れているのなら、それでもよい。気にするな」
「余計に気になるっての。子供の頃に会ったってことか?」
「さぁ、どうだろうな」
彼女はもう答える気はないのか、適当にはぐらす。
ただ、説明するのが面倒だって風にも見えるけど。
「ふーん。それでも、よく俺だって分かったね。子供の時なら見た目も成長してるだろ」
俺が忘れているのはきっと彼女が成長しているからだ。
そうに違いない、と思う……。
「人間の魂には色がある。お前の色は昔と変わらず、濁った灰色をしている。お前みたいにどんよりとした灰色の魂の色を持っている人間は中々、いないからな。一目で分かったよ、お前は柊元雪だと」
「――俺の魂の色ってどんよりと濁った灰色なのっ!?」
せめて、赤色と、青色とか普通の色であって欲しかった。
ていうか、魂に色とかあって、それが見えちゃうの?
つまり、この少女は……いわゆる電波系ってやつですか?
いや、霊感持ちというべきか、どちらにしろ、不思議ちゃんには変わりない。
「別に悪い事ではない。お前は特別ゆえに、他人とは少し違う。そもそも、魂の色など凡人には見えない。気にするな」
「灰色って言われたら気にするよ。全然、いいイメージに思えない」
「心配するな。魂の色が灰色であるその意味も良い意味はないからな」
よけいにダメじゃん!?
よく分からないが、この電波系美少女は俺の事を知っているようだ。
少女はまるで人形のように、感情があまり顔に出ない。
「あのさ、キミの名前は?」
「お前はモノ覚えが悪そうだからな。二度も名乗らん」
「えー!?せめて、名前くらいいいだろう」
「柊元雪に名乗るのは気がのらぬ」
彼女はぷいっと俺から視線をそらす。
「気が乗らないってそんな理由かよ」
このクールビューティーめ、ちょっとお高くとまってませんか。
だが、言われてみれば、どこか彼女に懐かしさのようなものを感じる。
それを思い出せないのは……俺がモノ覚えが悪いせいだろう。
「……ホントに何も覚えていないのだな」
なぜか、ふいに彼女は悲しそうな顔を見せる。
「覚えてないなら、これ以上は何も言うまい。二度は言わぬ。この場所には不用意に近づくな。それがお前のためだ」
「このご神木の付近ってことか?」
「そうだ。出来る事なら、この椎名神社そのものに近づくのをやめろ」
電波系美少女は俺に警告を発する。
だが、その警告を俺は聞くことなどできない。
「それは無理だな。俺は将来、和歌と結婚する約束をしているからさ」
「……お前が“あの子”の結婚相手だと?」
初めて、彼女に人間らしい驚いたような表情が浮かぶ。
「それが運命だと言うのか。だとしたら……それは危険だな」
「運命?俺と和歌のことか?あと、危険ってどういうこと?」
確かに俺たちの再会は運命的だったけど、それとはまた違う意味に聞こえる。
「その運命がお前をどこに導くのか。悪い運命ではなければよいが……」
意味深に呟く彼女は、興味をなくしたように俺に振り向く事なく立ち去っていく。
「あっ、おいっ!……行っちゃったよ。あの子は何者だったんだ?」
和歌の関係者か、椎名神社に用がある近所の子とか?
「過去の俺と会ったことがある、か。どこでだろうな?」
ミステリアスな少女との再会(?)。
俺は狐に化かされたような不思議な感覚で、森から出る事にした。
「うーん。あんな子に会ったことってあったかな」
俺は階段の所で和歌を待ちながら思い出す。
「……と言っても、思い出せるほど、ここでの記憶はないんだよな」
この神社に来たと言っても、さほど何かした覚えがない。
それは和歌も同じだと言っていた。
もしかして、それ以外にもあるのか。
あの場所で俺とあの子が出会ったことが?
「それにしても、あの子……ものすごく綺麗だったな」
多分、同年代だろうが、あれだけの美人はそうはいない。
和服も似合っていたし、言いすぎかもしれないが、人間離れした容姿というべき美人っぷりだった。 もちろん、俺の恋人である和歌もかなりの美人だけどな。
うん、和歌の方が性格もいいし、あの女の子みたいにワケの分からない子じゃない。
ホント、何か不思議な子すぎて俺は付いていけませんでしたよ。
「綺麗だった、って誰がですか?」
「げっ。わ、和歌?」
「お待たせしました。元雪様」
「気にしないでいいよ。俺が早く来すぎたのが悪いんだし。和歌はいつもはこのくらいに学校に出るのか?」
時計の時刻は7時45分。
俺も学校に出ようとする時間帯だ。
「はい、そうですね。ここからだと学校までは10分くらいですから」
「それじゃ、行こうか」
「……綺麗なのは女の子の話ですか?」
和歌が小さな声で呟くのを俺は聞き逃せなかった。
もしかして、気にしてる?
「え、えっと、その……和歌の巫女姿があまりにも綺麗でびっくりしたな、と」
「え?あ、えっ……わ、私の事なんですか!?」
色白の肌がすぐに赤く染まる。
可愛いですよ、この子。
俺の恋人はマジで可愛いので困る。
そして、話は何とか誤魔化せそうだ。
「元雪様に褒められると嬉しいですね」
「和歌は純粋で可愛いと思うぞ」
「純粋ですか?」
今時いないってくらいに和歌はピュアなタイプだ。
その純真無垢な所に惚れていると言ってもいい。
「なぁ、和歌……ちょっと聞いてもいいか?」
「はい?何でしょう?」
俺はあの子の事を聞いてみようと思ったが、彼女の一言が気になっていた。
『その運命が悪い運命ではなければいいが……』
悪い運命って何なんだよ?
俺と和歌の関係に何か意味でもあるって言うのか。
「元雪様?どうなさいました?」
「和歌には兄妹とかいないのかなって。お姉ちゃんとか妹とか?」
「いえ。私は一人っ子ですよ?」
「そっか。変な事を聞いたな」
不思議そうな顔をする和歌に俺は誤魔化すように笑みを見せた。
和歌の兄妹でもないとしたら、あの子は誰なんだ?
どうして、彼女は朝早くからあの場所にいたのかが気になる。
「……魂の色、か」
少女は俺の魂の色が灰色だって言った。
スピチュアルだっけ……人にはオーラがあって、それぞれの色があるって話を思い出す。
彼女にはそれが見えてたのかな。
なぜに俺の魂の色がどす黒い灰色なのかは分からないけどさ。
まぁ、ただの電波系な可能性もあるけどな。
俺はもう深くは考えずに、和歌の事を考える事にした。
「今度からはこちらの道を使ってくださいね。毎回、階段をのぼるのは大変でしょう。こっちは家族が使うための道です」
屋敷の裏手にはそこまで自転車で来られる道があった。
次からは素直にこちらを使わせてもらおう。
地味にあの階段の上り下りはキツイのだ。
朝から和歌の顔を見られて幸せな気分になりながら、どこか引っかかる想いをする。
もしも、次にあの子に会えたなら……せめて名前くらいは聞きたいぞ。