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恋月桜花 ~巫女と花嫁と大和撫子~  作者: 南条仁
恋月桜花5 ~桜の彼方へ~
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第114章:最悪の始まり

【SIDE:篠原唯羽】


 翌日の目覚めは爽快さと共に何だか不思議な気分の朝だった。

 

「元雪も同じ気持ちなんだろうなぁ」

 

 昨夜のヒメちゃん失踪事件。

 結局、その日の夜はヒメちゃんの家で元雪も一緒に一泊させてもらった。

 朝、彼女の部屋を訪れるとまだ起きる気配がない。

 

「おはよう、唯羽。和歌の様子はどうだ?」

 

「まだ眠ってるよ。元々、彼女って朝だけは弱いから」

 

 ちょうど、同じタイミングで元雪がヒメちゃんの部屋にやってくる。

 心配そうに寝顔を見つめる元雪。

 

「……昨日、和歌に何が起きたんだ?」

 

「さぁ、それは分からない。ヒメちゃんは大丈夫だよ、心配ない」

 

「それならいいんだが。どうにも、昨日は様子が変だったんだよな」

 

 元雪は何か危惧する所があるみたい。

 わずかな異変を感じたのかもしれない。

 

「様子が変?具体的にはどんな感じなの?」

 

「いつもと違って、妙に素直って言うか。それが悪いんじゃないけど、和歌らしさがなかった感じ。ほら、和歌っていつもは大人しいのに、昨夜は少しだけ積極性があったというか。あっ……いや、変な意味ではなくてね」

 

 私が思わずジーっと疑いの目を向けてしまう。

 何やらあったみたいだけど、それって私の考えてるような事なのかな?

 

「元雪のエッチ」

 

「違います。誤解だ、誤解」

 

 そんな彼はさておいて、昨夜の事件、可能性としていくつか考えてみる。

 紫姫絡み、こちらならばほとんど問題はない。

 けれども、今さら彼女の影響をヒメちゃんが受ける事も少ないはず。

 だとしたら、やはり、椿姫絡み。

 でも、あちら側にヒメちゃんを誘い込むだけの力があるようには思えない。

 この場所に守られているはずの彼女を……。

 それとも、彼女自身に何か問題が起きてるのかも。

 

「……起きて本人に聞くしかないか」

 

 私も頷いて、ヒメちゃんの部屋のふすまを閉めた。

 ……元雪の直感は正しかった。

 彼女はこのとき既に異変が起きていたの。


 

 

 

 朝食を終えて、俺達はおじさんと共に椎名神社の本殿に入ることにした。

 

「ここにあの弓矢があるんですよね?」

 

「あぁ。昔からずっとここで保管されている。あの矢は紫姫が保存するように、と当時の神主に命じていたものらしい。代々、この神社で保存を続けてきたのだが、愛しきものを殺した矢を大事にするなど、不思議には思っていた」

 

 普通に考えればおかしい。

 なぜ、あの矢を特別に大事にする必要があったの?

 

「そこが違ったのかもしれないね。そうさせたのは椿姫。きっと、この時代にまで呪いを続けさせるために」

 

 椿姫の策略があるのだとしたら、呪いの媒体の可能性が大いにある。

 本殿に入ると、私達は弓矢の入った箱を探し出す。

 

「これだ。ここに入っている」

 

 おじさんが取り出した箱からは何も感じない。

 嫌な予感がする、私はそう感じた。

 

「……え?」

 

 箱の中身を空けて私達は3人とも驚きの声を上げた。

 だって、その箱の中には弓矢が入っていなかったの。

 

「何も入っていない?」

 

「そんなはずはないよ。これは、確かに矢を保管していた箱だ」

 

「誰かが持って行ったって可能性は?」

 

「それはないとは言えないが、普通の人にはたいして価値はない。盗まれる代物とも思えない。誰が何の目的でこんなものを持ち出すって言うんだい?」

 

 呪われた弓矢が盗まれていたなんて。

 もう少しで終わると思っていただけでに私もショックだった。

 

「他にないか調べてみましょう」

 

 元雪の提案で他に紛れ込んでいないか調べるけども、どこにも見つけられなかった。

 誰かが意図的に隠したか、盗んだかしたのは間違いないみたい。

 

「……ないですね。おじさん、これを最後に見たのはいつですか?」

 

「いつも中身を確認するものでもないからな。最後に見たのは1ヵ月ほど前だろうか。その時には確かにあったと思う。だが、この本殿も最近は秋の神事の準備で人の出入りもよくあったからね。その間に盗まれたとも考えられるが……」

 

「問題は誰があんなものを持ち出したか、だよねぇ?」

 

 普通の人にとっては価値がない。

 あえて持ち出すものではない以上、それが必要となる人間はほとんどない。

 

「……考えられるのは、椿姫だけど、そんな真似をできるとは思えない」

 

「さすがに怨霊の類が自分で隠した何て言うのはリアルもないな」

 

「あとは彼女に操られて、と言う可能性くらいかな。それも、あんまり考えられないけど。椿姫っていう怨霊にとってはあの弓矢が壊されちゃったら、それまでだもの」

 

 わざわざ、人目にさらしたりすることもないはず。

 弓矢が紛失した事で私達の探索は行き詰ってしまった。

 

「せっかく、うまくいくと思ったのに……」

 

 私達はため息をついて、また違う方法を考えることにした。

 どうしてなんだろう、上手くいかないな。

 ヒメちゃんが目を覚ましたということで、元雪は彼女の元に向かった。

 私はその間、携帯電話で佐山のお兄ちゃんに連絡を取る。

 境内の片隅に座り込みながら、彼と話を始めた。

 

『そうか、弓矢が呪いの媒体だったのか。それが紛失した、となると問題は厄介になっているね。悪霊の仕業とも思えない』

 

 お兄ちゃんに事情を説明すると私と同じ考えだった。

 

「だよねぇ。でも、誰かが盗んだのは間違いないの。それが誰かは分からないけども。どうして、そう言うことをするのかな」

 

『それが相手にとって都合のいい事なんじゃないかな。例えば呪いの継続を望むもの。今の椿姫の呪いを解かれては困る人なんてのは、キミ達の場合はいないか』

 

「そこまで泥沼の関係じゃないよ。私達に恨みを持つのは椿姫だけ。やっぱり、考えられるのは彼女ってことかな」

 

 私達に破壊される事を恐れて、椿姫が誰かを操り弓矢を隠した。

 これが一番、考えられる事だけど、そうだとしたら事態は最悪だ。

 

『今は紛失した弓矢の事よりも、次の対処法を考えた方が良いかもしれない』

 

「もしかしたら、椿姫は復活しかけているのかもしれない。私、この前に彼女の姿を見たの。前世の記憶を取り戻した元雪を恨めしそうに見ていた」

 

『……まもなく椎名神社は秋の神事だったね。その時が一番、危ないかもしれない』

 

 お兄ちゃんの危惧する秋の神事まで残り1週間、それまでに何とかしないと……。

 彼の方でも続けて対応策を考えてくれると言うことになり、私は携帯電話を切った。

 

「……私が感情を取り戻したのは間違いだったのかな」

 

 今の私は自分が結構、好きだったりする。

 感情のない頃に比べれば、自然に笑えるようになったし。

 元雪にだって好きな時に甘えられる。

 それになにより、彼を好きな気持ちが自分の胸の中にある事が嬉しい。

 人を好きだと思える心が楽しいの。

 もう、誰も傷つく姿なんてみたなくないから私も自分にできることをしよう。

 

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